猫歴11年その1にゃ~


 我輩は猫である。名前はシラタマだ。王様の仕事がなくなって超嬉しい!


 国の行く末を決める2ヶ月に一度の猫会議は、まだ首相の存在は隠しているのでこれだけは出席しなくてはいけないけど、どうせ話を聞くだけなのでわしもスキップして参加。

 新市長はまだ慣れていないのかアイデアを出してくれなかったが、古株の市長が多数出してくれるので、わしは「うまくやってね~」と許可していたら、早くも一年が過ぎた。


 その合間に、わしはハンターの仕事をしたり未開の地へ旅に出たり。友達と遊んだり子供と遊んだり、ゴロゴロしたり。

 そんななか、いつものようにキャットタワー屋上にある離れの縁側で子供たちとお昼寝していたら、リータとメイバイがやって来たけど、わしは寝ていたので寝室に拉致られ、雑に撫でられて起こされた。


「にゃに~? 今日は休みの日にゃんだけど~……にゃんかすいません!!」


 わしが目を開けると、そこには二人の鬼の形相。寝起きで頭がハッキリしていないので、思わず土下座してしまった。


「謝るってことは、事実なんですね……」

「認めるってことでいいんだニャ……」

「はいにゃ~。お昼寝してましたにゃ~」

「「はあ~~~??」」


 わしはお昼寝について怒られていると思っていたのだが、2人のおでこから角がニョキニョキと伸びているので違うっぽい。


「これですよこれ!」

「お昼寝ごときで怒らないニャー!」


 お昼寝していたら怒られたことが多々あったのでわしとしてはツッコミたかったが、それよりもリータが畳に叩き付けた本の表紙にツッコまなくてはならない。


「スクープにゃ? 猫王様には愛人が4人もいるって……にゃにこの本!?」

「へ~……愛人が4人もいるのですか~」

「へ~……イサベレさん以外にも3人いたんニャー」

「「へ~~~」」

「ちょっ! 怖いにゃ~。ちょっとだけ読む時間をくださいにゃ~」


 2人がめっちゃ怖いので反論したいが、下手なことを言うと火に油となるだろう。まずは情報収集だ。わしはこの本をペラペラと捲って、急いで目を通すのであった。



「にゃにこの本……ゴシップ誌みたいにゃ……」


 斜め読みしたところ、この本は「真ソウジャーナル」という王様のわしのあることないことが書かれているゴシップ誌。日本でいうところの、金曜日や文の春のような物。

 その内容はどこで聞いたのか、わしがお昼寝ばかりしているとか仕事をしないとか本当のことが書かれていたり、浮気をしているとか税金を使い込んでいるだとか、嘘の内容も書いている。


