猫歴17年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。電気屋さんでも水道屋さんでも建設作業員でも倉庫スタッフでも編集スタッフでも学長でも技術開発者でもない。


 猫歴16年は何かと忙しい年であったが、大学の学問部門も開発部門もなんとか軌道に乗ったので、あとは丸投げ。もしも結果が出なかったらわしのポケットマネーを止めて解散するだけなので国に損害はない。

 まぁ、とにかく変人共を集めて来たので、ここよりいい職場は見付からないだろうから、死ぬ気でやり遂げるだろう。


 でも、ちょっと覗いたら死にそうなヤツがいっぱい居たから焦った。こいつらは研究バカばかりなので、メシも睡眠も二の次だったのだ。

 なので、契約魔法の「秘密厳守」の命令以外を追加。「規則正しい生活」を入れてやった。しかし、それでは何かとはかどらないと思うので、残業や休日出勤をプラス。過労死レベルより下にしたから、死にはしないだろう。


 そんなこんなで暇になったので、お昼寝したり小学校の教科書を読んだり、ハンターの仕事をたまにしたりお昼寝していたら、立て続けに家族が増えた。


 そう、側室の子供だ。忙しいとか言いながら、やることはやっていたというツッコミはやめてくれ。6人も相手がいて、疲れてるなんて言えるわけないじゃろ。


 まず最初に産まれて来てくれた子供は、エミリの娘。先の2人と同じく白猫だ。手は人間の手に近いので、二足歩行の猫になると思われる。

 エミリもエルフにクラスチェンジしてしまっているので衰弱が酷かったが、魔力濃度の高いソウの地下にある別宅で1ヶ月の静養をしたら、体調が戻ったのでホッとした。


 次に産まれて来てくれた子供は、お春の娘。ただ、真っ黒なモノが産まれて来たので、かなりビビった。だがしかし、どんな姿でもわしの子供。愛情込めて抱いたら、黒猫だったので心底ホッとした。

 手も人間に近い物であったので、おそらく黒猫ワンヂェンと同じように育ってくれるはずだ。ただし、尻尾の形が少し違う。様子を見ていたら、キツネの尻尾みたいな毛並みになったので、キツネ族の血がここに現れたみたいだ。


 ラストに産まれて来てくれた子供は、もちろんつゆの息子。こちらも黒猫だったけど、二度目なので驚きは少ない。ワンヂェンはめっちゃ嬉しそう。仲間が増えたもんな。

 尻尾の形はタヌキ。その他はわしの血が色濃く出ているので、ね、こ……すまん。わしにもタヌキにしか見えない。ベティとノルンがめちゃくちゃ笑っていたので、国外追放にしてやった。でも、泣いて謝って来たから許した。


 お春とつゆも何故か体調を崩していたので、ソウの地下施設で1ヶ月の静養。もしかすると、わしのご先祖様がハーレムを作っていたのは、出産が原因だったのかもしれない。

 産後10年で妻に立て続けに死なれては、わしだって悲しすぎる。原因がわかっていればハーレムなんて作らなかった可能性もあるが、ご先祖様は100パー猫だからそこまで知恵が回らなかったのだろう。


 こうして家族が増えたわしは、またしても子育てで忙しくなるのであった。



 3人の静養が空けたら、猫市に戻っていつもの生活。3人ともしばらく仕事は休むように言っているのに、何かと働いてしまう。エミリとお春は、王妃に料理の手伝いや掃除洗濯をさせることが気になってしまうみたいだ。

