猫歴28年その3にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。インホワの初彼女の件は、おちょくりすぎた。


 というわけで、母親たちから逃げ出したインホワがキャットタワーの屋上から飛び下りてしまったから、わしも紐無しバンジージャンプ。インホワを抱き締めると空気を蹴って、内壁の外まで運んでやった。


「やってくれたにゃ~~~!!」


 そこでは、インホワはケンカ腰。いや、殴り掛かって来たから、わしはその拳を肉球で受け止め続ける。そうしてインホワの気が済むまで殴らせたら……


「ゼェーゼェー……一発ぐらい殴らせろにゃ!! ゼェーゼェー……」


 一発も当たらないままインホワが倒れたら、わしは飲み物を渡して隣に座る。


「さっきはすまなかったにゃ。嬉しくって、調子に乗りすぎちゃったにゃ」


 わしが素直に謝ると、インホワも許してくれ……


「一生恨むにゃ……」


 ない。なので、土下座して謝った。


「さってと。そろそろ行こうにゃ」


 インホワは許してくれなかったけど、わしが立ち上がるとインホワも続く。


「行くってどこににゃ?」

「こういう時は、酒にゃ。サシで飲んだことなかったにゃろ? 本当は息子に奢って欲しかったけど、迷惑かけたからわしが奢ってやるにゃ~」

「父親にゃんだから当然にゃ!」


 インホワはまだケンカ腰だが、わしの後ろについて来てくれたので、2人で場末の酒場に駆け込んだのであった。



 場末の酒場では、王様と王子の登場に一瞬時が止まったけど、わしはたまに1人で来ていたので、すぐに雑踏が戻った。その声を聞いたら「どっちが王様?」とか言っていたから、見分けがつかないらしい。

 なので、薄緑色の着流しがインホワと紹介しながら進み、一番奥の席に着いたら適当に注文。やや量は多いけど、酒が並んだら乾杯して飲み始める。


「プハ~! うまいにゃろ?」

「まぁ……これって、日本で買って来たビールにゃ?」

「うんにゃ。でも、パクった物にゃから、やや劣るかにゃ?」

「こんな所でも売ってたんにゃ……」

「そりゃ、うちで独占していたらもったいないにゃろ~」


 堂々とパクったとか言っているけど、ビール製造はけっこう苦労した物。特に値段を下げるのには時間が掛かったが、いまでは庶民のお酒として広く親しまれている。

 その苦労話を焼き鳥をつまみにして喋っていたら、インホワもいつもの感じになったので本題に入る。


「それで……彼女について相談があるんにゃろ? 結婚するとかかにゃ~??」


 わしは予想で話をしてみたら、インホワは首を横に振った。


「いや、結婚する気ないにゃ」

「にゃ~? その子のこと、好きじゃないにゃ??」

「嫌いじゃにゃいけど、流れで……」


 どうやらインホワの彼女は、小中学校でずっと一緒だったウサギ族の女子。まったく恋愛に興味がなかった時に4回も告白されて全て断ったらしいが、最近久し振りに会ってお酒を飲んだら、なんか盛り上がったらしい。


「そういえば……インホワが帰って来ないとメイバイが騒いでたことがあったにゃ~。その日は深夜に帰って来たんにゃっけ?」

「うんにゃ。気付いたら彼女の家で裸で寝てたから、慌てて帰ったんにゃ。でも、まったく記憶がなくて……責任取れって言われたから付き合うことにしたんにゃ」

「それは~……わしに相談するわけだにゃ」


 このウサギ彼女、わしの感性から言ったら、けっこうヤバイ子ちゃん。美人局つつもたせじゃないだけマシ。ストーカーの可能性が高い。


「もう一度聞くけど、好きにゃの?」

「始まりはよくわからないけど、尽くしてくれるから最近好きになりつつあるみたいにゃ?」

「にゃるほど~」


 ウサギ彼女の策略にかなり嵌まっているみたいだけど、インホワが惹かれつつあるみたいだから、よけいなことは言わない。


「ま、それにゃら、もう少し様子を見たらいいにゃ。もし別れたとしても、それは経験だからにゃ。でも、大事にするんにゃよ~?」

「わかってるにゃ~」


 いいアドバイスをしたのだから、インホワもわしに尊敬した目を向けてくれたので、追い足し。


「あと、大事にしすぎると別れ話の時に、刺されたり自殺するとか言われるから、その点にも注意だにゃ。できてもいないのに子供ができたと言われるかもにゃ~」

「怖いこと言うにゃよ~」


 けど、饒舌じょうぜつになりすぎたので、よけいなことを言ってインホワを怖がらせてしまうわしであった。



 それから酒の回ったインホワからウサギ彼女のいいところや怖いところを聞いてあげたら、ほどほどの時間で帰宅。千鳥足のインホワに肩を貸して家に帰ると、エレベーターの前にはメイバイ筆頭にお母さんが揃っていた。


「「にゃ、にゃんですか??」」


 その物々しい雰囲気に、わしだけでなくインホワまで敬語になっている。


「明日、彼女を連れて来るニャー!」

「「「「「そうにゃそうにゃ!」」」」」


 メイバイたちの手がワキュワキュしているということは、ウサギ彼女をモフモフしたいだけっぽい。その圧はけっこう強いので、インホワもわしの後ろに隠れてしまった。


「いや、そっとしておいてあげようにゃ~」

「シラタマ殿は、どっちの味方ニャー!」

「メイバイたちですにゃ!」

「オヤジ! 俺の味方になったんじゃなかったにゃ!?」

「わしはみんにゃの味方ですにゃ~」

「この裏切り者にゃ~~~!!」


 わしだってメイバイたちの圧には耐えられないのだから、裏切るのは当然。インホワをおとりにして、わしは速攻でお布団に潜り込んだのであったとさ。



 翌日の夜、インホワがウサギ彼女を連れて来たけど、話そっちのけで荒ぶるママたちにモフられまくって帰って行った。帰り際には泣いていたから、たぶん、もう来ないと思う……


