猫歴26年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。狼ではないけど、子猫ちゃんでもない。


 イサベレが100年以上も務めていた東の国の騎士を引退して、娘のシリエージョに託してから燃え尽き症候群に陥っていたので、唯一の趣味っぽい夜の話をして襲ってみたら、逆にわしが襲われた。

 これでイサベレのやる気がちょっと出たので、リータたちから「毎日頑張れ!」とエールをもらってわしがフラフラになったところで、イサベレは「できちゃったかも?」とのこと。

 第三世界で買って来た妊娠検査薬を使用してみたところ反応があったから、本当みたいだ。おそらく初日の盛り上がりは凄かったから、避妊具に穴が開いてしまったのだろう。


 なので、家族会議。当事者のイサベレ。王妃のリータ、メイバイ。側室のエミリ、お春、つゆを集めたのに、ベティとノルンまで紛れ込んでいたので追い出した。


「おめでたの話の前に、イサベレの立場をハッキリしとこうかにゃ?」

「「「「「あぁ~」」」」」


 イサベレは東の国の国民だったので、わしの妻でもなければ側室でもない。今まで自称愛人ってことでごまかしていたから、皆も納得。猫の国の国民となったのだから、この際ハッキリ決めておこう。


「イサベレはどうしたいにゃ?」

「私は……なんでもいい」

「それじゃあ決まらないにゃ~」


 とりあえずイサベレに聞いてみたら、リータたちに気を遣って答えてくれない。なので、王妃のリータとメイバイに決めてもらおう。


「3番目の子供を産んだのですから……第三妃でいいんじゃないですか?」

「うんニャー。私たちと同じ時間を過ごしているから、私も賛成ニャー」


 2人がオッケーを出したからには、側室の3人も反対はしない。てか、王妃も側室も対して扱いが変わらないのだから、みんな何でもいいようだ。


「んじゃ、王妃って扱いに決定にゃ~」

「「「「「おめでとうございま~す」」」」」

「あ、ありがとう……」


 かなり雑な感じで決まったので、イサベレも珍しくたじたじ。後日、対外的にもそう宣言するとして、次はお腹の中の子供の件を話し合う。


「エルフたちから聞いた、出産のペースは守られているから体は大丈夫だろうにゃ。ただ……リータとメイバイの次の子供はどうしよっかにゃ?」


 第一妃と第二妃を差し置いて、第三妃が身籠もったのだから、この話題は避けられない。別にわしがエロイわけではない。


「私は……もうちょっとあとでいいです。イサベレさんほど切羽詰まってないので……」

「私もニャー。100年後ぐらいがちょうどいいと思うニャー」

「そんなにあとにゃ??」


 メイバイの案にリータまで頷くので、わしは信じられない。


「ほら? 私たちの寿命って長いじゃない? あまり早く産んでしまうと、すぐに亡くなった気持ちになりそうだし……」

「イサベレさんはもう100年も生きているから、いっぱい子供がほしいなら急いだほうがいいと思うニャー」

「にゃるほど……」


 寿命の話を聞いてわしも納得。推定300年も生きるなら、子供を産むペースは考えてやらないと、子供や母親の死が重なってわしが耐えられないと2人は考えてくれているのだ。


「とにゃると、エミリはいいとして、お春とつゆも考えて行かなくちゃだにゃ……いや、つゆは2人目が欲しいなら急がないと適齢期があるにゃ……10年のスパン、アレがネックだにゃ~」


 長寿の者からしたら10年はあっと言う間だろうけど、普通の寿命からしたらやってられない期間。つゆに至っては待たせてしまったから、もうすでに40歳になっているからギリギリ。いつもタヌキだから年齢がわからないのもネックだ。


「とりあえず、エルフ市で聞いて来るにゃ~」


 つゆもお春も2人目は欲しいようなのでエルフの里でアンケートを取ってみたら、10年縛りは関係なさそう。年子の人もいたから、確実だろう。

 なので、どうして10年縛りが生まれたのかと話し合ったら、ここの土地が狭いから。長寿なのに毎年子供ができたら20年もしたらあふれていただろう。

 その10年があったから、盛り上がりに欠けてプラトニックな関係に移行できたのかもしれない。もしくは、2人目のことを考える期間となり、リータたちと同じ結論に至ったのだろう。


 こうしてイサベレのおめでたから、側室の2人とも頑張るようになり、その他もなんだか盛ってしまったので、夜が大変になるわしであった……



 ここ最近、夜を頑張りすぎたわしはゲッソリ。精神的にも肉体的にも疲れたので気分を変えようと、久し振りに猫大に顔を出したらホウジツ学長までゲッソリしていた。何故かと聞くと、ここ2ヶ月大変だったとのこと。

