猫歴31年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。親バカではない。


 猫パーティヤングチームで狩りに行ったら、子供たちに剣を作れとせがまれたから作ってあげただけなのに、ベティとノルンが「親バカ親バカ」うるさい。なので、ベティとノルンにも作ってあげて賄賂にした。

 ちなみに作った物は、インホワにはカッコイイ大剣。シリエージョにはレイピア。サクラには杖。ベティにはショートソード。ノルンには小さな盾。

 全て白魔鉱の2倍圧縮で作ったので、切れ味は半端ない。盾や杖ですら、綺麗に研いでしまうと普通に斬れてしまうから危険だ。もちろんかなり重くなったのだが、みんな力があるから軽々装備可能。


「ノルンちゃんには重たいんだよ~」

「危ないから上から落とすにゃ~~~!!」


 だがしかし、妖精ゴーレムのノルンには装備不可。異世界で手に入れた変身アイテムを使えばステータスアップするからなんとかなるのだが、時間制限があるから無理みたい。

 わしでも怪我しそうな物を持たせるのは怖いので、新しく圧縮なしの軽い盾を作ってやったとさ。



 子供たちに新しい武器を作ってあげたせいでハンター活動の頻度が増えることになり、家を空けることが多くなったが、わしの子供は他にもいっぱい居るので出来るだけかわいがっていたら時は過ぎ、猫歴31年となった。

 この年もハンター活動に精を出していたら玉藻と家康まで狩りに連れて行けとやって来て、猫パーティの獲物を奪う始末。子供たちだけでなく大人たちまで「にゃ~にゃ~」怒っていたので、2人を満足させるしかない。


 というわけで、今日はわし、玉藻、家康のみの最強チームで、イタリアの調査にやって来た。

 ここは何故か魔力濃度が恐ろしく高く、うちではありえない巨大な白い木や白くて大きな草しか生えていない縮尺がおかしく感じる土地。もちろん獣も巨大な白い獣しかおらず、稀に白銀の獣も出て来る難易度が高すぎる魔境だ。


 千年前に実在した時の賢者の手記に、ここからイサベレの先祖を連れて来たとあったので軽い気持ちで、猫パーティで西にある小国から進んでみたら、奥に行くほど化け物だらけ。わし以外は歯が立たず逃げ帰ることに。

 皆の感想は、「巨人の庭に迷い込んだみたい」とのこと。さすがにバトルジャンキーでも命が大事みたいだから戦闘機で空から行ってみたけど、地上は真っ白だったから高度を落とすのは怖かったので、これも諦めた。


 そのこともあって、最強チームでチマチマ調査していたのだ。


 チマチマの理由は、最強チームでも危険すぎるから。魔境の中は体高50メートル超えの白い獣も多く、倒すには3人でも手間取るのだ。酷い場合は上位種の白銀の獣が出て来るので、相手はわししかできない。

 それらが魔境の中で縄張りを作り、そこかしこに張り巡らされているから、わしたちはおっかなびっくり境界線上を進んでいるから移動速度が上がらないのだ。


 今日も前回の探索で、最後に友好的になった白銀の獣の縄張りに転移してやって来たら、貢ぎ物の白メガロドン肉をプレゼント。

 基本的に、わしは念話で喋り掛けて戦闘を避けている。玉藻たちも連戦は疲れるから、容赦なく襲って来る敵としか戦わないことは賛成してくれているのだ。マジでここはキツイもん。


 白銀の獣と別れたら、ここからは慎重に縄張りの境界線上を進む。基本的に境界線上は弱い獣が移動に使っているから見逃されているのだが、主の腹具合によってはバクッといかれる。

 酷い場合は、両方からの挟み撃ち。その場合は、玉藻、家康チームで戦い、わしは強いほうと1人で戦う。そのまま倒す場合もあるし、逃げた場合は深追いしない。その先にはもっと強い親や複数の仲間がいるから、追えないともいう。

 一度、玉藻と家康が追いかけて経験済みだ。その時は、全員で「にゃ~にゃ~」言いながら逃げ帰ったよ。もちろんわしの説教付きだ。なんで「にゃ~にゃ~」言ってたんじゃ!!



