猫歴12年その3にゃ~


 リータたちがUFOから飛び降りて地面に足跡を残し、それをメイバイが写真に撮るなか、わしは足に巻かれた黒魔鉱製の鎖を引きちぎる。

 そして遅ればせながらわしも飛ぼうとしたら、ベティに両足を掴まれてまたビッターンと顔から倒れた。


「にゃにするんにゃ~」

「あたしも連れて行ってよ~。ジラダマぐ~~~ん」

「う、うんにゃ。そんにゃことで泣くにゃ~」


 ベティが引くほど泣いているので、わしも怒るに怒れない。てか、リータが黒魔鉱なんかでわしたちの足を結ぶから、ベティの鉄魔法では切ることもできなかったみたいだ。

 なので、黒魔鉱の鎖は防護服と共に鉄魔法で集めて次元倉庫に。命の恩人かってくらい感謝するベティを押し返し、土魔法で作った長い鎖を固定して腰に巻き、ようやく遅ればせながら月に下り立つわしとベティであった。



「これは人類にとっては小さな一歩だが、1人の人間にとっては大きな一歩である……」

「人類と人間が逆になってるにゃよ?」

「え? うそ!? この一歩は……」


 月に下り立ったら、アポロごっこ。2人で「にゃ~にゃ~」騒ぎながら写真を撮りまくり、ベティが月に頭突き入れた写真もパシャリ。


「失敗の写真はいいでしょ~」

「だって、この世界で月に一番最初に降りたのはベティにゃし……」

「ひょっとして教科書に載る!? ムムムムム……」


 恥と偉人を天秤に掛けるベティは何か考え出したので、わしは遊んでいるリータたちの輪に入る。


「にゃにしてるにゃ?」

「北極と南極でしたように、記念プレートと石像を作ってました!」

「ここも猫の国ニャー!」

「にゃ……」


 またしても、リータとメイバイは勝手に猫の国の領土を増やす始末。わしの石像を土魔法で作り、プレートには日付と猫の国と刻まれていた。


「女王も作ってもらったんにゃ……」

「ええ。記念にね」

「ちなみにここを猫の国にしていいにゃ?」

「空気がないのに誰が住めるのよ。好きにしなさい」

「それでいいんにゃ……」


 先見の明のある女王でも、月の資源を計算し忘れている。まぁ、現時点ではUFOでしか来れないし、資源を持ち帰るにもどれだけ費用が掛かるか計算できないのでは、許可しても仕方がないのだろう。

 というか、北極と南極も猫の国ってなっていることに何も言って来ないから、人の住めない地には、いまのところ興味が持てない節があるようだ。


 わしとしても、後々絶対揉める場所を国にしたくないので、力業ちからわざで黙らされると思っているけど、リータとメイバイにスリスリしながら意義を申し立てたが、やっぱりモフられた。

 しかしメイバイとは違い、リータは優しく撫でているのが気になったので質問してみる。


「にゃんか体調に不調でもあるにゃ? ゴロゴロ~」

「いえ、懐かしくって……」

「あ~……故郷に似てるにゃ? ゴロゴロ~」

「はい。そっくりです!」

「にゃはは。意外と早く見付かったにゃ~」

「よかったニャー!」


 リータが喜ぶとメイバイも自分のことのように喜ぶ。


「そういえば、ツクヨミはリータのおかげで世界が発展するとか言ってたんにゃろ? ひょっとすると、この月のような世界から、色とりどりの世界に変わるのかもにゃ~」

「それだといいですね! 一念発起して転がった甲斐がありました!!」

「ま、にゃん万年も先の話だから、わしたちが生きているうちに確認が取れないのが残念だにゃ~」


 生命の誕生には長い長い時と奇跡の連続が必要なのだからリータの功績を見れないが、リータが生きているうちに、ツクヨミの世界に行こうと話し合うわしたちであった。



 そうこう話し込んでいたらベティが走って来て、アポロごっこの再開。「国旗を立てようぜ~!」って鼻息荒いから立ててあげたら、めっちゃ笑い出した。


「きゃはは。シラタマ君の顔、出さないでよ~。きゃはははは」


 うちの国旗は猫会議の結果、わしの顔。ゆるキャラみたいな顔をしているからわりとシンプルな国旗となっているが、東の国組はいつも半笑いするからムカつく。

 ベティ&ノルン、あとワンヂェンはいつも腹がちぎれるぐらい笑ってしまうから、あまり見たくないらしい。

 しかし、アポロごっこの見るところはそこではない。


「ありゃりゃ。風がないからたなびかないにゃ~」

「きゃはは。アレって棒で支えてるんじゃなかったっけ? きゃはは」

「こうかにゃ? あ、真空じゃないからこれもちょっと違うにゃ~」

「きゃはは。結界の向こうでやってみたら? きゃはははは」

「まず、笑うのやめてくんにゃい??」


 ベティは笑いながらでも助言してくれたが、腹が立つので自分から離れる。そして結界のギリギリまで近付いたら、ぶ厚いガラスと黒魔鉱でクモみたいな四つ足の乗り物を作り、各種魔道具を設置して中に入る。

 安全対策でコリスに鎖を持ってもらったら、鉄魔法でこの乗り物の足を動かして結界の外へ。少し怖かったが、空気魔法のおかげで息苦しさはまったくないので安心だ。


 結界から少し離れた場所に国旗を立てたら、ついでの調査。土魔法の魔道具を使い、地下10メートル程までの土を筒状にして2本引っこ抜く。

 これを輪切りにして番号を振った土の箱に密閉したら、間違いないなく不純物のない月の標本だ。いつになるかわからないが、研究者と施設ができたら研究してもらおう。


 やることが終わると、ガシャンガシャンと結界の中へ帰還。確実に空気がある場所まで進んだら、狭い視界に子供たちの姿が目に入ったので、わしは慌てて乗り物をパカッと開いて大声を出す。


