猫歴29年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。軍隊の訓練用の実験動物ではない。


 わしが東の国の軍隊に攻撃されたことは、シリエージョからさっちゃんと猫の国に告げ口されたからには、たまに訓練に付き合うようにオファーがあったけど、やるわけなかろう。わし、王様じゃぞ?

 シリエージョにどうしてそんなことをしたのかと聞いたら、「パパと結婚するの~」と言ってる動画を消さないからだとさ。

 てか、消すわけなかろう。これはわしの思い出と共に、シリエージョの思い出なのだから、一生残してやるつもりだ。千年後どうなるかわからないから、コピーは大量に取って、バージョンアップした機器に移しまくってやるからな。



 と、子供第一陣の恋愛関連の話が落ち着いてしばらくしたら、猫歴29年になったので、ついにヤツらに天罰を落としに行く!


「にゃ? 今回は行ってない人だけ連れて行く予定にゃんだけど……」

「「「「「行きたいにゃ~~~」」」」」


 そう。UFOに魔力が溜まったから、14年振りに第三世界がどうなったか見に行こうと思っていたんだけど、前回行った者も全員泣き付いて来たのだ。

 なので、今回の期間はちょっともったいないけど、1週間。長くて10日とする。でも、皆には1週間としか言わない。だって、ズルズル延ばされそうなんじゃもん。


 この期間なら、王族全員いなくなってもバカンスと思ってもらえるし、ひょっとしたらさっちゃんも行けるかもしれない。でも、誘いに行ったら、めっちゃ泣かれた。仕事がいっぱいで行けないんだって。

 そのかわり、ペトロニーヌお婆ちゃんと元双子王女おばさん、さっちゃんの2人の娘がついて来ることに。

 どうしてわしが訪ねて来る日を知っていたのかと聞くと、エティエンヌのヤツ。第三世界に行く時は、必ず報告するように脅されていたそうだ。


「どんにゃ弱みを握られてるにゃ?」

「お婆様は怖いだけで……おば様方は、写真を……」

「ちょっとわしにも見せてにゃ~~~」


 双子王女はさっちゃんから送られて来た写真の中にエティエンヌの恥ずかしい写真があったから、何かに使えると思って大事に保管していたので、わしも見て笑うのであった。


 というわけで、東の国からは、王族5人と護衛のシリエージョだけ。兄弟たちは、向こうに行くと睡眠時間が減るので、お土産を大量に買って来てとしか言われなかった。できればわしも、そっち側がいいな~。



 日ノ本にも声を掛けたら、やっぱり玉藻がテコでもついて来るとのこと。ちゃんと誘いに来たんだから、文句言うな。

 その文句の理由は、元タヌキ将軍徳川家康にも声を掛けたから。これには深い理由があるけど、簡単に説明すると、ゴルフ勝負で負けたせい。


 第三世界から帰ってから、猫市のゴルフ場に外壁を1周するようにコースを足しまくり、1ホールに4個もコースを使う超人ゴルフ場に改造。普通のコースはそのまま残しているから、普通の人でも楽しめるよ。

 そこに家康を呼び寄せ、練習済みのわしと玉藻でボコボコにしてやったのだ。

 そこでやめておけばよかったのに、調子に乗って「わしに勝てたらなんでも言うことを聞いてやる」と、もう一回ボコボコにしてやろうとしたら、前半におちょくりすぎて僅差で負けたのだ。


 そんなことだろうと思って手を抜いていたんだとか……このタヌキが~~~!!


 どんな無理難題を吹っ掛けられるのかと思ったら、わしの秘密を知りたいとのこと。

 適当に嘘を言ってやろうと思ったのだが、ある日を境に技術の進化が異常すぎるほど早くなった点を家康に突かれては、騙すこともできなかった。やはり家康は、天下のタヌキ親父だ。

 なので転生の秘密を語ったらすぐに信じ、次回、第三世界に行く時には誘ってくれと土下座までしていた。ここまでされたのだから、わしも断れなかった。大学の図書館に入るパスもあげたので、前知識もバッチリだ。



 猫の国からは……いっぱい。王妃が4人で側室3人。子供が9人で、オニヒメ家族が3人。エティエンヌを含めた居候が3人と妖精が1人。わしを含めて24人もいるから、この時点で前回より多い。

