猫歴23年その3にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。さっちゃんの女王就任は喜ばしい限りであったが、行くんじゃなかった……


 ワンヂェンから緊急連絡が入り、ソウの地下空洞にある別宅に飛び込んだわしたちが見た光景は、真っ白だった髪の毛が真っ黒になって死にそうなオニヒメの姿。

 怒鳴り込んだわしたちに気付いたワンヂェンは、ゆっくりと振り返った。


「通信魔道具で言った通りにゃ。もう、時間がないかもしれないにゃ……」

「にゃ、にゃんでこんにゃことに……」

「ちゃんと説明するから、心して聞くにゃ」

「モフモフ~。だまっててゴメンね~。グズッ……」


 ワンヂェンとコリスから語られる、オニヒメの真実。その話は、10年以上も前にさかのぼる。


 ここ猫市の始まりは子供の人口が3割も占めていたのだが、年が経つに連れて全員成長していたのだけれど、その過程で友達から成長していないとオニヒメは言われたそうだ。

 その時はあまり気にしていなかったが、2年も経てばそれは事実とわかって、コリスに相談があったらしい。しかし、コリスではどうしていいかわからないので、わしに相談しようとなった。


 いざ相談する時に、オニヒメは萎縮して何度も先延ばしにする。自分の命は、ひょっとしたら長くはないのではないかと思って……


 それからエルフ市の平均寿命を調べたり、図書館で老化について調べたりする毎日。わしたちが成長していないことに触れた時には、変身魔法でごまかせるように訓練もしていた。

