猫歴30年その2にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。だから剣の師匠じゃないと言っておろう。


 宮本武史たけしの最後を見届け、酒を片手に鉄之丈に思い出話を語っていたら、宮本の弟子のわしに剣を教えてくれとか言い出したから突き放す。

 そして宮本の遺体を次元倉庫に入れたら、うっとうしい鉄之丈は気絶させて実家に送り、天皇家に寄って徳川家康に一報を入れてもらった。


 後日、猫市では宮本武史の葬儀が行われ、多くの弟子に見送られて日ノ本へ旅立った。そして江戸でも、宮本武史に縁のある者が多く集まり、立派なお墓に埋葬されたそうだ。



 宮本武史との別れは寂しいものであったが、猫歴30年にもなると、猫の国初期に精力的に働いてくれていた人々に亡くなる者が増えていた。

 わしは顔見知りの場合は足を運び、感謝の言葉を告げて回った。リータやメイバイの両親の場合は盛大な葬式をやってあげようとしたけど、故人からも2人からも質素でいいと反対されたのでそれを叶える。


 2人とも猫ホームで息を引き取る両親を見ても泣きもしなかったから、この世界の人は「強いな」と思っていたが、子供の手前強がっていただけ。

 夜になると悲しくなったのか涙が止まらなくなっていたから、わしは一晩中抱き締め続けたのであった。


 ちなみに猫ホームとは、わしの家でもなければたくさんの保護猫が暮らす家でもない。老人ホームのつもりで治療院の隣に建てたのに、メイバイたちがそんな変な名前を勝手につけていたのだ。

 もちろん老人ホームのつもりだから職員が24時間常駐しているけど、なんかウサギ族ばっかり。たぶんリータたちが面接したと思う……ウサギホームの間違いなのでは?

 費用は、半分はわしのポケットマネー。残りは入居者かそのご家族が支払う。センジ首相が出してくれないんじゃもん。といっても、家族が老後の世話をするケースが多いので、お金を払ってまで入居する者は単身者だけなのでかなり少ない。


 その猫ホームの一室で、わしは最後を迎えようとしている入居者と喋っていた。


「ノエミ……今までご苦労様にゃ」


 このノエミという小さなお婆ちゃんは、東の国魔法部隊ではナンバー1の地位にまで手が届いた人物。だが、ナンバー1の席が空いたのに、それを蹴って猫の国に移住して来た変わり者だ。

 理由は、魔法や魔道具研究が楽しかったから。待遇はいいし、わしが他国から手に入れた知識を教えてくれるし、猫の国のほうが研究費用が多いし、東の国に情報を流せばお小遣いが貰えるし……

 まぁ、わしの許可した情報しか流していないから、それはよしとする。


 ノエミは70歳を超えてもまだまだ元気だったのだが、残念ながらわしたちでも治せない大病を患った。親友のワンヂェンの頑張りも虚しく長い闘病生活を送り、今日の日を迎えたのだ。


「あ~……毎日魔法のことを考えられて楽しかったな~」

「にゃはは。ノエミは魔法大好きだったもんにゃ~」

「心残りがあるとしたら、ふたつだけね」

「にゃ?」

「シラタマ君のお母さんのこと……」

「まだ気にしてたにゃ? わしはもう忘れてたんにゃから蒸し返すにゃよ~。それにあっちに行ったら、おっかさんが待ってるんじゃないかにゃ~? よろしく言っておいてくれにゃ」

「あはは。怖いこと言わないでよ。あの時、私はめちゃくちゃビビってたんだからね」


 このノエミはわしの母親を狩ったメンバーの1人。しかしわしが茶化すように言うと、笑ってくれた。


「んで、もうひとつはにゃに?」

「もうひとつもシラタマ君よ」

「にゃ? わしの秘密は話したよにゃ??」

「うん。平行世界人のほうは納得してるわよ。でも、その多種多様な魔法をすぐに作る能力には納得していないわ。何か隠しているわよね? これで最後なんだし教えてくれないかな??」

「あぁ~……」


 ノエミの最後の頼みなのだから、わしはリータたちに頼んで人払いしてもらい、念話を使って教えてあげる。


「この秘密には神様が関わっているからちょっと聞きづらいかもしれないけど、信じて聞いてくれにゃ」


 やはりわしの転生特典「全平行世界の全ての魔法が載っている魔法書」は神様の注意事項に引っ掛かって所々どもってしまったが、ノエミは神々の魔法の一端に触れられて、満足げに旅立ったのであった……



