猫歴20年その2にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。映画監督ではないし、娘には男を手玉に取ってほしくない。


 サクラに嫌われて仲直りするトラブルはあったが、猫歴20年の冬は、わしの待ってましたの年。ついに国政選挙が行われるのだ~!


 このために6年ぐらい前から首相の存在をおおやけにし、各市から首相候補を最低1人、4人以上の議員を擁立するように指示を出していたのだ。

 市長選も周知されていたので、今回の選挙は楽勝。というか、この選挙の勝者によっては各市が優遇される可能性を示唆していたので、市長が血なまこになって候補者を用意してくれた。


 そりゃ、国政の実質トップと話し合いを行う者を決めるのだから、市の命運が左右されると思ったのだろう。わしがそれを力業で止めるとは教えていないのだから、最高の人材を送り込んでくれた。


 首相選挙の期間は1ヶ月。各市を回らせて、どのような国にしたいかを語らせる。もちろん口喧嘩はオッケー。国民も楽しそうに見ている。

 ただし、2人の候補者が国政に詳しすぎるので、他の候補者がついて行けない。他の候補者はマジの悪口しか言わないから、国民からも不評を買っていた。


 次の議員選挙は期間が1週間と短い。まぁ各市内での戦いだから、これだけあれば言いたいことは伝わるだろう。

 こちらも口喧嘩が主流だったが、先に始まった首相選挙を見ていたから、政策を前に出す者がチラホラいた。やや付け焼き刃だったから口喧嘩では押されていたが、好意的意見も聞こえていた。


 選挙期間の最終日は、首相と議員の同時投票。残念ながら時差の違う市もあるので、開票は全ての市が終わってから。

 猫市に新設した国会議事堂みたいな建物、猫会議事堂に……これはわしが建てたけど、名付けはわしではないぞ? 教会みたいな猫会って建物もあるから、大反対したとだけは言っておく。

 そこに全ての投票用紙が届いたら、一気に開票作業だ。もちろん王族もボランティアで参加していたので、他のアルバイトから変な目で見られた。



 数え終わった夜には、全ての候補者を猫会議事堂に集めて結果はっぴょ~~~う! この模様は、一部を除いて猫の国全土にラジオ放送で伝えられる。


「え~。今回は初の首相選挙と議員選挙だったけど、例年行われる市長選挙と同様に盛り上がって、わしは大変満足にゃ。長い期間、お疲れ様だったにゃ」

「「「「「にゃっ!」」」」」


 まずは労いの言葉を掛けたら、全員、胸に右拳を持って行ったけど、何そのポーズ……初めて見たぞ? 心臓を捧げるってヤツか??


「ゴホンッ! まぁみんにゃも結果を早く聞きたいにゃろうから、前置きはここまでにゃ。では、議員から発表しにゃ~す」


 猫市から順番に当選した2人の議員の名前を呼び掛けると、様々な声が聞こえる。嬉しそうな声、悔しがる声、その声がラジオに乗り、各市でも似たような声があがっていたそうだ。


「それじゃあ、とっておきの首相の発表にゃ~。まずは2位の副首相からいくにゃよ~?」


 当選した議員がわしの後ろに並んだら、副首相の発表。首相候補者は、祈るようにわしの言葉を待つ。


「得票数、団子状態の僅差で勝利したのは……ウサギ市のカレタカ君にゃ。カレタカ副首相に拍手にゃ~」


 ウサギ族のカレタカは自分が副首相に選ばれる可能性が低いと思っていたのか、わしに名前を呼ばれたらビックリして飛び上がった。そして照れくさそうにしながらピョンピョンと飛び跳ねてやって来たので、わしの左隣に立たせる。


「最後は首相の発表にゃ。こちらは圧倒的大多数で、元ラサ市の市長、センジにゃ。2代目首相に温かい拍手にゃ~!!」

「「「「「わああああ」」」」」


 センジは手応えがあったのか、落ち着いてスカートのシワを伸ばし、四方にお辞儀だけしてわしの右隣までやって来た。


「今日からまた猫の国の新しいスタートにゃ。国民がより幸せに暮らせるように、国民が選んだ君たちが議論を尽くし、新しい制度や法律を作って行くんにゃ。それを取りまとめるのは首相と副首相だからにゃ。センジ、カレタカ……舵取りは任せたからにゃ」

「「にゃっ!」」

「議員のみにゃも、自分のためや誰か個人の利益を優先するんじゃなく、国民を思って多数決に挑んでくれにゃ~」

「「「「「にゃっ!!」」」」」

「これにて、猫の国国政選挙の閉幕にゃ~~~!!」

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」


 こうして初めての国政選挙は、皆の「にゃ~にゃ~」叫ぶ声で閉幕したのであった……



 それから翌日は、任命式をしてからお疲れ様パーティー。初当選の者にはこれからのことを少し喋り、落選者には「次回は期待してる」とか適当なことを1人1人声掛け。わしと握手まで出来たんだから、いい記念になっただろう。

