猫歴29年その2にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。祖国日本が復活して喜ばしい限りだ。


 皇太子殿下と再会したその日は、わしと玉藻はお喋りに明け暮れ、その他はタブレットで動画ばっかり見てる。

 皇太子殿下は再会を祝してディナーまでご馳走してくれたけど、テーブルの上に並んだのは猫の国料理ばかりだった。だってぜんぜん足りないんじゃもん。


 そして深夜になると……


『確かにあの猫は脅威だ! しかし、我が合衆国が最強だ~~~!!』

「「「「「U.S.A! U.S.A!!」」」」」


 海の向こうでは、アメリカの大統領がワシントンDCで大規模な集会を開いていた。


『あの~? にゃんの話をしていたにゃ??』

『はうあっ!?』


 なので、わしはその演説に潜り込んでいた。でも、わしが隣に下り立ち音声拡張魔道具を持ったまま英語で声を掛けたら、初老の大統領は銃で狙撃されたかの如くぶっ倒れた。


『大丈夫にゃ?』

『ね、猫……』

『うんにゃ。約束通り遊びに来たにゃ~』

『ぎゃああぁぁ~~~!?』

『その反応は失礼じゃにゃい??』

「「「「「ヒューーー!!」」」」」

「「「「「c・a・t! c・a・t!」」」」」


 大統領はとんでもなく取り乱しているけど、アメリカ国民はテンション高くて超うるさい。


 何故、わしがこんな所にいるのかというと、アメリカ時間の朝に大統領が演説をすると聞いたから、その場で質問してやろうと思ったからだ。

 しかし大統領は腰を抜かしているから話にならないので、壇上の前に出てアメリカ国民を落ち着かそうとジェスチャーをしてみたが、ぜんぜん静かになんない。このジェスチャーは、盛り上がれって意味なのか??


 アメリカ文化にうといわしがどうしようかと思った瞬間、会場に「パーン」という乾いた音が鳴り響いた。


『見たか! 合衆国の力を!!』


 すると、大統領は尊大な感じで近付いて来たので、わしは胸を押さえながら振り返った。


『にゃんか当たったみたいにゃ。にゃんだろ?』

『はい??』


 わしは何が当たったかは見えていたのだが、とぼけたフリをして落とさないように胸と手に挟んでいた物を、爪で摘まんでよく見る。


『おお~。これって白魔鉱じゃにゃい? うちでも加工は難しいのに、よくこんにゃに小さな銃弾に加工できたにゃ。やるにゃ~』

『な、なんで……弱点じゃなかったのか……』

『まぁ白い獣と戦うには有効にゃけど、魔力がかよってにゃいと、わしの体は傷付けられないにゃ。それに速度が遅すぎにゃ~。音速ぐらい出てにゃいと、わしには蚊が当たった程度にゃよ?』