 つゆは……機械がイジリたくてイジりたくて仕方がない模様。出産予定日ギリギリまでなんか作っていたからな。


 もちろんわしは、今日も赤ちゃんのお世話。ミルクを飲ませてゲップも出させたら、屋上の縁側で日光浴。おネムのようなのでゲージの中に入れてお昼寝。

 全員モフモフだから、はたから見たらペットショップみたいだろうけど、赤ちゃんの安全を考えてゲージに入れているのだから全員売り物ではない。


 そんな感じで心の中で言い訳をしながら赤ちゃんを寝かし付けていたら、ワンヂェンが離れにやって来て縁側の一番端に腰掛けた。


「にゃに~? 気になるんにゃけど~??」


 ワンヂェンはわしをチラチラ見てずっとため息を吐き続けるので、無視していたけどついに根負けしてしまった。


「ちょっと仕事でにゃ……」

「にゃんかやらかしたにゃ?」

「やらかしたというか……どうしたらいいかわからないんにゃ~」


 ワンヂェンは目に涙を溜めているので、けっこう深刻な話みたいだ。さすがにこんなペットショップの商品みたいな体勢で聞くのは申し訳ないので、ダッシュでママを呼んで来て、わしとワンヂェンは空中庭園で話をする。


「それで……にゃにがあったんにゃ?」

「同じ症状の人がにゃ……」


 ワンヂェンの悩みとは、治療院でのお話。どうやらここ最近、治療院に運ばれた患者が立て続けに亡くなったそうだ。

 まさかそんなことになっていたとは初耳なので、ウィルス性の病気をわしは疑ったのだが、詳しく聞くと違う病気の可能性が出て来た。


「お年寄りばっかりなんにゃ……」

「うんにゃ。痛いところに回復魔法をしたら、痛みは引いたと言われたんにゃけど、その後、血を吐いて苦しみ出したんにゃ。やっぱりこれって、ウチのせいで死んだのかにゃ……」

「う~ん……」


 ワンヂェンが泣きそうになっているので、わしはどう声を掛けていいか悩む。


「例えばにゃよ? 知らない病気に、自分の持てる全てを出して立ち向かった医者がいたとしようにゃ。それでその病気を治せずに患者が死んだら、ワンヂェンは医者が殺したと思うにゃ??」

「ううん……その医者は頑張ったと思うにゃ」

「その医者が自分だとしてもにゃ?」

「それは……へこむにゃ……」

「だろうにゃ~。でも、それを乗り越えるのが医者の仕事でもあるにゃ。いま治らない病気でも、未来には治る病気にしなくちゃいけないんにゃ。例え犠牲が出たとしてもにゃ」

「言ってる意味はわかるけど……てか、シラタマがそんにゃ話をするってことは、やっぱりウチが……」


 ワンヂェンを慰めるつもりだったが、わしの言いたいこととは違うふうに受け取られてしまった。


「それは違うにゃ。時代のせいにゃ。誰だって最初の病気では、誤診やミスをしても仕方がないにゃ。いまワンヂェンがすることは、亡くなった原因を調べることにゃ。次に、どうやったら救えるかを考えるんにゃ。さすれば、死んだ人のおかげで、多くの人が救えるようになるんにゃ~」

「そうだにゃ……うつむいている場合じゃないにゃ。ウチ、頑張るにゃ~!」


 なんとかワンヂェンが元気になってくれたところで、変な質問がやって来る。


「それで……シラタマはこの病気のことを知っているようにゃ感じだったけど、未来では簡単に治る病気にゃの?」

「簡単ってわけじゃないけど、かなり死者数が減ってるみたいだにゃ~……にゃ? いま、未来がどうとか言わなかったにゃ??」

「2年前に、未来に行って帰って来たんにゃろ? てか、シラタマは未来人だからイロイロ知ってたんにゃろ??」


 ワンヂェンにはわしの秘密を喋っていないはずなのに、何故か詳しく知っているので嫌な汗が出て来た。


「にゃ、にゃんでそれを知ってるんにゃ……」

「にゃんでって……ウチ、キャットタワーで暮らしているからにゃ」

「にゃんてこった!?」

「にゃにいまさら驚いてるにゃ? まさか……ウチが住み込んでいるの忘れてて、テレビとか持ち込んだにゃ??」

「にゃんでその時もっと驚かないんにゃ~~~!!」


 完全にわしのミス。いつも普通に王族居住区にワンヂェンがいたので、いらんことをいつも口走っていた。ワンヂェンもワンヂェンで、わしの秘密が次々に出て来るから黙って聞いてたらしい……