 ノエミのお葬式も終わり、ワンヂェンのことも励ましていつもの生活に戻ったわしであったが、猫ホームには知人が数人滞在しているので最近では顔を出す頻度が高くなっている。

 ただ、入居者はあまりいないので、うっとうしいヤツらの相手をするだけだ。


「スティナたちはまた飲んでるにゃ~? 先生に止められてたにゃろ~」


 うっとうしいヤツらとは、わしがアダルトフォーと馬鹿にしていた……呼んでいた、元ハンターギルドマスターのスティナ、元商業ギルドマスターのエンマ、元カリスマ服屋のフレヤ、元ビーダール観光促進ショップ所長のガウリカ。

 この4人は東の国にあるわしの別宅のお隣さんというか、別宅に勝手に巣を作っていた独身女性。ノエミが猫ホームに入ったと聞いて「私たちも入れて~!」っとやって来たのだ。


 かといって、猫ホームはわしのポケットマネーで運営されているが、いちおう公的機関。これまで一銭も税金を払っていない者を住まわせるわけにはいかない。

 でも、費用を全額払った上に余ったお金は猫の国に寄付すると言われたからには、渋々全員の有り金を調べさせたら、めっちゃ持ってた。

 そりゃそうだ。アダルトフォーは各分野のトップクラスの給料を貰っていたのに、独り身を選んでお婆ちゃんになったのだから、貯まりに貯まっていたのだ。


 そんな経緯もあり、猫ホームの入居を許可したのだが、入居者が少ないからってやりたい放題。

 自分たちの部屋を勝手にVIPルームに改造して、テレビや冷蔵庫、酒まで持ち込んでいる。


「これはお酒じゃないわよ。ノンアルコール飲料っての。ちゃんとルールを守って、夜しか飲んでないわよ。ね~?」

「「「かんぱ~い!」」」

「それ、ちょっと飲ませてくんにゃい??」

「「「「まぁまぁまぁまぁ……」」」」


 噓っぽいので酒のビンを奪って飲んでみたら、ストロング! ウォッカの原液だったので、わしは勢いよく吹き出した。


「ゲホッ、ゲホゲホッ……にゃんてモノを飲んでるんにゃ!?」

「あぁ。もったいない……1対8ぐらいの薄いのをチビチビ飲んでるんだから、それぐらい許しなさいよ」

「だから飲むなと言ってるんにゃ~~~」


 歳を取って益々ワガママになったアダルト……ババアフォーを相手するのは面倒なので、お酒の件はあとで医者にチクるわしであった。


 まだまだ生きそうだな、こいつら……



 ババアフォーに関わると面倒なので子育てに戻ったら、今度はサクラとインホワに絡まれた。


「にゃ? もっと強い獣と戦いたいにゃ??」

「「お願いしにゃす!」」

「じゃあ、コリスと訓練すればいいんじゃにゃい??」

「「強すぎるからにゃ~~~」」


 コリスとは差がありすぎるからのお願い。というか、わしが過保護だから……もしくはリータたちがバトルジャンキーだから、あまり強い獣を回していないのでハンターとして不満があるらしい。


「そう言ってもにゃ~……」

「ママたち抜きとかできないにゃ? それだったら、私たちにちょうどいい獣と戦えるはずにゃ~」

「それにゃ! このパーティは人数が多すぎるんにゃ! たまには少ない人数でやってみたいにゃ~」

「あぁ~……」

「「お願いしにゃす!」」


 確かに猫パーティの人数は、子供たちが入ったから多い。大人だけで6人プラス妖精。そこに玉藻や家康もくっついて来る時もあるから、3人の子供にはおこぼれしか回って来ないのだ。


「ま、たまには子供たちだけで行くのもアリだにゃ」

「「やったにゃ~」」

「でも、わしだけでは心配にゃから、玉藻でも誘って来るにゃ~」

「「いやいやいやいや……」」


 最強の化け物2人では過保護すぎると言うので、引率はサクラとインホワが決めるのであったとさ。



「さあ、行くわよ~!」

「「「「にゃ~~~!」」」」


 というわけで、中国の南東部にやって来ました猫パーティヤングチーム。わし、サクラ、インホワ、休みを合わせたシリエージョ。わしが32歳とちょっと歳はいっているが、子供は全員23歳のナウなヤングだ。

 そこに引率に選ばれたベティ32歳が掛け声を出し、勝手について来たノルンまで子供たちと一緒に右手を上げてる。でも、千年前に作られたノルンが入ると、一気に平均年齢が上がるんじゃけど……