「近付くにゃ! 子供の鎖を引けにゃ~~~!!」


 わしが焦っているのが皆には伝わり、子供は急停止。からの引っ張られてママの元へと吹っ飛んで行った。


「怒鳴ってごめんにゃ~。アレに触れていたら、大怪我してたんにゃ~」


 結界の中が適温だったから忘れていたけど、現在の場所は太陽が当たっているので表面温度は摂氏100度。結界の外に出た時に気付いて【熱羽織】という魔法を使ったからわしは大丈夫だったが、乗り物はあっと言う間に高熱になったのだ。

 そんな物に触ったら、火傷は確実。鉄なので、下手したら皮膚がくっついて剥がれていたたろう。

 その説明を聞いた子供たちは、わしが怒鳴ったことは許してくれた。でも、地上に戻ったら、この気持ち悪い乗り物に乗りたいとのこと。ロボットみたいでかっこいいそうだ。



「あっ! 揺れてる……やっぱり宇宙には風があるのよ!!」


 子供問題が解決したら、ベティは本来の目的に戻って国旗を指差した。


「アレは……風というより慣性の法則で動いているんじゃないかにゃ~?」

「慣性の法則って、急ブレーキ掛けた時のアレでしょ? それであんな動きになるもの??」

「宇宙は真空状態にゃんだから、空気抵抗もないじゃにゃい??」


 ここでわしとベティは宇宙談義。皆も興味があるから聞いていたので、楽しい理科の実験だ。

 結界から出ると視覚と魔法に制限があるので、土魔法を結界の外で使って精密な実験をするわしたちであった……


「あんた。そんなことできるなら、わざわざ変な乗り物に入らなくてもよかったんじゃない?」

「ホンマにゃ!?」


 わしの失敗を教科書に載せようとたくらむようになったベティであったとさ。



 月でしかできない実験で遊び倒したら、必要のない物は片付けてUFOに戻る。すると、UFOに一歩踏み入れた瞬間、うずくまる者続出。重力6分の1の世界に長くいすぎたせいで、一気に来た重力に耐えられなかったのだ。

 なので、ノルンにUFOの中を月の重力に変えてもらおうとしたら、ノルンも前に進めず。ゴーレムでも急な重力の変化に対応するには時間が掛かるみたいだ。


 ここは猫パーティの出番。わしたちなら重力魔道具を訓練で多用していたから、お手の物。ひとまず全員担いでソファーに寝かせたら、ノルンを操作パネルに乗せて、重力を半分まで減らして徐々に体を慣れさせる。

 それと同時にUFOは離陸。ベティの操縦で月の裏を回り込むように飛行して地球に向かう。


「「「「「うわ~~~」」」」」

「あれが、私たちの住んでる場所……」


 最後のお楽しみは、航行中ずっと隠していた真ん丸の地球の姿。初日の出ならず、初地球の出だ。

 月とは違い、青と白のグラデーションが美しいので、女王たちは見惚れている。


「どうにゃ? わしの地球儀は正しかったにゃろ??」

「「「「「はいにゃ~」」」」」


 一部、地球は丸いと信じてくれていない者もいたから確認を取ったら、まさかリータたちまでまだ信じていなかったとは……

 文句のひとつも言ってみたがまったく聞いていないので、わしは写真撮影。その音に気付いたベティが地球とのツーショットを撮れと言い出したので二人で撮り合い。

 そこに皆がまざり、地球に着くまで地球との記念写真を撮り続けるわしたちであった……



 UFOが地球に着いたら、行きと同じくまったく揺れなく猫市の飛行場に着陸。宇宙からの帰還なのに少し味気ないが、全員怪我なく帰れたことが一番大事なことだ。

 今日はもう夜なので、東の国組も一緒にディナー。帰ろうと思えば帰れるのに、泊まって行くとのこと。さっちゃんと女王は、わしをめっちゃモフって来るし……

 とりあえず、今日の思い出話を肴に酒を飲み、こんなに簡単に行って来いすることは有り得ないことだけは覚えさせて夜が更けて行くのであった……



 東の国組が帰ってからもわしは忙しく、つゆ専用工房を間借りして写真の現像。誰かにやらせたら楽なのだが、月旅行なんてオーバーテクノロジーすぎるので自分でやるしかないのだ。つゆは機械イジってて手伝ってくれないし……

 たくさん撮りすぎたせいでかなり時間は掛かったが、焼き増しした写真もアルバムにまとまったので、つゆのヒザの上でわしは安らかに眠る。


 しかしその時、カギを掛けていたドアが吹っ飛んで行った。


「はぁはぁはぁ……」


 そこに立っていたのは息を切らした九尾の巨乳美女、玉藻。なんてことをするんだとわしが怒ろうとしたら、それより先に玉藻が怒鳴る。


「シラタマ! 月に行ったじゃと!? どうしてわらわも誘ってくれんのじゃ!!」


 どうやら玉藻も月に行きたかったようだ。


「いや、家族旅行のつもりにゃったし……」

「東の国も行ってたじゃろ! 妾もかぐや姫に会いたかったんじゃぞ~~~!!」

「竹取物語はフィクションにゃ~~~」


 あと、玉藻は月にはかぐや姫の子孫やウサギも住んでいると思っていたらしいので、ウサギならうちのウサギ族で我慢してくれと説得を繰り返すわしであったとさ。

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