猫歴17年その3にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。医者の助手ではない。


 この世界初の外科的治療は、ワンヂェン医院長の頑張りで大成功。

 患者は血を流しすぎていたのでわし特性栄養ドリンクを飲ませたら元気モリモリになってしまったので、その日のうちに退院できるぐらい元気であったが、経過観察を1週間は行った。

 その結果も、めっちゃ良好。お婆ちゃんウサギの顔色が悪いのは、王族が毎日現れるからってだけで、ワンヂェンが診る時には普通らしいからもう退院してもいいだろう。


 この結果は、広く伝えようと東の国に出向いて女王にビデオを見せてあげたら、悲鳴をあげた。お腹の中は初めて見たそうだ。わしとしては女王の驚く顔が見れて満足だ。

 外科的治療の普及は、見送り。わしのニヤケ顔が気にくわないってのもあるらしいが、こんな治療法は誰も受けたくないと言われてしまった。


 確かに元の世界でも、外科的治療の普及は時間が掛かったとは聞いたことがあるので、さもありなん。しかし、回復魔法とガンの相性の悪さがあるので、なんとしても診察方法だけでも普及してほしい。

 このお願いは女王としては受け入れたいらしいが、どうも東の国の治療院は閉鎖的らしいので、聞き入れてくれるか微妙らしい。

 そりゃ、猫の国よりうん10倍も治療費を取るヤツらだ。そのお金が東の国の財布に入っているのだから、女王も強く言えないのだろう。


「ぶっ潰すにゃ?」

「ダメに決まってるでしょ!!」


 なので解体してあげようとしたら、女王にキレられた。さすがにやりすぎみたいだ。

 仕方がないので、ここは折中案。わしがタダで教えてあげると治療院に出向くのはどうかという話で落ち着いた。これならば、診察代というお金が取れるからな。


 というわけで、やって来ました東の国治療院総本山。「たのも~」と、押し掛けたわしと女王とさっちゃん……


「にゃんでついて来てるにゃ!?」

「何かやらかさないかの見張りよ」

「てか、いまさらなに言ってるのよ。シラタマちゃんのバスに乗ってたじゃない」


 女王の言い分はわからないけど、さっちゃんの言い分はよくわかる。ここはお約束じゃもん。


 いるものは仕方がないので、とりあえず偉そうな神官たちを集めて会議。ビデオは見せるわけにはいかないので、動画に映っている手順を静止画にした資料を配布したら、わしはまた悪魔扱い。切ってるのは黒猫ワンヂェンなのに……

 神官たちが落ち着いたら力説してみたが、失笑の連続。見たことも聞いたこともない治療法に、ガン細胞を切除するのだからまったく信用してくれないのだ。

 なので、うっかり隠蔽魔法を一瞬だけ解除。それだけでこの場にいる全員が悪魔でも見るような目でわしを見た。


「いちおうこの手術法は、各国にも通達して猫市で教える予定にゃ。まぁみんにゃがやりたがらないんにゃから、普及は難しいだろうにゃ。でも、噂が噂を呼んじゃうかもにゃ~?」


 まだプルプル震えている皆を見たら、わしは話を続ける。


「猫の国には不治の病を治すことのできる医者がいるとにゃ。うち、外国人には高い治療費取ってるから、庶民は無理でも貴族辺りが訪ねて来るかもにゃ。さらに噂は広がり、貴族マネーは猫の国に落とされてウハウハにゃ~。にゃ~はっはっはっ」


 わしが笑い出すと、身動きの取れなかった皆の中で一番先にさっちゃんが声をあげる。


「お母様。これに乗り遅れてはなりません! いつしかこの医療が主流になることは目に見えています。今までシラタマちゃんが教えてくれた技術で間違っていたことはありましまか? いいえ、ありません! 全て東の国に根付いているのですよ!!」


 さっちゃんの怒濤の説得が続くと、女王はついに首を縦に振った。


「確かに利益が出るのならばやらない手はない……お前たちはどうする? 未知のモノだからと笑って、置いて行かれていいのか?? もしも何も手を打たないのならば、私が先に医学生を猫の国に送り込むぞ」


 残念ながら説得が成功したのは女王まで。神官たちは「検討する」と言って、先送りにすることで会議が終わるのであった。



「あ~あ。あんにゃに脅したから、すぐに乗って来ると思ったのににゃ~」


 治療院から帰り、お城の一室でわしがボヤイていたら女王に睨まれた。


「やっぱりアレはわざとだったのね……」

「にゃ……やらかしてすいにゃせん」


 女王に釘を刺されたことをしてしまったので、わしも平謝り。しかし、わしの本当の強さを一瞬でも感じた女王はまだ本調子に戻っていないので、それ以上は怒られなかった。


「それにしても、さっちゃんにはちょびっとだけ助けられたにゃ~。ありがとにゃ~」

「ちょびっととはなによ!」

「ヒゲを引っ張るにゃ~」


 女王とは違い、さっちゃんにわしの覇気は通じない。ナメられっぱなしだ。


「でも、あっちの医術を取り入れられないのは痛いわね……シラタマちゃん。どうしよう?」

「やっぱり治療院は潰したほうがいいんじゃにゃい? ボッタくり価格なんにゃろ??」

「確かに高いけど、どこもこんなもんだよ。猫の国が異常……シラタマちゃんが異常なだけよ」

「いま、にゃんで言い直したにゃ?」

「あははは」


 さっちゃんは笑ってごまかしていやがるが、猫の国の医療制度の説明。魔法でやる分にはほとんどタダみたいなモノなので、子供は無料、納税者は格安で治療を受けられる。納税もしていない外国人に対しては、ざっくり10倍だ。

