猫歴15年その後その2にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。


「「あくまにゃ~~~」」


 いちおう角は生やせるが、娘猫と息子猫が言うような悪魔ではない。


「「あくまにゃ~~~」」


 猫だと言っておろう。


 何故このようになったかと言うと、王族全員引きこもりになっていたので、わしがゲームやテレビの制限時間を設けたら、全員から恨まれたからだ。

 リータとメイバイはお母さんだからわしが正しいことを言っているということは頭ではわかっているのだが、恨みは残っているので、全てわしのせいだと子供たちに説明しやがったから集中砲火を受けているのだ。


「「あくまにゃ~~~」」

「わかったにゃ。テレビは3時間までに緩和にゃ。これで許してくれにゃ~」

「「パパにゃんてキライにゃ~!!」」

「わかったにゃ。ゲームは……むぎゅっ!?」


 子供たちに嫌われたくないわしが緩和していたら、リータとメイバイに顔を挟まれてしまった。


「シラタマさん。お仕事の時間ですよ~?」

「いや、今日は休み……」

「本とかの仕分けがあるニャー?」

「それは明日から……」

「「いますぐやる!!」」

「はいにゃ!」


 何故か2人に怒鳴られたので、本当に休みなのにわしはキャットタワーから飛び下りてお仕事。

 でも、どこから手を付けようかまだまったく考えていなかったので、子供が学校に行く時間に合わせてキャットタワー屋上の離れに戻って、考えるていでお昼寝。

 めっちゃ撫でて来る人がいるなと思って目を開けたら、リータとメイバイが両隣に座っていた。


「すいにゃせん!!」


 仕事に行くとか言って出て行ったのに、サボっていた現場を現行犯で見られたのだから、わしは思わず土下座してしまった。


「なに言ってるんですか」

「怒鳴ってゴメンニャー」

「にゃ~~~?」


 2人が優しく撫でて来るのでどうしたのかと思ったら、先程のやり取りはわしの制限時間の緩和を止めるためだったらしい。子供に甘いわしにあのまま喋らせると、いくらでも緩和するのではないかと焦って止めたそうだ。


「それにしても、シラタマさんはテレビとかゲームにあまり興味を持ってませんよね?」

「あんなに面白いのに、なんでニャー?」

「わしはほら? 老後にやることなかったから、2、30年ぐらいテレビとゲーム漬けだったからにゃ。だいたい似たようにゃことばかりだから、目新しさがないんにゃ」

「そんなに!?」

「いいニャー」

「それまでずっと働いていたんだから、ちょっとぐらいいいにゃろ。てか、若い頃も仕事や人と喋るほうが面白かったから、特に見たいともやりたいとも思わなかったしにゃ~。あ、若いといっても、4、50代ぐらいだったにゃ。にゃはは」


 わしは本当に興味がないと言っているのに、2人は半信半疑だ。


「そのわりには働きませんよね?」

「寝てばっかニャー」

「今世は猫だからにゃ~」


 わしの生活態度が悪すぎるので、2人は自分たちがしっかりするしかないと結論付けて、子供とわしの教育に力を入れるのであった……


「わしは間に合っていますにゃ~。ゴロゴロ~」


 わしまで教育対象に入っていたので、猫撫で声を出してお昼寝時間を勝ち取るわしであったとさ。



 今日は1日中お昼寝していたが、3時頃になるとさすがに寝すぎとリータたちに起こされて、懸案事項を聞かされた。

 確かにそれは面白そう……心配なので、東の国に転移してこっそり覗いてみたら、さっちゃんと子供たちが女王に説教されてる最中だった。


「やっぱりにゃ~」

「あ、シラタマ。どこから忍び込んだかわからないけど、いいところに来たわ」


 リータたちの心配は、女王たちの引きこもり状態。わしとしては東の国が面白いことになりそうだから放っておいてもいいかと考えていたが、女王には甘い誘惑は効かなかったみたいだ。


