第15話 連続斉射
1942年6月12日 夜
軽巡「アトランタ」の艦橋では、ノーザプトン級重巡「ノーザプトン」「チェスター」「ルイビル」「シカゴ」で構成される第8巡洋艦戦隊の苦戦を確認することができた。
「アトランタ」はTF1に所属していた艦艇であり、元々この夜戦に参加する予定ではなかったが、紆余曲折を経て夜戦に参加することになったのだ。
「昼間の航空戦で沈んだ『レキシントン』の仇を取るにはうってつけの戦場だな」
「アトランタ」艦長艦長サミュエル・P・ジェンキンズ大佐は即座に8巡戦の援護に回ることを決断し、後続のアトランタ軽巡「ジュノー」にもその方針を伝えた。
「『ノーザプトン』左舷大傾斜!」
見張り員から悲痛な報告が入ってくる。8巡戦の苦戦はさっき確認した通りであったが、思ったよりも不味い状況らしかった。
「艦長より砲術。どの艦が狙いやすい?」
「砲術より艦長。敵巡洋艦1番艦、2番艦は火災煙に遮られ、照準不能。敵巡洋艦4番艦が一番狙いやすいです」
ジェンキンズは「アトランタ」砲術長ジェームズ・O・リチャードソン中佐に意見を求め、リチャードソンは敵4番艦が狙いやすい旨を伝えた。
「よし! 『アトランタ』『ジュノー』目標敵4番艦、砲撃開始!」
「砲撃開始。宜候!」
ジェンキンズが射撃目標を定め、リチャードソンはそれを復唱する。
8巡戦とやり合っているミョウコウタイプと思われる巡洋艦は、「アトランタ」「ジュノー」に砲門を向ける気配がない。2隻の軽巡の存在に気がついていないのか、それとも、軽巡如き歯牙にかけていないのかは知らなかったが、どちらにせよ好都合であった。
「その慢心が命取りだぜ。ジャップ」
ジェンキンズがそう呟いた直後、「アトランタ」の主砲である38口径5インチ連装主砲8基16門から一斉に火焔が湧きだし、夜闇に包まれていた艦橋が一瞬、白昼のように光った。
通常、砲戦では最初から斉射を用いる事は皆無であるが、ジェンキンズは敢えて第1射目から斉射でいくようにリチャードソンに伝えていた。
理由は単純明快。「アトランタ」の主砲は1斉射で16発もの砲弾を放つことができるので、数を頼みにして第1射目から命中弾を期待出来るからである。
「『ジュノー』射撃開始しました!」
後部見張り員から「ジュノー」も「アトランタ」に続き、敵4番艦に砲撃を開始した事が伝えられる。
「アトランタ」の第1斉射弾が着弾する前に、「アトランタ」は第2斉射弾を放った。
16発の5インチ砲弾が音速を遙かに超える速度で敵4番艦に向かって飛翔してゆき、第1斉射弾が着弾した。
多数の水柱が滝のように敵4番艦の艦体を包み込み、それが晴れた時、ジェンキンズは拳を握りしめた。
「砲術より全乗員へ。第1斉射弾1発命中!」
リチャードソンが艦内放送を用い、ただいまの射撃の結果を全乗員に伝え、艦内各所から耳をつんざかんばかりの歓声が上がった。
「アトランタ」の乗員の中には、昼間「レキシントン」沈没に喪失感を感じている者もいただろうが、今の一撃でそのようなネガティブな感情も吹き飛ばすことが出来たのではないか――ジェンキンズはそのように思った。
「ジュノー」の第1射が着弾し、敵4番艦の動きに分かりやすいほどの乱れが生じる。敵4番艦の艦長は、ノーザプトン級重巡と撃ち合っている状況下で、新たに「アトランタ」「ジュノー」に狙いを定められて、混乱を来しているのかもしれなかった。
「アトランタ」が第3斉射、第4斉射を放ち、第2斉射弾が敵4番艦を捉える。
今渡は敵4番艦の艦上の複数箇所に爆煙が躍り、前部に留まっていた火災が艦の後部にも勢力を広げようとしていた。
「畳みかけろ!」
ジェンキンズは発破をかけるように命じた。
「アトランタ」の第3斉射弾、第4斉射弾、第5斉射弾、「ジュノー」の第1斉射弾、第2斉射弾、第3斉射弾が敵4番艦に殺到し、敵4番艦はその力を急速に失っていった。
敵4番艦と撃ち合っていた「シカゴ」はいつの間にか沈黙しており、その戦闘力を完全に喪失していたが、敵4番艦が「シカゴ」以上の災厄に見舞われることはもはや確定事項であった。
「シカゴ」を沈黙させた敵4番艦の20センチ主砲が、今になって「アトランタ」に対し第1射を放ったが、発射炎が閃いたのが艦の前部だけな上に、その照準も極めて乱雑なものであり、ジェンキンズがわざと艦を20センチ砲弾にが弾着するであろう場所に誘導でもしない限り命中しそうになかった。
「見張り員より艦長。敵4番艦沈黙。戦闘、航行不能の模様」
約1分後、ジェンキンズは見張り員から報告を受け、砲撃目標を敵4番艦から敵3番艦に切り替えたのだった・・・
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2022年9月24日 霊凰より
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