猫歴11年その2にゃ~


 真ソウジャーナルの愛人疑惑を調べていたら、お春の疑惑が本当になってしまったが、情報漏洩した人物はこのキャットタワー内に確実にいるはずなので、次に疑わしい人物の元へとわしたちは向かった。


「エミリ~。ちょっといいかにゃ?」

「あ、はい。すぐ終わりますので、少々お待ちください」


 この厨房で料理をしていた耳が横に長い女性はエミリ。出会った頃は9歳の少女だったが、いまでは20歳の大人の女性となっている。

 昔は母親の夢を叶えるために東の国の王都で店を出そうとしていたのだが、その母親は輪廻転生していて「自分の好きなように生きなさい」と言われてから夢を変更。王族専属の料理人として生きることに決めた。


 ちなみに耳が長い理由は、母親がエルフにクラスチェンジしてしまったから。このままでは年下の母親のほうが超長生きしてしまうので、「エミリもエルフになっちゃいなよ~」って軽く言ったせい。

 元々魔法が使えなかったので、母親のように料理するためには魔法が必須だから、ついでにエルフにクラスチェンジしてしまったのだ。


「ちょうどチョコチップクッキーの試作品を作っていたんです。味見してください」


 エミリがお茶菓子を持って来てくれたので、お茶はわしが担当。次元倉庫に入っていたコーヒーを人数分出し、各々好きに味付けさせてまったりとティータイムに入る。


「やっぱり猫さんのいれたコーヒーは美味しいですね。私と何が違うんだろ?」

「にゃはは。これだけは年期が違うからにゃ~。それにしても、昔はブラックが苦手だったのに飲めるにゃんて、大きくなったもんだにゃ~」

「もう大人ですもん。正直、猫さんに大人の味があると言われても信じていませんでしたけど、いまはあん肝だって美味しくいただけるんですよ。人間の舌って不思議ですね~」


 エミリと料理談義で花を咲かせていたら、リータとメイバイに肘でつつかれたので、わしは本題に入る。


「この本って、にゃにかわかるかにゃ?」

「なんですか? ……え? 猫さん、いつの間に愛人を4人も作っていたんですか!? 私も入れてくださ~い!!」

「ちょっ! 落ち着けにゃ~!! リータとメイバイも落ち着いてくださいにゃ~。にゃ?」


 王妃が目の前にいるのにエミリが正式加入したがるので、また怒りが沸々と沸いているので超怖い。また同じやり取りになると時間が掛かるので、少しの間、我慢していただいた。


「入りたいとかの前に、ここ読んでくれにゃ。エミリはこの本の中では、わしの愛人になってるんにゃ」

「そうなんですか!? 皆さんわかってますね~」

「リータさん。メイバイさん。いちいち反応しないでくださいにゃ~」


 エミリが読みながら変なことを口走るので、わしはリータとメイバイにその間ずっと撫で回されて、本日二度目の気絶。エミリが読み終わった頃に、活を入れられて目覚めた。



「それで……読んでみてどう思ったにゃ?」

「完璧です! 完璧に私は猫さんの愛人ですね! 間違いのひとつもありません!!」

「いつからエミリはわしの愛人になってたんにゃ~」

「この本の通り、15歳の時ですね。猫さんが毎日私の料理を食べたいとプロポーズした時からです」

「それって……質問に答えただけじゃにゃいでしょうか??」


 事実誤認。エミリがここに残るか迷っている時に、しつこく「毎日食べたいですよね?」と聞かれたから「毎日食べられると嬉しい」と答えた記憶がわしにある。だから、リータとメイバイはもうちょっと待ってね~?


「ということは、ここに書かれている内容は、かなり詳しく書かれているんだにゃ?」

「はい。間違いなく、5年間の愛人生活を送っています」

「てことは~……情報漏洩をしていたのは、エミリってことかにゃ?」

「情報漏洩? なんですかそれ??」


 話が逸れまくっていたので、これまでの経緯を説明してみたら、エミリもさすがに焦り出した。


「この本に載っている私のことは事実ですけど、私じゃないですよ!」

「じゃあ、誰だと思うにゃ?」

「えっと……つゆさんじゃないですか? 工房に2人の愛の巣を作るなんてズルイです……私にもほしいです~」

「にゃいから! つゆ専用の工房は作ったしベッドは確かにあるんにゃけど、つゆがいっつも工房で寝泊まりするから、体を休めさせるために持って行っただけにゃ~」

「「「怪しい……」」」


 わしが犯人探しをしているのに、何故か3人はわしを犯人扱い。つゆの情報はかなり薄いのに、愛の巣というキラーワードが強すぎるみたいだ。

 今度は3人にめっちゃモフられて、本日三度目の気絶。目が覚めたら、なんか愛人が増えていた……


「えっと……にゃんで2人とも許可したにゃ?」

「長い付き合いですし……」

「シラタマ殿のことが好きなのは知ってたし……」

「「愛人にしてくれないと出て行くって言うし……」」

「いつの間にか、胃袋を掴まれていたんだにゃ……」

「「はあ……」」


 リータとメイバイがお春より乗り気じゃないところを見ると、完全に餌付けされている。これだけエミリの料理を欲すると言うことは、ひょっとしたら、わしたちの食事には何か危険な薬品が入っていたのかもしれない……


