猫歴31年その2にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。久し振りに人間に追い回されたので悲しい。
イタリアでイスキア島を発見したわしたちは、温泉にでも入ってから帰ろうと軽い気持ちで上陸したら、そこは野蛮な人間の縄張りだった。
まぁ、うちでも危険な獣を見たら先制攻撃するんだから、野蛮は言いすぎか。かといって、しつこく追い回されたので、この日に行くと摩擦があるだろうと勇気ある撤退。
家に帰って皆に報告し、翌日に出直すことになった。
「ここ? ここに私のルーツがあるの? フンフンフンスコ」
「まだ決定じゃないと言ってるにゃろ~」
イスキア島の砂浜に転移したら、イサベレが大興奮。そう。初めてイサベレのルーツを知っているかもしれない人間と出会ったから、イサベレ以外のメンバーもけっこう興奮してるのだ。
今日のメンバーは、猫パーティアダルトチーム。メンバーは、わし、リータ、メイバイ、コリス、イサベレ、ベティ、何故かノルン。追加で玉藻と家康の人間バージョンだ。
アダルトチームの理由は、子供たちだと危険というのもあるが、白猫が2人も増えるから狩られる危険があるから。わしはいっつもその危険に耐えながら、原住民の相手をしてたんじゃぞ?
その他にヤバイのはコリスだけど、さっちゃんリス耳少女バージョンに変身しているから大丈夫。わしも普通の人間に変身しようとしたら、リータとメイバイに涙ながらに止められた。わしじゃなくなるんだって。
ひとまず砂浜で火を起こし、まったりとティータイム。好戦的な部族の可能性があるから集落まで押し掛けると、攻め込まれていると勘違いするかもしれないからの安全策だ。
昨日もいきなり現れたのだから、煙を上げておけば向こうから寄って来るだろう。
そうして皆とペチャクチャ喋っていたら、思った通りわしの探知魔法に反応があった。
「昨日と同じ10人にゃ。イサベレクラスがゴロゴロいるから、戦闘になったら気を付けるんにゃよ~?」
「「「「「にゃっ!」」」」」
皆のこの敬礼は気になるけど、わしだけ白猫ぬいぐるみなので最後尾のベティの隣に移動。そこでペチャクチャ喋っていたら、昨日と同じく白髪の女性の集団が森から飛び出した。
「「「「「#$##*$*#*??」」」」」
昨日とは明らかに違う反応。白髪の女性たちは全員地面に着地して、戸惑った表情をしている。昨日は逃げるのに忙しかったから気付かなかったが、全員耳が横に長いからエルフみたいだ。
これならば話を聞いてくれると、わしはベティの抱っこ。ぬいぐるみに擬態ともいう。いないほうが絶対に話が
普段なら原住民はわしが対応することが多いけど、今日はイサベレが立候補してくれたからお言葉に甘えているのだ。
「サ、サルウェ……」
「「「「「##¥#**%*??」」」」」
イサベレは右手を上げて、まずは滅んだ時代背景から一番可能性の高いラテン語の挨拶。第三世界で手に入れたラテン会話本で挨拶ぐらいは勉強して来たけど、ハズレっぽい。
「ボンジョルノ」
「ボ、ボンジョルノ?」
「シー! ボンジョルノ~」
「「「「「ボンジョルノ、ボンジョルノ~」」」」」
第二候補のイタリア語がヒット。白髪の集団は、嬉しそうに挨拶を返してくれている。これで向こうの敵意が吹き飛んだので、ここからは念話を使って会話。一夜漬けで喋れるわけないし、こっちのほうが楽なんじゃもん。
とりあえずイサベレは念話の説明をしてから、戦いに来たわけでもないことを伝え、わかってもらったらリータたちから紹介。オオトリはわしだけど、喋るペットと紹介しやがったから、めっちゃつつかれた。
「このメンバーの代表のシラタマにゃ~。昨日は驚かせて悪かったにゃ~。ひとまずお詫びのお菓子とジュースを召し上がれにゃ~」
なので、ちゃんと自己紹介して餌付け。やはり、この手の部族は甘い物に飢えているからがっついている。コリスはいつでもがっついている。
白髪の集団が満足した頃に、昨日の3匹の獣はわしたちだと説明し、1人ずつ元の姿も見せてみた。デカイ獣が3匹も出て来たのにぜんぜん驚かないな、こいつら……
ちなみに、どうしてあんなにしつこく追いかけて来たのかと聞いたら、食べるため。島に獣が迷い込むなんてめったにないから、これ幸いと思ったとジネーブラさんが言っていた。
「あ、そんにゃに動物は不足してるんにゃ」
「ううん。狩りするのが面倒なだけ。向こうは危険だし」
「にゃ? あっちまで行って狩りしてるんにゃ~」
「たまにね。食べるだけなら魚捕ったらいいだけだし」
「それにゃらお近付きの印に、丸々1頭あげるにゃ~」
「うわ~。立派な獣ね~」
イタリアで狩った30メートルオーバーの牛を出してあげたけど、ジネーブラさんは思ったより反応が薄い。
「ビックリしないにゃ?」
「これぐらいならたまに狩ってるから」
「急に出て来たことは気にならないにゃ?」
「あ、ホントね。どこから出したの?」
「別空間にゃんだけど……」
「へ~。外の人は凄いのね~」
「みんにゃ集合にゃ~」
あまりにも淡泊なので、リータたちを集めて会議。ジネーブラさんたちは暇みたいなので、デカイ牛を集落に運ぶと言い出して、全員でえっさほいさと運んで行った。
「ねえ……軽々と持ち上げてるわよ?」
「いまはその話は置いとこうにゃ~」
