猫歴33年その2にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。サクラの初産ういざんは泣きすぎた。


「ニナって、わしにドロップキックしにゃかった?」

「そ、そんにゃことしてないにゃ~。ゴロゴロ~」

「わしの気のせいみたいだにゃ~。ゴロゴロ~」


 あと、ドロップキックはされていなかった。ニナは喉を鳴らしてわしにスリ寄っているから確実だ。


「あの猫、バカすぎない?」

「「「「「うんうん」」」」」


 ベティたちは、ニナの行動を見て嘘をついていると確信したらしいけど……



 それは置いておいて、サクラは予定日より2週間ほど早い出産となったが、事故なく元気な女の子を産んでくれた。わしの血が入っているからどんな子供が産まれるのかと少し心配だったけど、種族で言ったら猫耳族。

 夫のエティエンヌが普通の人間だから、猫の血が薄くなったと思われる。さらにいうと、西洋人の血が入ったせいか、金色の耳と尻尾を持つ猫耳族が誕生したのだ。


 サクラの出産の影響はというと、お母さん方と同じく体調は悪い。なのでいつも通り1ヶ月の静養をさせていたら、半月ぐらいで体調は戻ったらしい。

 これはおそらくだが、わしの血の影響が大きく出ているから。人間だと耐えがたい出産も獣ならばある程度耐性があるから、半分の影響になったのではないかと予想している。


 しかしながら確実なことではないので、静養期間は続行。わしはニナの訓練をぬるくしていたら、サクラも指導官をやるとか言い出した。


「ほらほら~。もう終わりにゃの~? 当たったら死ぬにゃよ~~~?」

「まだ根に持ってたにゃ!? ゴメンにゃ~~~」


 いや、出産時の挑発を覚えていたらしく、鬼教官になって魔法を乱発している。産休を取っていたから体力的にはまだ戻っていないだろうが、サクラは猫パーティの後衛職だからあまり関係ない。


「パパ、助けてにゃ~~~!!」


 その容赦ない攻撃にニナは音を上げて、わしに助けを求めるのであった。


「お~。よしよしにゃ。怖かったにゃ~」

「ゴロゴロゴロゴロ~」


 久し振りにニナにこんなに甘えてもらえたので、わしはラッキーだと思うのであったとさ。



 そんなことをしていたら1ヶ月の静養期間も明けてサクラはキャットタワーに帰って行ったので、わしもついてった。だって、孫もかわいいもん。


「私も正真正銘のお婆ちゃんに……見えますか?」

「ぜんぜん見えないにゃ~」

「シラタマさんも……猫ですね」

「いまは猫は関係なくにゃい?」


 リータも実子の孫だから特別な感情が湧いているみたいなので一緒に帰って来たけど、お互い老人には見えない。どっちも信じられないぐらい若々しいと言いたいところだけど、わしだけ猫じゃもん。

 そうこう孫をかわいがっていたら、さっちゃんが出産祝いで訪ねて来た。


「うわ~。かわいい色合いね~」

「色合いとか言うにゃよ」


 さっそくさっちゃんの孫でもある金髪猫耳赤ちゃんを抱いていたが、あやし方がやっぱり猫。アゴを撫でるな。


「ちょっとエティエンヌに似てるかしら?」

「ちょっとと言うか、尻尾と耳以外にゃ……」

「アレ~? 自分に似てなくてヘコンでるの~??」

「そ、そんにゃことにゃいもん!!」

「あったり~。アハハハハハ」


 個人的には、丸いわしに似なくてよかったと喜びたかったが、ここまでエティエンヌの血が多く出ると、わしだって複雑。さっちゃんの笑い声は腹が立つ。

 ちなみにサクラもさぞかしヘコンでいると思っていたけど、エティエンヌに似そうなので涙ながらに喜んでいた。それを見て、わしはめっちゃヘコンだ。

 あと、謝った。だから、サクラにめちゃくちゃ励まされた。わしのことをバカにしていたわけではなかったみたいだ。そんなことをすると、自分に返って来るのだから……やっぱりゴメンね。



 サクラ夫婦は初赤ちゃんにあたふたしていることが多かったので、何人も子育てしているわしがイロイロ教えてあげたけど、保母さんとか言わないでくれる? 保育士さんでもない。

 孫がかわいすぎるので、なんだかんだでわしばっかり世話をしてしまうから、孫はわしが抱くとめっちゃ喜んでくれる。それと反比例して、サクラ夫婦は不機嫌。もう手助けはいらないと追い出されてしまった……


 納得いかないと直訴したけど、「あとはママたちに聞くから指導官に戻れ」と冷たく言われた。このままでは、わしに子供を取られると思ったらしい。

 こうなっては下手にゴリ押しすると、孫への接近禁止令が出され兼ねない。わしは渋々子供たちやもう1人の孫オニタとスキンシップを取ってから、指導官に戻るのであった。



「う~ん……にゃんかナイフの振り方おかしくにゃい?」

「聞いた通りやってるにゃ~」


 ニナの指導に戻ってしばらくしたら、そろそろ接近戦も教えて行こうかとナイフを振らせてみたけど、変なクセがついているのでメイバイを呼んでみた。


「あ~……刀の振り方になってるニャー」

「にゃるほど。メイバイの武器が短刀に変わって、苦戦してたヤツにゃ」

「そんなこともあったニャー。懐かしいニャー」

「てことは、ナイフじゃにゃくて小刀を持たせたほうがいいのかにゃ?」

「うんニャ。私に任せてニャー」

「おねにゃす!」


 ニナのメイン武器はナイフから小刀に変更。わしの刀コレクションにちょうどいいのがあったので、ニナに持たせて束ねたわらで試し切りさせる。


「にゃ? 上手く斬れないにゃ~」

「ニャー? ちゃんと振れてるのになんでニャー??」

「パパ。これ、ちゃんといでるにゃ?」

「新品にゃから、サビひとつ無いはずにゃ。ちょっと貸してにゃ~」


 ニナから苦情が入ったので、小刀を受け取ってよく見てみたけど、綺麗な波紋。これが気に入って日ノ本で買って来たのに次元倉庫の肥やしになっていたのを貸してあげたから、斬れないわけがない。

