猫歴29年その後にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。久し振りの第三世界は楽しかった。


「ゲームは~?」

「マンガ出してにゃ~」

「アニメも見たいにゃ~」

「おやつ食べたいにゃ~」


 子供たちも楽しかったみたいだけど、回想してるからちょっと待って!


 今回は第三世界でやらかしていないと言いたいところだが、ララの家でゲームやインターネットを楽しませてもらったから、ララにはキレられた。子供たちをモフって嬉しそうにしていたクセに……


「「「「「パパ~」」」」」

「わかったにゃ~」


 と、回想している暇もないので、皆から必要な物を聞いたら居間に排出。これでゆっくりできると思ったけど、翌日にはペトロニーヌに引きずられて東の国へ。

 サンドリーヌタワーとかいう恥ずかしい名前のビルの上階で、さっちゃんに帰還の報告とプレゼント。ペトロニーヌから「出せ……」と脅されて……いや、わしたちが買って来たお土産を山積みにしてあげた。


「うわ~。いっぱいね~。あっ! 新作のコスメもある!!」


 さっちゃんが言う通り、ペトロニーヌたちのお土産は化粧品ばかり。わしの金で、およそ10年分ぐらい買い込んでいた。それも10人分も、わしの金で!!

 ちなみにここに出した物は、3人分ぐらい。ペトロニーヌと双子王女の分は、あとで家に届けろと脅されている。多すぎるからわしに保管させて、必要になったら持って来いとも言われた。

 酷すぎると文句を言いたいところだが口で負けるので土産話に変え、さっちゃんにはスマホの画面を見せて、ある人物を指差す。


「この人って見覚えあるかにゃ?」

「えっと……皇室のあの子かな? 立派になったね~」

「その人から手紙を預かったにゃ。にゃに書いてるにゃ~?」

「どれどれ~」


 次期天皇から渡された手紙の内容は、お互いトップの重責を全うしようと励ましの手紙。前回の時に、そんな話で盛り上がっていたそうだ。


「立派な女王になっている姿をこの目で見たかったけど、会えなくて残念だって」

「立派にゃ女王にゃ~……」

「なにその反応!?」

「「「立派な女王ね~……」」」

「お母様もお姉様も!?」


 でも、わしたちは生温い目。ペトロニーヌに比べるとまだまだ素が表に出る場面が多いから、立派とは言いづらいのだ。


「ま、その話は置いておいて、また何かやらかして来たんでしょ? お話聞かせて~」

「にゃんでやらかしたと決め付けるにゃ~」


 その目をかわそうと、さっちゃんはわしに話を振ったので、ペトロニーヌたちの生温い目はわしに向けられた。立派とか以前に、王様に見えないんじゃもん!


「今回は別行動が多かったからにゃ~……ペトさんたちのほうが、土産話を多く持ってるんじゃにゃい?」

「ええ。それはもう、毎日驚きの連続だったわ」


 やはり女王たちの感想のほうが面白いと思い、わしが話を譲ると3人の土産話は終わりが見えない。

 それをさっちゃんと一緒に微笑ましく聞いていたが、さっちゃんは忙しいので一時休憩。続きは夜になったので、わしは新型テレビの設置と荷物を出してから帰るのであった。


 ちなみに兄弟たちのお土産も大量に買って来たのに、出すの忘れて帰ろうとしたので、エリザベスさんに噛まれました。



 翌日は、家でグータラして、その次の日もグータラ……ダメ? 買って来た物を大学の図書館に並べろって? リータたちも手伝ってください!!


 というわけで、学校のある子供以外の王族全員で倉庫作業。まずは本から始めたら、学生が群がって来て邪魔。自分の勉強している分野の本をかっさらって行く。

 そこで気付いたのだが、本の位置がグチャグチャ。違う部門に入っている本が多数見付かった。


 なのでわしは激怒。今日、明日と勉強は禁止し、本棚の整理を学生にやらせる。ブーイングは凄まじかったけど、こんなこともあろうかとこいつらを契約魔法で縛っているのだ。無理矢理働かせてやった。

 それにプラスして「出した本は元の位置に戻す」と命令を上書き。まさかこんな常識を無理矢理やらせる日が来るとは思いもしなかった。汚すのも破くのもダメじゃぞ!


