猫歴25年その1にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。ワンヂェンの婚活なんてしらんがな。
「シラタマ~。ちょっとお金貸してくんにゃい?」
「にゃんで~?」
「彼氏にいい剣をプレゼントするんにゃ~」
「それ……結婚詐欺とかじゃにゃいの??」
「そんにゃわけないにゃ~。ウチが応援して、トップハンターにしてあげてるんにゃ~」
やっぱり知らないなんて言ってらんない。
ワンヂェンはやっと来た春に浮かれて20歳も下のイケメンに貢いでいたので、わしが出張ることになった。
しかしワンヂェンはわしの話を聞こうとしないので、お春にそのイケメンを調べさせたら、かなりヤバイ奴。猫市に来る前はソウ市で何人もの女を泣かせ、お金をむしり取っていたのだ。
「ワ、ワンヂェンさん……残念にゃお知らせがありにゃす……」
「にゃに~?」
「彼氏さん、詐欺罪で鉱山送りになりましたにゃ~」
「にゃ……サ、ギ……」
「被害届を出したらお金は戻って来ると思うんにゃけど、被害者が多いから、たぶん少ない額の分割に……」
「ウチ、貯金全部取られたにゃ~~~!!」
「だから詐欺を疑えって言ったんにゃ~」
「明日にはトイチの利息もあるんにゃ……ジラダマ~。お金貸じでぐれにゃ~」
「どこから借りたにゃ!?」
号泣するワンヂェンが絵に描いたような転落人生を送っているのでさらに調査したら、イケメンが紹介したという武器屋と金貸しもグル。なのでそいつらもしょっ引いて、ひとまず被害者の資産を半分は取り返したわしであった。
「男は女の敵にゃ……男は女の敵にゃ……」
「たまたま変にゃヤツに当たっただけにゃ。少女漫画でも読んで元気出せにゃ~」
男に恨みを持つようになったワンヂェンであったとさ。
ワンヂェンが結婚詐欺にあうトラブルはあったが、少女漫画のおかげで気持ちも持ち直して来たのは置いておいて、猫パーティの活動頻度はいつも通りなのでサクラたちがうるさい。
その声を逃げたり訓練であしらったりしてかわし、各種研究結果を見て回っていたら、あっという間に月日が経ち、年末年始の女王誕生祭となった。
猫歴25年の目玉は、なんと言っても初さっちゃん!
『え~。ただいま猫の国からリアルタイムで放送中にゃ~。では、新女王のサンドリーヌ様にマイクを渡すにゃ~。リポーターの猫でしたにゃ~』
『皆の者、ただいま紹介にあずかったサンドリーヌだ。てか、凄いでしょ! 本当に猫の国にいるのよ!! あのウサギの建物、見たことある人いるでしょ!?』
『興奮しすぎにゃ~~~』
を、掻き消してしまい兼ねない、テレビ放送事業だ。東の国の町に各3個、王都に30個ほど、猫の国にも置かれた街頭テレビからは、わしとさっちゃんのグダグダなやり取りが流れている。
個人的には女王誕生祭が霞みそうだから出すつもりはなかったのだが、やっとこさ完成した物を隠しているのはもったいないので、猫の国で街頭テレビを始めたら、さっちゃんが「やりた~~~い!」ってなって、大変だったのだ。
ちなみにうちでは国家プロジェクトなので、センジ首相もなんとかお金を出してくれた。もちろん初めての放送は、わしのドアップの映像だ。
ただ、猫の国産テレビはまだまだ高いし放送頻度も低いので、お金持ちも様子を見ているから、町が買い取って広場で朝夕の2時間程度の放送しかしていない。
内容は、朝はニュース。夜は映画を流したり、猫パーティが各地をリポートしたり狩りをする録画を見せたりとバラエティーに富んでいる。てか、わしたちはテレビクルーじゃないっちゅうの。
ユーラシア大陸にある猫の国の領土は電波塔を使ってリアルタイムで流せるが、エルフ市やウサギ市なんかは電波が届かないので、全て録画。そのうち独自の放送をやるのではないかと思っている。
この電波はエベレストのせいで東の国に届かないので、キャットトンネルに長いケーブルを埋めて東の町の電波塔と繋げ、その他の電波塔を経由して、東の国全土に届くようにした。たぶん数秒の遅れは出るだろう。
この大工事にわしも駆り出され、子供たちに王様の仕事じゃないとバカにされた。ハンターも王様の仕事じゃないっちゅうの。
