猫歴11年その3にゃ~


 真ソウジャーナルの取材先から聞き取り調査をしたら思ったより早く真相を全て暴けたので、あとはぐうたらして記者が乗り込んで来るのを待っていると、ノコノコとアポイントを取って来たのですぐに取材を受けてやった。


「猫陛下。私どものような下々の雑誌なんかにお時間を作ってくれてありがとうございます」


 このかしまって挨拶をする男は、真ソウジャーナルの社長、ウロ。末端の記者がやって来るのかと思っていたけど、社長も記者を兼ねているらしい。


「さってと……にゃにが聞きたいのかにゃ~?」


 わしは準備万端なのでニヤニヤしながら話を切り出したら、ウロは怒られると思っていたのか一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔に変えて喋り出した。


「まずは猫陛下には感謝を。猫陛下の素の顔を知れると国民から好評で、真ソウジャーナルの売上は凄いことになりました。ありがとうございました」

「にゃはは。わしも兼ねてより、民間からこんにゃ情報誌が出るのを待ってたんにゃ。よくやってくれたにゃ~。にゃははは」

「……」


 ウロの感謝の言葉はおそらく嫌味。それを笑いながらわしに返されたので、次の言葉を探しているように見える。


「どうしたにゃ?」

「いえ……えっと……」

「お前は取材に来たんにゃろ? だったら好きにゃように取材したらいいにゃ~」

「そ、そうですね……では!」


 ウロは手帳とペンを構えて鋭い目に変わった。


「まずはですね。税金の使い道の件を聞きます。猫陛下の贅沢を極めた生活に、国民は怒っています。猫陛下からの謝罪の言葉はないのでしょうか?」

「質問を質問で返すようで悪いんにゃけど、わしの稼いだお金でにゃにをしようが自由じゃにゃい?」

「その自由に国民は怒っているのですよ! こんな高い家で国民を見下ろし、国民が食べたことのないような高級食材の料理を毎日食べるなんて、どれだけ税金の無駄遣いすればいいのですか! 税金は国民のために使うべきです!!」


 ウロが声を荒らげるが、わしは冷静にお茶をズズズーっとすすってから答えを述べる。


「わし、猫の国からお金にゃんて、一切貰ってないにゃよ? この家も自分で建てたし、食材もほとんどわしが狩った獲物にゃ」

「はい??」

「だから、わしは、ボランティアで王様やってると言ってるんにゃ」

「ボ、ボランティア? ……国家元首がそんなわけあるはずないでしょ!」


 ウロは信じてくれないので、わしはニヤニヤしながら返す。


「誰から聞いたか知らにゃいけど、本を出す前に聞きに来てくれたら嘘だらけの記事を書かなくて済んだのににゃ~」

「我が真ソウジャーナルが嘘を書いているですと?」

「そう言ってるんにゃ。こういう本ってのは、真実ファクトを持って書かないとえらいことになるんにゃよ?」

「真ソウジャーナルは、関係者からの聞き取りで作られているのです! この本に載っていることは全て真実ですよ!!」

「まぁ落ち着けにゃ~」


 立ち上がるウロには、お茶を勧めて座らせる。


「あのにゃ。情報をくれる人の中には悪意を持っている人がいるんにゃ。それを確かめもしにゃいで書くっていうことは、ただの嘘つきにゃ。もしくは、他者をおとしめたいだけの悪人にゃ」

「だからどこが嘘なのですか!」

「さっきも言ったにゃろ? わしは国からお金にゃんて貰ってないにゃ。100%、わしの資金から豪遊してるんにゃ。これ、うちの家計簿と国の帳簿にゃ。確かめてくれにゃ~」


 わしが2冊のノートをテーブルの上に並べると、ウロは凄い勢いで捲り、みるみる顔が青くなって行く。

 そりゃ、国の帳簿には王族への支出が一切出て来ないのでは仕方がない。それどころか、わしからの寄付金まで計上されているので「なんで?」って顔にもなってる。

 家計簿には、ハンターギルドからの莫大な金額の振り込みと、商業ギルドからは小説とぬいぐるみの莫大な金額の振り込みがあるのだから、支出と比べても桁違いに入金のほうが大きいので、バカでもボランティアが嘘ではないとわかるはずだ。


「嘘を書いている可能性が……」

「まぁそう来るよにゃ~。こっちが領収書で、こっちがわしの口座を一度だけ見れる委任状にゃ。帰ったらソウ市のギルドにでも持ち込んでみろにゃ」

「な、何故そこまで……」

「にゃぜって……」


 ウロが呆気に取られているので、ここで初めてわしは真面目な顔を見せる。とぼけた顔をしてるから、伝わっているかどうかはわからない。


「これが、取材をするということにゃ。情報を得て、信頼できる筋から裏を取るにゃ。こんにゃことも知らないでスクープにゃんて、ちゃんちゃらおかしいにゃ~」

「私だって、信頼できる筋から……」

「たった2、3人にゃろ? そういうのは取材とは言わないにゃ。これにゃら、わしのほうが記者として向いてるにゃ~」

「猫陛下が? フッ……」

「笑ったにゃ~? じゃあ、ちょっと証明してあげるにゃ~」


 ウロは王様が記者をするとか言っているから笑っているのであって、わしの顔を見て笑っているわけではないと思われる。


「ウロ。下級貴族の三男として生まれるにゃ。父は地位に不満があり、息子を出世させようと厳しい訓練を課すにゃ。上の兄2人は才能があったが、ウロにはなしにゃ。そのせいで酷い暴力を受け、家族の中の爪弾き者とにゃる」