 ただ、わしがオニヒメの黒い髪の毛に気付いた時には、ゾッとしたそうだ。黒い髪が白髪になるのが老化なら、逆もまたしかり。


 この頃から焦って結婚相手を決め、避妊具に穴を開けてセンエンとの子を作る……


 そこで始めてワンヂェンにカミングアウト。成長しない体、子供は残したいこと、わしたちを悲しませたくないから秘密にするようにと……


 そして今日、産気付き、子供の体では子宮口が充分に開かなかったので、第四世界初めての母子ともに命を助ける帝王切開に挑む。

 この手術じたいは上手く行ったが、赤ちゃんを取り上げた瞬間からオニヒメの髪がみるみる黒くなり、意識を失っていまに至る……



 ワンヂェンたちからの話を聞き終えたわしは歯を食いしばって問い掛ける。


「にゃにかオニヒメを助ける方法はないにゃ?」

「わからないにゃ。お婆さんも、ここまで衰弱した人を見たことがないんらしいんにゃ」

「そんにゃ……いやいや、にゃにか方法があるはずにゃ!!」


 わしは必死に考え、ダメ元で魔力視という魔法を使ったら、オニヒメのおへそ辺りから魔力が抜けていることに気付いた。


「魔力にゃ! 魔力を注ぐようにゃことができたらオニヒメは助かるはずにゃ!!」

「もしもそれができたとして、どうやって穴を塞ぐにゃ?」

「それはあとからにゃ! オニヒメ……絶対にわしが死なせないからにゃ~~~!!」


 わしはこれより、いまある手札を使いつつ、頭の中にある魔法書を調べた。


「あったにゃ! これでどうにゃ~~~!!」


 わしの魔力を両手に集め、オニヒメの胸の辺りから注ぎ込むと、オニヒメの弱々しかった呼吸が落ち着いて来た。


「「オニヒメちゃん!」」

「ヒメ! がんばって!!」


 すると、リータやメイバイ、コリスが励ましの声を張り上げ、オニヒメの顔に赤みが差して来たが、魔力視の魔道具で見ていたワンヂェンが異変に気付く。


「ダメにゃ……出る量も増えたにゃ!!」

「「「そんな……」」」

「手でもにゃんでも使って塞げにゃ~!」

「そんにゃの、もうやってるにゃ~~~!!」


 打つ手なし。わしの魔力を注ぎ込むことでなんとかオニヒメは持ち直したが、この魔力が出て行く穴を塞がないことには助かる見込みはない。

 わしたちはオニヒメの命を繋ぎながら、ありとあらゆる手段で助かる方法を探すのであった……



 それから5時間、皆に諦めのムードが漂って来た。


「シラタマさん……そんなに魔力を消費していて大丈夫なのですか?」

「シラタマ殿も心配ニャー」

「モフモフ……かわるよ?」

「わしにゃら大丈夫にゃ。それよりオニヒメにゃ。どうやったらこの穴を塞げるんにゃ……」


 リータとメイバイとコリスがわしを心配するなか、ワンヂェン違う意見を述べる。


「そのままいつまでも魔力を注ぎ続けるにゃ?」

「うんにゃ。助かる方法が見付かるまで、にゃん時間だってにゃん日だって続けてやるにゃ」

「そんにゃの、シラタマの体が持たないにゃ……」

「わしだったら大丈夫にゃ」

「無理に決まってるにゃろ! 寝ないで生きていけるわけないにゃ! もしもうたた寝にゃんかしたら、気付いたらオニヒメちゃんが死んでるかもしれないんにゃよ!!」

「だったらどうしろって言うんにゃ!!」

「シラタマは王様にゃろ! 無理してシラタマまで道連れになったらこの国はどうするんにゃ!!」

「わしは死なにゃい!!」


 ワンヂェンはわしの体を気遣って非情な決断をしているのだろうが、わしはどうしてもオニヒメを見捨てられない。その本気のケンカはしばらく続き、リータたちも口を挟めないでいた。


 そんななか、奇跡が起こった。


「ん、んん……」

「ヒメ!!」

「「オニヒメちゃん!!」」


 オニヒメが目を覚ましたのだ。


「みんな……」

「オニヒメ……」

「パパ……私、生きてるの?」

「うんにゃ。わしが絶対助けてあげるからにゃ~?」

「赤ちゃん!? 私の赤ちゃんは無事!?」

「ワンヂェン、連れて来てやってにゃ~」


 オニヒメは自分のことより我が子を血相変えて捜そうとするので、部屋の隅でエルフお婆さんに任せていた赤ちゃんをワンヂェンに連れて来させ、震える手を伸ばすオニヒメの腕の中に収める。


「男の子だったにゃ」

「私の赤ちゃん……もう、抱けないと思ってた……パパ、ありがとう……」

「にゃに言ってるんにゃ~。これから毎日、成長を見守る楽しい日々が待ってるんにゃよ~?」

「わかってるよ、パパ。私は赤ちゃんを産んだ時点で死ぬ運命なの」

「運命にゃ? そんにゃの誰が決めたにゃ? アマテラスもスサノオも、魂の管理しているだけにゃ。誰もオニヒメの命を持って行こうとしてないにゃ~」


 わしは笑顔で勇気付けようと頑張っているが、オニヒメは首を横に振る。


「自分の体のことだもの。わかってるよ。私は赤ちゃんが産まれて来てくれただけで満足なのに、パパが奇跡を起こしてくれたから抱きしめることもできた。ありがとうパパ。ありがとうママ。お姉ちゃん、変なお願いしてゴメンね。今までありがとう」

「「オニヒメちゃん……うぅぅ……」」

「ヒメ~! うわ~~~ん!!」


 オニヒメが感謝の言葉を送ると、リータとメイバイは涙を流し、コリスは大声で泣き叫ぶ。


「変にゃこと言うにゃ~。オニヒメはまだまだ生きるんにゃよ~?」

「こんな体じゃ無理だよ。パパも疲れたでしょ? もう、魔力は止めて。このまま眠らせて」

「まだにゃ! まだできることがあるはずにゃ! 絶対に死なせないからにゃ!!」

「あ、そうだ。赤ちゃんの名前、それだけ呼ばせて。オニタ……元気に育ってね。パパもママも、オニタのこと、よろしくお願いします……うぅぅ……」


 わしが涙を堪えながら止めているのに、オニヒメは別れの言葉を残すので、リータたちは大声で泣き出した。けど、わしは空気を読んでやらない。


「てか、いまのオニヒメって、魔法は使えないにゃ?」

「……え??」

「魔力が抜ける症状にゃら、わしが教えた吸収魔法で補えないかにゃ~っと……」

「「「「あっ!!」」」」


 希望、復活。他者が何をしてもダメならば、本人ならばどう?って話。なのでオニヒメに吸収魔法を使わせてみたら、抜ける量のほうが多かったのでまた違う方法を試して、夜が更けて行くのであった……



「なんか……行けそうな気がする……」


 朝方まで掛かって検証したら、お腹に気功を纏うと魔力が抜ける量がかなり減り、吸収魔法でほぼ相殺となったので、オニヒメは照れくさそうにしている。


「えっと……これからもよろしく……」

「「オニヒメちゃ~~~ん!」」

「ヒメ~~~! うわ~~~ん!!」

「よかったにゃ~~~」


 こうしてオニヒメは黒髪になったものの命は助かり、涙するリータ、メイバイ、コリスに抱き付かれ、その光景にワンヂェンも泣きながら喜ぶ。


「うぅ……にゃ~~~! にゃ~~~! にゃ~~~!!」


 当然わしは大号泣。今まで我慢した涙はせきを切ったようにあふれ、いつまでも流れ落ちるのであった……

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