という苦労をして、本日、東の国全土にお届けしているのだ。
何故、猫の国からの初放送かというと、距離。さっちゃんがどうしても国民を驚かせたいと発案しやがったから。
キャットタワーの屋上から放送して驚かし、30分ほどのインターバルを置いて、三ツ鳥居を通って東の国に移動したら、お城で放送の再開だ。
『は~い。新女王ですよ~? 他の町の人も見えてる~??』
『さっちゃん。いや、女王様。そろそろ凜とした態度に変えるにゃ~』
『あっ! しまった……てのは冗談で、このテレビがあれば、各地でも私の姿、誕生祭を楽しめるもいうわけだ。王都に来れない者も、少しでも雰囲気が楽しめれば幸いだ』
『以上、新女王、並びに猫のテレビレポートでしたにゃ~。バイバイにゃ~ん』
ひとまずわしが締めたら、さっちゃんに説教。
「さっちゃんは女王様にゃんだから、ハメを外しちゃダメにゃ~」
「だって~。テンション上がっちゃったんだも~ん。てか、それを言ったらシラタマちゃんだって王様なのに、猫ってなに? 自分だけ立場を変えるなんてズルくな~い??」
「わしは見たまんまを言っただけにゃ~」
「それがズルイって言ってんのよ!」
「ヒゲを引っ張るにゃ~!」
説教からケンカに発展すると、東の国のテレビクルーがわしたちを止める。
「あの~……これってどうやって放送を止めたらいいのでしょうか? スイッチを押しても何も反応しないのですけど……」
「「にゃんですと!?」」
いや、カメラが故障していたらしく、わしたちのケンカはダダ漏れ。放送事故になっていた。
「仲良しだもんにゃ~?」
「そうだにゃ~?」
「さっちゃんは次の予定に移動にゃ~~~!」
「にゃ~~~!!」
なので、仲良しアピールしてから、さっちゃんを逃がすわしであったとさ。
テレビクルーにはテレビ局に放送を切るように連絡させ、わしはカメラのコンセントを抜いてから、設計図を見ながら修理。こんな短期間で壊れるとは説教案件だ。
ひとまず応急処置程度には治ったので、しばらくわしはテレビクルーに付き合い、出し物を見ているさっちゃんと共に回る。
「シラタマちゃんも大変ね~」
「まったくにゃ~。技術スタッフも派遣しとけばよかったにゃ~」
「また王様から離れて行ってるけど大丈夫?」
「いま放送中にゃんだから、言わないでくれにゃい?」
さっちゃんに変なことを言われると、わしのことが変に伝わりそうで怖い。今日わしが技術スタッフをしているのは、猫の国が不良品を売ったとか思われたくないだけだ。
明日になったら新品のカメラも技術スタッフも届くんだから、わしをこき使わないでくださ~い!!
わざとわしのことをイロイロな職業名で呼ぶさっちゃんにこき使われて、誕生祭1日目は終わるのであった……
2日目からは、予定通り子供たちと一緒に誕生祭を楽しむのだが、すれ違う人に指差されて笑われるので、恥ずかしい。
「オヤジのせいにゃ……」
「パパ! もっと王様らしくできにゃいの!!」
「すいにゃせん……」
恥ずかしいのは子供のほう。インホワには睨まれ、サクラには怒鳴られたので平謝り。だってわしにそっくりだから被害が行くんだもん。
こうなってはぬいぐるみに擬態するしかない。わしたちモフモフ組は、ママたちに抱っこされて誕生祭を
今回の誕生祭は、新女王、テレビ放送だけが目玉ではない。後半にある騎士とハンターの模擬戦も目玉のひとつだ。
その前座で、わしの子供のサクラとインホワとシリエージョがパーティを組んで、コリスと戦っている。
「わぁ~。シラタマちゃんの子供、すっごくモフモフね~」
「そこはすっごく強いじゃにゃいの?」
この催しには、猫の国が全面的に協力しているので、わしはさっちゃんと同じ観覧席から試合を見ているのだけど、さっちゃんはどこ見てるんじゃ……
「ちなみにだけど、シリエージョちゃんはどれぐらいの実力なの? コリスちゃんにも引けを取ってないわよ??」
「あ、ちゃんと見てたんにゃ……」
「さっきのは冗談に決まってるでしょ」
「コリスはまだまだ手加減してるから、さっちゃんの目にも辛うじて見えてるんにゃ。んで、実力的に言ったら3人とも、出会った頃のイサベレよりは軽く強いにゃ~」