 さっちゃんの誕生祭でやったテレビ放送がしたいと、各国から押し寄せていたんだって。わし無しでの交渉はかなり疲れたと言われても知らんがな。このためにホウジツを学長に任命したんじゃ。


「センジさんの相談役って言ってたじゃないですか!?」

「そうにゃっけ?」

「それなのに、新技術の販売ばっかりやらされて……グフッグフフ」

「わし、そこまでやれとは言ってないんにゃけど……」


 ホウジツを猫大の学長にしたのは、わしのファインプレー。ホウジツが気持ち悪い笑い方をしているということは、猫大に莫大な利益が入って来ているのだろう。


「うおっ!? 大赤字が黒字に変わってるにゃ……」

「これだけやったのですから、僕の給料上げてもいいですよね~?」

「いや、来年から、もうちょっと学生の枠を増やそうにゃ」

「まだお金を払ってまで学ばせるのですか!?」

「大学は営利団体じゃないんにゃ~」


 ホウジツにスネられると困るので、給料は20パーセントアップ。わしの寄付金もカットしないことでなんとか落ち着いた。


「それって脅しじゃ……」

「わしに脅されたくにゃかったら、センジから補助金巻き上げて来いにゃ~」

「センジさん、お金がないお金がないってずっと言ってるんですも~ん」

「……わしのほうがお金を取りやすいからにゃろ?」

「ボク、ヨクワカリマセ~ン」

「わかってるにゃろ!?」


 ホウジツは首相経験者だから、センジ首相の味方に付いているのは見え見え。かといって言いすぎるとスネそうなので、わし直々に補助金を催促してやるのであった。


「検討を加速しているところです!」

「それってどういう意味にゃ~~~」


 でも、センジに意味不明なことを言われて逃げられたのであったとさ。



 夜を頑張りすぎたせいか、忙しくしていたせいか、わしは大事なことを忘れかけていたので、慌てて時のピラミッドに転移した。

 そう。猫歴26年は、第三世界に行ってから10年が過ぎている。時のピラミッドの地下でUFOの魔力を溜めていたら、満タンになっていたのだ~~~!!


 というわけでベティとノルンを連れてUFOに入り、今度はどこに行こうかと話し合っていた。


「やっぱ火星かにゃ~? 第三世界で行くって言っちゃったしにゃ~」

「火星!? 行きたい!!」


 キャプテンベティも乗り気なので、即決定。


「でもにゃ~。エネルギーが問題だよにゃ~。短期間で行くとしたら、光速航行になるんにゃろ? 第三世界に行くのが遅れそうなんだよにゃ~」

「確かにそうね……あいつら、ちゃんとできてるかは早く見ておかないと棚上げにしそうね」


 第三世界で脅しに脅して人権侵害なんかを改善しろと言った手前、投げっ放しにするのは少し心配。権力者とは、口だけで下々の者のためには働きたくないヤツらばかりなのだから。

 なので、ここはノルン先生頼り。


「もっと安くで火星に行く方法ないかにゃ~?」

「片道に半年ぐらいかけたらそこまでエネルギー減らないから、その方法が一番いいと思うんだよ」

「往復1年も拘束されるのはにゃ~」

「さすがに飽きるわね」


 低速の案は、却下。ベティのように飽きるとかじゃなく、わしは王様だから忙しいのだ。めっきり王様の仕事なんてしてないけど……

 そのことを2人にツッコまれていたが、わしにいいアイデアが浮かんだ。


「そうにゃ。これって瞬間移動の機能も付いてにゃかった?」

「あるんだよ。でも、一度行ったところか、正確な座標が必要なんだよ」

「それはお高いにゃ~??」

「極超音速で長距離移動するよりは、かなりエネルギーの消費は少ないんだよ」

「おお~。それはいいにゃ~」


 わしが嬉しそうにウンウン頷いていると、ベティが意見する。


「それができたところで、火星には行ったことないんだから結局一緒じゃない」

「ベティは頭が固いにゃ~」

「頭が固い??」

「わしたちは行ったことにゃいけど、このUFOをここに誰が運んだにゃ?」

「それは時の賢者……じゃない!? 神様!!」

「それにゃ」


 わしはニヤリと笑うと続けて喋る。


「つまり、このUFOはどこから来て地球に到着したかは知らないけど、それなりに旅をしていたはずにゃ。行ったところに行ける機能があるにゃら、その記録がUFOの中に眠ってるんじゃないかにゃ~?」

「「おお~」」


 ベティとノルンが感嘆の声を出したところで、わしたちは手分けして調査。2人がUFOの記録をサルベージするなか、わしは初めてといっても過言じゃないマニュアル本を読んでみる。

 けど、インデックスには書いてないので、すぐに諦めた。白銀のベッドを出す呪文だけを調べ、その猫をダメにするベッドに飛び込んで、読んでいるフリをしながら熟睡する。


 そんなことしていたら、ベティにめちゃくちゃ揺すられて起こされた。タヌキ寝入りがバレたから……誰がタヌキじゃ! 意味も真逆じゃろ!!


