猫歴21年にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。王様ではあるが父親でもあるんだから、子育てして何が悪い。


 私立猫の国大学の全貌を知ったセンジとホウジツは、わしが仕事を押し付けているとブーブーうるさいので、口封じにポータブルDVDプレイヤーを進呈。

 まさか映画館で見ていたモノがこんな小さい物で見れるなんて思ってもいなかったのか、すぐに黙った。ただし、DVDの貸し出しは1日1枚まで。リータたちみたいに引きこもりになっては困るからな。

 誰にも知られてはならないので、隠す自信がないのならば王族居住区で見てもいいと言ったら、毎日入り浸るようになった。大画面テレビのほうがいいらしい……あと、晩ごはんも美味しいらしい……


 まぁこれで2人ともやる気が上がったので、勉強に力を入れ、様々な知識を吸収してくれるのであった。

 でも、国からの猫大への補助金のお願いは、「検討する」とだけで逃げられたのであったとさ。



 年は変わり、猫歴21年にもなると、サクラとインホワも進級して中学3年生となった。ここからは本格的に将来の仕事を考えなくてはならないので、父親のわしも2人の進路が心配。

 いちおうサクラは2年生から魔法科の続投、インホワは戦闘科を続けているとは聞いていたのだが、今日はもっと突っ込んだ質問をしようと、2人をわしの仕事部屋に呼び出した。


「にゃ? 2人ともハンターになりたいにゃ??」

「「うんにゃ~」」

「にゃんでまたそんにゃ不安定な仕事にゃんか……わし的には、大学に行って様々な知識を身に付けてほしいんにゃけど……」

「魔法を極めるには、パパのパーティに入ったほうが効率がよさそうだからにゃ~」

「俺は強い敵と戦うためにオヤジのパーティに入りたいにゃ!」

「「お願いしにゃす!!」」


 2人とも決意の目で頭を下げているので、わしも悩んでしまう。悩みの原因は、100%インホワ。サクラと違って短絡的すぎるんじゃもん。


「わしのパーティは特殊でかなり危険にゃよ? それにいまの実力では連れて行けないから、最低半年は訓練ばかりになってしまうにゃよ??」

「「訓練、泣き言もいわずに頑張るにゃ~」」

「う~ん……」

「「ダメにゃ~??」」


 とりあえずやんわりと断ってみたら、2人はウルウル攻撃。インホワのウルウルはたいして効かないが、サクラのは反則だ。


「正直に言うと、やってほしくないにゃ」

「「にゃんで……」」

「ほら? お母さんたちって、訓練のせいで長寿になってしまったにゃろ? 同じことをしたら、同級生やその子供、子孫まで見送ることになるんにゃよ? 辛くなるかもしれないにゃ~」


 わしの反対の理由に、サクラは優しい顔で応える。


「それも含めてにゃ~。パパは無理でも、ママなら見送ってあげられるから長生きしたいんにゃ」

「にゃ……」


 サクラがいい子すぎて涙が出そうになったのでわしが耐えていると、インホワが追い討ち。


「俺はオヤジを越えてやるにゃ~!!」


 いや、バカすぎて涙は引っ込んだ。


「んじゃ、サクラはオッケーってことでにゃ」

「やったにゃ~!」

「にゃんでにゃ~~~!!」


 なので、サクラだけは猫パーティ入りを許可したら、インホワにめちゃくちゃ揺すられるわしであったとさ。



 2人の将来の話は家族会議でもしたら、リータたちも微妙な反応。やはり子供には危険な仕事はしてほしくないようだ。

 しかし、サクラはわしが許可したと説得を繰り返すので、最終的には一度わしたちの狩りを見学させてから、パーティ入りを考えるとのこと。

 インホワは……お情けで見学は許されたっぽい。いい男が泣くなよ……わしもよく泣いてるからうつったのですか。わしの涙は感動した時だけじゃ!!



 2人の将来の話がうやむやになった次の日、わしの子供で同い年はもう1人いるので忘れず聞きに、東の国のお城にやって来た。

 いつもなら猫耳娘ことシリエージョはこの時間は部屋で勉強中なのだが、今日はわしとの面会日ではないので、訓練場にてイサベレと戦っていた……


「また訓練にゃ~? まだ早くにゃ~い??」

「あ、ダーリン」

「パパ~!」


 わしが声を掛けると、イサベレが気付きシリエージョは笑顔で走って来たと思ったら、先の先。侍の剣を使って斬り付けて来た。


「よっと。もう覚えたんにゃ」

「ブー! 当たると思ったのに~」

「ゴメンにゃ~。ビックリして掴んでしまったんにゃ~」


 まさかの侍の剣だったので、わしの侍の勘がビビビッと来てしまったから、シリエージョの剣はわしには届かず。それでスネていたので、めっちゃスリスリして機嫌を取っていたらイサベレが寄って来た。


「ダーリンは今日来る日じゃない。何しに来たの?」

「ああ。子供の将来の話をしててにゃ~」


 ちょっと真面目な話をしたいので、テーブル席と飲み物を用意して、2人に今までの経緯を説明した。


「わしとしては大学に進学してもらいたいんにゃけど、どうかにゃ?」

「う~ん……私は騎士になりたいかな??」

「にゃんで~? 大学に入ったら、いっぱい本を読めるんにゃよ~??」

「だって、私が騎士になれば、ママが騎士を辞めさせてもらえるでしょ? だから私は早く騎士になりたいの」

「シリエージョ……」

「にゃんていい子にゃの!?」


 シリエージョがいい子すぎて今回は涙を我慢できず。イサベレも、もらい泣き。わしたちが抱き合って泣いているモノだから、娘としては見てられないみたいだ。


「みんな狩りの見学に行くなら、私も行きたいな~……ママ、いいよね?」

「ぐずっ。一緒に行こう。女王様に許可もらって来る」

「イサベレも来るんにゃ……ぐずっ」


 というわけで、イサベレが女王と面会している間に、シリエージョの訓練はわしが見ることに。いつもどんな訓練をしているかわからないので好きなことをやらせたら、めっちゃ強くなってた。

 サクラとインホワが学校で習っている間に、かなりの差が付いている。でも、わしは訓練は程々にするように言ってたんじゃけど~?