「もうその話はいいにゃろ~。この病気はいったいにゃんなんにゃ~」

「ガーーーンにゃ~」

「ショックを受けてるのも、もうわかってるにゃ~」


 わしのボケはワンヂェンには伝わらず。高等すぎたみたいだ。


「日本名で、ガンって病名にゃ」

「これだけ真面目な話をしてるのにふざけてたにゃ!?」


 いや、ふざけているだけと受け取られたみたいだ。



 それからワンヂェンに「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」罵られながら移動した場所は、猫大図書館。自分で仕分けしてなんだけど、どこに何があるかわからないので、インデックスで確認してから医学書関連が並んでいる区画に連れて行った。


「ここは来たことないにゃ~」

「ワンヂェンたちは、マンガばっかりだもんにゃ~」

「面白いんだから仕方ないにゃろ~」

「てか、いつの間に日本語読めるようになってたにゃ?」

「ほら? 日ノ本でシラタマが絵本買って来たにゃろ? みんにゃ面白いって言うから、頑張って覚えたにゃ~」

「その頃からマンガばっかり読んでたんにゃ……」


 新事実。もうすでにマンガのような絵本が広まっていたから、猫の国でも日本語を覚える人が多いみたいだ。

 それならば何も問題ない。ワンヂェンにも手伝ってもらい、「ガン」と書かれた本を片っ端から集めてテーブル席で熟読。


「「難しすぎるにゃ~~~」」


 でも、2人してすぐにギブアップ。なのでわしは、本をペラペラ捲って適当な写真を指差す。


「これが『ガン』らしいんにゃけど、わかるかにゃ?」

「にゃんか膨らんでるヤツにゃ? こんにゃの見せられてもわからないにゃ~」

「だよにゃ~」

「そもそも、この写真はどうやって体内の写真を撮ってるにゃ?」

「これは……切開してじゃにゃい??」

「切開って……切ったにゃ!? そんにゃの死んじゃうにゃ~!!」

「図書館で大声出すにゃ~」


 ワンヂェンに騒がれると、口調がそっくりだからわしが騒いでいると勘違いされそうで嫌だ。


「わしが知ってる知識だけで言うとにゃ。ガンとは、細胞が増殖する病気にゃ。人間で言ったらコブってのがあるにゃろ? 膨らむヤツにゃ」

「あ~……それが体内にできるってことなんにゃ」

「そうにゃ。厄介にゃことにこの細胞は、人体には正常だと騙して際限なく増え、さらに広がって行く病気なんにゃ」

「だから切らなくちゃいけないんにゃ……」


 ワンヂェンがある程度わかってくれたら、今回の死因をわしの口から告げる。


「ハッキリしたことはわからないけど、ガンに回復魔法を使ったから、増殖してしまった可能性があるにゃ」

「そ、そんにゃ……」

「ワンヂェンのせいじゃないにゃ。わしだって、その患者を見ていたら同じことしていたにゃ。他国でも同じことしてるかもしれないから、今度教えに行って来るにゃ。ほら? ワンヂェンのおかげで、早くも医療事故がなくなりそうにゃ~」


 わしがよくやったとワンヂェンの頭を撫でてあげたけど、まだ解決策も提示できていないので、次の作戦に移行する。


「とりあえず、医療マンガでも探してみようにゃ~」

「そんにゃので病気が治るにゃ?」

「治らないけど、知識だけは増えるかもにゃ~?」

「まったく解決してないにゃ~」


 というわけで、まずは知識量を増やそうと、医療マンガを読み漁るわしとワンヂェンであった……


「「あ~~~! パパとおばちゃんがマンガ読んでるにゃ~~~!!」」

「これは仕事にゃ~」

「お姉ちゃんって呼んでにゃ~」


 家にまで持ち帰って読んでいたら猫娘と猫息子に見付かって、「にゃ~にゃ~」文句を言われるのであった。


「プププ。おばちゃんにゃって?」

「シラタマだっておじちゃんって呼ばれてたにゃ~~~!!」


 あと、わしとワンヂェンは、おじちゃんおばちゃんと呼ばれることが納得いかないのであったとさ。

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