「ふにゃ~。にゃんか見付かったにゃ?」

「いちおう見付かったんだけどね~……めっちゃ古いの」

「古くても使える……いや、宇宙は常に広がっているから、天体の位置も変わっているんにゃ……」

「アホそうな顔なのに、なんですぐわかるんだよ。名探偵のノルンちゃんがズバッと解決したかったんだよ~」


 たぶん月や太陽の距離が違うからノルンも気付いたのだろう。それぐらいならわしにだってわかるんだから、馬鹿にされても反論してやらない。


「でも、そこには飛べるんにゃろ?」

「飛べるけど、ブラックホールでもあったら大変なんだよ」

「だったら、座標を少しイジればいいだけじゃにゃい??」

「う~ん……どれだけ修正したらいいかわからないんだよ~」

「そこは、大学の出番にゃ。宇宙の本もあるし、数字に強いヤツに計算させたらいいにゃ~」

「ホント、シラタマはアホ面なのに、よくそんなにポンポン思い付くんだよ」

「顔は関係ないにゃろ~」


 さすがに2度目は許せないので「にゃ~にゃ~」文句。でも、ベティに「早く火星に行きた~い」と揺さ振られたので、UFOを持って猫の国に帰るのであった。



 3人で大学に顔を出して、ホウジツ学長に天文学や数学を学んでいる学生のことを聞いてみたけど、そんなヤツはいないとのこと。本当かと強く聞いてみたら、ホウジツは商売関連の学生ぐらいしか把握してなかった……


「シラタマ君も似たようなもんでしょ」

「元学長で現理事長なんだから、ホウジツだけに罪をなすり付けるのは違うんだよ」


 わしが激怒してたらベティとノルンに痛いところを突かれたので、ホウジツには「怒ってゴメンね」と謝って、金一封を渡して名簿を作るようにお願いしておいた。タダではやらないって顔に書いてあったんじゃもん。


 当ては外れてしまったのでは、自分で探すしかない。まぁ大学生は自分のやりたい分野のコーナーで本を山積みしているのだから、地下図書館のインデックスを確認して探してみたらすぐに見付かった。

 そして斯く斯く云々と適当に説明したら、めっちゃ食い付かれた。ただし、今現在の猫の国にはパラボラアンテナすらないから、計算するにもそこから。

 いま研究中の人工衛星開発部に移動したら、こっちでも興奮した技術者に絡まれた。人工衛星が完成したから打ち上げたいんだって。なんだったら、パラボラアンテナもすでにできてた。


 それはちょうどよかったと、大学の庭で実験。パラボラアンテナで月の距離を計測したり、火星や太陽も調べ、そのデータを書物とUFOの座標と照らし合わせる。

 その結果、UFOは1億年以上前に動いていた物と判明。大学生や技術者たちと酒を酌み交わしてロマンを語りたかったのに、わしはベティにUFOの中に連れ込まれた。


「にゃに~? ベティもロマン好きにゃろ~?」

「それはそうだけど、こっちのほうが面白いわよ」

「いくんだよ~? ポチッとにゃだよ~!」

「うっにゃ~~~……」


 ノルンがどこから出したかもわからないボタンを押したら、UFOの中には宇宙空間が広がったのだからわしも感動物。大学生たちにも見せてあげたいが、UFOには選ばれた者しか乗れないと言ってしまったから連れ込めない。


「これって今の太陽系だよにゃ?」

「うんだよ。月、太陽、地球、火星の位置がわかったから、残りは自動で修正されたんだよ」

「さっすがは神々の乗り物だにゃ~。いや、ノルンちゃん様々にゃ~」

「もっと褒めるんだよ~」

「「よっ! ノルンちゃん大明神にゃ~」」


 移動問題が解決したのだから、わしとベティはノルンをベタ褒め。でも、頑張ってくれたのは大学生たちだと思い出し、早くもやめたらめっちゃうっとうしくなるノルンであった。

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