「じゃあシラタマ君。道案内よろしく」

「そこまでやったにゃら、ベティが探知魔法で探せにゃ~」


 相変わらずベティは締まりがないので、リーダーから降格。わしが音頭を取り直し、獣の群れに向かって駆け出す。


「「「背中に乗せてにゃ~」」」

「走るのも仕事のうちにゃ~」

「あたしはいいよね?」

「ベティはにゃにしに来たにゃ~」

「ノルンちゃんは?」

「勝手にしがみついてろにゃ~」


 でも、猫型・大になれと全員うるさかったので、今日は心を鬼にしてわしは人型で走り続けるのであったとさ。



「なかなかいいチームになったんじゃない?」


 子供たちだけで戦うにはちょうどいい5匹の群れがいたので好きにさせていたら、ベティがわしの隣に立った。ちなみにノルンは、単身で突っ込んで行こうとしたのでわしが握っている。


「だにゃ。インホワの盾役、サクラの遠距離攻撃、シリエージョの遊撃……これまで学んだことを発揮できてるにゃ~」

「ホント、シラタマ君の子供は優秀ね。残りの子供も全員ハンターにしたら、世界中の獣を狩り尽くしちゃうんじゃない?」

「それは本人の意思しだいにゃ。てか、その中にはベティの孫が入ってるけど、ハンターにする気にゃの?」

「孫にそんな危ない仕事させるわけないでしょ!」

「にゃはは。ベティも過保護だにゃ~」


 エミリとわしとの子供は、妊娠した時はベティも喜んでいたのだが、生まれて来たら微妙な反応をしていた経緯がある。そりゃ、この世界初の孫が白猫なら、そんな顔になるわな。

 でも、すくすくと育ってからは愛情が湧き、お婆ちゃんと呼ばれてからは……やっぱり微妙な顔。その当時、ベティはギリギリ十代だったのだから葛藤があったらしい。いまでは割り切って、お姉ちゃんと呼ばせてる……


 しばし子供の話で盛り上がっていたら、白くて大きな獣が現れたので、わしは少し力が入る。


「さてさて~。正念場が来たにゃ~」

「あたしにやらせて! 1人で倒してやるわ!!」

「わしも我慢してるんにゃから、手を出すにゃ~」


 でも、ベティのほうが力が入っていたので、わしはベティも掴んで離さないのであったとさ。



「にゃはは。おしかったにゃ~」

「「「ゼェーゼェーゼェーゼェー」」」


 サクラたちは格上相手にいいところまで行ったのだが、インホワが崩れそうだったのでベティを投入。なんとか白い獣に勝利した3人は、仲良く天を仰いで倒れている。

 ベティはなんか余裕しゃくしゃくって顔で決めポーズしてる。おいしいところだけ持って行ったクセに……


「もうちょっとにゃったのに……」

「にゃんでおばちゃん送り込んだにゃ~」

「あのままでも勝てたよ」


 わしの手助けが気に食わないと、インホワ、サクラ、シリエージョに睨まれだけど、恨まれたくないからベティを送り込んだんだから、ベティを睨んでくれ。


「それはどうだろうにゃ~? みんにゃインホワの剣を見てみろにゃ」


 このままでは帰ってまで文句言われそうなので、パパの威厳を見せてやる。


「にゃ……いつの間に……」

「亀裂が入ってるにゃ……」

「私のレイピアも刃毀れしてる……」


 インホワがかっこつけて使っている背丈以上ある大きな黒い剣は斜めに亀裂が入っているのだから、皆にも言いたいことが伝わった。シリエージョも自分の武器の状態に今ごろ気付いたみたいだ。


「ちょっとみんにゃ、インホワに無理させすぎにゃ。剣が折れていたら危なかったんにゃよ? それに、あとのことを考えてないのも減点にゃ。狩りは帰るまでが狩りにゃ~」


 わしがいいことを言ったとウンウン頷いていたら、子供たちも尊敬して……


「オヤジ~。白魔鉱の剣、作ってにゃ~」

「そうにゃ~。それにゃら折れなかったにゃ~」

「パパ。私も作ってほしいな~?」


 ない。武器が悪かったとおねだりが始まった。


「しょうがないにゃ~……今日、頑張ったご褒美にゃ~」

「「「やったにゃ~~~!!」」」


 こうして子供たちは、狩りも楽しめたし新しい武器も手に入ると、ニコニコしてお家に帰るのであった……


「あの子たち、いつになったら親離れ出来るんだろ?」

「マスターが子離れするまで出来ないんだよ~」


 それを見ていたベティとノルンは、我が猫家のことを心配してくれるのであったとさ。

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