猫歴7年春にゃ~


 我輩は猫である。名前はシラタマだ。本当の父となった……


 大親友の東の国の王女様、サンドリーヌことさっちゃんの結婚や出産を機に王妃からの圧力が強くなり、リータも20歳、メイバイも22歳になっていたので適齢期だと押し切られて、ついにわしはヤッちゃった。

 その結果、産まれて来てくれたのは玉のような赤ちゃん。言葉のあやではなく、本当に玉のような白猫が2人産まれたのだ。


 もちろん産まれて来た子供に罪はないし、めちゃくちゃかわいい。リータとメイバイにもよくやったとわしは涙ながらに感謝した。


 心配なのは、わしが猫だというところ。猫の血が強く出すぎて四足歩行で産まれて来たら申し訳ないと思っていたのだが、赤ちゃんには肉球はあるものの、指は人の手に近いから、わしの人型のように成長すると思われる。

 それと同じくらい心配なのは、リータとメイバイの体調。人間の中では化け物クラスの実力を誇る二人だったのに、産後は生命力を使い切ったかのように衰弱していた。


 この手のことに詳しいのは、猫の国にあるエルフの里。ここの住人は魔力濃度の高い地で育ったせいで300歳近く生きる長寿となり、特殊な出産方法をしないと母親が10年きっかりに亡くなってしまうのだ。

 なので、産婆として元族長のヂーアイという300歳オーバーの梅干しみたいなババアを、魔力濃度の高いソウ市の地下施設に呼び寄せた。

 ちなみにヂーアイは、エルフの里が猫の国に加盟した頃は料理の味が格段に良くなったせいで食べ過ぎてパツンパツンに太っていたのだが、わしの命令で健康管理に気を付けさせたら、元のしわくちゃババアに戻っていた。


 そのヂーアイいわく、産後はこんなもん。このまま地下施設で1ヶ月の静養を取れば元の体調に戻るけど、まさか猫を取り上げる日が来るとは思っていなかったんだって。


 そのままリータとメイバイは静養し、王女のコリスとオニヒメにも2人のことを頼み、わしは通い夫になって赤ちゃんや王妃の世話もしていたら、あっという間に1ヶ月が過ぎようとしていたが、もう1人産まれた。


 この子は、わしの愛人であるイサベレの子供だ。


 堂々と酷いことを言っているのはわかっている。しかし、王妃2人の強いプッシュがあったので、ヤッちゃったのだ。


 このイサベレという白いロングヘアーの絶世の美女は、お隣の東の国筆頭騎士。リータたちと同じく化け物クラスの人間だ。

 そもそもイサベレは、東の国でたった1人のエルフと同じ生態を持つ人物。代々、1人の女児を出産の後、必ず10年後に母親が亡くなっていた白い一族の末裔であった。


 それなのに強い子供を産み落とそうと自分より強い男を探していたら拗らせてしまい、100年以上も純潔を貫いてしまった経緯を持つ。

 そこをわしが倒してしまったので、自称愛人と名乗り、リータたちも同情して愛人を認めてしまったから、わしも断れなかったというわけだ。


 1ヶ月遅れなのは、まぁアレだ。順番みたいな? 毎日わしは頑張ったとだけは言っておこう。それで察してくれ。


 しかしながら、子供に不思議なことが起こった。イサベレとの子供は、何故か猫耳と尻尾がある白髪の女の子が産まれたのだ。


 これはわし個人の感想なのだが、リータとメイバイの時は久し振りで張り切りすぎたかも? なんとなくだがテンションが上がっていて、行為中に魔力を放出したような感じがあった。

 イサベレの時は逆で、100年純潔を貫いたイサベレのほうがはっちゃけてたかも? それはもう凄かったので、あまり集中できなかったから結果の違いが出たのかもしれない。


 検証したいところではあるが、3人の衰弱が酷すぎるのではできない。ヂーアイも出産の間隔は10年は空けるようにと言っていたから、ヤラないほうが3人のためになるだろう。


 だがしかし、10年も禁欲生活をしていたわしの我慢がガガガ……


 というわけで、ゴムの木やシリコンから避妊具を作って、夜の生活を楽しむようになったわしであった。


 ちなみに避妊具は、長い寿命と出産に制限のあるエルフの里でバカ売れ。猫の国各地でも熟年夫婦にバカ売れし、それを聞き付けた各国からも問い合わせが凄く、全世界でバカ売れしたのであったとさ。



「よしよしにゃ~」

「「「キャッキャッキャッ」」」


 3人の赤ちゃんは、わしのことが大好き。猫娘も猫息子も猫耳娘も、わしのお腹に乗ったらモフモフして嬉しそうだ。


「ところでにゃんだけど、イサベレって産休はいつまで取るにゃ?」

「1年の予定」

「そのあと赤ちゃんを連れて帰るにゃ~? わしは離れたくないにゃ~」

「それは女王様に相談してみないことにはわからない」

「むぅ……ちょっと行って来るにゃ!」


 こんなにかわいい我が子を1年なんかで取り上げられたくないわしは、東の国のお城に乗り込んで、金髪美熟女の女王に文句。


「気持ちはわからなくはないわ。私も孫はかわいいし……」

「だったらイサベレと一緒に猫の国にくれにゃ~」

「できるわけないでしょ!」


 女王はお婆ちゃん心を見せていたが、まったく譲ってくれない。そりゃ、東の国最強戦力と、それを受け継ぐ者なのだから譲るつもりはないのだろう。

 なので「にゃ~にゃ~」ケンカ。その結果、月に二度はイサベレたちの顔を見せ、超強いエルフをもう2人送り込むことで、産休の3年の延長を勝ち取るわしであった。


「実はリンリーも身籠ってるみたいなのよね~」

「そうにゃの? てことは~……これってただの戦力補充じゃにゃい??」

「オホホホホホホ~」

「そういうのは先に言えにゃ~~~」


 完全にわしの負け。まさかわしの派遣していたエルフのリンリーと東の国騎士団ナンバー2のオンニが子作りしていたなんて知りもしなかったので、女王の渡に船の手助けをしてしまったのであったとさ。



