第13話 大西洋からの援軍
1942年6月12日 夜
イセ・タイプから通算3回の砲撃を受けた所で、「ミシシッピ」は最初の射弾を放った。
「ミシシッピ」はミッドウェー島防衛作戦に先立って、大西洋から急遽回航されたニューメキシコ級戦艦の2番艦であり、36センチ3連装主砲4基12門を装備している。
「ミシシッピ」を始めとするニューメキシコ級戦艦は、テネシー級戦艦、ペンシルベニア級戦艦の流れをくむ「標準型」の戦艦であり、「ミシシッピ」艦長J・L・ジェイン大佐はニューメキシコ級戦艦の性能に全幅の信頼を置いていた。
「ミシシッピ」が第1射を放ち、目標としている敵戦艦4番艦への着弾を確認する前に、第2射が放たれる。
射撃の度、全長190.20メートル、全幅32.39メートル、基準排水量33400トンの巨体が身震いし、巨大な砲声が暗闇の海域に轟いた。
「ミシシッピ」の前を航行している「アイダホ」も敵4番艦に対し、砲撃を開始している。
「ミシシッピ」の第4射が着弾したとき、敵戦艦4番艦の艦上に火災炎が確認された。
「敵4番艦に命中弾1。次より斉射に移行します」
「ミシシッピ」砲術長アシュレイ・H・ロバートソン中佐が歓声混じりに報告を上げ、ジェインも上機嫌になった。
「『アイダホ』が直撃弾を得ました!」
「ミシシッピ」に続き、「アイダホ」も敵4番艦に対し命中弾を得る。
これで、「ミシシッピ」「アイダホ」は敵4番艦に対し、圧倒的な優位に立った事になるが、その優位は一瞬にして崩れ、互角付近にまで押し戻された。
本艦の艦上に1機の観測機が飛来した――ジェインがそう悟った直後、「ミシシッピ」の艦全体が閃光に包まれ、暗闇に浮かび上がった。
「まずい!!!」
ジェインが堪らず叫び、約30秒後に着弾したイセタイプからの36センチ砲弾が「ミシシッピ」を刺し貫いた。「ミシシッピ」が経験する生涯最初の衝撃が、「ミシシッピ」の艦体を痙攣させた。
ジェインは不吉な予感に襲われ、直後、砲術長が絶叫と思わんばかりの声量で報告した。
「砲術より艦長。第1主砲に直撃弾。砲塔全壊! 注水します!」
主砲弾の誘爆を防ぐため、第1主砲弾火薬庫に注水が開始され、砲弾の装填を終えた残存3基の主砲が第1斉射を放った。
斉射の瞬間、交互撃ち方の3倍の衝撃が走り抜けた。
「敵4番艦、斉射に移行しました!」
イセタイプも斉射に移行する。まだ「ミシシッピ」「アイダホ」の主砲弾はイセタイプの主砲の1基も潰せていないため、次からは、12発の36センチ砲弾が「ミシシッピ」目がけて飛来してくることになる。
「『アイダホ』火災発生! 敵3番艦による砲撃です!」
「『アイダホ』もやられたか!」
ジェインは再び叫んだ。
「撃て! 敵4番艦に撃ち勝つんだ!」
ジェインは発破をかけ、それに答えるように「ミシシッピ」の主砲が第2斉射を放った。
敵4番艦からの主砲弾が降り注ぐ直前、「ミシシッピ」の主砲弾が、敵4番艦を捉えている。
弾着の瞬間、敵4番艦の艦上に、これまでにない強烈な閃光がきらめいた。
(主砲塔の1基程度は破壊できたか?)
ジェインはそう考えたが、「ミシシッピ」に直撃した3発の36センチ砲弾が、ジェインの思考を即座に断ち切った。
奔騰した水柱が艦体を包み込み、艦橋を挟み込むように火焔が沸き立った。
「3、4、5番両用砲損傷! 機銃座4基完全破壊!」
「前甲板に直撃弾1。砲弾は貫通! 兵員室全壊!」
2つの被害報告が上げられ、「ミシシッピ」が決して小さくない損害を受けたことをジェインは悟ったが、一方で、主砲塔をやられていないことに対し、胸をなで下ろしていた。
「アイダホ」の主砲弾が着弾し、至近弾炸裂の水柱が敵4番艦を包み込み、その先に直撃弾炸裂の火焔が沸き立った。
「しぶとい!」
ジェインは敵4番艦のしぶとさに違和感を持ち始めていた。イセタイプの装甲は36センチ砲弾に対応したものであるはずだが、近代化改装によって強化されているのかもしれなかった。
「ミシシッピ」が第4斉射を放つ直前、敵弾が天から落下してきた。
上層構造物の被弾による衝撃と、水中から突き上げる爆圧との両ばさみになった「ミシシッピ」が甲高い大音響を上げ、ジェインは「ミシシッピ」が再びただならぬ災厄に見舞われてしまった事を悟った。
「第4主砲天蓋に直撃弾1! 砲員全員戦死の模様!」
「艦首に被弾! 浸水あり!」
第4斉射弾発射の砲声に被害報告が重なる。「ミシシッピ」は敵4番艦に損害らしい損害を与えていないのにも関わらず、主砲火力の約5割を喪失した上に、艦首に痛烈な一撃を喰らってしまったのだ。
「『アイダホ』被弾多数! 被害拡大の模様!」
「『アイダホ』もか!」
この時、ジェインは把握していなかったが、「アイダホ」は「ミシシッピ」以上の災厄に見舞われていた。
「アイダホ」には敵3番艦から放たれた36センチ砲弾を7発被弾しており、主砲塔4基の内、3基までもが使用不能になった上に、艦橋に直撃弾を受けて、艦長以下のほぼ全ての幹部乗員が戦死していたのだった・・・
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