猫歴33年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。離婚しないじゃろうか……


 サクラとエティエンヌが結婚してしまったからには、祝福したフリして不幸を望んでいたけど、2人はラブラブ。普通の男はボンキュッボンの女性が好きな人が多いと思っていたけど、エティエンヌには当て嵌まらないみたい。

 猫の時点で、普通ムリじゃろ? ワンヂェンだって結婚できなかったんじゃからな。そう思ったら、エティエンヌのヤツは懐の深い男と褒めるべきか。ムムムムム……


 サクラたちの新居は、キャットタワーにある一室。結婚祝いに家を建ててやれとリータに言われたけど、2人はどちらも王族なのでセキュリティーの弱い家では暮らせない。

 というか、わしが離れ離れは許しがたし。でも、サクラたちのほうからキャットタワーに住みたいと言って来てくれたので助かった。やはりわしのそばが一番安心できるのだろう。


「ごはん美味しいもんにゃ~?」


 いや、サクラはわしより団子。わしだって団子みたいな姿で名前なのに……


「ええ。大学にもすぐ行けますから、サクラさんと一緒にいる時間も多く取れますしね」

「エティ君、私のこと好きすぎにゃ~」

「サクラさんも、僕から離れたくないって言ってたじゃないですか~」

「もうやめてくれにゃ~~~!!」


 わし、ギブアップ。毎日2人でこんなにイチャイチャされたら、外に住んでくれたほうがまだマシだ。このせいで、自然とサクラから離れ、他の娘たちには「あんな大人になるな」と言ってしまうわしであったとさ。



 そんな地獄のような日々が1年も続くとサクラは妊娠したので、わしも親バカならぬ孫バカ。何度もサクラのお腹に耳を当てて、ネコパンチされる毎日。まだ大きくもなってなかった。

 サクラの出産はまだ先だけど、大事を取ってハンター活動は禁止。と言ったけど、サクラもわかってるんだって。エティエンヌとラブラブして過ごすらしい……


 そうしてサクラのお腹を気にしながら過ごしていたら猫歴33年の1月になったので、わしは違う喜びに打ち震える。


「にゃ~! 高校入学おめでとうにゃ~。にゃ~~~」


 そう、第二陣の子供が高校生になったので、わしは大号泣だ。


 いつの間に高校なんて作っていたのかと言うと、センジ首相が頑張ってくれた結果。わしの第二陣の子供が小学校に上がるのに合わせて教育から見直し、高校に入れる学力まで育てるカリキュラムも作ってくれたのだ。

 しかし、猫の国の子供たちは相変わらず手に職を付けたい堅実派。普通科の割合は少し増えたぐらいで、全体的な学力はさほど変わらない。ただし、普通科だけは現代日本と同レベルまである天才揃いだ。


 そのせいで、わしたち猫ファミリーの大人組もあっぷあっぷ。第二陣が小学校に上がった頃から、聞かれて答えられないのも親としてどうかと思い、大学から家庭教師を雇って勉強していたのだ。

 サクラとインホワも誘ったけど、訓練のほうが楽しいと逃げてった。コリスとベティも誘ったけど、やることがあると言って逃げてった。コリスは寝てただけで、ベティは少女マンガ読んでやがったけど……


 その甲斐あって、わしたちも子供たちの質問には、親全員で立ち向かってなんとか答えられたのだ。



 そんな苦労は、子供の入学式を見てどこ吹く風。動画や写真に収めまくった。しかしながら、第二陣の3人は全員制服を着ているけど、実は高校に通うのは2人だけ。

 つゆの息子、狸尻尾の黒猫ギョクロと、お春の娘、狐尻尾の黒猫ナツは高校に入ったが、エミリの娘、白猫ニナだけは先に、猫パーティに羽ばたいたのだ。


 ニナの話はちょっと置いておいて、学校の話を補足。


 小中高の先生は元より、大学の学生はタダどころか給料まで払って学習させる見返りに、教師の教師になれるように勉強をさせていたので、いまでは教師もそこそこの学力がある。