 そんなこんなでゆっくり進んでいたら、お昼までに二度の戦闘をして、ちょっと進んだところの友好的な主の縄張りで遅めのランチだ。


「フゥ~……なかなか強かったな」

「うむ。本当にここは面白い」


 玉藻と家康はバトルジャンキーなので、二戦ともけっこう劣勢だったのに強がりながら、わしの出した肉をガブガブ食ってる。


「てか、また大きくなってにゃい?」


 玉藻の姿は、見たまんま九尾の狐。家康は五尾の白タヌキ。魔境に来た時は、人型より強い元の姿で戦うので、いまは犬みたいにがっついている。

 わしも元の姿のほうが強いから戦う時は三尾の丸い猫だけど、美味しい物が食べたいからいまは素っ裸の人型だ。この2人はどんな姿でもモフって来ないから安心なのだ。


「そういえば、デカくなってるかもしれん」

「じゃな。ここで戦っていると、力が漲るのう」

「出会った頃より倍ぐらいになってるにゃ。元々魔力濃度が低い土地にいたから、急激に伸びてるのかもにゃ~」

「これが本来の力というわけか……」

「いや、周りの獣はもっとデカイから、まだまだ伸び代があるじゃろう」


 2人とも出会った頃は5メートルぐらいだったのに、10メートル近くの大きさになっているのだから、強さも倍ぐらいになっているかもしれない。


「いまならそちと渡り合えるかもしれんのう」

「ちとやってみんか?」

「こんなところでやるわけないにゃろ。さっさと食えにゃ~」


 それを知って舌舐めずりするな。わしだって強くなってるっちゅうの。たぶん……


 狩りに行く時は皆に戦闘を譲っていたし、子供と遊んでばっかりだから、いま2人とやり合うとボロが出そうなので、先を急ぐと言ってやり過ごすわしであった。



 それからわしはバクバク食って食事を終えると、第三世界で手に入れたスマホとイタリアの地図を取り出して見ていた。


「いまはどの辺りじゃ?」

「だいたい中央辺りの西側かにゃ~?」

「そんな物でわかるとは、便利になったのう」


 玉藻の質問にわしが答えると、家康が覗き込む。実はこれ、スマホのGPSの位置情報と、イタリアの地図を照らし合わせているのだ。

 スマホに入っている地図はオフラインでは使い物にならないのだが、GPSの機能は生きているので猫の国産の人工衛星を何個も打ち上げて使えるようにしたら、地球上の位置を表す緯度と経度がわかるようになったのだ。

 それまでは縄張りの主を避けながら進んでいたから、どこにいるかサッパリわからなかったので、近代技術様々だ。


「上手くいけば、西側の海に出るかもにゃ~。今日はそこまで行ってみようにゃ」

「「おう!」」


 というわけで、調査開始から初めてといっても過言ではない目的地の決定。わしも猫型・大に戻り、巨大なキツネとタヌキを引き連れて走り出したのであった。


「猫の威を借るキツネとタヌキ……プププ」

「「何を笑っておるんじゃ??」」


 その光景が面白くて、わしの笑いが漏れるのであったとさ。



 それから境界線上を慎重に進み、一度だけ戦闘を行って3人の共闘で巨大な獣を追い返したら、ついに海に出た。


「おお~。やっと色の付いた場所に出たな」

「うむ。見慣れた海が、こうも綺麗に見えるとは思わなんだ」

「にゃはは。大冒険だったもんにゃ~」


 真っ白だった景色から海の青が広がったのだから、玉藻も家康も感動。わしもこの景色は、新婚旅行で中国を横断した時以来なので感動モノだ。


「おっ。あそこに島があるぞ?」

「白い木ばかりじゃな。名前があるのか?」

「ちょっと待ってにゃ~」


 ちょうど目の前にはそこそこ大きな白い島があったので、わしは人型に戻ってイタリアの地図と観光ガイドブックを照らし合わせる。


「にゃににゃに……イスキア島だってにゃ。お~。温泉があるらしいにゃ~」

「ほう……それはいいのう」

「疲れた体に持って来いじゃな」

「うんにゃ。ちょっと寄って行こうにゃ~」


 まだ日が暮れるには早い時間なので、温泉に寄るのは全会一致。年寄りばかりの集団なので、温泉には目がないのだ。


 あれ? わしは魂年齢がまだ100歳代だから、500歳代と900歳代からしたら赤ちゃんかも? ムムム……


 ちょっと自分を年寄りと言うには若いかもと思いながら、最強チームは空気を蹴って空を駆けて行くのであったとさ。



 空を駆けるなんて最強のわししかできないと言いたいところだが、玉藻も家康もこの数十年で強くなっていたから、簡単にマスター。わしが教えたんじゃぞ?

 そんな足ならば、海にいる強い巨大魚も無視してあっという間にイスキア島の砂浜に到着。別にそのまま空を行ってもよかったのだが、上陸気分は大事。これも全会一致で決まっていたから、全員少年の心は持っているみたい。


 頭はジジイとババアじゃけど……


「フフン♪ やはり、新しい島は心が躍るのう。コンコンコン」

「ポンポコポン。少年の頃に戻った気分じゃ」

「さってと、どこに温泉があるのかにゃ~?」


 2人が笑いながら喜んでいるなか、わしは辺りをキョロキョロ。イスキア島は火山島と書いていたから、煙が上がっていたり変わったニオイがしないかとクンクンしていた。


「シラタマ。何か迫って来ておらんか?」

「本当だにゃ。ちょっと探知魔法を……」


 魔境で探知魔法を使うと、下手したら攻撃していると主が勘違いするので必要最低限しか使えないので、わしの反応が遅れた。耳を澄ますと玉藻の指差す方向から草を掻き分けるような音が聞こえていたので、探知魔法を使ってみると……


「にゃんか人間みたいにゃ集団が近付いてるんにゃけど……」

「人間じゃと!?」

「生き残りか!?」


 反応は10体。どれも二足歩行で走って向かって来ているので、人間の可能性大だ。


じきに森から出て来るにゃ! 攻撃はわしの指示があるまでするにゃよ!!」

「「おう!!」」


 人間ならば、話し合いが通じる。わしたちは森を凝視し、その時を待つ。するとガサガサっと、白髪の女性の集団が上から下からと飛び出した。


「「「「「$#%#*¥*!!」」」」」

「「「にゃ~~~!?」」」


 そして会話もなく風魔法が乱れ飛んだので、わしたち3人は「にゃ~にゃ~」逃げ惑う。


「なんでいきなり攻撃して来るんじゃ!?」

「儂たちより好戦的とは、蛮族の集まりじゃのう」

「にゃに言ってるにゃ! わしたちは獣にゃろ!!」

「「……あっ!!」」


 そう。白い獣が3匹も揃っていたら、危険度をかんがみて先制攻撃は必須。追い払うだけか、はたまた今晩のおかずにするかは、この人間たちしだいだ。


「一旦向こう岸に退避にゃ~~~!!」

「「仕方ないのう」」


 仕切り直し。人間の姿に変身してから訪ねようと、わしたちは空を駆けるのであった……


「のう……あやつらも飛んでおるぞ?」

「いったいどこまで追って来るにゃ~~~」


 白髪の集団も空を飛んで追いかけて来るので、わしの風魔法でブーストして、イタリア南部の海岸まで逃げたのであったとさ。

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