 その嘘の量のほうが圧倒的に多いので、リータとメイバイの説得に使えそうだ。


「この本、嘘ばっかり書いてるにゃ~」

「どこがですか? いっつもお昼寝してるじゃないですか??」

「そこは本当にゃけど~」

「それだけじゃないニャ。シラタマ殿は仕事しないニャー」

「そこも本当にゃけど、そこだけ取り上げにゃいでくれる?」


 嘘に真実をまぜる高等技術が使われているので、2人の説得には時間が掛かるわしであったとさ。



「シラタマさんが税金を使い込むわけがないのに……酷い本ですね!」

「すっかり騙されたニャー!」


 ようやく2人が納得してくれたら、怒りはゴシップ紙に行ったので、なんとかわしの命は助かった。


「しっかし、この本には値段が書いてるってことは、売ってるってことにゃろ? ついに民間から情報紙が出たんだにゃ~」


 2人とは違い、わしは感慨深い目。猫の国では新聞が週2で販売されているのだが、それは国営で作っているし全然売れないから、発行部数は千部程度。

 ほとんど町が買い取って、町の数十ヵ所にある掲示板に張ってあるか、図書館や市役所に数部置いてあるぐらい。


 ちなみに内容は、各町の日報みたいなモノ。数日の天気だとか、新しく作った物や生まれた子供の数だとか、一般市民からしたらどうでもいいような内容ばかり。

 それでも市役所勤めをしている者からしたら貴重なデータなので、市役所では取り合いになるほどの人気だ。


「なにを悠長な……」

「こんな本を販売させていいニャー!」


 わしが遠い目をしていたら、リータとメイバイは騙された被害者なのでお冠。


「まぁ内容はさておき、これは前進だからにゃ。政府紙だけでは、政府を批判できないにゃ。健全にゃ国作りには、必要にゃ物なんにゃ~」

「「う~ん……」」


 わしの話は二人には難しいのかいまいち納得していない顔。なので、元の世界にはもっと凄い政府非難をしている本や媒体が数多くあると説明した。


「それでも嘘はダメだと思います」

「そうニャー。国民が信用したらどうするニャー」

「わしは国民を信じているから大丈夫にゃ!」


 わしはドヤ顔でいいことを言ったと思ったのだが、リータとメイバイの顔が怖い。


「面倒だから放置するわけじゃないでしょうね?」

「シラタマ殿ならありえるニャ……」

「調査しにゃす! 調査するから怒らにゃいで~~~!!」


 こうして「真ソウジャーナル」のせいで、わしの休日が台無しになるのであったとさ。



 このゴシップ紙「真ソウジャーナル」の発売元は、ソウ市にある出版社。それはご丁寧に住所まで書いているので、足を運ぶか呼び寄せるかは情報収集が終わってからでいいだろう。

 真ソウジャーナルがどこまで販売されているかは、わしの放った草から情報を手に入れれば楽勝だから、こちらもいちいち足を運ばなくてもすぐに情報が集まるはずだ。


 ちなみにわしが放った草とは、地面に生えているアレではない。その昔、日本では密偵のことを『草』と呼んでおり、主に忍の者がやっていたアレのことだけど、うちではウサギだ。

 この立って喋るウサギはウサギ族といって、この世界では人間扱い。アメリカ大陸にあるクリフ・パレスに住んでいたのだが、数が多くなりすぎて困っていたから、移民として五千人も猫の国で受け入れたのだ。


 立って歩くウサギということもあり、女性や子供から大人気なので、他国からも「くれくれ」うるさかったから、従事者レンタルという形で派遣している。

 ただし、派遣して撫でられるだけではもったいないので、忍者学校で習ったスキルを使って情報を手に入れるのも仕事だ。

 とはいった物の、危険なことをさせるつもりはないので、どこでも噂されていることや、たまたま見聞きしたことをこっそりこちらに教えてもらっているだけだ。


 このウサギ族から情報を精査しているのが、忍者服部半荘はっとりはんちゃん。その服部を呼ぼうとしたら、キツネ耳メイドになったお春がシュタッと現れた。


「お呼びでしょうか」

「う、うんにゃ。服部さんを呼んで来てくれるかにゃ?」

「こちらが真ソウジャーナルの資料で御座います」

「まだ頼んでないのに早いにゃ!?」


 お春が有能すぎてちょっと怖いので、どうしてそんなに早いのかと聞いたらわしが頼んでいた仕事の延長線上にあったから、必要になるかと思って調べておいてくれたそうだ。


「ふ~ん。にゃるほどにゃ~」


 とりあえず資料に目を通してみると、真ソウジャーナルはソウ市でバカ売れし、ラサ市ではそこそこ売れているとのこと。

 猫市と猫耳市以外の町にも千部ほど運んでいるようだが、こちらはどの町も十冊前後しか売れていないので、価格を下げ続けているみたいだ。


「ま、予想の範囲内だにゃ。あとはお春にも聞きたいんにゃけど、お春がわしの愛人って嘘は、誰が言ったと思うにゃ?」

「え……事実ですから、事実が書かれていると思うのですけど……」

「そんにゃわ……」


 わしが「そんなわけない」と反論しようとしたら、後ろから殺気が!?


