猫歴34年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。保育士でも包丁職人でもない。


 ニナのメイン武器が決まったので接近戦はわしが教えていたけど、ぬるいと言われてメイバイママの元へ羽ばたいて行った。でも、すぐに戻って来た。ハードすぎたみたいだ。

 接近戦の合間に、魔法も教育。戦闘で使いやすい魔法を教えていたら、ベティがやるとか言い出して奪われてしまった。やはり孫はかわいいみたいだ。猫じゃけど。


 そこからは、接近戦もベティが教えるとうるさかったので任せていたら、月日は流れて実践訓練の日となった。

 場所は例の如く中国にある黒い森の中。猫パーティ総出でやって来ているのでリータたちに奪われないように、ニナのレベルでも余裕な黒い獣をわしが持って来てあげた。


「さあ、離すにゃよ~?」

「こいにゃ~!」


 ニナは気合いが入っているみたいなので、わしは黒い獣をけしかける。すると、黒い獣はニナに一直線に走って行って、ビッタ~ンとこけた。


「にゃあ? アレってベティの魔法だよにゃ??」

「そうよ。上手く使いこなしてるわね~」

「いや、それでいいにゃ??」


 確かにベティが言うように、黒い獣がガム弾とかいう変な魔法に絡まって身動き取れないところをニナがゲシゲシ攻撃して倒していたから、悪いとは言いがたい。

 とりあえずは褒めて、最後の一匹を皆から譲ってもらってニナと戦わせ、わしたちは観戦している。


「なんだか戦い方が汚いような……」

「ベティみたいニャー」

「誰の戦い方が汚いのよ!?」

「「「「「ベティにゃ~」」」」」

「にゃ……」


 リータとメイバイの呟きにベティは反論したけど、基本的にベティの戦闘方法はハメ技が多いので、全員一致の回答。それなのに任せっきりにしたから、ニナもハメ技が身に付いてしまったのだ。


「しかも包丁で戦うって……」

「ここまでイロモノに育つとは思ってなかったにゃ~」


 わしが目を離したがために、ニナは猫パーティ随一のイロモノキャラになってしまっていたのであったとさ。



 ニナのデビュー戦は、完勝したのだから褒められると思っていたのに、わしたちがずっとモジモジしていたので本猫にも勘付かれた。


「お婆ちゃんのせいにゃ……」

「お姉さん。お姉さんだよ~? それに、すっごく強かったよ~? かっこよかったよ~?」


 なのでニナは、こんなイロモノキャラに育てたベティを睨んでいた。真っ先にお婆ちゃんを否定するから、褒めても納得しないのでは?

 まぁオールラウンダーとしてはこの戦闘方法はアリなので、褒めてあげたらわしもギロッと睨まれた。バカにしてないって~。


 今日のところはその戦い方で猫パーティ研修を続け、帰ってからはわしがニナの指導官に戻ったけど、いまのレベルでは正攻法より邪道のほうが強いので、悩んだ結果しばらくこれで行くとのこと。

 それならばと各地で研修を行っていたけど、ニナは戦闘は少しだけして、あとは食材になりそうな物を探していたからわしとノルンが付き合っていた。


「これにゃら食べられそうじゃにゃい?」

「いや、バッタはやめたほうがいいにゃ~」


 でも、虫ばっかり持って来るので、誰か代わってほしい。


「にゃんで~?」

「腹はムギュッとして苦い液体が出るし、足とか羽は歯に詰まるんにゃ」

「食べたことあるにゃ??」

「うんにゃ。子供の頃は山の中で暮らしていたから、食べ物はそんにゃのしかなかったんにゃ」

「マスターは貧乏だったんだよ~」

「貧乏とかじゃなくて、野生の猫にゃ~」

「どう違うんだよ?」


 ニナに説明しているのに、ノルンが茶々を入れるのでうっとうしい。仕方がないので、猫王様シリーズの小説で割愛していたわしの食生活を語ってあげたら、ノルンにはエンガチョされた。

 ゴキブリを食べていたのはエリザベスたちだと言っておろう! わしはベジタリアンじゃ!!


「美味しかった虫はないにゃ~?」


 ノルンとケンカしていたら、ニナが目を輝かせて割って入って来たけど、美味しい虫なんてない。


「う~ん……食べられたのは、せいぜいイモムシぐらいかにゃ~? にゃんのイモムシかはわからにゃいけど、クリーミーで甘いのがあったにゃ」

「掘ったらいいにゃ!?」

「にゃんでそこまで虫が食べたいにゃ??」

「だって~。ママとお婆ちゃんみたいに、新しい料理を作りたいってのが料理人ってモノにゃろ~? 普通の食材じゃ超えられないにゃ~」

「別にエミリたちは、新しい料理なんて作ってないにゃよ? 元からあるレシピをこの世界で広めてるだけにゃ~」

「それでもにゃ。あーしは新しい道を切り開きたいんにゃ。パパもイモムシ探すの手伝ってにゃ~」


 そこまで言われちゃあ、親として娘の夢を応援しないわけにはいかない。わしは覚悟を決めて、ニナとイモムシ探しをするのであった。


「……ぎにゃ~~~! にゃんかデカイの出たにゃ~~~!!」

「キモイんだよ~~~!!」


 でも、岩をどけたらバスケットボール以上大きな顔があり、目があったと思った瞬間、モソモソと出て来たらイモムシ。全長2メートルを超えるイモムシでは虚を突かれたので、ノルンと一緒に逃げ回るわしであったとさ。


「けっこうかわいいと思うんだけどにゃ~?」


 ニナには、そんな馬鹿デカいイモムシでもかわいく見えるらしい……食べるクセに!!



