異聞・太平洋戦争 ミッドウェーの栄光
霊凰
第1章 ミッドウェー攻略作戦始動
第1話 総力出撃
1942年6月1日
出航のラッパが鳴り響いた時、戦艦「日向」艦長松田千秋大佐はチラッと艦橋の窓越しに外海を見やった。
「日向」と同じ第2艦隊に所属する4隻の重巡洋艦――「妙高」「那智」「足柄」「羽黒」が艦首を白く泡立たせ、ゆっくりと動き出している。
この4隻の重巡は妙高型重巡に所属する艦艇であり、第5戦隊を構成している。
「見張り長より艦長。第3航空戦隊『隼鷹』『龍驤』出撃します!」
第5戦隊に続いて、ミッドウェー攻略作戦直前に第2艦隊に配属されることが決まった4隻の航空母艦が順次、動き出した。
第3航空戦隊「隼鷹」「龍驤」、第4航空戦隊「祥鳳」「瑞鳳」だ。
開戦劈頭の真珠湾攻撃で空母と航空機の有用性が十二分に証明された現在、帝国海軍諸艦艇の中で最も貴重な分類に入る4隻と言っていい。
その中でも、1ヶ月前に竣工した中型空母「隼鷹」には松田も大きな期待をかけていた。「隼鷹」は純正の空母ではなく、日本郵船の豪華客船「橿原丸」から改装された改装空母であったが、その搭載機数は常用48機と正規空母の「蒼龍」「飛龍」に匹敵している。
「『扶桑』より信号。『第2戦隊出撃』であります!」
「錨上げ。前進微速」
「日向」電信長大隅翔也大尉が報告を上げ、松田はすぐさま航海長に出撃を命じた。
広島湾口に一番近い位置に停泊していた第2戦隊旗艦「扶桑」がゆっくりと前進を開始する。2番艦「山城」がそれに続き、3番艦「伊勢」――「日向」の隣に停泊していた伊勢型戦艦の1番艦も機関を胎動させ、動き出す。
「大きい声で聞くことは出来ませんが、なぜ、連合艦隊司令部は今作戦において、第2戦隊の出撃を命じたのでしょうか・・・?」
「日向」が湾口に差し掛かったタイミングで、副長の山元正文中佐が小声で松田に質問を投げかけてきた。
山元の問いに松田は静かに頷いた。山元が考えていた事は松田もまた考えており、松田自身も第2戦隊の出撃を命じた連合艦隊司令部の意図を掴みかねていたのだ。
事実、開戦以来、西太平洋やインド洋に出撃していく部隊は一部の例外を除き空母部隊のみであり、戦艦部隊はその大半が内地に留め置かれていた。
航空主兵思想に傾倒している参謀連中の中には「戦艦など桟橋をかけて旅館代わりにしてしまえ」「全戦艦を空母に改装すべし」と発言する者まで現れる始末であり、松田を始めとする「日向」の乗組員達は半年以上苦渋をなめていたのである。
「どうなんだろうな。今回の作戦には2戦隊の戦艦が参加するだけでなく、空母も10隻が参加するそうだ。GF司令部が戦艦部隊に期待しているというよりは、あくまでも主役は空母だろう」
松田はそう言ったが、本能的に今回の作戦で「日向」に出番が回ってくるという事を確信しており、砲術科の連中には「敵コロラド級戦艦、テネシー級戦艦の出現に備え、主砲の状態を万全にしておけ」と言ってあった。
「それにしても、空母10隻ですか。真珠湾で米太平洋艦隊を壊滅させた時の戦力の1.5倍に匹敵する数です。惰弱な米艦隊など鎧袖一触ですな」
「馬鹿者!」
敵を侮るような発言をした山元に対し、松田は声を張り上げた。これまでの海戦の戦闘詳報を出撃前に読み漁っていた松田は誰よりも油断と慢心が引き起こす危険性を熟知していたのだ。
「油断と慢心は絶対にならん。特に海戦の主役が戦艦から航空機に移り変わろうとしている今次大戦では、1分1秒の差がそのまま勝敗を分ける差になってもおかしくないからな」
「すっ、すいません! 本官が間違っておりました!」
山元は一歩下がり、謝罪の言葉を述べながら敬礼をした。
(4月にドーリットル空襲があったのにも関わらず、海軍内部の危機意識の改革は進んでいないな・・・。この分では、今回の作戦は一筋縄ではいかぬまい)
この作戦の前途に多難な物を感じた松田が心の中で嘆息したとき、右舷側から多数の艦艇が視界に入ってきた。
軽巡2隻、駆逐艦4隻が部隊を先導し、その後ろに多数の大型艦が続いている。
正規空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」の6隻を基幹とし、今回の作戦の主役を務める第1航空艦隊であろう。
程なくして50隻以上の艦艇が進撃を開始した。
そして、この帝国海軍の動きは、四国南岸に展開していた2隻の米潜水艦によって察知されたが、それに気づいている将兵は松田を含め、誰一人としていなかったのだった・・・
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第1航空艦隊
第1航空戦隊 「赤城」「加賀」
第2航空戦隊 「蒼龍」「飛龍」
第5航空戦隊 「翔鶴」「瑞鶴」
第8戦隊 「利根」「筑摩」
第3戦隊 「金剛」「榛名」「霧島」「比叡」
第10戦隊 「長良」、駆逐艦12隻
油送艦8隻
第2艦隊
第2戦隊 「扶桑」「山城」「伊勢」「日向」
第3航空戦隊 「隼鷹」「龍驤」
第4航空戦隊 「祥鳳」「瑞鳳」
第5戦隊 「妙高」「那智」「足柄」「羽黒」
第7戦隊 「最上」「熊野」「三隈」「鈴谷」
第9戦隊 「北上」「大井」
第11戦隊 「球磨」「由良」、駆逐艦18隻
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霊凰より
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