 ただ、1人の教師に全ての教科を覚えさせる時間はなかったので、小学生から専門科目の教師にして、いまのところそれが教育のスタンダードになっている。


 しかしながら、普通科の生徒はあまり多くないので、各町に高校を作るには予算的に苦しいらしく、本年度は首都の猫市だけ。各町からやって来た高校生は、寮暮らしとなった。

 どうもセンジ首相は、このために大学への出資を渋って、毎年貯めた税金と輸出で儲けたお金でなんとか開業したらしい。それなら、もうちょっと税金上げたらいいのに……


「え? そんなことしていいのですか??」

「いや、税制どうしてるにゃ? 国民が増えて給料も上がってるんにゃから、税制とかも見直しするもんじゃないにゃ??」

「変えちゃダメだと思って、ずっと同じ額でやってました~~~」

「今までよくやってこれたにゃ!?」

「ホウジツさんが、上げたら猫陛下が怒るって言ってましたし~~~」

「あいつは違うことに使おうとしてたからにゃ~~~」


 そのことを聞いてみたら、この始末。いや、あんな安い税金で国を回していたのだから、その手腕を褒めるべきだろう。

 だから国営企業の民営化を反対したり、ホウジツなら何をしてもいいと思って法外な税金を取っていたのね。あいつのせいだし……

 このこともあって、わしもセンジ首相と一緒にテレビ出演して「税金が少し高くなるけどゴメンね」と頭を下げたのであったとさ。



 税金の件は、元より安いし国民も給料が倍ぐらいになっていたから、ちょっと上がったぐらいなら「そりゃそうだよね~」と反発なくすぐに受け入れられたので、政権にも王家にも批判の声はなかった。

 これで学校運営は余裕ができただろうと思って大学の出資を相談したら、まだ検討中らしい。いつになったら検討は終わるんじゃろう……


「いまの高校生が大学に上がるまでにはなんとかしますから!」

「3年後ってことだにゃ……てか、昔からそこに照準を合わせてたにゃろ?」

「はい。検討の結果、そうなってました……」

「だったらそのとき言えにゃ~~~」


 言えなかったのは、わしが怒ると思ってだとか。そもそも税金の相談もしてくれていれば、こんな無駄なやり取りを長年続けなかったのに……



 まぁセンジ首相に手札を与えたから、これからは問題なくやってくれるだろう。それよりも、猫パーティに羽ばたいたニナだ。

 ニナの志望動機は、世界中の食材を料理したいという夢があるから。そんなことができるのは猫パーティだけだからと、実の母親のエミリやその他のお母さん方も説得されたのだ。


「それにゃら、いくらでも持って来てやるのににゃ~」

「現地で料理したいって言ったにゃろ~。いまさら渋らないでにゃ~」


 でも、わしは許可してない。娘にこんな危険な仕事をさせたくないもん。


「虫でも調理の仕方しだいでは美味しくなると思うんだよにゃ~」

「やっぱ、許可取り消しにゃ……」

「にゃんでにゃ~~~!!」


 あと、わしが子供の頃に生で食べていた虫なんて食べたくないもん。これにはベティお婆ちゃんも味方になってくれたけど、ニナに「にゃ~にゃ~」泣かれたから折れるしかなかった。

 お互い親バカで孫バカみたいだ。どちらも「お前が止めてくれ!」と祈っていたけど……


 とりあえず決定事項となってしまったので、まずは訓練。エルフクラスにレベルアップしてもらわないと猫パーティには加入できないので、ソウ市の地下空洞に連れて来た。


「確かニナって、魔法学科の主席だったよにゃ?」

「うんにゃ。でも、メイバイママみたいに、ナイフも使えるようになりたいにゃ~」

「にゃるほど。魔法特化ではにゃく、近接戦闘もこにゃしたいと……ま、それは得手不得手もあるから、ニナの頑張りしだいにゃ。わしの教えは甘いから、頑張ってついて来るんにゃよ~?」

