猫歴28年その2にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。
「「悪魔にゃ~~~」」
いちおう角は生やせるけど、サクラとインホワが言うような悪魔ではない。
「「「「あくまにゃ~~~」」」」
小さい子がマネするから悪魔って言わないで!!
衛星回線がちょっとだけ使えるようになったと知ったサクラとインホワは、もうインターネットができると早とちりしていたから「早くても10年ぐらいかかる」と言ったら、夢を砕かれたかの如くわしは恨まれたのだ。
もういい大人のクセにわしを悪魔としつこく呼ぶので、下の子にも伝染。意味もわかっていないのに、子供全員からわしは悪魔扱いされてしまった。
「悪魔にゃぞ~~~?」
「「「「にゃははははは」」」」
それを逆手に取って、子供たちと鬼ごっこ。わしの機転の良さで子供たちは笑いながら散り散りに逃げて行ったので、サクラとインホワもそれ以上言わなくなった。
そんな感じで子供たちとずっと遊んでいたいが、わしはこう見えて王様。久し振りに王様らしいかどうかわからない仕事をしたので、もうちょっと王様らしい仕事。
子育てから離れてサクラたちをしごいていたリータとメイバイを連れて猫耳市に足を運ぶ。
この猫耳市は、昔は隠れ里だったから大きな縦穴の中に町があったのだが、稼ぎ頭の加工食品を出荷するのに大型エレベーターが1基だけでは不便なので、大穴を囲むように家や工場が作られた。
それだけでは黒い森が近くにあるので防衛面で心配だから、工期短縮でわしが巨大な外壁を作らされた。だから、わしは建設作業員じゃないっちゅうの。給金も出ないって、わしは奴隷かっちゅうの。
地上では元気な猫耳族が生活を送り、猫耳カチューシャをつけた人族の商人と商談なんかをしているが、わしが用があるのは地下。リータにも猫耳カチューシャをつけさせたらエレベーターで下りる。
そんな場所に足を運んだ理由は、地下に住む帝国時代に奴隷だった者の精神的なケアのため。建国から28年も経つと、元奴隷も歳を取って認知症になる者も出て来て、地獄のような日々を思い出して叫ぶ人が現れたのだ。
数年前まではセイボクという猫耳族の長が寄り添っていたけど、他界してからはわしはできるだけ顔を出すようにしている。わしを見ると、ご先祖様と思って恐怖心が吹き飛ぶからだ。
ちなみにセイボクの最後は、わしが看取った。その時、猫耳族を救ったことを何度も感謝され、猫耳族のことを何度も頼まれたので断れるわけがない。わしの秘密も教えてあげたので、心残りなく旅立てたはずだ。
「ウンチョウ。大丈夫にゃ~?」
新族長は、元猫軍総司令官のウンチョウ。昔は強硬派のゴツイ猫耳オッサンだったけど、いまでは穏やかなゴツイ猫耳ジジイになっている。
ここ猫耳市では、市長とは別に族長を置いて心のケアをさせている。その族長であったセイボクが数年前に亡くなる時に、心に傷を負った猫耳族をウンチョウは託されたのだ。
「ええ。まだ一部の者だけですから。王のぬいぐるみも効いていますよ」
「プッ……んじゃ、はじめにゃすか」
ゴツイジジイがにこやかにぬいぐるみを抱えている姿は笑えるが、本日の猫王様回診の開始。白衣を来て、家々を回って軽く声を掛ける。リータとメイバイはナースだ。
だいたいの人はわしの顔を見ると拝み倒すので、来たくない理由のひとつ。中には人族を皆殺しにしてくれと頼む者もいるが、わしは申し訳なさそうに背中を
そうして猫耳族の心のケアが終わったら、見送ると言ってきかないウンチョウと共に地上へと戻った。
「我らが受けた苦痛はこんな物ではなかったんだぞ!」
地上では集会が行われていたので、耳を傾けてみたが聞いてられる内容ではなかった。
「にゃにアレ……子供の前で、拷問の話をしてるにゃ……」