 落選者の1人には、「夜に話がある」と低い声で脅し。パーティーが終わったら、キャットタワー王族食堂で説教だ。


「また負けたにゃ!? いい加減にしろにゃ~」

「もももも、申し訳ありませ~ん!!」


 この土下座をする胡散臭い顔の男は、元首相のホウジツ。今回は「必ず勝つ!」と燃えていたし、その準備も万全だと言っていたのにこのていたらくだ。


「選挙に弱すぎにゃい?」

「センジさんに勝てるわけないじゃないですか~」

「カレタカ君はどうにゃの?」

「うっ!?」


 今回の選挙で優位に見えたのは、センジとホウジツ。しっかりした政策でその他候補者を黙らせたのだから、負けるはずがないとわしも思っていた。

 ちなみにホウジツの戦略は、センジが立候補した時点で2位狙いに変更。これまでの功績と見た目で負けているから、安全策に出たらしい。


「功績だけで言ったら、ホウジツが1位だと思うんにゃけど……」

「顔です! この胡散臭い顔が敗因なんですよ!! 悪かったですね!!」

「わしは褒めてるんにゃ~」


 ホウジツがめっちゃキレるので、わしはフォロー。仕事はできるし無理難題もなんとかしてくれたと褒めながらお酌をしていたら泣き出した。


「どうしてあんなポッと出に負けるんだ~」

「カレタカ君は勉強熱心だったからにゃ~……」

「顔か! 僕もウサギになれば勝てたのか!!」

「整形ではウサギになれないにゃ~」


 どう慰めても泣き続けるので、これからのことを質問してみる。


「来年から無職になるけど、どうするにゃ?」

「うぅ~……お猫様のおかげで一財産できましたし、小さな商店でも作って細々とやります~」


 市長と首相の給料はかなり高く設定していたので20年も続けていたから、残りの人生ぐらいお金に困らずゆっくりと暮らせるだろう。

 しかしホウジツは、細々とか言いながら世界進出を考えていやがった。元より日ノ本の大店おおだなと太いパイプがあるし、各国の王様や貴族とも関わりがあるのだから、商品にも売り手にも困らない。

 ホウジツの口車があれば、あっという間に億万長者になってしまいそうだ。


「そうにゃんだ~。ホウジツには違うポストを用意してたんにゃけどにゃ~……」


 だがしかし、こんな有能な人材をわしは手放したくない。


「どうせ無理難題吹っ掛けるんでしょ? だったら自分で稼いだほうが楽なんで、お断りしま~す」


 でも、ホウジツにはバレバレ。ムリヤリ首相を押し付けたんだから、新しいことは苦労が多いとわかりきっているからやりたくないみたいだ。


「それじゃあ仕方がないにゃ。やってほしいことがあったけど諦めるにゃ。あ~あ。残念にゃ~。面白い仕事だったのににゃ~」

「その手には乗りませんよ? 意志は固いので」

「うんにゃ。もう諦めているから自由にしてくれたらいいにゃ。そのかわり、ちょっとホウジツの商売を邪魔するぐらいは許してにゃ~」

「どのかわりですか!? お猫様にそんなことされたら、どこでも商売できないじゃないですか!?」

「大丈夫にゃって。ちょっとだけにゃ~。どの町もどの国のトップには、ホウジツと組んだら戦争になると言うだけにゃ~」

「僕に死ねと言ってるのですか!?」


 こうしてわしの説得をホウジツは快く受け入れ、楽しい夜を過ごすのであった……


「そんな脅し方ってあります?」

「まぁまぁ、酒でも飲んで忘れろにゃ~」


 わだかまりは、酒で洗い流すわしであったとさ。



 ひとまずホウジツには、猫市に家族を連れて来るように言って家も用意してあげる。それからセンジも家族と猫市に移住してしばらく経った休みの日に、ホウジツと共に猫大に連れて来た。