 インホワが今後どうなるかは気になるけど、同い年の子供はもう1人いるのでそっちのほうが気になりすぎたから、面会日でもないのにわしは会いに行く。

 しかし、城の中にはシリエージョの姿はなし。さっちゃんに聞きに行ったら、勝手に城の中を歩き回るなとモフられた。それで気分が良くなったのか、シリエージョの居場所は教えてくれた。


 シリエージョがどこにいるかというと、東の国の最北部。そこの森に白い獣が出たとの報告があったらしく、調査を兼ねた軍隊の演習に参加しているらしい。

 さっちゃんからは帰って来るのを待てと言われたけど、娘がそんな危険な仕事をしているなんて放っておけない。わしはカメラをぶら下げて現場に走った。


「てにゃことがあってにゃ。インホワは別れそうなんにゃ。それで~……シリちゃんは彼氏とかいないよにゃ?」


 わしに掛かれば軍隊なんてすぐに見付かったので、凛々しく立っていたシリエージョの横でペチャクチャ喋っていた。


「パパ……」

「にゃに??」

「私、仕事中なの見てわからないの!?」

「いや、立ってるだけにゃから……」

「指揮取ってるの! 指揮官の大事な仕事なの!!」

「すいにゃせん……」


 シリエージョにめっちゃ怒鳴られたので、わしも反省。その場で腰を下ろし、演習を見ながら申し訳なさそうに声を掛ける。


「ひとつだけ聞いていいにゃ?」

「……うん」

「白い獣にゃんて本当に出たにゃ??」


 わしはこう見えてトップハンター。そんな危険な獣がいるなら、先に見付けてやろうと森の中を走り回ってからシリエージョと合流したのだ。


「パパも気付いてたんだ……」

「まぁにゃ~……シリちゃんのその反応は、ガセネタってことにゃ?」

「うん。かなり薄い筋の情報だったの」

「だから演習だったんにゃ~」

「そうなの。フェンリルが出たとか言うから、楽しみにしてたのにな~」

「フェンリルにゃら、バカさんがもう倒してるにゃ~。それにつがいか子供が出るにゃら、もっと東じゃないかにゃ~?」


 わしは昔を懐かしんでウンウン頷くが、シリエージョは知らない情報だったのかおねだりが始まった。


「いる可能性はあるんだ……今度、連れて行ってほしいな~?」

「いや、縄張りから出ないにゃら、そっとしておいてあげようにゃ~」

「だって、リンリーさんしか私の相手になる人がいないから、面白くないんだも~ん」

「今度、みんにゃ連れて来てやるにゃ~」


 シリエージョは強者と戦いたい欲求が溜まっていたようなので、おねだりは止まらない。そのせいで、上官に怒られていた。あと、わしも「親がこんな所で何してんだ」と怒られた。

 そして、シリエージョに売られた。わしに猫型・大で軍隊の相手をしろと……


「「「「「ば、化け物……」」」」」


 その結果、軍隊は壊滅的被害……


「もっと手加減しろって言ったでしょ!!」

「すいにゃせん……」


 シリエージョにいいところを見せようと頑張って……いや、ちょっと前足を振っただけで人がゴミのように飛んで行ったので、猫型・大の力加減に苦労するわしであったとさ。



 ちょっとやりすぎたせいでシリエージョから攻撃を禁じられたわしは、軍隊の攻撃を全部受けろとお達しが下りボコボコにされたけど、わしの防御力ではマッサージにもならない。

 それでさらに化け物度アップしたけど、シリエージョがわしを使って連携の確認をしていたから、かなりいい実践訓練になったと思う。


 でも、猫の国の王様に、東の国の軍隊が本気の攻撃をしてるってことは、これは戦争案件なのではなかろうか……



 やや納得できないことがあったけど、シリエージョが笑顔で抱き付いて来たからまぁいいや。休憩になったので、ようやくあの話ができる。


「彼氏ね~……いまのところ、いい人はいないよ」

「よっにゃ~~~!!」

「喜びすぎ。私ってモテるんだよ?」

「にゃ、にゃんだと……」

「それ、どういう顔??」


 わしの今の顔は、天国から地獄に突き落とされた顔をしていると自分では思っているけど、とぼけた顔のままだからシリエージョには伝わらず。


「ところで、どんにゃ人がタイプにゃ?」

「う~ん……強い人??」

「それ、イサベレの二の舞いににゃるのでは……」


 イサベレは自分より強い人を待っていたら100年経ってしまったので、シリエージョが結婚できるか心配だ。


「まさかまだ、パパと結婚したいとか思ってるにゃ~?」

「それはない。ないない。一度も言ったことない」

「言ってたにゃ~。レコードにも動画にも残ってるにゃ~」

「あっ! だからあの時しつこく聞いてたの!?」

「このスマホにも入ってるにゃよ~? 見るにゃ??」

「消してよ~~~!!」


 こうしてシリエージョに彼氏がいないと知ったわしは、スキップでお家に帰るのであった。けど、シリエージョに次に会った時に、キモイと言われてめちゃくちゃ傷付くわしであったとさ。

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