 薬等を出す場合もあるので赤字になるから、そこは税金で負担。いまのところホウジツ首相から何も言われていないから、想定内の赤字なのだろう。でも、ちょっと気になるから今度聞きに行こう。


 とりあえず説明が終わったら、ようやく女王が動き出した。


「はぁ~……医療の考え方では、完全に猫の国に負けているわ。国民のためを思ったら、どちらが優れているか明らかだわ」

「にゃはは。女王に勝ったにゃ~」

「あなたが考えた制度じゃないでしょ。技術もパクリじゃない」

「そうにゃけど~。ここまで再現したわしも評価してくれにゃ~」


 わしの勝利はパクリ疑惑で消える。これでも、大変な思いをして制度も技術も整えたのに、何を言っても聞いてくれない。それどころか話も変えやがる。


「治療院がどうなるかわからないし、先行で軍から治療部隊を何人か送るわ。それでも動かないならば、治療院の乗っ取りに掛かるわ」

「もうさっさと乗っ取ってやればいいのににゃ~」

「やり方を間違うと血を見るかもしれないのよ」

「ふ~ん……そんにゃに物騒な組織にゃら、もしもの時は手伝ってあげるにゃ~」

「シラタマが関わるとよけいややこしくなりそうだからいらないわ」

「ええぇぇ~」


 せっかく手伝ってあげようと思ったのに断られては致し方ない。力を見せ付けて拷問し、東の国の内部にも、わしの恐怖を染み込ませておこうと思ったのに……


「やっぱり第三世界と同じことをしようとしてたのね……」

「冗談ですがにゃ~」


 不穏なことを考えていたら、女王にバレてモフられるわしであったとさ。



 それからしばらく経って、東の国治療部隊の5人がやって来たので、猫の国の各市から派遣されている医者と共に授業に参加させる。

 講師は猫の国王族。自己紹介したら、全員「なんで?」って顔。ワンヂェン医院長は多忙だから仕方がないと説明しても「問題はそこじゃない」って顔。わかったから、授業を開始しま~す。


 腑に落ちない生徒たちには、外科医への洗礼。レントゲン魔法で自分の内部を見せてあげたら、何人かぶっ倒れた。気持ち悪かったみたいだ。

 座学の授業になると、全員気絶。難しかったみたいだ。かといって、ちゃんと受けてもらわないとわしが困る。

 せめて猫の国で働く者には完璧に覚えてもらわないと、わしたちがいつまで経っても講師を続けなくてはならなくなってしまう。わしたちだって、王族が講師をしてるのは変だと思っているんじゃぞ?


 そんなこんなで授業を続け、たまに来るガン患者で実技を見せたり実践させていたら、怖いほど勉強熱心な青年がいたので猫大にスカウト。年俸に色を付けたら簡単にオッケーしてくれた。

 たぶん人体の不思議が好きなだけだと思うけど、人体実験はわしの許可なくやらせないように契約魔法で縛っておく。血を見てグフグフ笑ってるんじゃもん……

 この青年にはワンヂェンと共に腕を磨いてもらいつつ、他の症例も自主勉してもらい、行く行くは医大の創始者になってもらう予定だ。逃げられないように、お金でズブズブにしてやろうと思ったけど、いらないかも?


 東の国組は、最初は嫌々やっていたが、今まで助からなかった患者を次々と治しているのを目の当たりにしたら意識が変わり、学習要項が終わって帰ったら、わしのことを「めちゃくちゃ腕のいい医者」と宣伝してくれたらしい……

 そんなことを言うから、女王から「あなた王様でしょ? 何やってるのよ」と、冷ややかな連絡が入ったじゃろうが……


 この外科医の集団は、女王直轄の医療部隊になるそうで、まずは王都に住む貴族から押し掛け手術をするそうだ。

 もちろん「お腹切らせて」なんて言う集団は怖がられて追い返されていたらしいが、ガンが進行している者からすれば、悪魔にもすがりつきたいのだろう。たまに手術をして命を繋いだそうだ。


 手に負えない場合は、猫の国に緊急搬送。ワンヂェン主導で手術をする場合もあるし、王族も呼び出されてやる場合もある……

 膵臓すいぞうガンの場合は、さすがに無理。臓器を摘出して命を繋ぐすべも持ち合わせていないので、緩和ケアに移るしかない。その患者はモルヒネやマヒ魔法を併用して、安らかに旅立ったと聞いた。



 外科的手術は、徐々に徐々に東の国の貴族の間で広がり、治療院に少しずつダメージを与えるが、まだ動きはない。

 しかし、他国からもガン患者や教えを乞う医者がチラホラと猫の国に現れているから、急がないと東の国の治療院は廃れて行くだろう。


 こうしてわしたちの始めた医療改革は、水面下で静かに進んで行くのであった……



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 猫歴15年は予定通り別ページに移動しましたのであしからず。

 なお、最初に猫歴15年現在の登場人物紹介と、ラストに後日談を追加しております。

 登場人物紹介にはシラタマの最初に産まれた3人の子供の名前を先行公開しています。

 気になる方は『アイムキャット!!!~異世界の猫王様、元の世界でやらかす記~』をどうぞお読みください。

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