第31話 3艦隊反撃
1942年9月18日
「艱難辛苦乗り越えてなんとやらだな」
第1次攻撃隊として「赤城」「瑞鶴」の艦攻48機を率いる嶋田重和少佐は、長時間の飛行によって凝り固まった肩を回しながら呟いた。
今日の明け方から始まった2度目のミッドウェー海戦において、第3艦隊は敵機動部隊の姿を発見することが出来なかった。
一方の第3艦隊は飛来してきたドーントレスに位置を突き止められ、一方的に攻撃を仕掛けられた。
零戦を多数、防空戦闘に出撃させたことによって甲部隊、乙部隊共に敵機動部隊艦載機の航空攻撃は辛うじて凌ぎきる事が出来たが、潜水艦の攻撃によって甲部隊の小型空母「祥鳳」、重巡「利根」が沈没、敵重爆部隊の攻撃によって乙部隊の駆逐艦「磯風」が沈没、正規空母「蒼龍」が大破する損害を受けた。
だが、空襲、潜水艦の攻撃が一段落した際にミッドウェー島より発進した零式水偵で正規空母1隻を基幹とした敵機動部隊2群を発見し、3艦隊司令部はその部隊にそれぞれ「丙1」「丙2」の呼称を与え、「祥鳳」「蒼龍」以外の7空母の攻撃隊を発進させたのだ。
防空戦闘中、搭乗員達は待機室に被弾・被雷の恐怖におびえながらすし詰め状態にされており、それだけに勇躍出撃していった搭乗員達の士気は極めて旺盛であった。
敵機動部隊「丙1」まで推定20海里に迫った所で、迎撃のF4Fが姿を現した。
「頑張れよ、制空隊」
嶋田は99艦爆、97艦攻の前方に展開し始めた零戦隊に向けて呟いた。
甲部隊、乙部隊の各空母の零戦隊はF4F、ドーントレス、アベンジャー、そして、陸軍機のB17やB25との戦闘で、多数の機体が墜落、または被弾損傷しており、各機の搭乗員達も疲れているはずだ。
ただ、見た感じだと、迎撃に出てきたF4Fの機数も6月のミッドウェー海戦時に比べ、かなり少ない事は攻撃隊にとっては救いだった。
空中戦が始まった。
逞しいフォルムを持つF4Fが一斉に突進し、華奢なフォルムを持つ零戦が一斉に散開した。
F4Fの両翼に発射炎が閃き、12.7ミリ弾が獲物を捕らえる投網のようにぶちまけられ、2機の零戦が胴体を貫かれる。
僚機の被弾を見た零戦が仇を取るべく、F4Fに至近距離まで接近し、必殺の20ミリ弾を撃ち込む。グラマン
「グラマン来ます!」
「そうくるわな!」
偵察員の松永寿夫飛行特務少尉の短い報告に、嶋田は叫んだ。
零戦隊の搭乗員達は頑張ってくれていたが、全てのF4Fを拘束できる訳ではない。必ず攻撃機自身が乗り越えるべき場面があり、それは嶋田が常に「瑞鶴」艦攻隊の部下達に言い聞かせていることであった。
F4Fから機銃弾が放たれる――そう嶋田は直感し、操縦桿を右に倒した。97艦攻は前部に射撃可能な固定機銃を持たないため、少々歯がゆかったが、機体を不規則に振って敵機から放たれる機銃弾を回避するしかなかった。
「6小隊長機被弾! 墜落します!」
松永が味方機の被弾・墜落を報せる。開戦劈頭の真珠湾攻撃の時から同じような報告を多数受け続けていたが、いつになっても慣れるものではなかった。
「赤城」「瑞鶴」の艦攻隊は必死に敵弾を回避しようとしているが、F4Fが12.7ミリ弾を放つ度、高確率で97艦攻が1機、また1機と火を噴く。
「艦爆隊、突っ込みます!」
松永が小林道雄大尉率いる「飛龍」「隼鷹」「飛鷹」艦爆隊の動きを報せ、嶋田は反射的に上を見上げた。
99艦爆が一斉に増速し、護衛の巡洋艦、駆逐艦の対空射撃がその周囲に炸裂し始める。
「蒼龍」の艦爆隊が欠けていたため、機数は減っていたが、敵機動部隊にとってはかなりの脅威であることは間違いないだろう。
99艦爆は僚機が被弾・墜落しても突撃を止めず、護衛の巡洋艦・駆逐艦に母艦から抱えていた250キログラム爆弾を投下した。
巡洋艦2隻、駆逐艦4隻の艦上に命中弾炸裂の閃光が走り、敵機動部隊上空を覆い尽くしていた対空砲火の射弾が激減した。
嶋田はそれを見計らって、97艦攻のエンジン・スロットルをフルに開いた。
艦攻の輪形陣内部への侵入を防ぐべく、健全な巡洋艦、駆逐艦が海面付近に射弾を集中させるが、それは完全とはほど遠く、嶋田の操る機体は瞬く間に輪形陣内部への侵入に成功した。
敵空母は艦首を泡立たせ、回避運動を開始した。
攻撃隊も必死であったが、米軍も数少ない空母を傷つけまいと必死なのだろう。その証拠に、味方撃ちを恐れずF4Fが輪形陣の内部まで迎撃戦を展開しており、それによって3機の97艦攻が瞬く間に撃墜された。
「用意・・・発射!」
頃合い良しと見た嶋田は魚雷の投下レバーを引き、97艦攻の機体がひょいと持ち上がった。
魚雷を投下しても、嶋田は低空飛行を続けている。
敵弾が1、2発嶋田機に命中するが、致命傷には至らず、輪形陣の外部に出たところで戦果が判明した。
敵空母に3本の魚雷が命中したようだった。
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