 とりあえずわしは藁の前に立って、真横に一閃。綺麗に斬りすぎて、藁は微動だにしないでそのまま残っていたので、持ち上げて見せてあげた。


「ほらにゃ? 斬れるにゃろ??」

「うにゃ~。繊維1本1本がまったく潰れてないにゃ~。パパ、凄いにゃ~」

「にゃはは。こう見えて侍としても超一流にゃから、これぐらい朝飯前にゃ~」

「私だってそれぐらいできるニャー!」


 ニナがベタ褒めしてくれるので、わしは鼻高々。メイバイは自分の得意武器でそこまでやられたからか、対抗意識を持って藁を斬った。


「メイバイママも凄いにゃ~! パパと一緒にゃ~!!」

「普通の刀にゃのに、腕を上げたにゃ~」

「フフン♪ これぐらい余裕ニャー。さあ、ニナもやってみるニャー」


 夫婦揃ってベタ褒めされて、わしたちは気分上々。しかし、ニナは振れども振れども藁を斬れず、どんどん落ち込んで行った。


「にゃ~? にゃんでにゃろ??」

「何やってんの??」


 わしたちが悩みに悩んでいたら、ベティがやって来てニナの頭を撫で撫でしてる。とりあえず今までのことを話して、ニナの素振りも見せてみた。


「普通に振れてると思うけど……なんか変ね」

「にゃ? どこが変にゃの??」

「う~ん……既視感っての? どっかで見たさばき方……あっ! さばき方よ!!」

「「「にゃ~~~??」」」


 小刀の振り方の話をしているのに、ベティは関係ないことを言うので、わしたちの声は重なった。


「だからさばき方よ。私とエミリで、子供の頃から包丁さばきを教えていたから、そのクセが出てるのよ」

「確かに刀と包丁は親戚みたいな物にゃけど、そんにゃことになるにゃ~?」

「まぁ見てなさい。私のお古の包丁って、シラタマ君が預かってくれてたよね? それ出して」

「あのボロをにゃ? どこに入れたっけかにゃ??」


 急に言われても次元倉庫のどこにあるかわからないので、ベティ専用キッチン辺りにある物を全て出して探すわしたちであった。


 ちなみにベティ専用キッチンの使用は、第三世界と同じ物をわしがこしらえてあげたんだけど、この世界にはガスがないのでオール電化。

 だったけど、ベティのこだわりが凄くて、焼き場は炭。IHでは火力が足りないとか言うので、バーベキューコンロみたいな物を作らされた。火魔法を駆使するので、このほうが使いやすいらしい。

 その結果、我が家のキッチンも炭で焼くことになったので、毎日キャットタワーからモクモクと煙が上がることになってしまったとさ。



「これ、ちょっと研いでくれる?」

「こっちの包丁じゃダメにゃの??」

「それはフォアグラ用だからダメ!!」

「いっぱいあるからどれでもいいにゃろ~」


 ベティのこだわりは包丁にも。一番ボロボロで研ぎすぎて小さくなっている物しか使っちゃダメみたい。確か、今生のお母さんから初めて買ってもらった包丁とか言ってなかったっけ?

 よくわからないこだわりのせいでわしは包丁を研がされたら、ニナに手渡した。


「おお~。けっこう行ったにゃ」

「でしょでしょ?」

「お婆ちゃん、ありがとうにゃ~」

「お姉さん……お姉さんって言うように言ったでしょ?」

「どっちでもいいにゃろ~」


 ニナが包丁を振ったら初めて藁を斬れたから喜んでいるのに、ベティは冷たい目。ニナにはどうしてもお姉さんと呼ばせたいみたいだ。自分は孫って言ってるのに……


「てことは、ニナのメイン武器は包丁ってことになるのかにゃ??」

「「「う~~~ん……」」」


 まとめるとこういうことなのだが、ニナを含めた全員は首を傾げてる。包丁は武器じゃないもん。


「せめて出刃包丁にしとくにゃ? 作ってやるにゃ~」

「うんにゃ……しばらく出刃包丁使っとくにゃ……」

「あたしも新しい包丁欲しいな~?」

「だからいっぱいあるにゃろ~~~」


 というわけで、本猫も微妙な顔だがニナのメイン武器は、黒魔鉱製の出刃包丁に仮決定。この場で作っていたら、ベティがスリ寄って来たのでもう1本作らされたわしであった。


「にゃんか、めっちゃ扱い上手くにゃい?」

「うんニャー。さっきより鋭く振れてるニャー」

「包丁で戦うなんて、あたしでもしてないのに……」


 妙に様になっているので、仮ではなく出刃包丁はニナのメイン武器になってしまうのであったとさ。


「あーしだって、包丁で戦うにゃんて思ってなかったにゃ~~~!!」


 本猫は納得していなかったけど……

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