猫歴12年その2にゃ~
UFOに乗って宇宙に足を踏み入れたわしたちは、しばし無重力状態を楽しむ。ただ、超人揃いなので下手に力を込められると誰かとぶつかったら死に兼ねないので、何度も落ち着くように注意した。
「シラタマちゃん。お母様のアレって、怒髪天を突くって日本の
「ブッ……さっちゃんも怒りまくってるにゃ~。にゃははは」
「あははは。写真撮って~」
髪の長い者は大変なことになっているが、面白いからグチャグチャの頭のまま記念撮影。なかなか全員集まれなかったから何人かは入っていない。また何人かは逆さのままだ。
そんな感じでいつまでも遊んでいたかったが、目的は月旅行。あと、慣れない無重力状態は子供にすぐ疲れが来たので、全員の着席を待って無重力を解除した。
それから体の重そうなメイドウサギにも手伝ってもらって皆に飲み物を配り、しばしご歓談。わしは女王と喋っている。
「重い……私たちは、こんなに重たい場所で生活していたのね」
「ゼロから急に戻ったから重く感じるんにゃ。もしもこのUFOじゃなかったら、月から戻ったあとは、とても立ってられない状態になってるんにゃよ」
「確かにずっとあの状態だったら、筋力が衰えそうね。でも、肩凝りには効きそう。あんなに肩が軽かったのは、女王に就任してから初めてよ」
「にゃはは。凝ってたんだにゃ~。じゃあ、次回の誕生祭にはマッサージ器でも作ってみるにゃ~」
雑談はそこそこにして、わしはベティ&ノルンの元へ行って航行プランの確認。
「さっきマッハ10で飛行してたと言ってたけど、エネルギーは大丈夫にゃの?」
「音速はそこまで減らないんだけど、速度を増やせば比例してエネルギーは減るんだよ。光速になると一気に持って行かれるんだよ」
「光速も出るんにゃ……」
「てか、月に行って日帰りするなら、マッハ100ぐらい出さないと帰って来れないんだよ。その代わり、何日も掛けて行くよりエネルギー消費はかなり多くなるんだよ」
「「にゃんてこった……」」
軽い気持ちで月に行こうとしたわしとベティはお馬鹿さん。月までの距離は38万キロもあるんだから、馬鹿な頭でも今まで溜めたエネルギーはかなり減るのは目に見えている。
それを一日で帰ろうとしているんだから、いまさらなんて馬鹿な計画を立てたと後悔する。
「光速で飛べば1秒ちょっとで着くけど、どうするんだよ?」
「「お昼に着くぐらいでお願いにゃ~」」
しかし、ここまで来て引き返すわけにもいかない。皆にも日帰り旅行と言っているので、できるだけエネルギーの消費を抑えながら月に向かうわしたちであったとさ。
UFOがマッハで飛行するなか、わしとベティはノルンから速度とエネルギーの抗議を受ける。その時、空気の壁や宇宙ダストに突っ込んだら危険ではないかと質問したら、UFOに張ってある結界がいい感じに処理してくれるらしい。
その理論もノルンは教えてくれたけど、難しすぎてすぐに限界。ちょうど皆からわしに宇宙講座を開けとお達しが下ったので逃げ出した。
難しい勉強はベティに丸投げ。わしは宇宙のロマンを語る。けど、面白くないとか言われたので、宇宙誕生や地球誕生に変更。