「あの頃のイサベレより、か……」
「いまが強すぎるんにゃ。イサベレにゃんか、5倍は強くなってるんにゃよ? みんにゃ、にゃにを目指してるんだか……」
「そっか。この25年で、何もかも変わって行くのね……」
さっちゃんは遠い目をしてわしの愚痴を聞いてくれないので、わしも試合に目を移す。ただし、コリスが強すぎて子供たちの本気の攻撃はまったく通じていないので、観客も一望。
白い獣の戦いが見れて嬉しそうな人、怖がる人、白猫2人をキャーキャー言って見てる人、猫が分身して見えるとか言ってる酔っ払い、イサベレ譲りの美貌と戦闘方法を受け継ぐシリエージョを称える人々。ここでは様々な声が弾けている。
だが、相手が悪い。インホワが倒れると、コリスはここまでと察して、瞬く間に残りの2人を捕まえてモフモフホールド。3人ともコリスのモフモフに埋もれて決着となるのであった。
「「「強すぎるにゃ~」」」
「にゃはは。いい試合だったにゃ~。にゃ?」
「うん! みんな強い! 自信もって!!」
子供たちが半ベソで帰って来たので、わしとコリスでヨイショ。実際問題、コリス相手に試合に見えたのだからかなりの進歩だ。いつ尻尾ベチコーンッが飛んで来てもおかしくないもん。
そうして「にゃ~にゃ~」やっていたら、オオトリの時間。空中を駆ける人物が目に入ったら、わしも空を駆けて闘技場に同時に着地した。
「これより、伝説卿イサベレ様の引退試合を執り行う!!」
「「「「「ええぇぇ~~~……」」」」」
騎士のプログラム発表に場は騒然。前もって発表していたことなのに、皆は信じたくないみたいだ。
この騎士は、これまで100年以上ものイサベレの偉業を語っているので、わしは空を見上げているイサベレの
「いま、にゃにを考えているにゃ?」
「ん……思い出が多くて、偉業が思い出せないなと……」
「にゃはは。100年だもんにゃ~。わしのように毎日日記を付けてないから悪いんにゃ」
「ん。それは悔やまれる。でも、覚えてくれている人がいる」
「それはよかったにゃ~。みんにゃに愛されている証拠にゃ~」
「ん。東の国に生まれてよかった……」
ちょっとしんみりして来たので、楽しい思い出を聞いていたら、ついに試合の時間となった。
「最後の相手、宜しく」
「花を持たそうかにゃ?」
「そんなことしたら、一生恨む」
「ま、わしは受けるしかできないけどにゃ。イサベレの全力、全て受け止めてやるにゃ~!」
「行くっ!!」
イサベレの一撃目は、ただ真っ直ぐ突っ込んでの斬り付け。レイピアと刀がぶつかっただけで、辺りに衝撃波が発生する。そこから戦闘は一気に激しさを増し、魔法や石が観客席に向かう。
しかし、この現場は猫パーティの仕切りだ。四方に【光盾】の魔道具を複数持ったリータ、メイバイ、コリス、ベティを配置しているから、チリひとつ通さず安全に運営されている。
観客は速すぎて見えない場合のほうが多いだろうが、そんなモノ知ったこっちゃない。子供たちはレベル違いの試合を、歯を強く噛み締めて見ていることだろう。
そんな人智を超えた戦闘の中心にいるイサベレは、わしに攻撃が一切通じないのに笑顔だ。しかし体力が無くなって来ると目に涙が浮かぶ。
この試合が東の国に仕えて最後となるから、終わるのが寂しいのだろう。
しかしながら、イサベレの体力は無限ではない。長く打ち合うと観客に見える速度しか出なくなり、しまいにはフラフラになり、騎士でも簡単に受けられるような剣しか振れなくなった。
その力無き剣を、わしは前に出てイサベレごと受け止める。
「辞めたくないにゃら、無理して辞めなくていいんにゃよ?」
「うっうぅぅ……娘が、女王様が、みんなが用意してくれた道だから~~~」
「戻りたくなったら、いつでもさっちゃんに口きいてやるからにゃ。今日はここで終わろうにゃ。にゃ?」
「うぅぅ、うわ~~~……」
100年以上も東の国を守り続けたイサベレは、わしの胸の中で号泣す。
こうしてイサベレの引退試合は、見ていた観客全ての涙を誘い、東の国全土が涙に濡れた最後となるのであった……
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