猫歴22年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。荷物持ちではない。


 わしの子供たちが将来は戦闘職に就きたいというからお試しで、中国の南東、海の近くで狩りの見学をさせたのだが、わしの活躍がゼロだったので父の威厳はどこへその。母の威厳は爆上げどころか恐怖の対象。

 なので延長戦。父の威厳アップと母の恐怖ダウンのために、日を改めて海に出た。


 日ノ本の海はわしたちが狩りまくったせいで落ち着いているので、今日はインド周辺の海の調査。猫の島とかいう貴族御用達の保養所がある島に移動して、巨大船『エリザベスキャット号2』に乗り込む。

 もちろん遊びに来ていた貴族には、急に巨大な船が現れたので驚かれたり乗せろと言われたりしたが無視して出向し、巨大魚との戦闘では子供たちをめっちゃ引かせた。

 そりゃ、地上の獲物と比べたら、倍どころか10倍、20倍もデカかったら引くわな。それを単騎で倒すわしもめっちゃ引かれた。300メートルの魚なんてフィクションだと思っていたようだ。


「やっぱ大学行こうかにゃ……」

「オレも猫軍に入るにゃ……」

「ママ、ゴメン……」


 なので、早くも自信喪失。将来の夢も変更。早く帰りたそうなサクラとインホワとシリエージョ。


「まぁ時間はまだあるんにゃから、卒業までに答えを出したらいいだけにゃ。にゃはは」

「「「ヒッ……」」」

「にゃんで怖がるにゃ~。みんにゃの優しいパパにゃよ~?」


 こうして父の威厳はアップしたどころかわしまで恐怖の対象となってしまったので、しばらく子供たちは、わしたちと喋る時は敬語になったのであったとさ。



 猫パーティ研修のせいで子供たちと溝ができてしまったわしたちであったが、わしからいつもの関係に戻り、中学校の卒業式までにはママたちとも緊張せずに話せるようになっていた。

 わしが一番恐れられていたのに、一番最初にフレンドリーになったのは謎だ。元々お昼寝ばっかりしていて威厳がなかったとか、いつもママたちから怒られていたことは関係ないはずだ。


「にゃ~~~。卒業おめでとうにゃ~。にゃ~~~」


 あと、涙もろいのも関係ないはずだ。


 今回の卒業式も、通ってもいないシリエージョも王様の権力で参加。3人がおめかしした姿もめちゃくちゃ写真とビデオに収めてやった。ビデオカメラはまだ発売してないので、第三世界で買ったいっちゃんいいヤツだ。


 こうして一時期ハンターや騎士になることを悩んでいた子供たちは、覚悟を決めてわしたち猫パーティの元へと羽ばたいたのであった。



 猫歴22年はついに、サクラ、インホワ、シリエージョの本格的な指導。魔力濃度の高いソウ市の地下空洞に皆を集めた。


「え~。指導官のシラタマにゃ。わしの指導は甘いから、辛くなったら一緒にお昼寝しようにゃ~」

「シラタマさんは黙っていてください!」

「やる気ないなら大学行けニャー!」


 ツカミでちょっとボケてみたら、リータとメイバイから指導官失格の烙印。めっちゃ怒られたので、わしはスゴスゴ引き下がったら、子供たちは集まってゴニョゴニョやっていた。


「「「パパの指導が受けたいにゃ~」」」

「「にゃんで~~~!?」」


 そしたら、わしの指導官復活。リータとメイバイは3人に詰め寄ったが「パパがいい」としか言わないので、渋々引き下がるのであった。



 リータたちは苛立ちからか自分たちの訓練を始めたので、わしはひとまずどうしてママは嫌なのかを質問してみた。


「だって……にゃあ?」

「「にゃあ?」」

「あぁ~~……」


 その理由はスパルタそうだから。3人は口には出さなかったが、リータたちの手加減抜きの戦闘訓練に視線を持って行ったのでわしも察した。


「んじゃ、ランニングからいきにゃ~す」

「「「はいにゃ~」」」


 こうして子供たちの訓練は、ゆる~く始まったのであったとさ。



 それから2ヶ月、わしの指導が温すぎるから子供たちが本当に強くなっているのかと疑い出して「にゃ~にゃ~」うるさくなったので、3人を久し振りにソウ市の地下空洞から出して、わしはその辺を歩いていた兵士に絡む。

