猫歴17年その2にゃ~


 医学発展のために家で医療マンガを読んでいたら、猫娘と猫息子にズルイと言われ、皆からも非難されたので、わしとワンヂェンは近所の宿屋の一室を借りて読んでいたのだが、リータとメイバイに踏み込まれて死ぬかと思った。


 だって、ワンヂェンと浮気してると疑われているのかと思ったんじゃもん。


 2人が浮気現場に踏み込んだ理由は、マンガを読みたいがため。以前、医学の勉強をしようとしたけどまったくついて行けなかったから、マンガで勉強しようと思ったらしい。

 それなら家でバレた時に言ってくれたら、こんなに心臓に悪いことにならなかったのに……子供が見ていたからですか。だからつけて来たのですか。念話という方法もありましたよ?


 これで勉強ははかどるようになったとは思うけど、専門用語が多いので、なかなか読むスピードが上がらない。というわけで、医療系ドラマも発掘。

 宿屋で試しに見てみたら、手術のシーンは子供に見せられないとなった。リアルに腹を切って手を突っ込んでいると思ったそうだ。

 まぁドラマはわりとアリかと思い、しばらくドラマ漬け。どんな病気があって、どんな術式があるのかがなんとなくわかるので、メモっておけば論文なんかと照らし合わせられるかもしれない。



 そんな感じで月日が流れ、今日も宿屋でダラダラとドラマを見ていたら、ワンヂェンの質問が来た。


「ところでにゃんだけど……」

「にゃに~?」

「このCTとかレントゲンって機械は買って来てるにゃ??」

「にゃ……」

「「「にゃ??」」」

「買ってないにゃ~~~」

「「「いまさらにゃ!?」」」


 せっかくいい感じで勉強できていたと信じていたのに、そもそも調べるすべがない。ワンヂェンたちもわしのことを罵って来やがる。


「いや、設計図はあるんにゃよ? ただ、素材が特殊でにゃ~……これ、にゃん年掛かるんにゃろ?」

「知るわけないにゃろ! 勉強が無駄になってるにゃ~!!」

「マンガとドラマを見てただけにゃろ~」


 まだスタートラインに立ってもいないのだから、いまのうちにレントゲン等の製造に着手したらちょうどよさそうだ。しかし、それまでのガン患者をどうするかと聞かれたので、対策を考えないといけない。


「普通、痛みを抑える薬を投与して、緩和ケアってのをやると思うんにゃけど……」

「痛みを抑えるだけって、見殺しってことにゃ?」

「言い方は悪いけど、そういうことにゃ。どうしても苦しいにゃらば、殺してあげるって選択もあるんにゃけどにゃ~……これは議論が必要だにゃ」

「ウチたちには、取れる手立てがそれしかないんにゃ……」


 ワンヂェンたちは、患者を殺すしか救える方法がないと知って悲しそうな顔になった。それとは逆に、わしは何か使える手はないかと考え込んでいた。


「あ、そうにゃ」

「にゃにか思い付いたにゃ!?」

「うんにゃ。ちょっとそこにうつぶせに寝てくれにゃ」

「わかったにゃ!」


 ワンヂェンは特に説明も受けていないのにわしの言う通り動いてくれたので、背中に触れながら魔法を使う。


「おっ……これは使えるかもにゃ……」

「にゃにしてるにゃ? ウチにも教えてくれにゃ~」

「う~ん……念話も使えばいけるかにゃ? んじゃ、試してみるにゃよ~??」

「にゃ!? にゃにこれ!? キモイにゃ~~~!!」


 今まで未来の治療法にとらわれていたわしは、なんてお馬鹿さん。ここは魔法もあるファンタジー世界なんだから、魔法を使えば技術が追いついてなくとも解決できることもあるのだ。