 猫パーティに正式加入したニナはこのままいくと、わしに何を食べさせようとして来るかわからないので、猫大地下図書館に連れて行ってゲテモノ料理や虫食の本を紹介してみる。

 おかげ様でニナはますますイロモノキャラに成長しているので、ノルンが興味津々。わしの頭から移ってベティのチリチリパーマを巣にしていたのに、ニナの頭に移り住んだ。


「それならマスターも食べれるんだよ~」

「サソリにゃ~? どこにいるんにゃろ??」

「砂漠なんだよ。今度、南の国に遊びに行くんだよ~」

「それはいいにゃ~。あーし、南の国に行ったことないにゃ~」


 ノルンの目的は、わしにゲテモノ料理を食わそうとしているのかも?


「魚介類にしないにゃ~? ホヤとかナマコも見た目、グロテスクにゃろ~??」

「ホントにゃ~。どんにゃ味がするんにゃろ~?」

「マスターに乗せられたら……ムグッ」

「黙ってろにゃ……」


 なので、食べたことのある物を出してノルンの口を塞ぎ、しばらくは虫のことを忘れさせるわしであった。



 エミリやベティでも作らない魚介類料理にわしが舌鼓を打っていたら、猫歴34年の1月にある大イベントがやって来た。


「にゃ~! 入学おめでとうにゃ~~~!!」


 第三陣の子供たちが小学校に上がったのだ。オニタの入学式を含めると4度目なのに、今回もわしの涙は必須。自分の子供の入学式ではないお母様方は苦笑いで見てる。

 今回は、イサベレ、つゆ、お春、コリスの子供だから4人。ただし、超問題児のリリスがいるので心配だ。なので、しばらくはわしが護衛につくことを家族も認めてくれた。


「えっと……では、リリスさん。これを読んでくれますか?」

「ホロッホロッホロッホロッ」

「なんと言ってるのかな~?」


 だってリリスは、4足歩行の謎生物なんだもん。イスにだって座れないから、わしが作ったリリス用の勉強机で寝転びながら授業を受けるしかないのだ。

 残念なことに、リリスはまだ幼いから変身魔法は使えないし、コリスのように二足歩行したり喋ったりもできない。てか、コリスってなんで二足歩行で喋れるんじゃ??

 念話も思い通り任意の人に使えないから、猫ファミリーぐらいしか意思疎通ができない。念話の魔道具を使えばなんとかなると思っていたけど、どういうわけか先生の魔道具をレジストしてしまっているから授業になりそうにないのだ。


「えっと……ご自宅で勉強なされてはいかがでしょうか……」

「え~! 1人だけかわいそうにゃろ~」


 なので、先生はサジ投げやがったから、わしは護衛からモンスターペアレントに変身!


「シラタマさん! 帰りますよ!!」

「ご迷惑お掛けしましたニャー!!」


 なのでなので、わしが問題を起こさないかと見張っていたリータとメイバイに、首根っ子を掴まれて小学校から追い出されるのであったとさ。



「どうしよっかにゃ~?」


 リータたちにババチビルほど怒られたら、家族会議。リリスが小学校に通えないのは、大誤算だ。


「だから無理だと言ったじゃないですか」

「わかりきっていたことニャー!」


 いや、皆から止められたけど、わしがかわいそうだからとムリヤリ捻じ込んだってのが真相だ。


「勉強はあとからにして、猫パーティに入れてはどうですか?」

「それなら魔力量も増えて、変身魔法だって無理なく使えると思うにゃ~」

「あ~……コリスみたいににゃ……」

「「コリスちゃんみたいに……」」


 リータとメイバイの案を採用しようと思ったけど、皆でニコニコしているコリスを見たら言い淀んだ。そして、サササッと距離を取って3人でコソコソと喋る。


「コリスも小学校に入れないといけないのかにゃ?」


 そう。コリスはお母さんでも、学力は小1程度。わしたちが家庭教師から必死こいて学んでいたのに、リリスと一緒にぐうたら寝ていたのだ。


「いまさら小学校はおかしいでしょ。王妃ですよ?」

「子供と一緒に授業なんて、違和感しかないニャー」

「あ~……確かににゃ。大人でも受けられる夜間学校をセンジに作ってもらおうかにゃ~?」

「「それだけが問題じゃないにゃ~」」

「リスだもんにゃ~」


 わしだって一番の問題はわかってるっちゅうの。獣と人間の違いだ。それにコリスはいつまで経っても子供っぽいから、それを先に脱却しないといけない。


「コリス~。勉強したくにゃ~い?」

「え~? 勉強なんてしなくても生きていけるよ~??」


 とりあえずそれとなくうながしてみたら、獣基準の反論が返って来た。獣じゃもん。


「まぁそうにゃんだけどにゃ~……もしもわしが急に死んでしまったら、どうするにゃ? たぶんコリスがみんにゃを養わないといけないんにゃよ? 猫の国のことも頼みたいから、ちょっとは賢くなってほしいんにゃ~」


 というわけで、一家の大黒柱になってほしいと言ってみたら……


「モフモフ……死ぬの??」

「可能性はゼロではないかにゃ~?」

「や~! 死んじゃ、や~~~!!」


 コリス、大泣き。


「「「「「パパ、死んじゃイヤにゃ~~~!!」」」」」


 釣られて第三陣の子供たちまで大号泣。わしはモフモフに押し潰されてしまった。


「ちょ、ちょっと待ってにゃ。死なにゃいから……く、苦しい……た、助けてにゃ……」


 ちょっとした例え話が現実に。わしは子供たちの圧力で窒息死してしまうのであった。


「シラタマさん! 大丈夫ですか!?」

「どいてニャ! どくんニャー!!」


 そんなわけはなく、リータとメイバイに救出されて息を吹き返すわしであったとさ。

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