 王様に突然絡まれたからには、兵士は土下座で謝って来たのでわしもめっちゃ焦って土下座。冗談だったと謝って、子供たちと立ち合ってほしいとお願いした。


 その結果、子供たちのわしを見る目が冷たい……じゃなく、超楽勝。兵士の剣なんてかすりもしないし、女子でも力負けしないで余裕で押し返していた。


「「「強くなってるにゃ~」」」

「にゃ~? 嘘じゃなかったにゃろ~? もうちょっと遊んでから帰ろうにゃ~」

「「「はいにゃ~」」」


 とりあえず子供に負けてヘコんでいる兵士には、銀貨を3枚握らせて感謝の言葉。それからすれ違った兵士には子供たちの犠牲になってもらい、ハンターギルドに入ったら、お金を払って犠牲者を募る。

 ここでは、ある程度手加減を解除。次々とハンターたちを倒させる。だって、わしの子供にナメた口をきくんじゃもん。


 Cランクハンターまでをボコボコにしていたら、このソウ市をまとめる市長が訓練場に飛び込んで来た。


「兵士が次々と辻斬りにあったと言ってるんですけど、何してるんですか!?」

「えっと……子供たちの教育をにゃ……」

「でしたら先に言ってくださいよ!!」

「すいにゃせん」


 さすがに王族がこれほどの騒ぎを起こしているのだから、市長は激怒。なのでわしは平謝りして、ハンターギルドをあとにするのであっ……


「パパって一番偉いんじゃないにゃ?」

「そうにゃんだけどにゃ~……にゃんか市長以上の人にはニャメられてるんにゃ」

「王様に見えないもんにゃ~」

「ハッキリ言わにゃいでくれる?」


 辛辣なサクラの小言に付き合いながら、地下空洞に引きこもるわしであったとさ。



 子供たちの訓練を始めて早4ヶ月。魔力濃度の高い場所で重力魔道具を使い続けたことによって、運動能力だけならエルフクラスに並んだと思われる。

 侍攻撃も気功も扱えるようになって来たので、ここからは得意分野を伸ばそうと別々の指導だ。


 サクラは魔法特化、インホワは近接特化、シリエージョは近接と中距離マルチだ。


 サクラとシリエージョには、わしが使っている初級魔法を伝授し、2人が魔法の自主練をしている間にインホワの剣の相手。翌日はサクラが魔法の自主練をしている間にインホワとシリエージョの剣の相手。

 なかなかいい感じになって来たら、3人同時に攻撃をさせ、たまにはわしからの攻撃。わしは簡単なアドバイスしかせずに、できるだけ自分で考えるように仕向けて、疲れて倒れる毎日。


