第20話 夜戦決着
1942年6月12日 夜
夜戦は終結しようとしていた。
戦闘開始以来、押され気味であった2戦隊であったが、11戦隊の肉迫雷撃によって、敵戦艦2番艦が轟沈し、敵1番艦、3番艦も艦底に複数本の魚雷を受け、戦闘力を著しく喪失していた。
「日向」艦長の松田千秋は、今こそが好機である――そう考え、その松田の思いに答えるように「日向」が敵3番艦に射撃を開始した。
各砲塔の1番砲が、最後の仕事と言わんばかりに今日一番の咆哮を上げ、発射の反動が「日向」の艦底部を突き上げた。
前を行く「伊勢」も主砲に火焔をほとばしらせている。「伊勢」は消火活動に専念するために、一時砲撃を中止していたが、火災の鎮火に合わせ、「日向」と同じタイミングで射撃を再開したのだ。
敵1番艦、3番艦から放たれた40センチ砲弾、36センチ砲弾が「日向」「伊勢」目がけて飛んできたが、全く脅威にはならない。敵1番艦も3番艦も被雷によって艦のバランスが崩れている今、正確な射撃など望むべくもないだろう。
「日向」が第5射を放った時、見張り長が「命中!」と歓声を上げた。
「日向」の射弾は艦橋に命中したようであり、黒煙が吹き飛ばされた時、敵3番艦の艦橋の高さは半分に減じていた。
「次より斉射!」
田村景虎砲術長が大声で宣言し、「日向」が敵3番艦に第1斉射弾を放った。
「敵1番艦更に速力低下!」
見張り長より報告が上がり、その直後、「日向」は斉射を放った。
「・・・!!!」
この日何度も経験した斉射時の衝撃であったが、松田はみじろきもしなかった。
「伊勢」も「日向」に続き、敵1番艦に対し斉射を放ち、その砲声が「日向」の艦橋にまで聞こえてきた。
敵3番艦の手前に3本の長大な水柱が奔騰し、その後ろ複数箇所から閃光が確認された。
敵3番艦の艦上から細長い物体が何本も宙に舞い、海面に落下していった。
「日向」の第1斉射弾の内、1発が敵3番艦の主砲塔1基を爆砕したのだろう。敵3番艦は苦悶するかのように大量の黒煙を噴き上げており、その命が最早長くない事は明らかであった。
敵3番艦は速力が低下しはじめ、そのせいで第2斉射弾、第3斉射弾は敵3番艦を捉える事は叶わなかったが、続く第4斉射弾が2発、敵3番艦に命中した。
水柱が崩れた時、敵3番艦は急速に沈降しつつあった。
被雷からの36センチ砲弾多数の被弾により、ダメージが限界点を突破したのだろう。
まだ、艦の全てが海面下に沈んでいる訳ではなかったが、敵3番艦にこれ以上の斉射が必要ないことは明らかであった。
「敵1番艦、大傾斜!」
「終わったな・・・」
敵1番艦、敵3番艦が戦闘力を完全に喪失したのとほぼ同時に、まだ生き残っていた敵巡洋艦、駆逐艦が一斉に戦場からの離脱を開始した。
全戦艦を撃沈乃至、航行不能になってしまったのを見て、勝ち目無しと判断したのだろう。
「『伊勢』より信号。『目標ミッドウェー』!!!」
「18ノットで『伊勢』に続け。魚雷艇の出現に注意しろ」
通信長が「伊勢」から発せられた命令を伝達し、松田は主砲弾をミッドウェーの陸地に叩き込むべく、ミッドウェー島に接近するように命じた。
「日向」の左舷側から第5戦隊の「妙高」「那智」の姿が確認できた。
松田は「足柄」「羽黒」が無事かが気になったが、確認のしようもなかったので、黙っている事にした。
程なくして戦艦2隻、重巡3隻の主砲弾がミッドウェー島の飛行場を中心に撃ち込まれ始め、途中から第7戦隊の最上型重巡3隻もそれに加わった。
飛行場に駐機してあったB17、1機に20センチ砲弾が直撃し、一瞬にして残骸と化し、爆風に煽られたF4F、ドーントレスの主脚がぽっきりと折れ、支えを失った機体が1機、また1機と横転してゆく。
1000ポンド爆弾、500ポンド爆弾数百発を保存している弾火薬庫にも1発が命中し、とてつもない規模の火柱が突き上がった。
滑走路に破孔が穿たれ、ブルドーザーを始めとする土木設備も容赦なく粉砕される。
飛行場をあらかた片づけた後、陸上基地に照準が切り替えられた。
海上から上陸してくる敵兵を迎え撃つべく配置された機銃座が片っ端から薙ぎ払われ、壕の中で待機していた戦車も壕ごと押しつぶされてゆく。
陸上部隊の司令部が置かれている建物に2発の20センチ砲弾が立て続けに直撃し、その建物は司令部ごと音を立てて崩れ去っていった。
日本側の艦砲射撃が終わったのは、砲撃開始から30分後の事であった。
そして、ミッドウェーの米軍は1時間後に降伏したのだった・・・
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これで、2章にまたがったミッドウェー島攻略作戦編は完結です。
多数の艦艇・航空機を失ってミッドウェー島を手に入れた日本軍でしたが、ミッドウェー島は他の日本軍根拠地から距離が離れすぎており、補給は一筋縄ではいきません。
次の第3章は「ミッドウェー島に対する補給」を巡って日米間で壮絶な戦いが繰り広げられます。
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霊凰より
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