猫歴24年にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。泣いてもいい日はあると思う。
オニヒメが出産で死にかけたがなんとか命は繋ぎ止め、子供も健康に産まれて来てくれたので、その場にいた者は大号泣。若干、別れの言葉を残していたオニヒメは照れくさそうだが、赤ちゃんが笑い出したらどうでもよくなっていた。
オニヒメの子供は男の子。オニタと命名。もしもの時はコリスに名前を伝えていたらしいが、出番はなかった。
髪の色は白、額から親指大の角らしき物が1本生えている。おそらく、成長するに連れて、お母さん譲りの立派な角になるはずだ。
オニヒメはというと、出産の影響で髪の毛が真っ黒になってしまった。
数日経っても戻る気配も根本も黒いままだったので、さっちゃんに事情を説明してイサベレに駆け付けてもらったら、イサベレの母親も出産後、徐々に髪の毛は黒くなって、しまいには真っ黒になったそうだ。
このことから、わしたちにまた不安がのし掛かる。このままでは、オニタの10歳の誕生日にオニヒメは死んでしまうのではないかと……
かといって、不安を
「もう一回でも二回でも、わしが寿命を延ばしてやるにゃ~。にゃははは」
「もう! アレ、生き残った人はすっごく恥ずかしいんだからね!! あははは」
わしは諦めない男。いや、猫。普通に接するだけでなく、それをネタにしてオニヒメと笑い合うのであった。
オニヒメはこのままソウの地下で1ヶ月の静養に入るので、わしたちもお泊まり。オニヒメの吸収魔法が解けたら心配なので、夜はしばらく寝ずの番だ。
そんななか、オニヒメがセンエンの存在を思い出し、誰か連絡したのかと質問されたが、全員ハテナ顔。わしはてっきりワンヂェンかコリスがやっている物だと思っていたけど、大変だったから忘れてたんだって。
というわけで、リータとメイバイを猫市に走らせ、センエンを呼ぶついでに王族全員を連れて来てもらった。
出産から3日遅れで、センエンはオニタとご対面。めっちゃ泣いていたし怒っていたから、オニヒメとオニタのことを心配していたのは伝わった。だから、ワンヂェンの伝達ミスじゃと言っておろう……
わしが意地悪したと思い込んでいるセンエンは置いておいて、皆にも無事産まれたと報告。オニヒメの体調についてはごまかして伝えたが、大人は勘繰っていたのできちんと説明しておいた。
子供たちとは1週間近くも会っていなかったので、わしは過度なスキンシップ。小学生グループは喜んでくれたけど、社会人グループはてんで喜んでくれない。そりゃそうか。
とりあえずしばらくわしは動けないので、猫パーティは活動休止になるから、ここで訓練するしかない。でも、狩りには行きたいみたいなので、無理しない程度なら許可する。
まぁ猫の国周辺なら、そこまで危険な獣はいないからな。
オニヒメの出産から1ヶ月が経ったが、オニヒメの体調は一向によくならない。魔法じたいは眠っていても切れない程度にはなったけど、筋力が全盛期と比べられないほど落ちている。
まだ心配なのでもう1ヶ月静養日を延ばしたら、体調は戻ったらしいが筋力は一般人並み。魔法も常時ふたつも発動しているので、攻撃魔法が使えなくなってしまった。
「私の冒険はここまでだね。子育てに専念するよ」
猫パーティ、初の脱退者はオニヒメ。少し寂しそうな顔でそう告げた。
「うんにゃ。今までお疲れ様にゃ。でも、綺麗なところを見付けたら、オニタと一緒に連れて行ってやるからにゃ~」
「パパ……ありがとう……うぅぅ……」
「にゃに泣いてるんにゃ。パーティから脱退しても、オニヒメはずっとわしたちの子供なんだからにゃ~」
涙するオニヒメを、わしとリータとメイバイとコリスは抱きしめ、これまでの冒険の思い出を語り続けるのであった……
オニヒメのおめでたでここ2ヶ月はパーティ活動が疎かになってしまったが、狩りに行かないことにはオニヒメが自分のせいだと言い兼ねないし、子供たちのレベリングはとっくに終わっているので行かないわけにはいかない。
「お~。ヨチヨチ。ジイジにゃよ~?」
「パパ……狩りは??」
しかし、この世界での初孫もかわいすぎる。なので、しょっちゅうオニタの相手をしているので、オニヒメに冷たい目で見られてしまった。
「あ~! いたにゃ!!」
「オヤジ! 狩りに連れて行けにゃ~!!」
「こりゃマズイにゃ。オニタ~。またあとでにゃ~?」
その現場をサクラとインホワに見られてしまったので、わしはダッシュで逃走。夜まで身を隠す。
何故、わしが2人と鬼ごっこしているかと言うと、猫パーティの活動頻度ってめっちゃ少ないから。週1でやっていた狩りを週2に増やしてやったのに、2人は足りないとかうるさいのだ。
ボランティア活動を入れたら週3回もやってるんだからと説得しても、聞き入れられず。ボランティアはハンターの仕事じゃないんだって。わしだって知ってる。
2人は血気盛んなお年頃なので、どうしても強い獣と戦いたいらしく、わしを見付けたら「にゃ~にゃ~」お願いして来るので逃げ回っているというわけだ。
「ワンヂェンおばちゃん。パパ来なかったにゃ~?」
「シラタマにゃ? 見てないにゃ~……てか、お姉ちゃんって呼んでにゃ~」
「どこ行ったにゃ~~~!!」
「インホワ! 院内で大声出すにゃ~! 走ってもダメにゃ~!!」
「「はいにゃ~」」
サクラとインホワは、治療院で働いていたワンヂェンにわしのことを質問して怒らせる。いちおう悪いとは思ったのか、2人は競歩で去って行ったけど、そのスピードは100メートル走レベルだ。
「にゃったく……」
ワンヂェンは呆れ顔でイスに深く腰掛け、カルテに目を通す。
「2人が迷惑掛けて悪かったにゃ~」
「にゃっ!?」
「にゃんで驚くにゃ~」
そこにわしが声を掛けたら、ワンヂェンは毛が逆立つぐらい驚くので少し悲しい。
「どこから入って来たにゃ~」
「普通に扉からにゃけど」
「そうっと入るにゃよ~」
「大きな音を出したらサクラたちにバレるにゃろ~」
わしたちが迷惑を掛けてしまったので、ワンヂェンにはお茶とお菓子でお詫び。わしもしばらくここでまったりだ。
「2人が捜していたけど、こんにゃにゆっくりしていていいにゃ?」
「一度捜した場所にゃから、しばらくは大丈夫にゃろ」
「ひっどい親だにゃ~」
「めちゃくちゃいい親にゃ~」
「子供が一緒に仕事しようと誘っているのに、逃げてるのににゃ?」
「うっ!?」
今世では子育てを頑張って来たからいい親だと思っていたけど、ワンヂェンに言葉にされたらめっちゃ突き刺さる。しかし、わしはいくつもの職業を兼任しているから、ハンターばかりやってられないのだ~!
