第3章 遠すぎた島
第21話 第4艦隊
1942年7月12日
1
ミッドウェー海戦から1ヶ月後、中部太平洋の要衝トラック環礁から多数の艦船が出撃しようとしていた。
30隻の輸送船が出撃し、それを護衛する護衛空母「大鷹」、特設水上機母艦4隻、駆逐艦がそれに続く。
30隻の輸送船には、食料、弾薬、医療品、土木材料などが満載されており、どの船も喫水を深く沈めていた。
「あまり上層部の批判をしたくはないのですが、ミッドウェー島を占領したことは正しかったのでしょうか・・・。作戦自体は成功との事でしたが、本官にはイマイチ利口な選択には思えないのですが・・・」
井上の隣に立っていた鍋島俊策参謀長が井上だけに聞こえる声量で呟いた。
「私は米軍の内懐に飛び込む作戦は被害ばかりが大きく、益が少ないという理由で当初からミッドウェー攻略作戦に反対の立場に立っていたが、心配した通り、被害は甚大なものとなったからな」
井上の言うとおり、帝国陸海軍はミッドウェー島攻略作戦に置いて、ミッドウェー島の占領という目標を達する事は出来たものの、米軍の抵抗によって多数の被害を被っていた。
日本側の喪失艦は、正規空母「加賀」、小型空母「龍驤」、戦艦「扶桑」「山城」、重巡「羽黒」「最上」、駆逐艦5隻。
戦果は正規空母3隻、戦艦5隻、重巡2隻、軽巡1隻、駆逐艦6隻となっている。
一見してみると、戦果が損害を上回っており、日本側が戦略・戦術共に勝利したのではないかと思ってしまうが、問題点は損傷艦が多数に上った事だ。
1000ポンド爆弾数発を被弾した正規空母「翔鶴」は飛行甲板の損傷を修理するために5ヶ月のドック入りが必要らしく、夜間戦闘によって「大破」と見積もられる損害を受けた戦艦「伊勢」や重巡「足柄」などは修理に9ヶ月かかる見通しとの報告が内地より届いていた。
他の巡洋艦や駆逐艦も多数が被弾損傷しており、内地のドックはどこも順番待ちの状態となっていた。
内地では機動部隊を中心として、早くも再編成作業が始まっていたが、連合艦隊が次の作戦行動を開始することが出来るのは、早くて4ヶ月後との事だ。
そして、これだけの損害を払ってミッドウェー島を取ったのは良いものの、ミッドウェーに基地としての価値は殆どないと井上は考えており、それどころか4艦隊に補給艦隊の派遣という厄介極まりない任務が回ってきたものだから、井上の気分は暗かった。
「今から出航しようとしている補給艦隊の護衛艦艇にも不安が残りますな」
鍋島が補給艦隊の護衛艦艇の少なさに関して指摘した。
4艦隊司令部はこの補給艦隊の派遣に合わせて護衛艦艇の大幅な増強をGF司令部に打診していたが、返ってきた返事は「護衛艦艇に余裕なし。4艦隊司令部は万難を排し、ミッドウェー島への補給を完遂せよ」という木で鼻をくくったようなものでしかなかった。
「ですが、我が軍は先の海戦で米空母3隻を撃沈し、2隻を撃破しています。太平洋に展開していた米空母は一掃されたはずであり、慌てて大西洋から持ってくるにしても1隻が限度なはずです。米太平洋艦隊に4艦隊の補給を阻む能力はないと本官は考えますが・・・」
首席参謀の有馬馨大佐は米軍の航空兵力の著しい弱体化を根拠として、補給作戦は高確率で旨くいくと考えていたが、井上はそこを心配しているのではなかった。
「米太平洋艦隊は航空戦力こそ枯渇しているかもしれないが、、まだ潜水艦部隊が残っているはずだ。輸送船を護衛する駆逐艦は旧式のものばかりであり、とても敵潜水艦の襲撃を防げるものではない」
「確かにその可能性はありますな。今からでも遅くないので、『大鷹』に搭載されている97艦攻を対潜哨戒に積極的に活用するように命令を発してはどうでしょうか?」
「そうしよう。通信参謀やっておいてくれ」
有馬の具申を井上は即座に採用し、通信長に通達を命じた。
(さて、この大戦の結末はどうなるかな・・・。ひょっとするととんでもない結末になるかもしれんな・・・)
補給部隊が完全に見えなくなった時、井上は腹の底で呟いたのだった。
2
数日後、真珠湾には米潜水艦が集結していた。
その数20隻。
中部太平洋に展開している潜水艦からの報告で、日本軍の輸送船30隻がトラック環礁から出港したことは既に米軍の伝わる所となっており、それを受けた太平洋艦隊司令部は潜水艦部隊を用いての補給線攻撃を実施することを決定したのだ。
潜水艦はミッドウェー島の近海に集中配置される予定となっており、各潜水艦の艦長達の士気は天を突かんばかりであった。
1日後には、全ての潜水艦が獲物を求めて太平洋に解き放たれたのだった・・・
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第3章始まりました。
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2022年9月30日 霊凰より
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