 ちょっとしたトラブルのせいというかそのおかげで学生を使うことになったので、本の展示はスピーディー。だから図書館は学生にやらせて、わしたちは技術品を展示して行く。

 前回買って来た物は分解したり部品を少し抜いているが、原型は留めているからその隣に、今年の年月を買いた似ている物を置けばいいだけ。それなのにつゆがさっそく分解バラそうとするので、つゆ用に買って来た適当なオモチャをあげた。


 技術部門の展示も終わると、わしだけ残ってパソコン開発部に顔を出す。


「みんにゃ~。やってるにゃ~?」

「「「「「師匠!」」」」」

「理事長って呼べにゃ~」


 平賀家の間では、元当主の源斉がわしのことを師匠と呼ぶのでその都度訂正しているけど、直る素振りがない。他の学生は「猫理事長」って呼んでくれるけど、猫はいらん。


「ほれ? お土産にゃ。進化したパソコンを買って来てやったにゃ~」

「なんだと!?」


 第三世界で買って来たパソコンを出してあげたら、源斉たちは群がっていたけど、どこで買って来たかは気にならないのかな? まぁ説明する手間が省けるからわしは助かる。

 市販されていたいっちゃんいいパソコンの電源コードを繋ぎ、四苦八苦しながらスペックを調べるわしたちであった。



「おお~。たった14年で、前のパソコンを2倍以上も上回ってるにゃ~」

「俺たちなんて、ろくなパソコン作れないのに……くそ~~~!!」


 スペックの確認が終わったら、源斉は悔しそうに机を叩いた。猫の国では、まだファミリーコンピューターに毛が生えた程度だから仕方がない。それも巨大なファミリーコンピューターだもん。


「まぁ見本があっても、これは難しいからにゃ~……次世代の天才に引き継ぐしかにゃいか」


 源斉もいい歳なので、若手を起用したほうがパソコン開発は進みそうだが、わしの言い方が悪かったので源斉は泣き出した。


「もう、俺には、何も作れないのか……うぅぅ」

「にゃに言ってるんにゃ。これまでどれほどの数の機械を作って来たと思ってるんにゃ。お前の先祖と比べ物にならない数にゃよ?」

「いや、ゼロから作った物なんて、太陽光発電だけだ! 全部パクリだ!!」

「わかってないにゃ~。そのパクリですら、何年もかかってるんにゃ。源斉の力がなければ、生まれなかった物もたくさんあるんにゃよ? 源斉は日ノ本だけでなく、猫の国でも天才発明家として歴史に名を刻んでいるにゃ。わしは平賀源斉の名を、一生忘れないにゃ~」

「師匠……」


 こうして源斉は一線を離れ、穏やかな老後を……


「エアカー……車が空を飛ぶのですか!? 俺に作らせてください!!」

「いい加減、後輩に席を譲ってやれにゃ~」


 いや、死ぬまで何かを作り続けたと歴史に名が刻まれたのであったとさ。



 源斉が死ぬのはまだ先なので、開発部門の再配置だけしてわしは家に帰ったら、次の日からは猫の国の首相や市長に顔を見せ、それも終わったらわしはある場所に顔を出した。


「お~。いい剣筋になって来たにゃ~」

「ありがとうございます!」


 ここは日ノ本の片田舎にある剣術道場。そこで16歳の少年相手にわしは竹刀で手解きをしている。けっしてサボっているわけではない。

 わしたちが楽しく稽古をしていたら、細身のチョンマゲ中年男性が入って来た。


「また来たのですか……」

「ゲッ。鉄之丈、戻ってたんにゃ……」


 そう。この道場はわしの祖父そっくりの後藤銀次郎が残した道場。鉄之丈とは、この第四世界ではわし役の男で、その親兄弟や子供がわしの元家族とそっくりだからたまに遊びに……様子を見に来ていたのだ。


「子供より俺と決着をつけてくれません?」

「もうわしの勝ちでいいにゃろ~」


 鉄之丈には、わしが初めて作った【黒猫刀】を預けて、強くなったらやり合おうと約束していたから何度か真剣で立ち合ったけど、わしの圧勝。

 しかし鉄之丈はなかなか負けを認めずに鍛錬を続けている。しつこいヤツじゃ。


 ちなみに鉄之丈の今の仕事は、天皇家直属の剣術指南役。これも亡き銀次郎から受け継ぎ、京で過ごす時間のほうが長い。兄弟も多いのだから実家は任せて京に移住すればいいものを、道場が気になって離れられないそうだ。