「やだな~。愛情しか入れていませんよ~」

「にゃにその顔……悪魔みたいにゃ……」

「あっ! 間違えた!! ウフフフフ」


 リータとメイバイに聞いたところ、このエミリのこの邪悪な顔は、わしの見えないところでは度々していたとのこと。それなのに、本日わしに初お披露目。

 間違えたとか言っているわりにはその顔のまま笑っているってことは、愛人にしないと一服盛るということなのかもしれない……


 かなり怖いので、エミリの愛人加入は違う話を使って逸らせないかとわしは頑張ってみる。


「ところでべティはどう言ってたにゃ?」

「ママは反対してましたけど、説得していたらここ最近、応援してくれると言ってくれましたよ」

「親公認の愛人にゃんだ……」

「はい! 私の夢でしたので!!」

「夢って、王族専属の料理人じゃなかったんにゃ……」


 どうりで何度もわしに「毎日食べたいでしょ?」と聞いて来たのだと納得したが、引っ掛かることもある。


「そういえばべティの姿を見てないんにゃけど……どこ行ったにゃ?」

「ママですか? ママならノルンちゃんとしばらく修行の旅に出るとか言って、大きな荷物を持ってどこかに行きましたよ」

「にゃ……」


 そのべティのセリフは、何度か聞いたことのあるセリフ。


「犯人はべティにゃ~~~!」


 そう。べティが何かやらかしたあとは、必ず旅に出るから確実だ。


「べティを捜せにゃ! 必ず近くにいるにゃ~~~!!」


 そう。このセリフが出た時はどこかに隠れているので、遠くを探しても無駄。わしたちはキャットタワーをしらみ潰しに捜して、浴槽の蓋を開けたところでべティとノルンを発見したのであった。



「んで……なんかあたしに用?」


 このふてぶてしい耳の長いカーリーヘアの少女はべティ13歳。わしと同じ世界からやって来て、幼いエミリを残して獣に殺されたのだが、それまで積んだ徳で舞い戻って来た数奇な運命を辿る人物だ。

 ちなみに頭に乗ってる羽の生えた幼女はノルン。見た目は妖精だが、実は自立式ゴーレム。とある賢者の最高傑作で、わしがマスターになったはずなのに、わしから学ぶことがないとか言ってべティの頭を巣にしている。

 ぶっちゃけめっちゃうっとうしかったから、わしとしてはラッキーだ。


「ネタはあがっているんにゃ……」


 2人してギクッて顔をし、明後日の方向を向いて鳴らない口笛を吹いているのだから、間違いなく情報漏洩の犯人はこの2人。


「まぁ今回は猫の国の発展に一役買ってくれからおとがめなしにゃ。民間にあんにゃ情報誌があるにゃんて、よく知ってたにゃ~。ソウ市でめっちゃ売れてるらしいんにゃよ」

「やっぱり? あたしも政府誌だけじゃダメだと思ってたのよね~。だから……」


 わしが褒めると、べティ&ノルンは喋る喋る。


 その話は、とある人物がわしのことを聞いて来たから、めっちゃ悪口を吹き込んだことから始まる。

 そしたらその人物は真ソウジャーナルの記者を紹介してくれたので、わしとエミリとの仲を進める手助けになるかと思ってめちゃくちゃ盛って話をしたそうだ。


「もうね~。いっぱいプレゼントもくれるから、いらないことまで喋っちゃったわよ~」

「ノルンちゃんも楽しく読んでもらえるように、いっぱい作り話したんだよ~」


 ベティとノルンは上機嫌で喋り続けるが、わしはもう限界だ。


「やってくれたにゃ……」

「「へ??」」


 わしがボソッと呟いた言葉は2人に聞こえなかったようなので、わしは狭い額に怒りマークを作って怒鳴る。


「にゃにしてくれてるんにゃ~~~!!」

「「ええぇぇ~~~!?」」


 こんなことをしでかしておいて、2人してビックリしやがる。


「さっきお咎めなしって言ってたじゃな~い」

「シラタマが嘘ついたんだよ~」

「怒るに決まってるにゃろ! この本のせいで、どんだけわしが怒られたと思ってるんにゃ!!」

「どうせ撫でられるだけじゃない」

「ゴロゴロ言って気持ち良さそうに寝るだけなんだよ~」

「ちょっとは反省しろにゃ~~~!!」


 言い訳までしやがる2人にわしは説教を続け、なんとか「ごめんなさい」を勝ち取るのであった。


「ごめんごめん」

「ごめんごめんだよ~」

「ぜんぜん反省してないにゃ!?」


 しかし、2人して反省の色はまったく見せないので、耳にねこになるまで「にゃ~にゃ~」説教を続けるわしであったとさ。

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