「まったくゲームばっかりして……こんな物のどこが面白いのよ」


 いや、女王はまだゲームに手を付けてなかったからギリ助かったと思われる。


「女王に助言しておくにゃ。女王がゲームをやったら、東の国が終わるにゃ。それほど面白くて中毒性がある物なんにゃ。絶対にやっちゃダメだからにゃ」

「そんなこと言われると気になるじゃない……」

「気にしてもダメにゃ~。超面白いから、続きがやりたくなるんにゃ。ついついゲームに手が伸びるんにゃ。仕事も忘れてやってしまうんにゃ~」

「そう……ゲームは引退後の楽しみに取っておくわ」

「にゃ? やりたくないにゃ?? この流れはやるとこにゃろ~」

「やっぱりあなた……私にやらそうとわざと怖がらせていたのね……」

「にゃ~~~!! ゴロゴロゴロゴロ~」


 わしの策略など女王にバレバレ。そのせいで、さっちゃんたちが怒られている間、わしはモフモフの刑に処されるのであったとさ。



 それから猫の国はどうしているのかと洗いざらい吐かされたら、東の国でも同じく時間制が導入される模様。これは確かにわしの案ではあるが、決めたのは女王だ。


「「おじちゃんのせいだ……」」

「パパ、キライ……」

「シラタマちゃんのバカ……」

「苦情は女王に言ってくれにゃ~」


 なのに、恨みはわしに飛んで来た。女王は怖すぎるから、ストレス発散にわしに怒りをぶつけていると思われる。でも、さっちゃんはお母さんなんだから止めようよ~。


 こうしてわしは子供たちに恨まれるだけ恨まれ、女王がいるのだから心配する必要はなかったと肩を落としてお家に帰るのであったとさ。



 娯楽問題がギリ解決したら、わしはせかせかと働く。写真を現像してアルバムにまとめ、自分たちで撮った画像や動画、テレビ局から貰った動画をパソコンで編集。


「「パパがひとりでテレビみてるにゃ~~~!!」」

「これは仕事にゃ~」

「「ズルイにゃ~~~!!」」


 わしが仕事部屋に隠って作業していたら子供たちに見られてしまったので、つゆ専用工房の横に隠し部屋を作って黙々と作業し続ける。

 ちなみに王様のわしが1人でこんな雑用をしている理由は、誰にも頼めないから。オーバーテクノロジーは知られるわけにもいかないし、リータたちに任せるのも難しい。でも、量が大量なのでノルンに泣き付いた。


 ひとまず写真と動画が片付いたら、居間で皆と観賞会だ。


「「「映画~」」」

「「「アニメ~」」」

「「「ドラマ~」」」

「これは制限時間に含まれにゃいから一緒に見ようにゃ~」


 せっかく急いで編集して思い出話をしたかったのに、皆は違う物が見たかったみたいなので量的緩和。そのおかげで笑顔になってくれたし、思い出話も弾む弾む。

 しかし、動画の1週間分ぐらいの辺りで子供たちがバタバタと倒れた。長すぎておネムの時間になったみたいだ。

 大人たちはまだ行けるとか言っていたけど、観賞会はお開き。いまから映画を見るらしい……


 たまにはわしも付き合って映画鑑賞。悲恋モノだったので、全員号泣してから眠りに就いたのであった。



 翌朝は、子供たちに目が腫れていることを勘繰られたが、なんとか騙して学校に送り出す。そしてリータとメイバイを離れに呼び出して、わしは写真を並べた。


「全部オニヒメちゃんですね」

「どの写真もかわいいニャー」

「かわいいとかの前に、にゃにか気付かないにゃ?」

「にゃにかと言われましても……」

「これ、右から古い順に並んでるんにゃ。それも1年ごとににゃ」

「1年ごとニャー?」

「「……あっ!?」」


 わしの説明を聞いて、2人は同時に驚きの声を出した。


「どうなってるんですか!?」

「ずっと一緒ニャー!!」

「そうなんにゃ。わしも昨日写真を並べて気付いたんにゃけど、オニヒメはまったく成長してないんにゃ~」


 オニヒメと出会ったのは13年前。それまで300年の眠りに就いており、わしが目覚めさせた時にはだいたい12歳前後に見えた。

 記憶が戻ってから聞いたら当たっていたので子供として接して来たが、起きてる時間だけを足したら立派な大人。25歳のレディだ。

 リータたちもエルフになってからあまり見た目が変わっていないから、いまになって気付いて焦りまくっているのだ。


「しまったにゃ~。こんにゃことにゃら、向こうで精密検査を受けて来るんだったにゃ」

「言ってる意味はわかりませんけど、歳を取らないって、オニヒメちゃんは大丈夫なのでしょうか?」

「わからにゃいから精密検査で調べたかったんにゃ」

「その精密検査? 向こうでいろいろ買って来たんだからできないニャー??」

「わしは医学の知識がないから無理にゃ~」


 オニヒメのために頑張りたいところだが、医者にクラスチェンジするには、わしの頭では厳しい。教科書や論文なんかはかなりの量を集めて来たつもりだけど、独学での勉強になるから、いったい何年掛かるかもわからない。


