猫歴19年にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。医大の教師でもない。
猫歴19年はとても大事な年。年末に市長選挙はあるが、そんなことよりも1月に大事なことがある。
「にゃ~~~。入学おめでとうにゃ~~~」
猫娘ことサクラと猫息子ことインホワの中学校の入学式があるから、わしは大号泣だ。その1ヶ月前にあった卒業式もめっちゃ泣いたので、皆に呆れられている。
ちなみに3番目の猫耳娘ことシリエージョも卒業式と入学式におめかしして参加。王様の権力をここぞとばかり振るいまくって、学校に通ってもいないのにゴリ押ししてやった。だって、1人だけ仲間外れはかわいそうなんじゃもん。
3人の晴れ舞台が終わったら、あとは暇なもの。シリエージョは東の国で暮らしているから週1ぐらいでしか会えないし、サクラとインホワは学業で忙しくなったり友達と遊ぶとかで、わしと遊んでくれなくなったのだ。
もちろんどちらも王族なので、わしが警護に行こうとしたら、2人に来るなと釘を刺された。照れてるみたいだ。いや、王様が邪魔なのだろう。
なので、暇な時間は、第二陣の子供をめっちゃかわいがる。まだ2歳ということもあり手間が掛かるが、それがまた愛おしい。でも、リータたちが仕事もしろとか言うので、久し振りに猫大開発部門に顔を出した。
「進捗状況はどうにゃの~?」
各部門の話がしやすい人を集めてみたら、設計図があるのに難航中とのこと。テレビは液晶モニターだけなら完成は早そうだが、チューナー付きとなるとまだまだ掛かりそう。
そもそも電波塔とテレビ局から必要だから、そっちの部門にも声を掛けてみたが、チンプンカンプンとのこと。ここが一番のネックになりそうなので、人員の再配置が必要だろう。
ブルーレイプレイヤーもビデオカメラも、かなり遅れている。なので、記憶媒体は大量購入してた来たハードディスクとメモリーカードで代用させ、試作機製造を加速させる。
ただし、完成にはまだまだ時間が掛かりそうなので、この画期的技術をわしたちだけで独占しているのは忍びない。ここはひとつ、国民にも楽しめるようなことを考える。
やはりここは歴史に
これなら今まで作っている物よりランクは下がるし、ブルーレイディスクもDVDに無理矢理コピーさせているから、上映作品もたんまりあるから楽チンだ。
人員の再配置と共に、映画部門を作ってわしはお家に帰るのであった。
それから月日が流れ、秋になった頃にわしは珍しくインホワと2人きりになったので、男どうしの内緒話。好きな人とかは教えてくれなかったが、将来の夢は教えてくれた。
「パパの跡を継いで、パパより立派にゃ王様になるんにゃ~」
「うぅ……にゃ~~~」
「いや、いまのは嫌味も入ってるんにゃけど……」
確かにわしが立派な王様ではないと言われているけど、息子が家業を継ぎたいと言ってくれただけで、わしの涙腺は崩壊。元の世界の息子に継ぎたいと言われた時は我慢できたのに、涙もろくなったもんだ。
しかしながらインホワには言っておかないといけないことがあるので、わしが泣いていては話にならないからどこかに行こうとするインホワの足に絡みついて、気持ちが落ち着いたら真面目な顔をする。
「めちゃくちゃ嬉しいんにゃけど、ゴメンにゃ~。猫の国では、王様はわし一代限りなんにゃ」
「にゃんでにゃ~~~!!」
そして王様になれないと言ったら、インホワは怒りながら去って行くのであった。
それから2日、インホワはわしと話をしてくれなくなり、1週間後には……
「いちいち話し掛けてんじゃねぇにゃ~」
グレた。なんか短ラン着てサングラスまで掛けてる。
「ベティ! 息子ににゃんか吹き込んだにゃろ!!」
そう、ナメた猫……いや、元の世界の不良みたいな格好をしているってことは、犯人はこいつしかいない。
「いや、あたしは仕立屋を紹介しただけだよ? 面白そうだからお金を出してあげただけだよ? サングラスも掛けたら面白そうだから買って来ただけだよ??」