 そんなある日、サクラに使えそうな魔法を教えていたら、いまだに子供のフリを続けているオニヒメがやって来た。


「サクラちゃん、もうそこまで覚えたんだ。私も手伝おうか?」

「それは助かるにゃ~。式神はわしは苦手なんにゃ~」

「パパには必要ない魔法だもんね。お姉ちゃんに任せなさい!」

「お願いしにゃす!」


 サクラがオニヒメから魔法を習っている姿を微笑ましく見ていたら、ちょっと気になる物が目に入ったので、オニヒメの長くて白い後ろ髪を少し摘まむ。


「いま、真面目な話してるんだから、ちょっかいかけないでくれる?」

「あ、ゴメンにゃ。でも、この黒い髪の毛はにゃんだろうと思ってにゃ……変身魔法の失敗かにゃ?」

「黒い髪の毛?? わっ! 本当だ。ちょっとトイレ行って来るね!!」

「「にゃ~~~??」」


 オニヒメは慌てて走って行ったので、わしとサクラは「なんだろね~?」とか雑談して待っていたらすぐに戻って来て、魔法の訓練に戻った。たいしたことはないそうだ。



 オニヒメも指導官に加えて子供たちを教えていたら、今日はノルンを頭に乗せたベティがやって来た。


「シラタマ君の子供、吸収力が半端ないわね」

「まぁにゃ~……思っていたより強くなりそうにゃ」

「種族差ってヤツか……あたしもうかうかしてられないわね。いまのうちに苦手意識植え付けとこっと」

「自分が強くなるんじゃないにゃ!?」


 ベティが子供を甚振いたぶりに行こうとするので止めていたら、ノルンが羽ばたく。


「ノルンちゃんが相手になってやるんだよ~!」

「ノルンちゃんじゃ無理にゃって~」

「マジカルチェンジだよ~!」

「危にゃいから!」


 ノルンはわしの制止はきかず、魔法少女みたいな服装になったらぶっ飛んで行った。


「パパ。ノルンちゃんが飛んで来たよ?」

「捕まったんだよ~」

「ここに入れといてにゃ~」

「うん」


 けど、イサベレから受け継いだ危険察知能力を持つシリエージョにキャッチされて、わしの作った鳥カゴに放り込まれた。ノルンはゴーレムなので侍攻撃と気功は習得できないんだから、そりゃそうなるよ。

 そんなことをしていたら、ベティがいつの間にかサクラとインホワの元へ行って、めちゃくちゃあおっていたっぽい。なので、2人は「おばちゃんを倒してやる!」ってわしに模擬戦をやらせてくれとお願いして来た。


「やめといたほうがいいと思うにゃ~」

「「にゃんでにゃ~~~!」」

「3人掛かりなら試合になると思うよ」

「う~ん……わしはアドバイスしないからにゃ? それでもいいにゃらやってみろにゃ」

「「ぜったい倒してやるにゃ!」」

「うん! 行こう!!」


 わしからの許可が出たら、サクラもインホワもやる気満々。一番冷静に見えたシリエージョも、ちょっと興奮しているように見える。

 とりあえずわしが審判をして、開始を告げたら早くも勝負あり。


「「「ズルイにゃ~~~」」」

「ズルくありませ~ん。引っ掛かったみんなが悪いんで~す。オホホホ~」


 ベティのガム弾とかいう変な魔法を子供たちは全員踏んでしまい、仲良く地面に張り付けられたからには勝負にすらならなかったのだ。


「「「おばちゃんがズルするにゃ~~~」」」

「だからやめとけって言ったんにゃ~」

「そのおばちゃんってのやめてって言ってるでしょ! まだあたしは20代前半なのよ!!」


 というわけで、子供たちはわしに泣き付いて来たので宥めていたら、ベティはなんかキレていた。たぶん、いつもおばちゃんと呼ばれているから、この機会に教育し直そうと思っていたのだろう。

 でも、そんな汚いことするから、子供たちの態度が変わらないんじゃ。それに24歳を四捨五入して若い印象を植え付けようとしているし……


 このベティとの模擬戦の後、子供たちは意趣返しに燃え、訓練は激しさを増したのであっ……


「ねえ? あの子たち強くなったら、あたしのこと殺したりしないよね??」

「知らないにゃ~」

「いや、助けてよ~。シラタマく~~~ん」


 今ごろ子供たちにビビッて、わしに助けを求めるベティであったとさ。



 子供たちが打倒ベティを唱えて訓練するなか、ベティも負けじと訓練していたら、子供たちはわしの元を巣立って行った。


「パパだと優しすぎるにゃ。ママ……お願いしにゃす!」

「「お願いしにゃす!!」」


 お隣で訓練していたリータたちの元へと……


 なのでわしは納得できないので茶々を入れていたら、一斉に睨まれた。けど、リータが力加減をミスってインホワに走馬灯を見せるパンチを打ったので、間一髪守った。インホワはチビッていたから水魔法をぶつけて尊厳も守ってやった。


「私の息子を殺す気ニャー!」

「すいません! わざとじゃないんですぅぅ~!」


 怒ったメイバイと謝るリータが鬼ごっこしてい……いや、もう追い付かれてマジバトルをしている横では、わしは子供の説得。


「にゃ~? わしのほうが、安全に強くなれるにゃろ~??」

「この山を越えれば、私たちは強くなれるはずにゃ……」

「うん。実践に近いね」

「オレは、ちょっと……」


 サクラとシリエージョはあの恐怖を体験していないので、変なスイッチが入っている。インホワの嫌そうな顔が普通だ。


「さあ、盾役……突っ込めにゃ~!」

「行け~~~!」

「オレにゃ!?」

「インホワ1人を犠牲にしてやるにゃよ~」


 この世界は何かと女性が強い世界。インホワは姉妹に尻を叩かれて、無謀な突撃をさせられまくるのであったとさ。

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