「シラタマさんがやらないなら、私がやります!」

「私もやるニャー! 絶対にお医者さんになってやるニャー!」

「2人がやりたいにゃらわしも頑張ってみるにゃ~」


 リータとメイバイがやる気に満ちあふれているので、わしだって負けてられない。医学の勉強に励むわしたちであっ……


「「「無理にゃ~~~」」」


 しかし、1時間もしないうちにサジをぶん投げる。まったく学力が追いついていないので、論文が頭に入って来ないわしたちであったとさ。



「頭痛いニャー!」

「どうりでシラタマさんがすぐに諦めるわけです」


 メイバイもリータも勉強の難しさに納得してくれたが、オニヒメを助けたい気持ちは変わっていない。


「第三世界の人は、本当にこんな難しいことを全部覚えているのですか?」

「そんにゃの極一部にゃ。向こうでは、子供の頃から勉強して勉強して、難しいテストを乗り越えて、ようやく医学生になれるんにゃ」

「それだけやってまだ学生ニャ!?」

「そうにゃ。医学生になったらまた勉強して勉強して、難しい実技をクリアして、やっと医者になれるんにゃ。そうじゃにゃいと、薬や手術で人を殺してしまうからにゃ」


 2人も第三世界で医者の手術を見ていたので、わしの言っていることは理解できている。


「でも、これからどうしましょう……」

「基礎学力を向上して行くしかないだろうにゃ。わしたちだけじゃ救える人数に限りがあるから、国民全員の学力を上げて、医者になれる人材をいっぱい作り出すことが、国に取って一番いいことだと思うんにゃけどにゃ~」

「それって……」

「うんニャ……シラタマ殿がずっとやってることニャー!」


 猫の国は、この世界でただ一国だけ義務教育を取り入れている国。この政策には2人も疑問を持っていたので、今日、初めて、尊敬の目を向けてくれた。


「まぁ先に本人から聞き取りしてみようにゃ。できるだけ心配している空気は出さずににゃ。オニヒメに不安を与えないようにいつも通りにゃ~」

「「はいにゃ~」」



 今日のオニヒメの予定は、コリスと一緒に子供たちの護衛で小学校に行っているので、わしたちも第三世界で買って来た小学校の教科書を読んで時間を潰す。

 わしが教師をしてリータとメイバイが頭から煙を上げていたら、オニヒメたちが帰って来たので、ゲームをする前に話しがあると言ってオニヒメを離れに呼び出した。


「早くゲームしたいのに~」

「ゴメンにゃ~。すぐ終わるにゃ~」


 何をどう聞いていいかわからないので、とりあえずわしは探りを入れる。


「オニヒメって、今年いくつになったにゃ?」

「やっと気付いたの??」

「にゃ? どういうことにゃ??」

「だって、ずっと子供扱いしてるから、いつまで子供の振りしてればいいかわからかったんだよ~」


 なんのことはない。わしたちのせいで、オニヒメは大人になれなかっただけ。


「ゴメンにゃ~。てことは、その姿も変身魔法かにゃにかで維持してるんにゃ」

「そうだよ。元の姿見る?」

「うんにゃ。見せてにゃ~」


 オニヒメの大人の姿を見れてわしたちは心底ホッとしたのだが、娘の成長をまったく見れずに大人になったので、涙が出てしまった。


「ゴメンにゃ~。わしたちが気付いてあげていたら、こんにゃに窮屈なことにならなかったのににゃ~。うぅ……」

「本当だよ。子供の大きさに慣れてしまったから、戦闘も難しいんだよ。だから、しばらく子供のままで行くからね」

「うんにゃ。ゴメンにゃ~。にゃ~~~」

「謝りすぎだよ~」


 わしたちはオニヒメに悪いことをしたと抱き締めて泣いていたが、オニヒメは早くゲームがしたいとあっけらかんと去って行ったので、その場に残って泣き続けるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「アレでよかったの?」


 離れから出た先にはコリスが立っていたので、オニヒメはドアを閉めてコリスと階段を下りながら喋る。


「いいの。お姉ちゃんには悪いけど、もう少しだけ秘密にしておいて。お願い」

「いいけど……モフモフたちを悲しませちゃダメだよ?」

「わかってる。わかってるからこれしかないの……ごめんね。お姉ちゃん……」

「ヒメ……」


 何やらシラタマたちには言えない秘密を抱えている、オニヒメとコリスであった……

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