『ば、化け物……』

『その化け物をライフルで狙撃したってことは、終末戦争アルマゲドンの開始ということでいいんだにゃ?』


 わしがとぼけた顔のまま脅すと、大統領は尻餅を突いたと同時にガサガサっとゴキブリみたいに動いて土下座した。


『違います違います! それは、私を狙った凶弾です!!』

『さっき合衆国の力がどうとか言ってにゃかった??』

『いえ! 言ってません!!』

『じゃあ、確かめてみるにゃ~』

『え……』


 目の前からわしが消えると大統領はキョロキョロ捜していたが、次の瞬間には、わしはお土産を担いで戻っていた。


『こいつが狙撃犯にゃ。あっちの建物の上で狙っていたにゃ。んで、このライフルが凶器にゃ。まだ熱いから、間違いないだろうにゃ』


 わしが証拠を突き付けると、大統領は遠くの建物、拘束されている男、ライフルの計3点を交互に見続けている。


『そんで……彼の装備には、アメリカ軍の勲章とか付いてるんにゃけど、アメリカ軍が大統領を狙っていたということで間違いないんだにゃ?』

『そうです……殺されても文句は言えません……』

『だってにゃ?』

『私は上の指示に従っただけであります!』

『だろうにゃ~』


 狙撃手に聞くまでもなく大統領が噓をついたのは明白なので、ペナルティ。わしは刀を抜いて、床に手を突いたままの大統領の右手を貫いてやった。


『いだ~~~! くないっ!?』

『動かしたら穴が広がってすぐ痛くなるから気を付けろにゃ。んで、誰が狙撃の指示を出したにゃ? 正直に話すにゃら怒らないし、傷も治してあげるにゃ~』

『わ、私です……』

『やっぱりにゃ~』

『あ……痛い! 痛くなって来ましたよ!!』

『にゃんか喉が渇いてるんだよにゃ~。気候のせいかにゃ? ちょっと待っててにゃ。あ、はじめにゃして。わしが猫の国の王、シラタマにゃ~』

『早く~~~!!』


 大統領の脂汗は酷いけど、わしは意地悪。刀を大統領の右手と床に刺したまま自己紹介をし、水筒を取り出してゴクゴク飲む。

 わしが無防備にそんなことをしていても刀は握ったままなので、SPは銃を構えるだけで大統領を助けられない。てか、マシンガンすら通じないのは知っているのだから、身動きが取れなくなっているみたいだ。


 喉も潤ったら、ヒーヒー言ってる大統領の手から刀を一瞬で引き抜き、回復魔法で治してあげた。そして土魔法で作ったテーブル席に大統領と一緒に着席。冷たい飲み物を与えたら、ようやく会談の始まりだ。


『わしの命を狙ったのは、アレのせいにゃろ? わしがやれと言ったことが、6割ぐらいしか消化できてにゃいの』

『は、はい……』

『まぁあの時はああ言ったけど、本気の姿を見せてくれるだけでもよかったんにゃよ?』

『へ??』

『だって、軍事関係以外は、国の発展の仕方がバラバラにゃんだから、10年そこそこで全て解決できるわけないしにゃ。それをこんにゃに解決してるんにゃから、凄いと褒めに来たんにゃよ~? 第三世界の底力、とくと見せてもらったにゃ~。素晴らしいにゃ~』

『う、うぅぅ……』


 わしが拍手を送ると、大統領の目から涙が落ちた。でも、涙の意味はよくわからん。怖かっただけじゃね?


『この調子で頑張れば、世界は未来永劫平和になるはずにゃ。頑張ってにゃ~?』

『はっ! お任せあれ!!』


 猫王様、第三世界再降臨は、アメリカ発で世界中に広がる。それは世界中の権力者から安堵のため息が漏れ、世界中の人々からは歓喜の声があがったそうだ。


『そんじゃあわしを攻撃した罰は、大統領個人が支払うことで許してやるにゃ~』

『なんですと!?』

『本当は超痛かったんにゃ~。にゃはははは』


 あと、わしが笑いながら慰謝料を請求したせいで「噓つけ~~~!」と、人々の心はひとつになったらしい……



 それからアメリカ人には、ちょっとサービス。集まった人々の前で刀や魔法のパフォーマンスをしたら、火星で撮った写真や手に入れた物を見せてあげた。

 そこでこっちの世界はどうなっているのかと聞いたら、まだ探査機程度。いちおう火星の土を持ち帰るミッションはやっているけど、数年前に打ち上げたロケットはまだ火星に到着していないらしい。

 それはビックマネーのチャンス。火星で手に入れた物は、アメリカでオークションを開くことにした。ホストは大統領の部下で、3日後に換金できるようにしてもらった。


 大統領はこれで罰が帳消しになったとコソコソ逃げようとしたので回り込み、「衛星回線のスマホちょ~だい」と言ってみたら、すぐに用意してくれた。


「ちにゃみにスパイウェアとか入ってないよにゃ?」

「入って……る? 入ってるみたいです」

「気持ち悪いから外してにゃ~」


 これ幸いにわしの行動を見張ろうとしていたみたいだけど、これは大統領はノータッチみたいだったので許してあげた。

 完全に何もされていない新品のスマホの操作方法を聞いたら、ある人に電話。繋がらなかったのでどうしようかと思ったら、大統領がその人の居場所を教えてくれた……なんで知ってるの? キモッ!?