 仕方がないのでシリエージョの本気の攻撃を捌きながら助言をしていたら、イサベレは女王を連れて戻って来たので、一本も入れられず悔しがるシリエージョを超褒めてから休憩。

 わしは女王と話す。でも、第一声は「勝手に忍び込むな」と怒られた。


 女王の用件は、シリエージョのレベリング。2人の子供が本格的な訓練を始めると聞いて、シリエージョを1年間わしに預けるから強くしてほしいそうだ。


「わしの娘なんにゃけど……」

「いまは東の国国民よ」

「てか、みんにゃの卒業後の話なんにゃけど……」

「わかっているわよ。それまで座学を優先させるわ」


 女王はああ言えばこう言う始末。まぁ1年間も一緒にいれるなら、わしとしてはかなり嬉しい。今までかわいがれなかった分を、その時に取り返そう。


「パパ。過保護すぎ……酷い時は毎日来てたじゃない?」

「だって~。シリちゃんが寂しいと思ってにゃ~」

「パパが寂しいんでしょ~」

「そうにゃ~」

「そこは恥ずかしがって否定するとこじゃない??」


 まだ幼い子供と離れ離れは寂しいに決まっているから本心を伝えたら、シリエージョにツッコまれた。わしより寂しく思っていないそうだけど、それも寂しい。

 かといって、あまり攻めすぎると「キモイ」とか距離を取られそうなので、この日はちょっとスリスリしてからお家に帰ったのであった。



 それから1週間後、皆の予定を合わせて猫パーティに3人の子供を加えたメンバーで転移。あまり狩りに行っていない中国の南東、海の近くにやって来た。


「行きますよ~!」

「「「「にゃ~~~!!」」」」


 到着するなり、猫パーティはリータの音頭でダッシュ。エサで釣ったコリス以外、あっという間に見えなくなった。


「パパがこのパーティのリーダーじゃないにゃ?」

「そのはずにゃんだけど……」

「ここでも尻に敷かれてるんにゃ~」

「違うんにゃ~~~」


 このままサクラに喋らせるとわしの威厳はどこかに行ってしまいそうなので、「急がないと見失う」とごまかして移動の開始。

 最近口うるさくなっているサクラとインホワは、ほお袋を膨らませたコリスの背中に乗り込み、シリエージョはスキンシップ時間が少ないのでわしが背負ったらダッシュ。


 子供たち全員、こんなに深い森に入ったことがないので最初はウキウキしていたが、凄い速さで真っ黒で巨大な木々が通り過ぎるので「にゃ~にゃ~」うるさい。

 なので、ハンターの常識で注意。騒いでいたら隠れている獲物を逃がすとか、強い獣を呼び寄せると言ったら、口を押さえて黙った。よくできました~。


 そうして走っていたらリータたちに追い付いたけど、リータたちは巨大な黒い獣の群れと乱戦中。


「「「あわわわわわ」」」


 なので、子供たちはめっちゃあわあわしてる。怖いみたいだ。


「ちょっと多いけど、アレぐらいなら大丈夫にゃから安心するにゃ~」

「「「それもそうにゃけど~~~」」」

「にゃ~~~??」


 獣も怖いけど、お母さんたちも怖いみたい。だって、めっちゃ笑顔で獣を殺しているもん。

 ちなみにコリスは、皆と力の差があり過ぎるので最近あまり戦闘に参加していない。わし同様、マスコットに格下げされたから。晩ごはんを貰う契約になっているらしい……


「アレはだにゃ。あまりマネしちゃダメなヤツにゃ。普通はパーティで固まって耐えながら獣を減らして行くんにゃけど、バトルジャンキーはそんにゃこと考えないにゃ。誰が一番多く倒すかしか考えないんにゃ~」

「「「そんなので大丈夫にゃ~??」」」

「まぁ厳しそうだったらちゃんと作戦を考えるし、わしたちも戦力で加わるから大丈夫にゃ」

「「「パパオヤジも苦労してるんだにゃ~」」」

「わかってくれるにゃ~?」


 子供たち、わしに同情してくれる。でも、愚痴を言うとチクられた時に怖いので、わしは戦闘の解説をするだけ。あと、獲物を次元倉庫に入れるだけだ。

 戦闘が終われば移動し、複数の群れを殲滅するリータたち。格上の白い獣が現れれば、わし以外で戦闘に突入して、危なげなく勝利。


 子供たちはわしたちの狩りの仕方に驚くことが多かったようだが、いい勉強をして帰路に就くのであっ……


「結局パパって、一回も戦わなかったにゃ~」

「荷物持ちしかしてないにゃ……ダッサ」

「ママたち強すぎ……」


 あと、サクラ、インホワ、シリエージョのわしへの評価が下がった1日であったとさ。

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