「なっ……」

「猫耳族が甚振いたぶられる姿は、自分が甚振られるようで見てられなかったにゃ。そんにゃ家に嫌気が差し、家を出るにゃ。唯一気に掛けてくれていた教師の元で勉強し、自分も教師ににゃる。しかしすぐに戦争で徴兵され、その道は断たれるにゃ」

「なんで……」

「戦後ソウに残ったものの職に就けずにゃ。そこに元貴族で商人になった者から声を掛けられるにゃ。仕事は主に帳簿管理にゃ。教師でないのは残念だが、やりがいのある仕事だと思ったにゃ。その恩人に出版社をしないかと持ち掛けられ、現在に至る……てにゃ」

「どうして……」


 わしが資料を読み続けるなか、ずっとブツブツ言っていたウロに問い掛ける。


「どうにゃ? わしって記者に向いてにゃ~い? にゃあにゃあ??」

「……」

「にゃはは。驚き過ぎて声にもならにゃいか。てか、わしもお前の情報を集めて来いと言っただけで、ここまで揃えられて怖かったにゃ~。うちの諜報部門も捨てたモノじゃないにゃろ~??」


 まだ声を発しないウロに、わしはトドメを差す。


「そんじゃあ、その他の真ソウジャーナルに載っていた嘘を全て否定してやるにゃ。覚悟して聞くんにゃよ~?」


 フルボッコ。わしは嘘に対して誰が言っていたか、その反論に複数の情報を付けて否定し行く。ウロはその前の自分の生い立ちを全て暴かれた事に衝撃が凄く、ろくな反論もできないままフルボッコにされたのであった。



「さてと……」


 喋り終えたわしは、お茶を少し飲んでから鋭い目をウロに向ける。でも、伝わったかはわからない。


「王様のことを、嘘でここまで貶めてくれたんにゃから、どう落とし前をつけてもらおっかにゃ~?」

「そ、それは……」

「ここが帝国だったらどうにゃってたと思うにゃ? あの皇帝にゃら、お前をどうしていただろうにゃ~」

「も、申し訳……申し訳ありませんでした! 命だけは……命だけは……」


 ウロは怯えて、イスごと後ろに倒れたと思ったら土下座。泣きながら命乞いを始めたので、わしはトコトコと近付いてしゃがみ込む。


「誰が殺すにゃんて言ったにゃ~」

「え……」

「あ、皇帝を出したのがマズかったんにゃ。まぁあいつにゃら、噂だけでも縛り首にしていそうだもんにゃ~」

「で、でしたら……」


 助かったと思って顔を上げたウロに、わしはニッコリと微笑みながら一枚の用紙を見せる。


「金貨百万枚!?」

「名誉毀損に賠償金、その他諸経費にゃ。これで許してやるから、耳揃えて持って来いにゃ」

「む、無理です……」


 金貨百万枚とは、現在の猫の国では一般的な市民が死ぬまで働いても到底稼げない額。わしなら一年で余裕で稼げるが、出版社の社長でも無理みたいだ。


「無理でも払ってもらうにゃ。一生こきつかってやるから覚悟しておけにゃ」

「そ、そんな……」


 ウロが絶望に満ちた顔をするので、わしは一本の希望の糸を垂らしてみる。


「嫌にゃの~? じゃあ、諸々をチャラにするミラクルにゃ方法があるんにゃけど、それをやってみるにゃ??」

「選択肢は……いえ、なんでもありません。やらせていただきます」

「そう構えるにゃ。簡単にゃことにゃ~」


 ウロは諦めて、わしの話を全て飲むのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 シラタマが真ソウジャーナルの取材を受けてから1週間……


「クックックッ……あの猫の信頼は地に落ちたな」


 とある部屋の中で、本日発売した真ソウジャーナルを見ながら男が笑っていた。


「今回は民の怒りの声が載っているのだから、さらに燃え広がるぞ。その業火を持って、次の猫会議ではあの猫を凶弾してやる。フッ……何が民主化だ。それが仇となって、猫が玉座から転がり落ちるのだ。わ~はっはっはっ」


 男は本を手に持ち、「スクープ。民の怒り」と書かれた表紙を捲って読んで行くが、笑いはどこかに吹き飛んだ。


「な、なんだこれは……あ、あいつ……裏切ったな!!」


 真ソウジャーナルに載る記事は思っていた内容と違いすぎたので、男は雑誌を握り潰して部屋から飛び出す。そして公用車を飛ばし、出版元の建物に駆け込み、社長室の扉をバーンッ!と開けて怒鳴り込む。


「これはいったいどういうことだ!!」


 そこには、ウロの姿と……


「ズズズ~……」

「ね、猫陛下……」


 シラタマがコーヒーをすすっている姿。


「あ、ソウ市長。大声出して、こんにゃところでにゃにしてるにゃ~?」

「あ、あの……」

「にゃはは。黒幕がこんにゃ所に踏み込んで来ちゃダメにゃ~。にゃ~はっはっはっはっはっ」


 そう。真ソウジャーナルの黒幕はソウ市長のヒショウ。わしが笑いながら出迎えると、ヒショウの顔は一気に真っ青に変わるのであった……

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