 とりあえずやることは終わったので、知り得たニューヨークの住所にダッシュで移動。驚くコンシェルジュに聞いても留守だし電話しても反応はなかったので、第二候補の住所に移動して受付で呼び出してもらう。

 そうして待合室でうるさいアメリカ人にサインして待っていたら、わしの目当ての人が走ってやって来た。


「なんでここにいるのよ!?」


 手術着のままの美女はわしを見るなり怒鳴り付けるので、途中まで書いていたサインを終えたらそちらに顔を向ける。


「にゃはは。ララちゃん、久し振りだにゃ~」


 わしの目当ての人とは、広瀬空詩ララ。元女房だ。皇太子殿下からニューヨークにいると聞いたから、ついでに訪ねて来たのだ。


「久し振りじゃないわよ! 連絡ぐらいしなさいよ!!」

「電話したけど繋がらなかったんだから仕方ないにゃろ~」

「だからって、職場まで来なくていいじゃない!!」


 いちおうララには、前回笑い死にした経緯もあるから異世界転移する前に夢枕に立って訪ねる旨は伝えていたのだけど、職場までやって来るとは思っていなかったっぽい。


「にゃんか大統領が聞いてもいないのに教えてくれたんにゃ」

「はあ!? なんで知ってるの!?」

「マークされてるっぽいにゃよ? にゃにやらかしたにゃ??」

「あなたのせいでしょ!!」

「まぁまぁ。場所変えようにゃ~」


 ララが興奮していては話にならないし、日本語で話をしていてもアメリカ人に内容がバレそうなので、ララも渋々納得。

 休憩をもらったと言うのでララの着替えを待って屋上に移動したら、そこからララを抱いて近くのビルの屋上に飛び乗るのであった。



「はぁ~……まずは久し振り」


 ララもようやく落ち着いたみたいなので、先程の話に戻す。


「にゃんで大統領に危険視されてるにゃ?」

「前に言ったでしょ。あなたが帰ってから、世界中の偉い人やマスコミがうちに来たって」

「あ~……めっちゃ愚痴られたヤツにゃ」

「そのせいよ」


 わしが第四世界に帰ってからしばらく経った頃に、ララが夢枕に立って愚痴を言いながらモフりまくったことをいま思い出した。


「でも、それはわしの動画をアップしたりつきまとったのが悪いってことで落ち着いたはずなんにゃけど……」

「あんなにやらかすなんて思いもよらないに決まってるじゃない!」

「すいにゃせん……」


 口論で時間を掛けたくないのでわしが謝ればこれは解決。

 またあの頃の話を思い出すと、わしの弱点を探っていたとも言っていたし、大統領もわしの命を狙っていたのだから、ここアメリカにララが入国したから念のため調べられていたのだろう。


「そんでまた、にゃんでアメリカで医者になってるにゃ? 女優を目指してると言ってたにゃろ??」

「それもあなたのせい」

「わしのせいにゃ?」

「あなたの治した脳死の女の子、覚えてる?」

「そんにゃこともあったにゃ~」

「アレを見てからね。その道もアリかな~っと考え直したのよ」

「にゃはは。お前らしい考えだにゃ~」

「もう、すっごく大変だったわ~」


 ララはこう見えて、わしと同じく徳がとんでもなく高い人物。苦しんでいる子供を見ては、放っておけなかったのだろう。だから高2から猛勉強したみたいだ。

 アメリカで医者になっている理由は、日本の大学病院ではララの理想の医者になれないと思ったから。論文ばかり書かされ、人間関係を重視する大学病院では医者のスキルを磨けないから、頑張ってアメリカの医大に入ったそうだ。


「それは大変だったにゃ~。でも、それにゃらわしにも教えてくれてもよかったんじゃにゃい?」

「立派な医者になってから、あなたに言いたかったのよ。あなたも向こうで医療を広めようと頑張ってたじゃない。私も負けてられないからね」

「うちはまだまだにゃ。教えてくれる人がいるってのは、本当に素晴らしいことだにゃ~」

「確かにそうね。本だけでは、実践なんて怖すぎるわ。教えてくれる先生がいるから、安心してメスも持てるもんね」


 しばしお互いの苦労話に花を咲かせたけど、ララはお腹すいたと言うので、いっちゃん高い猫の国料理を奪われたのであった。

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