 ちなみにわしが使っている魔法は、探知魔法。何度か体内に使ったことがあるのにすっかり忘れていた。

 探知魔法の魔力をワンヂェンの体内に放ち、反射した映像をわしの脳内で見ているのだが、その映像をワンヂェンの頭の中に送っているから気持ち悪がっているのだ。


「けっこうCT画像に似てたんじゃにゃい?」

「うんにゃ……でも、ウチの体の中までシラタマに見られた、にゃ~~~」

「泣くにゃ~~~」

「「なにしたの!?」」


 ワンヂェンが被害者ぶって泣くもんだから、リータとメイバイのモフモフの刑を受けるわし。なので、リータたちにも自分の体の中を見せてあげた。


「これはちょっと恥ずかしいですね……」

「内臓まで丸見えだったニャー!」

「恥ずかしくないにゃ~。医療行為にゃ~」


 というわけで、検査問題は解決できたが、体内への探知魔法は初めての人に行うには課題が残ったのであった。



 体内への探知魔法は、ワンヂェンたちにも教えて精度を上げる研究も行い「レントゲン魔法」と命名。それと同時に外科的治療法にも着手する。

 これはさすがにドラマでは勉強できないので、医学本を漁りに久し振りに猫大図書館にやって来たら、医学本コーナーでオニヒメが立ち読みしていた。


「こんにゃところでどうしたにゃ?」

「わっ!? パパ、ママ!?」

「「「「にゃ~~~??」」」」


 オニヒメには危険察知能力があるので後ろから近付いてもすぐに気付くはずなのに、珍しく驚いているものだからわしたちは同時に首を傾げた。


「急に後ろから声掛けないでよ~」

「いや、そんにゃに驚かなくてもいいにゃ~。それよりにゃに読んでたにゃ?」

「何と言うわけじゃなくて、パパたちが何してるのかと思って適当に手に持ったんだけど、何を書いてるかサッパリだよ~」

「にゃはは。オニヒメも仲間入りだにゃ。わしたちもサッパリなんにゃ~。もし医療に興味があるにゃら、オニヒメもやってみるにゃ?」

「う~ん……どうしよっかな~?」


 オニヒメが本を戻しながら考えていたら、ワンヂェンが前に出た。


「オニヒメちゃんも、昔みたいに一緒にやろうにゃ~」

「そういえば、昔はワンヂェンさんを手伝ってたんだったね。久し振りに手伝ってあげるよ」

「やったにゃ~!」


 わしが誘っても悩んでいたのに、なんでワンヂェンならいいのだと一瞬思ったけど、みんな嬉しそうだからまぁいいや。

 ひとまず全員で、ガンの摘出手術のやり方が乗っている本や論文を探して読んでみるのであった。


「ゴメン。もうやめたい……」

「大丈夫にゃ! みんにゃわかってないにゃ~!!」


 難しすぎてすぐギブアップするオニヒメと、それを必死で止めるワンヂェンであったとさ。



「そんなに難しい本、よく読めるね」


 わしが唸りながら本を読んでいたら、オニヒメが頭を撫でて来た。


「まぁこの1ヶ月ぐらいは、医学のことばっかり勉強していたから、ギリギリだにゃ。いや、ほぼ読めてないにゃ~。にゃははは」

「そんなのでいいの??」

「いまは探し物をしてるだけだからいいんにゃ。いまやってる研究はだにゃ~……」


 ちょっとかっこつけようと思ったわしであったが、すぐバレそうなので言い直したらオニヒメは心配そうな顔。なので、何度頭が爆発したかの回数を教えつつ、ガンの研究発表。

 でも、マンガとドラマしか見ていないので、オニヒメに睨まれた。わしたちが制限時間を守っていないと思われたみたいだ。

 なので、レントゲン魔法を教えてあげたら、ビンタされた。体内を見られるのは恥ずかしかったみたいだ。


 そうこうオニヒメと遊んでいたら、メイバイが「見付けたニャー!」とか走って来たので、全員でその本を読んでみる。


「おお~。ドラマで言ってたような言葉がいっぱい出て来るにゃ~」

「ニャー? 写真もあるから、この通りやったらできるんじゃないかニャー??」

「それは時期尚早にゃ。ガン細胞ってのは、どこにできるかわからないからにゃ~」

「残念ニャー」

「ま、にゃにをしたらいいかは書いてあるだろうから、頑張って読もうにゃ~」


 一冊を回し読みすると本がすぐ痛みそうなので、コピー機で人数分コピーしたら、あとは各自で暇な時間に自主勉。猫娘と猫息子がまたマンガを読んでいると文句を言って来たので、読ませてあげたら1行でどっか行った。



 それから狩りやボランティアや仕事や子育ての合間に勉強を続け、皆でディスカッションなんかをして過ごし、わしが赤ちゃんとお昼寝していたら、血相変えたワンヂェンが走って来た。