「大学ですか……まさか次のポストって学長とか言いませんよね?」

「にゃ? その通りにゃけど……」

「はあ!? こんなしょぼいところで働けと!?」


 ホウジツは国のトップで大勢の人間を使っていたから、プライドがあるみたいだ。いや、そう言って断ろうとしてやがる。


「あ~……ホウジツが前に来た時って、上しか見せてなかったにゃ」

「うえ??」

「猫陛下。私はなぜ大学に連れて来られているのでしょうか? 忙しいのですけど……」


 ホウジツと喋っているのにセンジが割り込んで来たので、ホウジツはもういいや。


「これからに関わることにゃから見ておいてほしいんにゃ。ただし、ここからは他言無用だからにゃ? 喋りそうなホウジツには、契約魔法かけとこうかにゃ??」

「お猫様! また面白いことを考えているのですね! このホウジツ、一生ついて行きますぅぅ~」

「それ、にゃん回も言ってるけど、よくどっか行こうとするよにゃ?」

「あ、あははは……」


 ホウジツを睨み付けていたら、センジもわしが呼び出した理由に気付き始めた。


「そこまで厳重な施設ってことは、ソウの地下施設みたいなモノですね。確かに首相として知っておかないといけませんね」

「センジは真面目すぎるにゃ~。ま、だからこそ、あの得票数だったんだろうにゃ」


 私立猫の国大学は、建物は見せ掛け。メインは巨大地下施設だ。

 見られてもいい技術や本をコピーした物で大学っぽくあしらわれた校内を2人を連れて歩き、エレベーターに乗って下の階に移動したら、まずは技術の展示場を見て歩く。


「なんですかこの見たこともない物の数々は!?」

「わかりました! これを僕に売れと言うのですね!?」

「まだ序盤にゃ~」


 技術品の物量でセンジは圧倒され、ホウジツは金儲けのフライング。2人とも勝手にどこかに行きそうなので、土魔法で作った箱に車輪を付けただけの乗り物に乗って、簡単な説明をしながら進む。

 そして次の区画は図書館。びっしりと並ぶ本棚を半周ぐらいしてから個室に入ると、数冊の本を並べておいたテーブル席に2人を案内する。


「「いったいこの施設はなんなのですか!?」」

「いまから説明するから座ってくれにゃ」


 興奮する2人を席に着かせると、わしは静かに語り出す。


「5年前に、わしたちが1ヶ月も国を開けたことがあったにゃろ? 家族旅行とか言ってたけど、アレ、実は未来に行っていたんにゃ」

「「未来!?」」

「正確には、この世界より発展した別次元の世界にゃんだけどにゃ。んで、ネタばらししておくと、わしは元々そっちの世界に住む人間だったんにゃ~」


 わしの突然のカミングアウトに2人はついて来れないのか黙ってしまったので、世界の違いを簡単に説明していき、ある程度を話し終えてわしが黙ると、センジから動き出した。


「だから、政治にも経済にも軍にも詳しかったのですか……」

「お猫様の作り出した技術の数々は、元々あった物を再現していただけと……」

「にゃはは。ズルイにゃろ~? ま、猫に生まれるって罰を最初に受けたんにゃから、許してくれにゃ~」

「いえ、許すも何も、何もないところから再現するなんて、猫陛下は凄すぎますよ!」

「そうですよ! この世界を豊かにしてくれたのはお猫様じゃないですか!!」

「それはみんにゃの協力があったからにゃ。まぁ、説明するのはめちゃくちゃ面倒だったけどにゃ」


 ここからしばらくは思い出話。昔から謎だったわしの行動の謎解きを2人は楽しそうに聞いていた。

 ちなみに猫の国初期メンバーには、折をみて教えてあげる予定だ。



 そうして長く話し込んでいたら、センジが本題を思い出した。


「つまり猫陛下は、私たちに何をやらせたいのでしょうか?」

「あ、そうだったにゃ。そこの本を適当に開いてくれにゃ」

「「はあ……」」


 2人が英語の本を開くと、わしは続きを喋る。


「センジの開いた本は、憲法や法律が書いてある本で、ホウジツのは経済関連だにゃ。2人とも読めそうかにゃ?」

「うっ……なかなか難しいですね……」

「あっ! 資本主義ってお猫様が言ってたアレじゃないですか!?」

「ああ。昔、そんにゃ話をしたにゃ~。実はわし、あの時はうろ覚えの知識で喋っていたんだよにゃ~……でも、この図書館には、本物の知識が揃っているにゃ。これを読んでおけば未来に起こる問題を、先に手を打てるといった寸法にゃ~」

「「なるほど!」」


 2人が納得したところで、ホウジツには違う仕事を頼む。


「ホウジツには学長になってもらうけど、ぶっちゃけやることにゃんてほとんどないにゃ。だから政治経済の本を中心に読んで、忙しいセンジの相談役になってやってくれにゃ」

「それはかまいませんけど、お猫様は?」

「あ、あと、将来的には硬化から紙幣になると思うから、それも勉強しておいてくれにゃ。国債にゃんてシステムもやるかもしれないからにゃ」

「はあ……お猫様はその間、何をするのですか?」

「言いたくないから、スルーしてるんにゃろ??」

「「やっぱりお昼寝ですね!?」」

「わかってるなら聞くにゃ~~~」


 君臨すれども統治せずがようやく形になったのだから、難しいことはホウジツとセンジに丸投げ。


「いや、わしは技術とか医療とか忙しいからにゃ。分業したいだけなんにゃ」

「「最近は子育てばかりしてると聞いてるんですけど~~~?」」

「本当にゃ~~~」


 あまりにも2人がブーブー言うので言い訳してみたが、わしの行動は筒抜けだったとさ。

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