 鉄之丈と会ってしまったのだから稽古は中止して、皆に第三世界で買って来たお菓子を振る舞い、わしと鉄之丈は縁側でお茶をすする。


「ところで、次の関ヶ原には出ないのですか?」

「関ヶ原ってまだまだ先にゃろ~」


 関ヶ原とは、ここ日ノ本で5年に一度行われる大きなお祭り。日ノ本が東西真っ二つに分かれて技を競うのだから、毎回大盛り上がりになるのだ。

 2年前に行われ、その時わしが東軍から剣術試合に出て鉄之丈をボッコボコにしたから、3年後の関ヶ原でわしを倒したいのだろう。


「てか、もう40歳ぐらいにゃろ? まだ動けるにゃ?」

「祖父は60超えても戦っていたのですから、俺もまだまだ戦えます!」


 鉄之丈には魔法で身体能力を上げられるようにわしが手解きしたこともあるので、いまの日ノ本では、侍のナンバー1に君臨している。だから家康から、わしに倒してくれとオファーがあったのだ。


「そうかにゃ~? あの頃のじい様のほうが、鉄之丈より強かった気がするんだよにゃ~……」

「うっ……俺も、そう思います……」

「鉄之丈もなんにゃ……」


 わしは銀次郎からドメスティックバイオレンスを受け続けたせいか、苦手意識や恐怖心があるから強く感じているだけかもしれない。てか、鉄之丈までそう思ってるっぽい。


「やっぱり、死線を乗り越えてるかどうかの違いがあるのかにゃ~?」

「どうでしょう……シラタマ王でも、苦戦するようなことがあるのですか?」

「多少はにゃ。ま、わしの場合は獣や魚ばっかりにゃから参考にならないかもにゃ~」


 鉄之丈にはちょっとだけわしが苦戦した話をしてあげたけど、ヤマタノオロチとの戦闘談からしたので「できるか~!」っと、すぐ終わってしまった。


「要は気迫っての? 鉄之丈の剣からは怖さが感じないんだよにゃ~」

「怖さ、ですか……」

「宮本先生の剣はいまでも怖いんだけどにゃ~……そういえば、宮本先生の剣は、にゃんで怖く感じるんにゃろ? わしに傷ひとつ付けられにゃいのに……」


 わしが独り言をブツブツ呟いていると、鉄之丈は名前に引っ掛かった。


「その宮本先生ってのは、シラタマ王の師匠なのですか?」

「うんにゃ。二天一流、宮本武史たけしって人が、わしの師匠にゃ」

「なんですって!?」

「にゃ?」

「宮本武史といえば、伝説の剣豪ですよ! 昔、関ヶ原に出場して以来、その姿を見た人がいないという……」


 興奮していた鉄之丈はわしの顔を見て何かを閃いた。


「その最後の日に、猫の王に敗れたって……」

「あ~。そんにゃこともあったにゃ~」

「ええ!?」

「そっからうちで剣の先生したり、獣と戦う仕事をしてたんにゃ。てか、一度も日ノ本に帰ってなかったんにゃ~」


 わしが悪いことしたかもと思っていたら、鉄之丈も暗い顔になった。


「そんな所にいたなんて、じいちゃんに教えてあげられていたら喜んだだろうに……」

「にゃ? じい様からそれも聞いてないにゃ??」

「何をですか?」

「じい様は宮本先生と何度もやってるにゃよ?」

「へ??」

「あの2人、根が一緒みたいでにゃ~。真剣でマジの殺し合いするから、わしのほうが怖かったにゃ~。じい様にゃんて、腕を切断されても血まみれになっても笑ってたんにゃよ~??」

「え……」


 この決闘は、最初はわしもワクワクして見ていたのだけど、銀次郎が負けて血が噴き出して回復魔法で治してから、見てられなくなった。これなら何度でも『死合』ができると、わしは付き合わされたからだ。

 ちなみに勝敗は、銀次郎の全敗。最後の死合では宮本の右腕を切り落とせたのだが、左手が残っていたから斬られてしまった。


 普通の世界でなら相打ちといってもいい試合だったけど、傷の深さでは銀次郎のほうが深かったから、わしも宮本に軍配を上げるしかなかった。

 それでキレられるかと構えていたが、銀次郎から「見事な裁定だった」と褒められたので、わしの心の中に、その死合は深く刻み込まれている。


 そこまで話をしてあげたら、さすがに鉄之丈も会うのを諦め……


「じいちゃんの仇を討つんだ~~~!!」


 ない。子供の頃にわしに向かって言ったセリフを言ってるよ。


「宮本先生はじい様を殺してないにゃ~。じい様はお前たちに看取られて逝ったって言ってたにゃろ~」


 こうなってはわしの説得も聞く耳持たず。鉄之丈に「絶対に会わせてくれ」と泣き付かれたのであったとさ。

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