「どこが『だけ』にゃ! 全部ベティが買い揃えてるにゃ!!」
てへって顔をしているベティにはカツ丼を出して事情聴取してみたら、学ランはインホワがヤンキー漫画からセレクトした物らしい。
ただし、どれが似合いそうかはベティが吟味して、上着は丈が短い短ランを用意。ズボンは太いドカンと呼ばれる物にしたら、インホワは「超カッコイイ!!」ってなったそうだ。
「あんたの息子、めちゃくちゃ単純よね~」
「にゃんだと~!!」
「ウソウソ。怒らないで。反抗期なんだから仕方ないって。てか、あの服も似合ってるじゃない。ね?」
「うんにゃ~。写真撮って来るにゃ~」
「あんたも単純ね……」
日本古来のヤンキーファッションをしているインホワはかわいすぎるので、スマホで連続撮影しに行くわし。そのせいで、ベティにバカにされていたのは聞き逃すのであった。
ちなみにそんなことをしたせいで、ますますインホワから嫌われるわしであったとさ。
いい写真が撮れたところでベティに見せに言ったら、どっか行けと突き放された。だがしかし、こんなにかわいいんだからとつきまとっていると、ベティは話を変えようとしやがる。
「そうそう。新しいインスタントラーメンと冷凍食品の試作品があるけど、食べる?」
「おっ! 冷食できたんにゃ。ちょっとコリス呼んで来るにゃ~」
「やっぱ単純だな……」
ベティが何か言っていたが、わしはコリスを呼びに走って離れたので聞こえない。コリスを見付けたら「食べる!」っと即答だったので、王族食堂で試食会だ。ちなみに晩ごはん前だから、皆には秘密だ。
「お~。生麺タイプも作れたんにゃ~」
「星みっちゅ!」
「どんなもんよ!」
第三世界から帰ってから、わしたちが教育や技術や医療をなんとかマネしようと頑張っているなか、ベティとエミリはインスタント食品のパクリを頑張ってくれていたので、かなりの数が作られている。
わしの元女房のレシピも再現してくれたから、ベティとエミリ様々だ。しかし、インスタント食品を販売するに当たって問題が出ているらしい。
「問題は、発砲スチロールの容器やビニールなのよね~……そっちでなんとかならない?」
「石油がないからにゃ~……仮に作れたとしても、単価が上がるにゃろ。そんにゃの、元の世界のように使い捨てにゃんかできないにゃ~」
「あ~……安さが売りなのに、高くなるのか……でも、このスパゲティにはレンジとビニールが必須なのよね~」
「まだレンジ製作は手を付けてないにゃ~」
もうベティたちは冷凍パスタにまで進んでいたが、技術がまったく追い付いていない。なのでその話は置いておいて、インスタントラーメンの話に戻す。
これは買っていたインスタントラーメンに紙製の容器があったので、パクることで即解決。しかし、調味料を小分けするビニール袋がないので、思うようにいかない。
しばらくは、紙の小袋でいける粉末状の調味料か、もうすでに味が付いているラーメンぐらいしか販売できそうにないだろう。
「あとは冷食用のレンジと容器は早く開発してね」
「簡単に言うにゃ~。まったく開発者が足りないんにゃ~」
ここでも技術で追い付いていないので、販売までの道のりは長そうだ。いちおうわしが使えそうな技術は先に調べておくことで落ち着いたので、ベティにはもうひとつ頼み事。
「インスタント食品はその辺にして、ベティは化粧部門を担当してくれにゃい? さっちゃんたちが早くしろとうるさいんにゃ~」
「イヤよ。いっぱい勉強しないといけないんでしょ」
「そこをにゃんとか!!」
わしが土下座までしているのに、ベティはやってくんない。化粧は人体に害がある物があるから、成分を覚えるのが面倒なんだってさ。
インホワがグレてから、早1ヶ月……
「にゃあにゃあ? リーゼントはしないにゃ~??」
「うっせぇにゃ! 話し掛けるにゃ!!」
「人を殴らないと約束してくれるにゃら、木刀だったら作ってあげるにゃよ~?」
