『ばすたぶるけのわん』 その2


 あまりに、とっぴな物体の出現により、やましんは、ぶったまげてしまった。


 『まてまて、まずは、お風呂のなかではありますが、冷静になりましょう。』


 やましんは、狭いバスタブにかっちりと、お口まで沈んだ。


 『熱は感じない。』


 お風呂自体が、非常に狭いから、物体は、やましんの鼻先に迫っている。


 しかし、熱さなどは感じない。


 岩のようにみえるが、岩にしては不自然な感じがする。


 『こりは、作りものに違いない。』


 やましんは、そう、直感した。


 しかし、天井には穴はない。


 つまり、上から来たものではない。


 床を見れば、そこにも、この物体が突き抜けたらしき穴はない。


 壁も、無傷だ。


 つまり、こいつは、このお風呂空間に、忽然と現れたように見える。


 『そのようなことは、ありえまっせん。』


 やましんは、たまたま、手が届く場所にあった、お風呂掃除用の、棒たわしをつかんだ。


 そうして、かの有名な動作を行った。


 すなわち、たわしの柄のほうで、つんつん、と、突いたのである。


 人類の行動としては、極めて原始的で、危険な行為だ。


 藪から棒、と、言う。


 中から、何かが飛び出してきたら、防ぎようがない。


 が、幸い、さして変化はない。


 ならば、と、やましんは、さらに危険行為に出た。


 たわしの側で、ちょっと、ごしごし、って、やったのである?


 やわらかい物質なら、傷が入るかも。


 さすがに、それはなかったみたいだ。


 『むむむ。』


 やましんは考えてみた。


 『こりは、しかし、非常にまずい、シチュエーションだな。ドアが開かないぞ。窓からは、小さすぎて、脱出不可能。


 ドアは、ガラス二面だ。


 下側は、物体が覆っている。上側も、半分は邪魔されているから、ガラスを割っても出られない。むむむめむ。』


 つまり、お風呂場に閉じ込められた格好だ。


 やましんは、棒たわしでぐい、と、押してみた。


 『重いな、なかなか。やはり、金属と見た。しかし、床が抜けていない。摩訶不思議饂飩げな。』



      □□□□□□□□□



 一方で、物体の中側から、外をしきりに、観察していたものがある。


 『なんだ。なんという場所だ。湿度が80パーセント。反対側は、さらに高い。』


 覗き窓が、壁側になっている。


 反対側にはない。


 本来はあるはずなのに、製造時に潰されたらしい。


 しかも、外部モニターや、センサーの大半が作動しない。


 『こりは、粗悪欠陥品だ。なんか。怪しい大学だったしな。な、なんだ、なにかが、外皮をつついたぞ。わ、わ、擦られたぞ。何がいるんだ。もしかして、巨大な、アジアマンモスデジタルアナコンダか。あれなら、そのまま、食われるかも。食糧を、デジタル分解するぞ。それか、新型古代怪獣か? 時代計測装置もダウンしてる。早く。機能回復しなくては。』


 観察者は、焦ったのである。



    ΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔ


 

 

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