「も、申し訳ありません。最初は気分が紛れるかと思って好きにやらせていたら、地上でもやるようになってしまって……」
「それにゃらそうと、わしに相談しろにゃ~」
「俺が不甲斐ないせいで、王の手を
「猫耳族の問題は、わしの問題にゃ。いつでも力を貸すから、1人で解決しようとするにゃ。にゃ?」
「はい……」
ウンチョウは責任感が強いので、言い方に気を付けて説得したら頷いてくれた。これで、気楽に相談してくれるだろう。
ひとまずこんな集会は子供に聞かせられないので、王族とウンチョウで解散を言い渡したら、わしは集会を開いていた片腕と片耳の無い男の前に立った。
「お前の受けた苦痛や屈辱は、正直わしにはどれほどのものかわからないにゃ。でも、恨む気持ちはわからんでもないにゃ。だけどわしは言ったよにゃ? 子供には恨みを引き継がせるにゃと」
「恨みではありません! これは歴史です! 受け継がれるべき歴史なのですから、誰かが伝えなくてはならないのです!!」
「だったらわしが受け継ぐにゃ。その苦痛も屈辱も恨みも、文字にしろにゃ。声をレコードに残せにゃ。ビデオだってあるにゃ。必ず、子供が分別のある大人になってから伝えてやるからにゃ」
「それでは心に残らない……」
わしが優しく折中案を提示しているのに、隻腕の男は歯を強く噛み締めている。
「残す必要ないんにゃ」
「いえ! 子供の頃から教育すべきです! じゃないと、あいつらが力を取り戻した時に戦えないんですよ! このまま人族が残っていたら、また猫耳族は奴隷に戻るんですよ!!」
「そう思ってるのは一部の者だけにゃ。他の町ではみんにゃ幸せに暮らしているにゃ。それに、わしが見張っているんにゃから、猫耳族が奴隷に戻る日は永遠に来ないにゃ」
「ですが! 猫王様が病で倒れたらどうするのですか!? 永遠なんてありえません!!」
「わしは簡単には死なないにゃ。いや、死んでもわしの意思が残るようにしてみせるにゃ。わしを信じてくれにゃ~」
結局この日は、隻腕の男はわしの説得には応じず、ウンチョウに怒鳴られて地下へと帰って行った。それを見ていたメイバイとリータは、心配そうにわしに近付いた。
「手間取らせてゴメンニャー」
「にゃに言ってるんにゃ。これはわしの仕事にゃろ~」
「そうですよ。メイバイさんが謝ることじゃないですよ」
「でも、あの人、シラタマ殿の話をぜんぜん聞かなかったニャ……」
「王様の威厳ないもんにゃ~」
「茶化さないでください。ありませんけど」
ちょっとボケたらリータに怒られたけど、最後の一言は傷付いた。しかし、メイバイが落ち込んでいるので、わしも落ち込んでいられない。
「まぁ、ちょくちょく顔を出して話し合っていこうにゃ。そしたら気持ちも落ち着いていくはずにゃ」
「ですね」
「うんニャー」
これからの方針を3人で立ち話していたら、10歳ぐらいの男の子が駆け寄って来た。
「猫王様~? いつ人族を皆殺しにするの~?」
その無邪気な笑顔に似つかわしくない言葉が出たので、わしたちの顔は強張った。ただ、そんな顔をしていたら男の子を怖がらせてしまうので、わしはすぐに笑顔を作る。
「ボク~? 人族もわしの愛すべき国民にゃから、犯罪者以外は裁いたりしないんにゃよ~?」
「え~。どうして~? みんなあんなにひどいことされてたのに~」
「確かにかわいそうなことをされていたにゃ。でも、酷いことした人はわしが裁いたし、いまも反省してる姿を見せてるんにゃよ?」
「う~ん……それでも長い間ひどいことしてたんだから、死んだほうがいいと思う……」
「酷いことしてない人族もいっぱい居るし、猫耳族を助けようとしていた人族もいっぱい居たんにゃから、許してあげようにゃ~」
わしだけでは男の子はぜんぜん納得してくれないので、リータとメイバイも加えて長いこと説得してみたが、男の子は話に飽きて走って行った。