 そこに東の国と日ノ本を足したら、合計31人。このメンバーで、第三世界に異世界転移した。


 例の如く、UFOは迷彩機能を使って空に浮かび、しばらく上空から東京見物。初めての者の叫び声は凄いがここはキャプテンベティやリータたちに任せ、わしはUFOから飛び下りて公衆電話を探す。

 猫型・小で走り回ってやっとこさ見付けた公衆電話では人型に戻り、フードまで被って怪しさ全開で硬貨を入れて知人に電話をかける。


 すると、あれよあれよ……と話は進んだけど、2時間は時間がほしいと言われたので、UFOに戻って空から日本観光するのであった。



 わしがガイドしながら沖縄や北海道まで見たら指定の時間になったので、UFOは東京に戻り、とある高層ビルのヘリポートに着陸。

 迷彩機能を使ったままわしだけ先に下りたら、白髪のおじいさんと数人の黒服を着た男女が驚いた顔をしていた。


「にゃはは。驚かしてしまったかにゃ? UFOはまだ隠してるんにゃ」

「フフフ。相変わらずですね」


 挨拶もそこそこに、出迎えてくれた老齢の皇太子殿下とわしは握手を交わす。ちなみにさっき言った知人とは、天皇陛下。電話番号を交換していたから公衆電話からかけたのだ。

 公衆電話の理由は、スマホのシムはとっくに使えなくなっているし、Wi-Fiを使って連絡すると足が付きそうだから。今回は大事おおごとにしないように忍び込みたかったので、こんな面倒なことをしたのだ。

 しかし、天皇陛下は忙しいのか電話に出ず。そんな時のために皇族の電話番号は数人聞いておいたので、上から順に電話したら2番目の皇太子殿下に繋がったというわけだ。


「急に連絡したのに、忙しくなかったにゃ?」

「ちょうど空いていましたから大丈夫ですよ。ホテルも極秘裏に手配しておりますから、もう皆様降りて来ても問題ありません」

「それは助かるにゃ~」


 これも前回来た時に話し合っていたこと。というか、次来る時は、騒ぎにならないようにしてくれと天皇家から言われていたので、わしも守ったというわけだ。

 とりあえずUFOに戻ったら玉藻に皇太子殿下の相手をさせ、わしは全員降りたら点呼。確実に全員降りたのを確認したら、UFOは次元倉庫に隠して下の階に移動する。


 一番上のフロアは、わしたちの貸し切りとのこと。エレベーターや階段には見張りの黒服が待機し、ネズミ1匹通さない構えだ。でも、猫とリスと謎生物は別だ。

 そうしてスウィートルームに入ったら、初めての者が騒いでいたのでリータたちに任せようとしたけど、ニ度目の者もうるさかったので、皇太子殿下に用意してもらった足の付かないタブレットを配ってもらった。


 それでもうるさいのでわしと玉藻は、皇太子殿下と一緒に隣の部屋で話をする。


「また賑やかになりましたね。シラタマ王の子供と聞きましたが、変わった見た目でしたね」


 皇太子殿下は、わしの子供を見るたびに二度見していたと玉藻が教えてくれたので、その質問に答えてあげる。


「妻や側室が多いからにゃ。お母さん寄りの子もいるわけにゃ」

「キツネやタヌキとの子供ですか……」

「リスとの子供もいるんにゃよ~? あと、オニヒメの子供は孫だから、またかわいいんにゃ~」

「それは賑やかになるはずです」

「まぁ聞きたいことは多々あるだろうけど、この14年をまとめた物を用意したから、あとでこれを読んでくれにゃ」


 積もる話をしていると時間がもったいないので、猫王様シリーズの新刊、わしの日記の写しとまとめた物、目玉の数冊の本、第三世界で手に入れた技術でパクれた物のリストも渡しておく。


「それで~……わしたちが帰ったあと、どうなったにゃ?」

「それはもう、荒れに荒れましたよ」


 皇太子殿下はすぐにでも読みたそうだったけど、わしが質問したら、愚痴がすんごい。


 その愚痴は、まずは日本のこと。やる気のなさが露見した与党は批判をかわそうと内閣改造をしたらしいけど、全員老人を選んだから、さらに批判の声は高まったらしい……アホなのか?