何十、何百億年という途方もない話であったが、自分たちが住む地球はそうやって作られたのかと、少しは興味を持ってくれた。
特に熱心に聞いていたのはリータ。岩の転生者ということもあり、地球は元は岩しかないと聞いて親近感を持っているのかもしれない。これから行く月も岩しかないと説明したので、早く着かないかとワクワクしていた。
それから月が大きくなって来たら、いい感じのところで記念撮影。こんなに大パノラマの写真が撮れるとは、UFO様々だ。
そうして約3時間のフライトを続けたら、ついに月に辿り着いたわしたちであった……
「それで……どこに着陸するんだよ?」
「「裏にゃ~」」
ノルンにどこと言われたら、わしとベティの答えは一緒。
「ベティは着陸やってみるんだよ?」
「やる! メーデーメーデー」
「誰と交信してるにゃ?」
テンションの上がっているベティが
「にゃに~?」
「さっきのやり取り……月の裏ってなに??」
「あ~……月ってのは、地球から見たらずっと同じ面を向けてるんにゃ」
「う~ん。言ってる意味が……そんなもんじゃないの??」
「月が球体ってところから説明しなきゃだにゃ~」
ベティ&ノルンが着陸ポイントを探している間に、わしは月講座。しかし、自転と公転の周期の時点で子供たちが逃げて行ったので、頑張って聞いていた大人組にも伝わったか微妙だ。
「まぁ、この説明もこの世界初にゃし、この説明が立証された頃には、わしたちはすでに月の裏を見ていたと自慢できるんにゃ~」
「「「「「あぁ~~~」」」」」
限界に見えたので、超かいつまんだ説明をしてみたけど、皆の反応はこんなもん。でも、それまで秘密にして自慢するとは言っていた。
そうこうしていたら月の裏側に回ったと聞いたので、ここでも記念撮影。わしが床に張り付いて地表をしげしげと見ていたら、さっちゃんが寄って来た。
「こっちのほうが、表よりボコボコしてるかしら?」
「お~。よくそれに気付いたにゃ~」
「見たまんまを言っただけなのに、そんなに褒められることなの?」
「うんにゃ。隕石ってわかるかにゃ? 流れ星が地表に落ちることなんにゃけど」
「流れ星はわかるけど……あ、宇宙から石が落ちて来るんだ」
「そうにゃ。山ぐらい大きにゃ隕石だと、生命はほとんど死に絶えるんにゃ。その隕石から地球を守ってくれているのが月なんにゃ。だから、ボコボコなのは名誉の負傷なんにゃ~」
「へ~。月は地球に取っての騎士なんだ~」
わしとさっちゃんがお喋りし、皆も聞き入っていたらノルンから着陸するとの館内放送。ベティが慎重に呪文を唱えながら、ゆっくりと高台の上にUFOは着陸したのであった。
月に着陸したUFOは全体を透明にして、到着記念のパーティー。乾杯してモリモリ食べたら、UFOの重力を切って月の重力を楽しむ。
月は地球の重力の6分の1なので、無重力よりは動きやすいから子供たちが大はしゃぎ。高く跳びすぎて何度もUFOの天井で頭を打っていたから、土魔法で作った鎖で繋いでやった。
大人は……跳ばないでくれ。UFOが壊れそうなんじゃ。逆? UFOはどんなことがあっても壊れないから、頭が割れるのですか。皆さん聞きましたね?
