第26話 蒼空の堅陣
1942年9月18日
2度目のミッドウェー海戦の一番槍を務める事になったのは、TF16(第16任務部隊)より発進した攻撃隊だった。
中型空母「レンジャー」よりF4F16機、ドーントレス16機が、中型空母「ワスプ」よりF4F16機、ドーントレス8機、アベンジャー12機が、それぞれ出撃している。
ハワイ・オアフ島の陸軍航空隊も機動部隊と共同して攻撃隊を発進させる予定であったが、こちらは準備の遅れが生じ、30分から1時間後の出撃となるとの事であった。
「『ブレイド1』より全機へ。前方に敵艦隊が見えるが、司令部から定められた目標ではない。編隊形を維持し、進撃を継続せよ」
「レンジャー」爆撃隊隊長であり、攻撃隊の総指揮官も兼任しているアレキサンダー・R・アーリー少佐は膝下全機に呼びかけた。
「こっちの機動部隊が陣形に工夫を凝らしているように、ジャップの奴らも工夫に工夫を重ねているな」
眼下に見える日本艦隊を見下ろしながら、アーリーは呟いた。この日本艦隊は戦艦、重巡といった艦艇を中心として構成されている部隊であり、高度5000メートルから確認する限り、平べったい飛行甲板を持つ空母が確認できなかった。
おそらく、敵の指揮官はこの部隊で航空攻撃をある程度吸収しようと考えていたのだろう。
「目標まで80海里です。総指揮官」
偵察員席に座っているジョージ・D・マレー大尉が報告を送ってきた。
「レンジャー」「ワスプ」より発進した第1次攻撃隊の目標は「グリスリー」と命名された空母5隻を基幹とする部隊であり、目標まで80海里を切った以上、いつ
そして、その時はやってきた。
「ジーク、左上方! 多数!」
「右方からも来てます!」
マレーは叫んだ。ジークは第1次攻撃隊を挟撃するようにして出現してきたのだ。
「レンジャー」爆撃隊の前方に展開していた「レンジャー」F4F隊が、迫り来る脅威から爆撃隊を死守すべく動き出したが、それでも遅れを取った感は否めず、アーリーの視界に入るだけでも2機のF4Fが火を噴き、苦悶するように空中をのたうち、高度を落としていった。
「総指揮官!」
「機体間隔を密にし、弾幕射撃を張れ!」
アーリーはレシーバーに向かって叫び、「レンジャー」爆撃隊のドーントレス16機が機体間隔を詰め始めた。
機体同士の間隔を詰めると、空中衝突の危険性があったが、「レンジャー」の爆撃隊はアーリーの指導の下鍛え上げられており、そのような事は起こらなかった。
F4Fが果敢に反撃に移る。
F4Fが得意の直線軌道を生かして、ジークの後方から追いすがり、両翼に発射炎を閃かせる。F4Fから放たれる機銃弾は投網さながらであり、1機のジークを搦め捕った。
そのジークは閃光を発し、原形も止めぬほどバラバラになり、他にも2機のジークが爆撃隊の周りから離脱していった。
F4Fはジーク相手に奮闘していたが、全てのドーントレス、アベンジャーを守り切る事はできなかった。
「6番機、7番機被弾!」
アーリー機の後方を飛んでいた2機のドーントレスが被弾する。ジークから放たれた20ミリ弾が燃料タンクを撃ち抜いたのだろう、ドーントレスは小規模な爆発を繰り返しながら、炎の塊へと変化していった。
片翼をへし折られたドーントレスは即座にバランスを失い、独楽のように回転しながら墜落していった。
「くっ!!!」
アーリーは拳を握りしめた。6番機と7番機の機長とはどちらも5年以上の付き合いであり、戦闘中にも関わらず、2人との思い出が走馬灯のように蘇ってきた。
「11番機、13番機被弾!」
何処からか新手のジークが10機以上出現し、更に2機のドーントレスを容易く撃墜していった。ドーントレスも7.7ミリ機銃にて必死の抵抗を試みるが、大した効果はなく、「レンジャー」爆撃隊はその戦力の4分の1を喪失してしまったのだ。
「どうなっているんだ、いったい!」
マレーもジークの機数の以上な多さに気づいたのだろう。日本海軍は従来から攻撃重視、というか攻撃偏重であり、6月のミッドウェー海戦でも機動部隊の上空を守っていたジークの機数は20~30機だった。
だが、今、防空戦闘に当たっているジークの機数は優に50機を超えており、それはアーリーの予想の範疇を明らかに逸脱していた。
「ジーク2機! 射撃開始します!」
ジーク2機がアーリー機を指揮官機と見抜き、攻撃を仕掛けてきた。
マレーが後席旋回機銃を乱射し始め、射撃音がコックピットにまで伝わってきた。アーリーも操縦桿を右に、左にと倒し、ジークから放たれるであろう20ミリ機銃弾の回避を試みる。
ジークを墜とすことはできなかったが、アーリー機も1発も被弾していない。
アーリー機を狙ってきたジークはどこかに飛び去り、その直後、アーリーは目標「グリスリー」を視界に収めた。
索敵機の報告通り、空母5隻が輪形陣の内部で航行しており、その周りを2隻の戦艦を始めとする10数隻の艦艇が固めていた。
「目標発見! 全機突撃せよ!」
アーリーは残存全機に突撃を命じたのだった。
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