「他も丸投げじゃにゃい??」
「ぎゃふん!」
言い訳してみても、ワンヂェンに一言で論破されてしまうわしであったとさ。
「てか、くだまくにゃら他でやってくんにゃい? 邪魔にゃ~」
ワンヂェンに論破されたわしがグチグチやっていたら邪険に扱われたので、何か仕返ししてやりたい。
「ところでワンヂェンって、わしと出会った頃、18、9だったよにゃ?」
わしがワンヂェンの年齢に触れると、ワンヂェンはゆ~~~っくりと振り返った。
「にゃ、にゃに? そ、それがどうしたにゃ??」
「いまって、猫歴24年にゃろ? 足したら……」
「足すにゃ! 引くもんにゃ! ウチは永遠の
「引いても二十歳にはならないにゃ~」
このワンヂェン、背丈も1メートルちょっとしかない黒猫なので年齢が謎だったのだが、簡単な足し算をしてみたら立派なおばさんになっていたから、さすがにわしも引いた。
「にゃにその顔!? 笑ってくれにゃ~。大笑いしてくれにゃ~。にゃあにゃあ??」
「う、うんにゃ。にゃしゃしゃしゃ……」
「同情するにゃら聞くにゃよ~~~」
頑張って笑おうとしたわしであったが、上手く笑えなかったので、ワンヂェンは益々落ち込んで行くのであったとさ。
「冗談はさておきにゃ……」
冗談にもならない事態だけど、わしも聞いておかないといけないことがあるので質問してみる。
「ワンヂェンは結婚とか子供に興味ないにゃ?」
「昔はあったんにゃけど……ほら? 結婚したらヤーイーみたいに出て行かなくちゃいけないんにゃろ? この豪華にゃ暮らしを捨てたくにゃいから、ウチは1人を取ったんにゃ~」
「……本当にゃ? お春に調べてもらうにゃよ??」
「ウソにゃ! 恋愛が
なんかウソっぽいけど詳しく聞いてみたら、猫耳族からの求婚は多かったらしいが、そもそもワンヂェンは猫耳族に巫女に祭り上げられて迷惑していたので、伴侶にしたくないとのこと。
人族から選ぼうとしていたらソウハという男からプレゼント攻撃にあい、目が怖かったから保留にしていたら、泥棒ウサギに取られたんだって。
「ソウハ……ワンヂェンも狙ってたんにゃ……」
「いきなりピタリと会いに来なくなったんにゃ~。男性不信になっても仕方ないにゃ~」
ソウハとは、猫の国初期に狩りで猫市のお腹を支えてくれた、わしが一番といってもいいぐらい頼りにしていた男。
その男がウサギ市へ移住して、わしとの結婚を
だって、2人してわしのことを元カレみたいに扱うんじゃもん。居心地悪いんじゃもん。
ちなみに2人の子供を授かっており、見た目はバニーガールとバニーボーイ。ウサギ族初の新人類の誕生となった。
もしも見た目で迫害を受けるようなら猫市に移住を薦めたけど、いまのところそんな話は聞いていないし、ウサギ市で幸せに暮らしているらしい。
「もう、猫耳族で妥協したらどうにゃ? 家ぐらいキャットタワーに用意してやるにゃ」
「いいにゃ??」
「わしとワンヂェンは親戚みたいにゃもんだしにゃ。いや、妹……姉? そんにゃ関係にゃろ??」
「ウチは妹だと思うにゃ~」
「実年齢……」
「言うにゃ!!」
こうしてワンヂェンの婚活は始まったのだが、結婚相談所で実年齢を書いてしまったせいか猫耳族からも希望者が少なく、ワンヂェンの選り好みも激しいので、全然決まらないのであった。
「ひょっとしてワンヂェンって……ワガママにゃ?」
「夢見たっていいにゃろ~」
「夢見る年齢はとうに終わってるにゃ~」
「にゃんてこと言うにゃ!?」
なかなか現実を見てくれないワンヂェンであったとさ。
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