猫歴20年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。息子の反抗期は見ていて楽しい。


 インホワの反抗期は少し落ち着いたけど、まだまだ黒歴史を作っているので楽しく見ていたら、あっと言う間に年が暮れ、東の国の女王誕生祭も後半戦となった。


 今回の女王誕生祭の目玉は、映画上映。もちろん猫の国からのプレゼントだ。

 ただし、映画は酷いモノ。第三世界で買って来たDVDを流せたら楽だったのだが、この世界初の映画がどこだかわからないファンタジー映画ではできが良すぎるとさっちゃんからダメ出しが入ったので、映画も撮らされた。


 題目は、世界的大ヒットをしている猫王様シリーズの小説。その中で東の国が舞台であった帝国との戦争を作れとお達しがあったけど、そんな人員が多い映画なんて撮れるわけがあるまい……

 なので、一番売れた北極編。一からやるとしんどすぎるので、阿修羅との戦闘シーンだけだ。


 主演は、もちろんこのわし猫王様。阿修羅は、変化へんげの術で姿を変えた玉藻にお願いした。尻尾が九本もあるんだから、六本の腕ぐらい余裕で動かせるだろう。


 内容はリータたちを逃がした緊迫したシーンから始まり、阿修羅に殺されそうになったわしが新たな力に目覚めて倒しただけで大団円。

 玉藻が本気出してカメラに映らなかったり、玉藻が勢い余ってわしをぶん殴ってNG多数だったが、10分程度にまとめたのだ。でも、わざとわしのこと殴ったじゃろ? わしの目を見ろ!!


 いっちゃんいいビデオカメラを使って撮影してみたが、編集したら棒読みや言い間違い、人物が半分切れていたり誰かが見切れている映像が多くて何度も撮り直ししたけど、演技がまったく上手くならない。

 女王誕生祭も差し迫っていたので、自分的には一番いいところを切り貼りして提出してみたら、女王とさっちゃんに笑われた。やはり全員の演技が下手だったみたいだ。


「監督が悪いわね。誰が監督したの?」

「わしにゃけど……」

「やっぱりね~。シラタマちゃんのせいで会話がギコチないのよ」


 どうやら監督、脚本、編集、主演のわしが悪いらしい。だって、演劇なんて習ったことないんじゃもん!


 さっちゃんたちからダメ出しをくらいまくったが、この世界で撮った映画なんてこれしかないので、上映するしかなかったのだ。

 しかし、上映時間はたった10分しかないのに、映画館は日が経つほど長蛇の列が延びる結果。


 そりゃそうだ。技術部門が頑張って作った映写機やDVDプレイヤーだって、わしが頑張って編集した動く映像だって初めてなんだから、驚かないわけがない。

 演技や内容なんて二の次。白い壁に映し出されたわしたちが喋って動いているだけで充分すぎるのだ。


 何度も足を運んだ人の中には内容を批評する人もいたが、思っていたよりめちゃくちゃ評価が高い。女王とさっちゃんはプロが作った物を見ていたから目が肥えていたのだろう。


「猫王様、かわいかったよね~」

「モフモフしてかわいかったね~」

「「「「「ね~?」」」」」


 いや、猫が刀を持って戦っていたのだから、そりゃ演技なんてどうでもよかったのかも? 猫型の時なんて、歓喜の悲鳴があがっていたし……


 このプレゼントは、先に女王にも試写を見てもらったのだが、誕生祭の期間中に足を運ばないわけにはいかないらしく、わしも誘われたので貸し切りで映画を見ていた。


「ありがとう」

「にゃ?」

「動画の話よ。アレは10年以上前の誕生祭だったわね。私が死ぬまでに作ってくれると言ってくれたことを、早くも実現してくれたじゃない」

「あ~……中途半端だけどにゃ。もう数年あれば、ビデオカメラも作れたかもにゃ~」

「それでも、ここまで早く民に見せられるとは思ってもいなかったわ。意外と見れる映画じゃない」

「どこがにゃ~。みんにゃ笑ってるにゃ~」


 女王は感謝して褒めてもくれているようだが、一緒に見ている東の国と猫の国の王族がゲラゲラ笑っているから、感謝の言葉も褒め言葉も耳に残らない。

 帰り際には、玉藻と一緒に肩を落とすわしであったとさ。



 それからというもの、どの国も映画館をやりたいと猫の国に人が押し寄せて来て、大変な騒ぎ。映写機とDVDプレイヤーとDVDは、新設した工場に発注して多く用意していたけど、即完売だ。