「だ、だから話し掛けるにゃと言ってるんにゃ! にゃんだそのニマニマした顔は! 俺をニャメてるにゃろ!?」
わしとインホワはケンカが絶えない。いや、ケンカ腰はインホワだけ。わしは反抗期がかわいすぎてちょっかい掛けているだけだ。でも、木刀はちょっと欲しそうだな。
そんな毎日を送っていたら、さすがにメイバイがママの顔で止めに入った。
「お父さんにそんにゃ口きいちゃダメニャー」
「でも、オヤジが悪いから……」
「いい加減、2人ともなんでケンカしてるか教えてニャー」
インホワがメイバイにもケンカの理由を語っていなかったので、わしから言うとインホワのプライドを傷付けるかもしれないのでだんまりを貫いている。
「こうなったら仕方ないニャ……話すまでモフモフしてやるニャー!」
「「ゴロゴロゴロゴロ~!?」」
てっきりインホワにだけモフモフの刑が行くのかと思っていたら、わしにもモフモフ被害。でも、メイバイは猫サンドできて嬉しそうだな。
そんな攻撃は、わしは慣れたモノ。インホワは撫でられ耐性がわしより低いので、早くもギブアップとなった。
「オヤジが代替わりしてくれにゃいって言うから……理由も教えてくれにゃいし……」
「「「「「あぁ~……」」」」」
インホワの発言に、大人たちは納得。インホワとサクラは皆が納得した顔をしているので意味がわからずキョロキョロしてる。
「そろそろ話をしてあげてはどうですか?」
「うんニャ。もうわかる歳だと思うニャー」
「……だにゃ。明日、イサベレたちを迎えに行って来るにゃ」
わしたちが深刻な顔をしているから子供たちも質問しづらいのか、この話は明日に持ち越しとなった。
そして予定通り翌日の夜、3人の子供と3人のママを離れに招き、ヒザを付き合わせて話をする。
「実はだにゃ……わしは人間ではないんにゃ」
「「「それは知ってるにゃ~」」」
「いや、四足歩行の野生の猫なんにゃ~」
「「「それも知ってるにゃ~」」」
カミングアウトは、いまいち失敗。そりゃ、見た目通りわしは人間ではないし、小説でも写真でも四足歩行の丸い猫が出て来るんだから、ママから聞いていたみたいだ。だったらわしにも教えてくれてもいいのに……
「ゴホンッ! ここからが本題にゃ。どうやらわしの寿命は千年ぐらいあってにゃ。みんにゃより確実に長生きしてしまうらしいんにゃ」
「「「え……」」」
このカミングアウトには、子供たちも驚いて言葉にならなかった。そのなかを、わしは喋り続ける。
ここにいる全員どころか孫や子孫だって見送ること。その悲しみを千年間ずっと続けること。悲しみを和らげるために、リータたちが多くの愛すべき子孫を残そうとしてくれること。ついでにリータたちの寿命も……
さらには、国のこと。千年生きるから代替わりの必要がないこと。二千人以上も処刑していること。その罪を背負わせたくないこと。そんな辛い仕事を子供たちにさせたくないことを……
話を黙って聞いていた子供たちは、わしが喋り終わると涙を浮かべてママに抱きついた。おそらく、わしの心内を感情移入してしまったのだろう。
皆がグズグズと涙を流す姿を見ていたら、インホワが一番先にわしの前までやって来た。
「オヤジ……そんにゃこととは知らず、酷いこと言ってゴメンにゃ~」
「いいにゃいいにゃ。わしが言ってなかっただけだからにゃ。この話は、もうちょっと先になるかと思っていたけど、インホワのおかげで踏ん切りが付けたにゃ。ありがとにゃ~」
「そんにゃ……俺が悪いにゃ~」
「悪いと思ってるにゃら、昔みたいにパパって呼んでにゃ~」
「それは……恥ずかしいからイヤにゃ!」
「にゃんでニマニマ笑ってるにゃ~!」
「将来子供ができたらわかるにゃ~。にゃしゃしゃしゃしゃ」
反抗期がかわいすぎて、わしの頬は緩みまくるのであったとさ。
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