第5章 巨艦咆哮

第33話 艦隊決戦直前

1942年9月18日



「航空戦は終了。米軍はどう出てくるか」


 「飛鷹」艦長別府明朋大佐は、「飛鷹」艦橋で艦長席に深く腰をかけながら呟いた。


 「飛鷹」は、今年7月31日に竣工した隼鷹型航空母艦の2番艦だ。


 「飛鷹」は日本郵船の豪華客船「出雲丸」が母体の改装空母であり、全長219.32メートル、全幅26.7メートル、基準排水量24140トンの艦体に、常用48機、補用5機の航空機運用能力を持つ。


 性能としては「飛龍」とほぼ同等であり、6月のミッドウェー海戦で「加賀」「龍驤」が失われた今、機動部隊の中核を担う空母として期待されていた。


 「飛鷹」は姉妹艦「隼鷹」と第3航空戦隊を組んでおり、これに第2航空戦隊の「蒼龍」「飛龍」を加えた航空戦力が乙部隊の航空戦力の全てだった。


 そして、「蒼龍」は黒煙を噴き出しながら停止している。


 艦橋に入ってきた報告によると、敵重爆の低空投弾によって「蒼龍」には2発乃至3発の500ポンド爆弾が命中したようであり、浸水も相まって消火活動に手間取っているようだった。乙部隊司令部は既に「蒼龍」の後送を決定しており、同司令部は「飛龍」に移乗していた。


「索敵機より入電。『敵水上砲戦部隊発見。位置は3艦隊より南東20海里』」


 別府が無言で「蒼龍」を見つめていると、通信室から報告が上げられた。


「『飛龍』より信号。『零戦、攻撃機発進せよ』」


「艦長より飛行長。待機している全機を発進させよ。艦長より航海長。面舵」


 索敵機からの報告を聞き、艦長席から立ち上がった別府は飛行長と航海長に素早く下令した。


 「飛鷹」航海長横井俊作中佐が転舵を命じ、「飛鷹」が風上に向かって突進する。


 転舵したのは、「飛鷹」だけではない。「飛龍」「隼鷹」の2空母もまた風上に向かって突進している。


「発艦始め!」


 飛行長の号令一下、飛行甲板で待機していた零戦6機、99艦爆4機、97艦攻5機が順番に発艦を開始する。


 2度目のミッドウェー海戦の後半戦が始まった瞬間だった。

 


 30分後、3艦隊よりミッドウェー島よりを航行している前衛部隊は、敵水上砲戦部隊と急速に接近しつつあった。


前衛部隊

司令官 近藤信竹中将

参謀長 白石万隆少将

第1戦隊 「大和」「長門」「陸奥」

第2戦隊 「日向」

第4戦隊 「愛宕」「高雄」「摩耶」「鳥海」

第5戦隊 「妙高」「那智」

第9戦隊 「北上」「大井」

第1水雷戦隊 「鬼怒」「五十鈴」

第11駆逐隊 「親潮」「黒潮」「早潮」「夏潮」

第12駆逐隊 「初風」「雪風」「天津風」「時津風」

第13駆逐隊 「朝雲」「山雲」

第2水雷戦隊 「長良」「木曾」

第14駆逐隊 「白露」「時雨」「村雨」「夕立」

第15駆逐隊 「春雨」「五月雨」「海風」「山風」

第16駆逐隊 「江風」「涼風」


「前方に敵艦隊、大型艦3、中小型艦多数!」


「来たな。前回のミッドウェー海戦は夜戦だったが、今回は昼戦か・・・」


「そうですな。新鋭戦艦『大和』のお手並み拝見といきましょう。敵さんの40センチ主砲搭載の新鋭戦艦は『日向』にとってはちと荷が勝ち過ぎていますからな」


 「日向」艦長の松田千秋と副長の馬場正治中佐は砲戦を前にして頷き合った。


 現在、前衛部隊は2つの水雷戦隊を先頭に立て進撃しており、「日向」は部隊の一番後方に位置していた。


「敵艦隊一斉に増速します! 22、・・・23ノット以上!」


「全軍突撃せよ」


 見張り員から敵艦隊の一斉増速が報された直後、前衛部隊旗艦「大和」から命令電が発せられ、前衛右方を務めていた第1水雷戦隊「鬼怒」「五十鈴」が第11駆逐隊「親潮」「黒潮」「早潮」「夏潮」、第12駆逐隊「初風」「雪風」「天津風」「時津風」、第13駆逐隊 「朝雲」「山雲」の10隻の駆逐艦を率いて真っ先に突撃を開始する。


「1水戦、突撃開始しました!」


 1水戦が突撃を開始した直後、第2水雷戦隊「長良」「木曾」が1水戦に遅れじとばかりに動き出し、第14駆逐隊「白露」「時雨」「村雨」「夕立」、第15駆逐隊「春雨」「五月雨」「海風」「山風」、第16駆逐隊「江風」「涼風」の10隻がそれに続く。


 「日向」のすぐ前を航行していた3隻の巨艦――大和型戦艦「大和」、長門型戦艦「長門」「陸奥」も増速する。


 「日向」は第1戦隊ではなく、第5戦隊の「那智」の後方を占位し、増速を開始する。


 今回の作戦で第2戦隊は「日向」1隻しかいないため、第2戦隊は敵戦艦部隊との撃ち合いには参加せずに、敵巡洋艦部隊との戦いに投入されることになっていた。


 第9戦隊「北上」「大井」も増速する。6月のミッドウェー海戦では、重雷装艦の強みを発揮することができなかったが、今回の戦いではその真価を発揮してくれるはずであった。


 その時、上空から轟音が聞こえてきた。


 3艦隊の7隻の空母から発進した零戦、99艦爆、97艦攻が飛来してきたのだ。機数は前部で50~60機といった所であり、その全機が3艦隊上空を飛び越えて敵艦隊へと向かっていったのだった・・・


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2022年10月12日 霊凰より















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