「ちょっとマズイことになってますね……」
「私、あの子ともっとお話して来るニャー!」
「まぁ待てにゃ」
リータも心配して男の子の背中を見送るなか、メイバイは走り出そうとしたのでわしは止めた。
「こんにゃに早くに気付けたんにゃ。学校を使って命の大切さを解いてやったら、少なくとも皆殺しにゃんてことは言わなくなるにゃろ。それに、あの手のタイプは強硬手段を取ると反発し兼ねないしにゃ。ちょっと成り行きを見守ろうにゃ」
2人が納得したところで、ウンチョウにはさっきの子供や他の子供の発言には気を付けるように言い、後日、学校の指導要項を送ると告げて家に帰るわしたちであった。
それから数日後、トウキン教育委員長に作らせていた指導要項をわしみずから届けたら暇になったので、離れの縁側でリリスを膝に乗せてウトウトしていたら、隣にインホワが座っていたのでギョッとした。
「いつからいたにゃ??」
「はぁ~~~……」
どうやらインホワはけっこう前から座っていて、話し掛けたらわしが頷いていたから聞いているものだと思っていたみたい。だから、わしの絶妙なウトウトを知って大きなため息が出てる。
「ゴメンにゃ~。えっと……にゃんか相談ごとにゃ?」
「もういいにゃ!」
「そう言わずに聞かせてにゃ~。行かないでにゃ~」
怒って立ち去ろうとするインホワの足に絡みついて謝りまくったら、なんとか座ってくれた。リリスはおやつを与えてゲージに入れた。
「絶対にママに言うにゃよ?」
「はいにゃ~」
「絶対に絶対だからにゃ??」
「絶対にゃ~」
インホワは何度も確認するので、たいしたことではなさそうとわしは思った。
「彼女ができたんにゃ……」
「彼女にゃ!? みんにゃ~! インホワに彼女ができたってにゃ~~~!!」
「すぐ言うにゃ~~~!!」
けど、超面白い話だったので、ダッシュで言いふらしまくったら、ニヤニヤするお母さんがあっと言う間に全員集合。インホワは囲まれてしまって逃げられなくなってる。
「こ、このクソオヤジにゃ……」
「まぁまぁ。幸せはみんにゃで共有しようにゃ~」
インホワからめっちゃ睨まれたので、わしはお口チャック。ここからは実の母親のメイバイママにタッチする。
「おめでとうニャー。そんな話、したことがなかったから嬉しいニャー」
「は、恥ずかしいからにゃ!」
「恥ずかしがることじゃないニャー。それで、どんな子ニャー?」
「言うわけないにゃ~!」
インホワは照れて喋らなくなったので、わしが口を出す。
「お春……情報持ってにゃい?」
「にゃっ! インホワ君の彼女はこちらです」
「「にゃんで持ってるにゃ!?」」
ちょっとした冗談で引っ掛けようと思っただけなのに、お春が有能すぎてインホワと驚く声が重なった。
でも、お春が出した物は写真だったので、インホワもこのままでは皆に見られてしまうと先の先で奪い取ろうとした。
「わっ! かわいい子ニャー!!」
「本当ですね!」
「「「「「かわいいにゃ~」」」」」
残念ながら、メイバイの先の先のほうが速かった。メイバイから順番に次々にお母さんに回されて、インホワの彼女は全員に見られた。最後にわしの元へと回って来たので、飛び掛かるインホワは後の先で畳に押し付けた。
「う~ん……確かにかわいいんだけどにゃ~」
インホワの彼女は、ウサギ族。写真には仲睦まじい2人の手つなぎデートが映っているのだが、わしには2体のぬいぐるみが歩いているようにしか見えない。
「「「「「それで~? いつ連れて来るにゃ~??」」」」」
「もう別れるにゃ~~~!!」
目がハートのお母さん方に詰められたインホワは、泣きながらキャットタワーの屋上から飛び下りたのであったとさ。
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