ベティの質問はわしもめっちゃ気になるけど、話が逸れそうなので忘れないうちに思ったことを口にする。
「にゃんかイサベレみたいな集団だよにゃ? みんにゃも違う人と話をしてたにゃろ? どう思ったにゃ??」
やはり皆も、この集団は淡泊って感想。イサベレだけは普通とか言っていたから、自分は普通だと思っているらしい。百年以上も生きてるクセに……
「やっぱり私のルーツ?」
「髪の毛と顔の系統は近いモノはあるけどにゃ~……まずは歴史に詳しい生き字引でも紹介してもらおうにゃ」
「ん」
イサベレたちと喋っていたらジネーブラさんが戻って来て、宴を開いてくれるとのこと。それは話が早いと、わしたちは飛ぶように走るジネーブラさんのあとを追いかけるのであった。
「大丈夫にゃ?」
「ハァハァ……速いわ!」
「だからおぶってやるって言ったにゃ~」
後衛寄りのベティだけ遅れがちだったので、わしがおんぶしてあげたのであったとさ。
それから島の中心部に着いたら遺跡みたいな町がお出迎え。人々は巨大牛の解体に夢中で、わしたちを無視してやがる。てか、女性が素手でやってるな。男性は少ないから、狩りに出ていると思われる。
「どっかで見たことのある建物ね」
「う~ん……ローマかにゃ?」
「あ、それそれ。ローマ風の建物ばかりよ」
「イタリアだからにゃ~。この人たちのルーツはローマ人なんにゃろ」
「え? イタリア人ってローマ人なの??」
「ローマ帝国知らにゃいの??」
ベティは世界史なんて習ったことがないとか嘘を言っているので、仕方なくちょっと説明。ローマ帝国とは第三世界では五百年ぐらい前まで、イタリアとその周辺を征服した巨大国家。
第四世界では千年前にはすでに滅びていたから、それまでに戦争ばかりしてスサノオノミコトの浄化装置に引っ掛かって滅びたとわしは予想している。
てか、イタリアの首都がローマなんだから、なんで知らないんじゃ。
そんな説明をしていたら立派な柱の神殿に案内され、長だというお爺さんみたいなお婆さんに出迎えられた。
「よう参られた。外の者よ。わしがこの集落の長、ニコーレじゃ」
「わしが代表のシラタマにゃ。見ての通り猫にゃけど、引っ搔いたりしないにゃ~」
「うむ。今日は是非とも外のことを聞かせてくれ」
「もっと驚いてくれにゃ~~~」
ここまで反応が薄いと、わしも文句。だって、いつもいい反応してくれるんじゃもん。そのせいで、リータたちが笑ってるんじゃぞ!
反応の薄いニコーレは皆が何故笑っているかわからないまま、奥に案内してテーブル席に全員着かせた。とりあえず皆に飲み物をわしが出して、ニコーレと話をしてみる。
「外から人がやって来たりしてるにゃ?」
「いや、この島に移り住んで長く経っておるが、初めてのことじゃ」
「だったら、もうちょっと驚いてもいいんじゃにゃい?」
「いや、かなり驚いておるぞ。変な生き物が頭の中で喋っているのじゃからな」
「全然そんにゃふうに見えないにゃ~」
これで驚いているのかとわしもビックリだけど、情報収集を続ける。ただし、文字は失伝したらしく、口伝だけなので正確性は問われる。年数すらわからないそうだ。
この白いエルフのようなローマ人のような集団は、他者と関わりを持ったことがないので部族名はなし。イサベレの話も聞いてみたけど、千年前の出来事なので記録も記憶も残っていなかった。
そもそもこの集団は遠い昔に、黒い悪魔が土地を滅ぼし、それから逃げるように生活拠点を変えていたとなっていたから、複数の民族が合流した可能性が高い。生き残ることに精一杯だったから、文明をどこかで手放してしまったのだろう。
そんな生活をしていたら世界は真っ白な地獄に変わり、人類滅亡を覚悟したとのこと。しかしその時、海の向こうに天国を発見した。そこは強い獣が一匹もいない世界。
海には強い魚がいたので犠牲者は出たが、全員で海を走って渡ったとのこと。聞き間違いかと思ったけど、本当に海面を走ったと言い伝えられているし、ニコーレからも「よくやるけど何が変なの?」と言われた。
移り住んでからは平和その物で、ブドウ畑と漁業、たまにイタリア本土で狩りをして、食う物には困らず今日の日を迎えたそうだ。
ニコーレからの話を聞き終わるとイサベレがわしを呼ぶので、2人で誰もいないバルコニーのような場所に移動した。
「さっきの話、どう思った?」
「そうだにゃ~……黒い悪魔ってのは、黒い木か黒い獣のことだろうにゃ。現物を見たことがないから、悪魔という表現になったんだと思うにゃ」
「やっぱりそう……」
「んで、年月が流れて黒い木や生き物全てが魔力のせいで白くなったと思うにゃ。その当時から相当強かったんだろうにゃ~」
「ということは……」
「だにゃ。イサベレの先祖は、天国に行く前にこの集団からはぐれてしまった子供だと、仮説が立てられるにゃ~」
「やっぱりルーツだった……」
「にゃはは。よかったにゃ~」
確定した情報ではないが、こんな土地では手に入る情報はこれが限界だろう。いや、ここまで詳しく残っていたのだから、奇跡とも言える。
自分のルーツを発見したと涙ながらに喜ぶイサベレの気持ちを汲んで、わしはいつまでも抱き締め続けるのであった……
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