 なので起死回生の解散総選挙をしたが、無所属で出馬しようとした若者が多数いて、これなら新党を作れるとSNSで呼び掛け、党首不在の白猫党とかいう変な党に全員集まったそうだ。


 その戦略は、子供落とし。学校の近くで演説して、お父さんお母さん、お爺ちゃんお婆ちゃんを説得してくれとお願い。プラス、若者にはSNSで呼び掛けたら、浮動票を全てかっさらったとのこと。

 結果、圧倒的大多数で、白猫党の勝利。そして老人共が戻って来れないように給料と選挙制度から手を付け、政治家の使うお金は全てデジタル化、政党助成金の廃止や没収、同じ選挙区からの出馬は禁止、選挙ポスターも全てデジタル化にした。

 いわゆる、カバン、地盤、看板を封じたわけだ。


 そして緊縮財政をやめ、消費税を3年間ゼロ。出産した人には、1人目は二百万円、2人目は五百万円、3人目以降は一千万円を払う。さらに、子供に掛かる費用は全てタダ。教師を免許有る無しに関わらず、大量に雇った。

 その財源は、全て日銀が刷ったお金。さすがにその政策は少なからず残っていた老人や財務省から批判されたらしいが、1年目からベビーブームと税収爆上げでは、逆に追い詰められることになったそうだ。


「にゃはは。スピーディーに凄い決断したにゃ~」

「ええ。私もヒヤヒヤして見ていましたが、これまでがおかしかったと実感しました」


 2年目からは、さらにやりたい放題。税金を全て見直し、財務省は歳入省と歳出省に分けて力を削ぐ。そして省庁や独立法人を全て見直して軽量化とデジタル化したら、めちゃくちゃ埋蔵金が出て来たらしい。

 これだけあれば他の税制も見直せないかと調べまくったら、わけワカメ。とりあえずわかりやすくしたら、二重、三重と掛かっている税金が多数出て来たのでさすがにキレて、責任者を裁きまくったみたいだ。


「そんにゃにあるにゃら、にゃんのために緊縮財政してたにゃ?」

「だいたいが、自分の天下り先の確保のためらしいですよ」

「そんにゃふうに見えにゃかったのに、内部はどっかの幕府みたいに腐敗しまくってたんだにゃ~」

「まったく……家康にも聞かせてやらんとな」


 こんなことがあったため、与党は爆死。野党も今まで何してたんだと国民に責められ、4年後の選挙では、衆議院にいた政治家はほとんど駆逐されたそうだ。

 しかし、こんな若い政党では外国とのやり取りが不安なので、そこは内外的に顔の広い皇室が外交なんかに力を貸しているらしい。


「にゃ? それって憲法とかは大丈夫にゃ?」

「以前なら有り得ませんでしたけど、シラタマ王のおかげで融通が利くようになりましたからね。皇室を守る部隊も新設させていただきました」


 どうやらわしが契約魔法で縛った総理がいるうちに、今まで温めていた改革を全てやったとのこと。

 といっても、皇室をまったく守ろうとしない宮内庁を外に追い出し、皇室直属の広報部隊を作って天皇陛下の御心を正確に伝えられるようにしただけらしい。

 もちろん、噓に対しては厳しく対処するようになり、週刊誌では皇室を取り上げた記事は激減したそうだ。


 天皇陛下的にはそれだけでよかったらしいが、白猫党がもう少し仕事をセーブしてはどうかと声を掛け、その好意に甘えて今まで宮内庁が持って来た仕事のほとんどを排除したらしい。

 そこでお礼に何かできることはないかとの話になって、白猫党は外交が弱かったから、期限付きで皇室が手伝える法案を作ってくれたそうだ。

 ちなみに宮内庁はやることがなくなったから解体され、忠義の高い者だけ皇室公報部隊に移動したらしい。


「へ~。長い間にゃにも変わらなかった日本が、たった14年でガラッと変わったんだにゃ~」

「ええ。いまや、バブル期なんて目じゃないほどの好景気となって、国民に笑顔が戻りました。これもそれもシラタマ王のおかげです。国民や天皇陛下に成り代わり、感謝を述べさせていただきます」

「やめてくれにゃ。わしはきっかけを与えたにすぎないにゃ。全て日本国民の底力の為せるわざにゃんだからにゃ~。それより、世界はどうなったにゃ?」


 どちらかというと、わしのやったことはやらかした感が強いので、皇太子殿下の感謝は押し返し、世界情勢の話を聞くのであった……

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