「シラタマ~~~!」

「シーにゃ~。子供が起きるにゃ~」

「「「オギャーオギャー!」」」

「あ、ゴメンにゃ~」


 赤ちゃんがビックリして起きてしまったので、2人でモフモフあやして落ち着かせたら、ママを呼んでわしたちは下の階に移動した。


「それでどうしたにゃ?」

「ついに来たにゃ!」

「ガーーーンにゃ~」

「ふざけてないで、みんにゃを集めろにゃ~」


 ワンヂェンは冗談が通じないので、わしはダッシュでソウに向かい、地下空洞で訓練していたリータたちを連れて治療院に急ぐ。

 病室に入ると、患者であるお婆ちゃんウサギのギョッとした顔。王族の集団にめちゃくちゃ緊張していたが、全員でレントゲン魔法を使ったら別室で緊急カンファレンスだ。


「全員、書けたにゃ~?」

「「「「はいにゃ~」」」」


 レントゲン写真はないので、患部は手書き。上手い下手は置いておいて、おおよそ同じような絵となった。


「わりと……小さいかにゃ?」

「うんにゃ。お年寄りには実験で魔法を使ってたら、たまたま見付けたんにゃ」

「おお~。早期発見ができてるにゃ~」

「これにゃら痛みが出る前に治せるにゃ!」

「そうにゃろうけど、問題は陰性か陽性だよにゃ~」

「にゃ!? それがあるのを忘れてたにゃ~」


 ワンヂェンはガン細胞の発見に浮かれていたから忘れていたようだけど、結局のところ陰性と陽性を調べるすべがないので、ぶっつけ本番の手術をすることでカンファレンスは終了となった。


「わしから説明させてもらうにゃ~」

「は、はい……」


 王様のわしがモルモットとなってくれとお願いしたら、患者は「ノー」とは言えない。なので、代わる代わるメリットとデメリットを家族を交えて説明し、よく話し合うように言ってこの日は撤退した。



 2日後……


 お婆ちゃんウサギも家族も反対どころか先の危機を未然に防げること、また、未来の医学に役立つことを納得して、この世界初の外科的治療を行うこととなった。


「ワンヂェン……絶対にわしが死なせはしにゃいから、気軽にやれにゃ」

「う、うんにゃ……では、ガン細胞摘出手術を開始するにゃ~」

「「「「はいにゃ~」」」」


 執刀医は、ワンヂェン。わしが助手。リータとオニヒメがナース。メイバイがビデオカメラを持って記録係だ。

 この日のために、魔法書からマヒ魔法と睡眠魔法をマスターしたモノをワンヂェンに教えておいたので、患者への痛みはないと思われる。


「メスにゃ……」

「はい」


 手術方法はドラマの見よう見マネ。ただし、医学書で勉強はしたので、開腹手術ならなんとか行えるが、普通はメスとかは危ないからナースから受け取らないらしいので、この方法が流行らないか心配だ。

 ワンヂェンは白銀に輝くメスの先端を慎重に患者の腹部に当て、力も入れずに切開。いい感じに患部の辺りまで切ると、わしがその切り口を器具で固定し、見やすくする。ちなみに医療器具もわしのお手製だ。


「脱脂綿にゃ。それと吸引にゃ」

「「はいにゃ~」」


 これも見よう見マネだが、開口部の血がある程度除去されたら皆でガン細胞を確認する。


「教本通りだにゃ」

「うんにゃ。こう言うとお婆さんに悪いけど、練習には持って来いだったにゃ」

「んじゃ、ちゃっちゃと処理しちゃおうにゃ。ワンヂェン、少し大きく切り取るんにゃよ~?」

「わかってるにゃ~。シラタマ、鉗子かんしをお願いにゃ~」


 患部の近くの血管を押さえたら、ガン細胞を切除。綺麗に切れたのを皆で確認したら、切除部をわしが指でつまみ、ワンジェンの回復魔法。血も止まり、見た感じは何もなかったようなできだ。


「いいんじゃにゃい?」

「やったにゃ……やったにゃ~~~!」

「にゃはは。まだ終わりじゃないにゃ~」

「うんにゃ! みんにゃ、置き忘れがないか確認してくれにゃ」

「「「はいにゃ~」」」


 お腹の中に医療器具の置き忘れがないのを全員で確認したら、綺麗に洗浄してから寄生虫でも殺せる【ノミコロース】でウィルスを除去。

 そしてまたわしが開口部を指で押さえたら、ワンジェンが回復魔法を使って完璧に閉じる。さらに【ノミコロース】を念のため掛けたら……


「ガン細胞摘出手術の完了にゃ~」

「「「「おめでとうにゃ~」」」」


 ワンヂェンの言葉のあとに、わしたちは温かい拍手を送るのであった……

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