 わしの負けに終わった勝負であったが、ひとまずイサベレたちを猫の国に3年釘付けにできることは重畳ちょうじょう。わしの勝ちと言っても過言ではない。

 しかし、してやられたことは腹が立つので、金髪美女のさっちゃんに愚痴を聞いてもらおうと、王女殿下の愛の巣にお邪魔した。


「お~。よしよし。おっきくなったにゃ~」

「キャッキャッキャッ」


 ここでも、子供からわしは大人気。さっちゃんの子供を抱いたらモフモフしてる。でも、愚痴は忘れない。


「あはは。お母様らしいわね。でも、私もイサベレ達は早く返してほしいな~?」

「さっちゃんまでにゃ~? わしの子供でもあるんだからにゃ~」

「だって、この子の友達になれるじゃない? 私の子供の頃なんて、子供なんて近くにお姉様しかいなかったのよ。6歳ぐらいまで、周りは大人ばっかりで寂しかったんだから」


 わしの愚痴を聞いてもらいに来たのに、さっちゃんは愚痴の嵐。でも、その中には夫のことが一切出て来ないので、逆に心配になる。


「旦那と仲良くやってるにゃ?」

「なに突然……やっぱり私に婚約破棄してほしかったの?」

「冗談でも変にゃこと言うにゃ~。友達として心配してるだけにゃ~」


 さっちゃんの結婚の経緯には、わしがかなり深く食い込んでいる。

 一時期わしと結婚しようとたくらんでいたさっちゃんであったが国を思ってか、あっさり完璧イケメンと結婚する流れになった。

 そのイケメンが王配のオッサンに「娘さんをください」的なことをやったら、いまさらさっちゃんをやるのは嫌になったのか「猫の許可を取って来い!」と送り込んで来たのだ。


 いきなりやって来たのでわしも困り、事情を聞いたらいたずら心が出て、「さっちゃんはやらん!」って言っちゃった。

 そしたら諦める流れになったので、めっちゃ焦った。どうも、さっちゃんから本命はわしだと聞かされていたらしい……

 こんな冗談を真に受けられたら、王妃が怒るのは目に見えている。最悪、女王がキレて、軍隊を引き連れて押し掛けて来そうなので、わしは必死に説得してなんとか結婚に漕ぎ着けさせたのだ。



「まぁ仲良くやってるよ。ただ、お父様があの人を目の敵にしててね。勉強とか言って連れ回しているから、なかなか帰って来てくれないのよ」


 さっちゃんは寂しそうにそんなことを言うので、仲良くやっているのは本当なのだろう。


「あのオッサンは、いつになったら子離れするんだろうにゃ~」

「まぁね~。でも、気持ちはわかるわ。この子がいつか私から離れて行くと思ったら、いまからでも寂しいもの。シラタマちゃんもそうでしょ?」

「うちの子は離れて行かにゃいもん!」

「あははは。お父様と一緒じゃん」


 オッサンと一緒にされるのは看過できない。これでもわしは、元の世界では三人も送り出したのだ。娘だけはちょっとゴネたけど、ちょっとだけじゃぞ?


 それからお互いの子育ての話をしていたら、さっちゃんはトンでもないことを言い出した。


「そうだ! シラタマちゃんところの2人目って男の子だったよね?」

「そうにゃけど……それがにゃに?」

「この子の許嫁にならない? きっとこの子もシラタマちゃんみたいな男の子を好きになると思うのよね~」


 確かにわしは女の子にモテモテだから、好きになるかもしれない。いや、女の子がわしをモフモフするってのが正しい。


「女王候補の許嫁にゃ~……」

「両国の繋がりが強くなるし、よくなくない?」

「わしとしては、子供には恋愛結婚してほしいんだけどにゃ~」

「うちの子、絶対美人になるって! 男の子ならメロメロになるわよ~?」


 美女の家系にイケメンがくっついたのだから、赤ちゃんは絶世の美女になるのは目に見えているが、わしはいささか気になることがある。


「にゃんか裏がにゃい??」


 そう。我が国は技術大国。わしの知識に加え、他国から天才を何人も引き抜いているから、新しい技術がいくらでもある。結婚ともなると、これらを融通しろと言って来るのは目に見えている。


「裏なんてないよ~。ちょっとモフモフしたいだけ。きっとシラタマちゃんみたいにモフモフに育つんでしょ? お婿さんってことは、義母はモフモフし放題よ~」

「うちの子もペットじゃないからにゃ!!」


 いや、さっちゃんは技術力よりもモフモフ。それも、娘の旦那を自分の物にしようとしてやがる。

 さっちゃんらしいと言えばさっちゃんらしいんだけど、わしとしてはやはり息子を東の国に送るのは考えものだ。


 この日から、わしとさっちゃんの許嫁戦争が始まったのであったとさ。

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