第24話 次期作戦
1942年8月14日
「まだ表に出ていない情報だが、上の方で次期作戦の骨子が固まった」
戦艦「日向」艦長松田千秋大佐は、艦橋に集まった「日向」の主要幹部に用意していた椅子に座るように勧めた。
ミッドウェー海戦後の人事異動によって「日向」の主要幹部はその殆どが入れ替わっており、副長は馬場正治中佐、砲術長は安藤憲栄中佐、通信長は渡部寿雄少佐とそれぞれ入れ替わっている。
現在、「日向」は横須賀軍港に停泊している。
少し離れた所には、横須賀海軍工廠が誇る6つのドックが見え、特に第6号ドックで建造が進んでいる110号艦――大和型戦艦の3番艦の迫力は「日向」の艦上から見ても凄まじいものであった。
「海軍は再び全力を挙げ、ミッドウェーに進出することになる」
松田は宣言するように言い、殆どの幹部が一斉に頷いた。客観的に考えて、現状、帝国海軍が進出する場所はミッドウェー以外あり得ないため、幹部達の間に動揺はなさそうだった。
「察しの通り、目的はミッドウェー島に対する大規模な補給及び基地化の支援だ」
松田は次期作戦の目的を発表した。
当初は、ミッドウェー占領後に第4艦隊によって同島に補給物資を大量に送り込み、陣地や飛行場の整備を行う予定であった。
だが、ミッドウェー海戦に敗北し、戦力の過半を失ったはずの米太平洋艦隊が潜水艦による補給線寸断作戦に乗り出し、第4艦隊から運ばれてくる物資の約6割はミッドウェーに陸揚げする前に太平洋の海底へと消えていった。
帝国陸海軍はミッドウェーをハワイ攻略への足がかりとするどころか、同地を何とか維持するだけで精一杯である。
そこで、機動部隊を中心とした有力な艦隊と共に大量の輸送船をミッドウェーに送り込み、現状を打破しようという考えで今回の作戦が認可されたのだ。
「4艦隊の戦力損耗が激しいとは聞いていましたが、そこまで追い込まれているのですか?」
腕を組みながら静かに話を聞いていた副長の馬場がここで始めて口を開いた。
「4艦隊の井上長官は様々な工夫を行い、船団護衛に務めたが、米潜水艦の数が想定の数倍では、如何ともしがたかったのだろう」
松田は馬場の問いに対し、返答した。
ミッドウェーへの補給を任された第4艦隊であったが、船団護衛のために配属されている艦は護衛空母1隻、特設水上機母艦4隻、旧式駆逐艦40隻程度に過ぎない。
これでは前部の輸送船団に十分な護衛を付けることは出来ず、護衛艦艇の喪失も相次いでいる。
既に特設水上機母艦1隻、旧式駆逐艦8隻が失われており、それに対する補充は海防艇の1隻すら送り込まれていない。
このような状況下で、4艦隊は窮状に陥ってしまっているのだ。
「やはり、ミッドウェーの維持は我が軍、というより我が国にとっていささか無謀だったのではないのでしょうか?」
安藤が疑問を呈した。
ミッドウェーは東太平洋の孤島であり、物資の補給が困難を極めることは6月のミッドウェー島攻略作戦以前から判明していたことである。
海軍中央にもミッドウェーから即座に撤退すべしという声が日に日に高まってきており、GF長官の山本五十六大将もそれらを押さえ込むのに苦労しているとの事であった。
「ミッドウェー島の維持が極めて厳しいということに関しては一点の曇りもなくその通りだろうな」
松田は頷いた。
「これは又聞きの話なのだが、山本長官は米英連合軍との長期戦は亡国を招くとして常日頃から短期決戦を主張していたのだそうだ。その短期決戦を実現させるためにもミッドウェーを維持し続ける事は最重要課題なのだろう」
「参加戦力はどの程度でしょうか?」
「参加戦力は機動部隊本隊と前衛部隊に分けられる」
松田が参加部隊・参加艦艇に関しての説明を始めた。
帝国海軍機動部隊はミッドウェー海戦に置いて「加賀」「龍驤」を喪失し、「翔鶴」も被弾損傷によって戦列外に去ったが、この2ヶ月で商船改造空母「飛鷹」、小型空母「龍鳳」が新たに戦列に加わり、計9隻の陣容となっている。
それらの9隻は第3艦隊――1航艦が名称変更された部隊に集中的に配備されることとなっており、それらの護衛には第3戦隊の金剛型戦艦4隻、第7戦隊の最上型重巡3隻、第8戦隊の「利根」「筑摩」、第10戦隊の「長良」と駆逐艦14隻が付く。
前衛部隊は第1戦隊「大和」「長門」「陸奥」、第2戦隊「日向」、重巡6隻、軽巡6隻、駆逐艦20隻の陣容となっている。
「遂に『大和』が出ますか!」
安藤が声を上げた。昨年12月に竣工した世界最強の戦艦である大和型戦艦1番艦「大和」が遂に初陣を迎えると聞いて、感情を隠しきれなかったのであろう。
「確かに次期作戦には『大和』が出撃するが、ハワイの真珠湾には敵さんの新型戦艦が2隻乃至3隻集まっているそうだからな」
高ぶる安藤を宥めるように松田はそう言ったのだった。
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2022年10月3日 霊凰より
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