ノルンが怖いアドバイスをしてくれたので、大人だけじゃなく子供も跳ばなくなった。命を懸けてまで遊びたくないみたいだ。
落ち着いたら、重力を戻してまったりとティータイム。地球から見える星とは比べられない数の星があるから、皆は圧倒されているようだ。
しかし、わしとベティは残念に話し合っている。
「あ~あ。せっかく月に来たのに降りられないなんて、もったいないな~」
「宇宙服もないからにゃ~。やっぱり、平行世界で買ってから来ればよかったにゃ~」
「シラタマ君も超乗り気だったでしょ~」
月の風景を360度どころか空や地面まで見れるから外にいるのと変わりないが、わしとベティは少し味気ない。
そんな会話をしていたら、ノルンがわしの頭の上に着地して何か言おうとしたけど、リータがやって来て話を奪われた。
「アレって使えないですか? アメリヤ王国でやってたの」
「アメリヤ王国にゃ? ……にゃんだっけ??」
「ほら、黒魔鉱の中にシラタマさんが入っていたヤツですよ。アレなら空気がなくても外に出れるんじゃないですか?」
「ホンマにゃ!!」
「なにそれ? それならあたしに一番手やらして~!!」
リータのナイスアイデアを聞いたベティは、まだ「この一歩は」ってのやりたいらしく、わしにくっついて離れてくれない。死の危険があると言ってもどうしてもやりたいらしいので、ガラスと黒魔鉱で防護服を作って練習。
わしでも操作は難しいのでベティは手こずっていたが、さすがは元転生者。コツを掴んで歩くぐらいならなんとかできるようになった。
「あとはどうやって出るかだにゃ。ノルンちゃん。部屋を小分けするようにゃことできないかにゃ? そしたら、空気が外に漏れ出さないにゃろ??」
「できるけど、そんなことしなくても結界を展開してるから、入口を開けても空気は外に出ないんだよ。あと……」
「マジにゃ!? ベティ、次はわしにゃ~!!」
「シラタマさん。私も外に出たいです~」
扉を開けてもノーリスクと聞けたら、ノルンは用済み。わしだって早く外に出たいんじゃもん。
わしがベティから聞いたUFOの入口を開閉する呪文を唱えたら、ベティは階段を一歩一歩ゆっくりと下りて、外に出るので……
「あ、こけたにゃ……」
「転がり落ちましたね……」
最後の最後でベティは足を踏み外し、この世界で月への人類初タッチは、頭突きとなったのであったとさ。
「「「「にゃははははは」」」」
「「「「「あははははは」」」」」
ベティは地力では立ち上がれないのか足をバタバタしていたので、わしが鎖を引っ張ってUFOの中に戻したら、全員大爆笑。防護服の中ではどんな顔をしているかわからないけど、たぶん顔は真っ赤だろう。
恥を掻いたせいで、ベティは次の一歩はやりたがらず。わしに押し付けて来たけど、わしも恥を掻きたくないのでリータにパス。リータはやりたそうにしていたから譲ったのに、恥を掻きたくないと戻って来た。
こうなっては仕方がない。ジャンケンで決めようと三人で揉めていたら、ノルンが止めに入った。
「なにも3人だけで行かずに、全員で外に出たらいいんだよ」
「そんにゃことしたら、空気がないんにゃから全滅するにゃ~」
「だから、結界を張ったから、UFOの周りぐらいなら自由に歩けるんだよ」
「「「にゃんですと!?」」」
揉めただけ無駄。外に出ようと頑張ったのも時間の無駄では、わしたちは同時に驚いた。
「にゃんでそんにゃ大事なこと、すぐに言わないにゃ~」
「シラタマたちが話を聞かないから悪いんだよ」
振り返ってみたら、確かにノルンは何かを言おうとしていたことがあったので、苦情はベティにタッチ交代。
「なんであたしが外に出る前に教えてくれないのよ~。そのせいで、めちゃくちゃ笑われたんだからね~」
「面白いことになりそうだったから放置したんだよ。プッ……まさかベティが……きゃはははは」
「笑うな~~~!!」
ノルン、思い出し笑いで大笑い。怒ったベティは笑いながら逃げるノルンを追いかけたが、リータが後の先で2人とも取っ捕まえた。
「ノルンちゃん。これってもう出ても大丈夫ですか?」
「うんだよ。でも、外は重力制御ができないし、結界は素通りしちゃうから、結界の外に出ないように工夫したほうがいいんだよ」
「わかりました。皆さん集合してください」
リータは皆に土魔法で作った鎖を配っていたので、わしとベティは抜け駆けしようと走ったら、いつの間にか黒魔鉱製の鎖が足に巻かれていたので仲良くビッターンと顔から倒れた。
「では、全員で一歩目を踏み締めましょうにゃ~!」
「「「「「にゃ~~~!!」」」」」
こうして月への人類一歩目は、リータの音頭で複数の足跡がつけられたと、歴史に刻まれたのであった……
「「待ってにゃ~~~」」
わしとベティだけ取り残されたのであったとさ。
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