「シラタマさ~ん?」

「シラタマ殿~?」

「にゃ!?」


 リータとメイバイだ。わしの浮気疑惑が、泥棒キツネの口から事実だと語られたのだから超怒ってる。でも、よくそんな怖いことを、王妃の前で言えたな……


「やっぱり手を出してたんですね!」

「いつからニャー!」

「わしはにゃにもやましいことしてないにゃ~!」

「奥様……申し訳ありませんでした!!」

「お春も謝まらにゃい!! いにゃ~ん! ゴロゴロゴロゴロ~!?」


 わしはこのあと、リータとメイバイからそれはもう凄い撫で回しを受けたので、反論もできずに気絶したのであったとさ。



 それから目が覚めたら、なんかキツネに変化したお春を、リータたちがにこやかに撫で回しながら喋っていたので誤解は解けたのかと思ったけど、わしに責任を取れとか言い出した。

 どうも、リータとメイバイは、お春に買収されたのではないかと思われる。素っ裸のお春をモフモフしまくっているし……


 しかし、わしは愛人を作る気はない。ここは心を鬼にして、お春をフッてやった。


「シラタマさんの気持ちは嬉しいのですけど……」

「私たちなら大丈夫ニャー!」

「いや、大丈夫じゃないにゃろ? そんにゃこと言って、わしを殺害するつもりなんにゃろ??」

「どうしてそうなるのですか!」

「私たちはシラタマ殿の子供がいっぱい欲しいだけニャー!」

「にゃ~~~??」


 リータとメイバイが必死に訴えるので、わしとお春の子供がどんなモフモフになるか興味があるのかと思ったけど、若干違った。

 2人は出産で大変な思いをしたから、多く子供を作ると死期が早まるのではないかと恐れているとのこと。エルフ市でも、ほとんどの夫婦が二人しか子供を産んだことがないと教わったらしい。

 それが何の問題かと言うと、わしの寿命。千年もあるのだから、できるだけ長く一緒にいたいってのもあるらしいが、一番は家族を多く作って、数多くの別れが訪れるわしを悲しませないようにしたいそうだ……


「でもにゃ~……そんにゃにいっぱい愛人を作るのもにゃ~」

「ですから私たちで審査して、シラタマさんに適した人にしか許可は出しません」

「だからシラタマ殿も、誰彼かまわず手を出しちゃダメニャー」

「う~ん……本当にいいにゃ?」

「「はいにゃ~」」


 わしの口調をマネしているが2人の顔は真剣なので、真面目に言ってるみたいだけど、もうひとつ聞きたいことはある。


「キツネと猫との子供がかわいいモフモフになりそうとか思ってにゃい?」

「「……思ってないにゃ~」」

「お春との夜も楽しみとか思ってにゃい??」

「「……思ってないにゃ~」」

「そのはなんにゃ~!!」


 その間が全てを語っている。2人はわしのことを心配しているのも本当なのだろうが、およそ半分はキツネと猫のハーフを見たいとバレてしまうのであった。



 リータとメイバイの謎は解けたので、もうひとつの謎解きにわしは挑戦。


「ところでお春って……」

「はい。なんでしょうか?」

「こうなるように情報操作をしてたとか言わないよにゃ?」


 そう。真ソウジャーナル発売で得をしたのは、間違いなくお春。ここまで有能なところを見せ付けられたのだから、お春が真ソウジャーナルの仕掛人という線だってありえる。


「な、なんのことですか~? ワタシ、ワカリマセ~ン」

「マジでお春が黒幕だったにゃ!?」


 これだけ片言になっているのだから、犯人確定。まさかお春が犯人だと知ったわしは、超驚くのであっ……


「あ、黒幕は私じゃないですよ? 情報漏洩をした人は調査中ですけど、そちらの資料に黒幕は書いてあります」

「さっきのしどろもどろの返答はにゃんだったにゃ!?」

「冗談です。シラタマ様の驚いた顔、かわいかったな~」


 ドッキリに引っ掛かったわしは、二度ビックリするのであったとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る