 ちなみに販売した映画は、わしたちが吟味した第四世界の世界観に近い物や中世ファンタジー、アニメや時代劇の10本セット。英語ではない物は全て吹き替え版なので、字幕なしに楽しめる。

 プラス、もう一本。まさかわしたちの作った映画まで売れるとは思っていなかったので、せっせとDVDをコピーして高く売り付けてやった。だってわし、超頑張ったんじゃもん。玉藻に出演料を寄越せと言われたけど……


 こうして映画は一気に広がり、どの国の映画館も大繁盛となるのであった。



 映画事業のおかげで私立猫の国大学にも収益があったので、ホウジツ首相が大学運営に興味を持ってくれたが、まだまだ大赤字だったのですぐに帰ろうとしやがった。

 なので、取っ捕まえて教育の重要性を語り、国からも補助金という形で乗っからないかと説得したけど、一度持ち帰るとのこと。てことは、やらないってことじゃな?


 わしが睨んだら「検討する!」を連呼して逃げて行ったのでは仕方がない。わしは子育てとお昼寝生活に戻る。

 そんなある日、離れの縁側で猫娘ことサクラが黄昏たそがれていたので、わしはホットココアを持って隣に座った。


「パパ……」

「元気がないにゃ~。男にでもフラれたにゃ?」

「パパにゃんて大っ嫌いにゃ! バカにゃ~~~!!」

「にゃ……」


 元気付けようとちょっとボケてみたら、それが大当たり。そんな心ない言葉を聞いたサクラは激怒して走って行った。わしは娘にバカと言われて物凄く傷付いたので、その場から動けなかった。


「シラタマさん。サクラが怒りながら子供部屋に入って行ったのですけど、何かあったのですか?」


 サクラの行動を不思議に思ったリータがママの顔でやって来たので、わしは泣きそうな顔で質問に答える。


「やってしまったにゃ~。サクラに完全に嫌われたにゃ~」

「それじゃあわかりませんよ。一から説明してください」

「うぅ……彼氏がにゃ……」


 一から説明するも何も、たった一行の失言だったので、わしは言い訳ばかりしてしまった。


「あぁ~……それは怒っても仕方がないですね」

「にゃ? リータは聞いてたにゃ??」

「はい。告白もできずに終わったらしくて、すっごく落ち込んで帰って来たんですよ」


 どうやらサクラの意中の相手は、人族の男子。イケメンで優しいので、女子に大人気らしい。その女子たちが好みのタイプを質問していたのをサクラは聞き耳立てて……いや、偶然聞いてしまったそうだ。

