第2話 最初の空襲
1942年6月12日
この日、ミッドウェー近海まで進出した第1航空艦隊及び第2艦隊は明け方から多数の索敵機を出撃させ、その結果、2群の米空母部隊と、ミッドウェー島の内情に関する情報を手に入れる事に成功した。
米空母部隊の位置はそれぞれ、ミッドウェー島北東50海里、北東75海里との事であり、ミッドウェー島には約100機の米軍機が配備されているとの事であった。
一方、日本艦隊の上空にも米軍のB17が3機飛来してきており、そのB17から電波が発せられた事が確認された。
第1航空艦隊及び第3航空戦隊より第1次攻撃隊が午前7時丁度、第2次攻撃隊が午前7時32分にそれぞれ出撃しており、敵艦隊目がけて進撃していった。
「敵攻撃隊はあと15分できます! 機数は不明!」
電探を装備している「扶桑」からの報告が「日向」通信長大隅翔也大尉によってもたらされ、松田は「了解」と返した。
第2艦隊に所属している4隻の空母の飛行甲板上では動きが騒がしくなっており、程なくして直衛用の零式艦上戦闘機、略称「零戦」が発艦を開始した。
零戦は開戦以来、向かうところ敵無しと言われている日本が誇る新型艦上戦闘機であり、その機体が50機以上防空戦闘に従事しようとしていた。
「敵の攻撃隊はどっちの部隊を狙ってくるでしょうかね。我が第2艦隊か、それとも1航艦か・・・」
「微妙な所だが、多分最初の空襲は第2艦隊で引き受けることになるぞ。確かに正規空母6隻がいる1航艦の方が敵にとっても旨みが多いだろうが、1航艦が第2艦隊の後方に展開している以上、初撃で無理に1航艦を狙うというのは危険が大きいからな」
副長の山元が思案顔になり、それを見た松田は自分の見解を述べた。山元は出撃時に松田に心のたるみを指摘されてから、米軍に対する警戒心を高く維持し続けており、松田もその姿を見て心強く感じていた。
松田のその言葉が終わるのと同時に、艦橋に新たな報告が入ってきた。
「上部見張りより艦橋。零戦隊突入します!」
「日向」の艦橋からは詳しく分からなかったが、「扶桑」の電探が捉えた敵編隊に対し、零戦隊が迎撃戦を開始したようだ。
東太平洋の蒼空に多数の飛行機雲、そして、黒煙が噴き伸び、零戦隊は9機の喪失と引き換えに敵編隊100機の内、およそ4分の1までもを撃退したが、全機を防ぎきる事は出来ず、空中戦の戦場は第2艦隊の上空に近づいてきた。
次の報告が入ってきた。
「見張りより艦橋。第7戦隊、砲撃開始しました!」
松田は反射的に双眼鏡を用い、第7戦隊が展開している前方の海域を見つめた。
第7戦隊の1番艦「最上」、2番艦「熊野」が搭載されている対空火器を総動員して射撃を開始し、褐色の砲煙が米軍主力艦爆「ドーントレス」、同じく米軍主力艦攻「アベンジャー」の付近に湧きだし始める。
「艦長より砲術。敵機が射程内に入り次第、対空射撃を開始せよ」
松田は射撃指揮所に詰めている砲術長田村景虎中佐に命じ、田村が即座に「敵機が射程内に入り次第、対空射撃を開始します」と命令を復唱する。
第7戦隊に次いで、第5戦隊の妙高型重巡4隻、第11戦隊の軽巡「多摩」「由良」、陽炎型駆逐艦、夕雲型駆逐艦が砲門を開いた。
対空砲火の火箭に捉えられたドーントレス、アベンジャー各3機が翼を叩き折られ、プロペラを吹き飛ばされ墜落し、第2艦隊の対空砲火に恐れをなしたドーントレス4機、アベンジャー3機が空母にぶち込むはずだった爆弾、魚雷を投棄して離脱していった。
護衛艦艇の対空射撃だけでは敵機を完全に防ぎきる事は不可能――そう考えた第4航空戦隊の「祥鳳」、そして、「瑞鳳」の2艦長が転舵を命じ、その動きを見た田村が「日向」の対空火器を司る各分隊長に「射撃開始」を命じた。
「日向」の対空火器の内、敵機を射角に捉えている50口径単装速射砲10門、12.7センチ連装高角砲2基が火を噴き、艦上に砲声が轟いた。
砲声は強烈だが、全長215.8メートル、全幅33.83メートル、基準排水量39657トンの巨体を誇る「日向」の巨体は小揺るぎもしない。
この第1射がこの戦争で「日向」が放つ最初の射撃であり、松田も感慨深かったが、その余韻が収まらぬ内に発射間隔が短い12.7センチ連装砲が第2射を放った。
「瑞鳳」目がけて急降下爆撃を開始したドーントレス1機が早くも投弾コースから離脱してゆき、海面付近まで降下したアベンジャーが奔騰した水柱に飲まれて姿を消す。
「不味いぞ! 10機以上は残ってる!」
「日向」と残りの3戦艦――「扶桑」「山城」「伊勢」の対空砲火によって一定数のドーントレス、アベンジャーを撃退したが、まだかなりの機数が残っている事を察知した副長の山元が叫んだ。
松田も「祥鳳」「瑞鳳」の危機に対し、思わず声を上げそうになったが、何とか平静を保ち、はやる山元の気持ちが乗り移ったかのように、「日向」の対空砲火が更に吠え猛るが、敵機は墜ちない。
次々に炸裂する高角砲弾、機銃弾の間隙を縫うように「祥鳳」「瑞鳳」との距離を詰め、爆弾を投下し、魚雷を発射していった。
数秒後、海面で次々に爆発が起こり、白い航跡が2空母に迫っていった。
多数の水柱が基準排水量1万トン前後の小型空母を包み込み、その姿を隠し、そもすれば轟沈を錯覚したが、水柱が全て消えた時、「祥鳳」「瑞鳳」が健全な姿を現した。
非常に際どい所ではあったが、2空母は被弾・被雷を回避したのだ。
そして、程なくして第2艦隊を襲った最初の空襲は終わったのだった。
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霊凰より
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