お願いしますおねにゃす! ……甘いにゃ??」


 リータたちは激しい訓練で忙しいので、指導官はこのわし。ニナは気合いを入れて頭を下げたけど、わしが変なことを言っていたことにあとから気付いて「にゃ~にゃ~」言いながら、わしとランニングから始めるのであったとさ。



 ニナはわしの教えの元メキメキと強くなっているけど、周りが強すぎて実感が持てないなか、サクラがソウ市の地下別宅に越して来た。

 そう、出産予定日が近付いて来たのだ。出産当日はワンヂェンを連れて来て万全の体制にする予定だけど、もしもの時はわしが取り上げる覚悟だ。


「パパは外で待ってるって約束してにゃ……」

「わしだって、外科医と産婦人科医の免許持ってるんにゃ~」

「それにゃらママたちだって持ってるにゃ! 入って来たら、絶縁するからにゃ~~~!!」

「そんにゃ~~~」


 けど、サクラに断られた。理由はよくわからないので、トボトボと肩を落としてニナの訓練に戻る。


「いや、パパに見られたくないに決まってるにゃ。あーしの時も、パパは出禁だからにゃ」

「そんにゃ悲しいこと言わないでにゃ~」

「このエロ猫にゃ!」

「ギャフン!?」


 でも、ニナのおかげで理由がわかった。そりゃ、いくら免許があっても父親に赤ちゃんが出て来る場所を見られたくないわな。

 それを失念していたわしはしばらく、サクラとニナから「エロ猫」と呼ばれ続けてついに泣いてしまうのであった……


「「ゴメンにゃ~」」


 さすがに言いすぎたと2人して謝って来たので、機嫌が直るわしであったとさ。



 それから半月ほどが過ぎると、別宅の縁側にわしとサクラは座って、ニナの魔法を見てあげていた。


「ニナちゃん、やるにゃ~」

「さすが主席だにゃ~」


 わしの訓練は、褒めて伸ばすタイプ。というか、娘にはベタ褒めしてしまうからタイプとかは関係ない。ただ、ちょっと褒めすぎて、ニナは天狗になりかけているかも?


「フフン♪ この分にゃら、産休の終わったお姉ちゃんの帰って来る場所はないかもにゃ~」

「にゃにだと~? 妹如きがお姉ちゃんに勝てると思ってるにゃと~??」

「ケンカするにゃ~」

「パパは黙っててにゃ! ニナぐらい、片手で倒してやるにゃ~!!」

「そんにゃに大きなお腹で戦えるのかにゃ~? プププ」

「デ、デブって言ったにゃ!?」

「そんにゃこと一言も言ってにゃいから、落ち着いて座りにゃさい。ニナもいい加減にしにゃいと、ママに言い付けるにゃよ?」


 ニナの挑発に乗ろうとするサクラを宥めるわし。若干、わしが怒るのではなく母親任せにすることは、冷めた目で見られた気がしたけど。

 そんなことをやっていたら……


「ほら、ニナも謝りにゃさい」

「パパ……」

「にゃ? どうしたにゃ??」

「産まれるかも……」


 予定日より早くにサクラが破水した。


「にゃんだって!? すぐ取り上げてやるからにゃ!!」


 なので、わしは焦ってサクラを抱きかかえようとした。


「ギャフン!?」

「パパはワンヂェンおばちゃん呼んで来いにゃ~~~!!」


 けど、ニナにドロップキックされて吹っ飛んだ。ケンカしていても、姉のピンチは関係ないらしい。でも、父親にドロップキックは、ないわ~。


 こうしてわしは、娘に蹴られたことは納得はいかないが、急いで皆を呼びに走り、サクラも無事出産してくれたので大泣きしたのであった。

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