 イケメンのタイプは、内面重視。ここはサクラは心の中でガッツポーズしたらしいが、ウサギ族の女子がいらんことを聞いたせいで地獄に落ちた気分になったそうだ。


「毛深い女は好みじゃないにゃんて言ったにゃ!?」

「はあ……毛深いどころかモフモフですし……」

「にゃんて名前にゃ!? わしがモフモフの良さを思い知らせてやるにゃ~~~!!」

「そんなことしたら、よけい嫌われちゃいますよ」

「それはイヤにゃ~~~」


 娘のために何かしてあげたいわしであったが、確かに好きな人を父親が拷問してでもくっつけたとバレたら、サクラは一生口をきいてくれない可能性が高い。

 わしは前言をすぐさま撤回して、無力な自分と、あの時ボケに走った自分を恨むのであったとさ。



 それから1週間、わしは土下座して謝り続けたが、サクラは完無視。かわいい服とかぬいぐるみをプレゼントしたけど、受け取ってはくれるがまだ口はきいてくれない。


「俺の時は謝りもしにゃいし、にゃにもくれなかったよにゃ?」

「そうにゃっけ?」

「木刀の件はどうなったにゃ~!」

「あ、欲しかったんにゃ。あとで作ってやるにゃ~」

「やったにゃ~!!」


 サクラと違ってインホワは単純だから、これで当分からんで来ないだろう。てか、女の子の機嫌を取るのは身に染みてわかっているから、必死で誠意を見せているのだ。

 しかしながら、ぜんぜん機嫌を直してくれないので、次の一手。東の国に飛んで、さっちゃんと面会した。


「おお~。大きくなったにゃ~」

「モフモフ~。モフモフ~」


 さっちゃんの3人目の娘をわしが抱いたら、超嬉しそう。サクラにもこんな時期があったとジーンと来てしまった。


「シラタマちゃん……何しに来たの??」

「あ、そうにゃった!」


 用件もそっちのけで子供と遊んでいたら、さっちゃんに冷ややかにツッコまれたので本題に入る。


「さっちゃんとこの息子って、もう許嫁は決まったにゃ?」

「12歳だからまだよ。それがどうしたの?」

「うちの娘にゃんかどうかと思ってにゃ~」

「なにそれ!? 進めていいの!?」


 さっちゃんの長女は次の次の女王になるから、許嫁戦争はわしがゴネまくったことと女王の説教のおかげで諦めてくれたけど、今回はわしからの誘いなのでめっちゃ前のめり。


「婿養子にゃんだから、うちで暮らすのが条件だけどにゃ」

「はい!? それじゃあ毎日モフモフできないじゃない!」

「いや、さっちゃんの嫁に出すわけじゃないにゃよ?」


 サクラの許嫁大作戦は、早くも暗雲が立ち込める。さっちゃんはどうしてもサクラをそばに置きたいから全然折れてくれない。

 しかし、そもそもな話、わしたちはできるだけ恋愛結婚をしてほしいので、まずは勉強中だったエティエンヌ王子に面会してみる。


「王子君はうちの娘と仲良かったよにゃ~?」

「うん。いつもモフモフさせてくれたよ」

「じゃあ、責任取るってことでいいんだにゃ?」

「責任ってなに??」

「おどれぇ~。うちの娘のぉ~、柔肌を撫で回しておいてぇ~、それはないにゃろぉ~。オォ??」

「脅すな!!」


 わしの娘を傷物にしていたのだから、わしがキレるのは当たり前。でも、さっちゃんにハリセンでスパーンと頭を叩かれて正気に戻ったので、タッチ交代。


「サクラちゃんのことはキライじゃないんだよね?」

「うん。まぁ……」

「じゃあ、許嫁にならない? そしたら私もモフモフできるし、何より猫の国の技術を融通してもらえるの。もしもの時は、人質にしたらシラタマちゃんが助けてくれるから、お願いよ~」

「子供を政治利用するにゃよ!!」


 モフモフだけなら聞いていられたが、さっちゃんがあまりにも酷い使い方を口走っていたので、早めのツッコミ。

 それからも2人で「にゃ~にゃ~」やっていたら、エティエンヌが迷惑そうに口を開く。


「許嫁の件、お祖母様に聞かなくていいの?」

「女王に話すと面倒だからにゃ~」

「そうそう。お母様は絶対に反対するもん」


 その案は、2人で却下。悪口まで付け加えていたら……


「許嫁って、なんの話かしら~~~?」

「「にゃ!?」」


 後ろから聞き覚えのある声がしたので、わしとさっちゃんは抱き合って驚いた。


「女王の私を飛び越えてする話ではないでしょ! これで2度目よ!!」

「「すいにゃせん!!」」


 さらにめちゃくちゃ怒られたので、わしたちは誠心誠意、反省した姿を見せるのであったとさ。



 さっちゃんの説得の間、わしはエティエンヌに頼んでイケメン動画を撮っていたら、女王まで「政治利用はアリかも……」とか言い出したので、脱兎の如く逃走。

 急いで我が家に帰ると、イケメン王子の「愛してるよ」とか「おやすみ」とか言ってる動画をサクラに見せてあげようと思って探したら、屋上の空中庭園で両手を上げて叫んでいた。


「モテ期……来たにゃ~~~!!」


 意味がわからないので、隠れて見ていたリータに話を聞いてみたら、なんか2人の猫耳男子から同時に告白されたそうだ……


「意中の相手はどうなったにゃ?」

「振り向いてくれないイケメンより、尽くしてくれる男子を選ぶほうが楽しいかもとか言ってたのですが……」

「手玉に取る気にゃの!?」

「あっ! パパ~。こないだはゴメンにゃ~」


 わしが大声を出して驚いたらサクラに気付かれてしまったが、前までの関係に戻れたので、わしはどうでもよくなって喜ぶのであった……


「喜ぶかにゃ~と思って、東の国の王子君の動画を撮って来たんにゃけど……」

「エティ君のにゃ? またカッコよくなったにゃ~。わっ! 愛してるだってにゃ。推せるにゃ~」


 あと、王子様の動画にキュンキュンしてるので、サクラの将来が心配になるわしであったとさ。

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