おもしれえ女
「落ち着いたか?」
「……えぇ、恥ずかしい姿を見せたわね」
興奮していた様子だが、やっと結華は落ち着いたようだった。
まさかこうして接触してきた彼女がびょうあいのプレイヤーであり、しかも血染に関して大好きだと言ってくるとは思わなかった。
「あの驚いた顔から色々と警戒していたんだが、まさかここまでのヘビープレイヤーとは思わなかったよ」
「そりゃ驚くでしょうよ。まあでも……あの大河がこんな風に変わるなんてね。原作のあいつがあまりにおかしかっただけなんだけど」
「ははっ、流石に好きな子に襲い掛かるのは無理だ。むしろ、好きだからこそあの子を見捨てられなかった」
「分かる分かる!!」
それとなく時間を確認するとまだまだ昼休みが終わるには余裕がある。
俺としてもある意味で気が合うというか、壮馬と違って友好的な前世の存在というのは色々と話が弾む。
「ま、今あの子はもう普通の子だよ。可愛くて、綺麗で優しくて……自慢の俺の妹であり彼女なんだ」
「おぉ!」
「羨ましいか?」
「羨ましい!!」
もうあれだな、結華の見る影もない。
「間桐はこれからどうするんだ?」
「結華で良いわよ? 私も大河って呼ばせてもらうから」
「そうか? 分かった。それじゃあ結華、これからどうするんだ?」
「これからっていうとヒロインとして動くかってこと?」
「そそ。まあ分かり切ってるけど」
壮馬に対して印象が最悪な時点で彼女はあいつを相手にしないだろう。
それにヒロインに生まれ変わったからといって、行儀よく歯車の一部になりはしないだろうしな。
「正直、どうして転生先がこの子なのって気はしてる。兄を含めて家族も良い人たちでね……ゲームでは語られていない部分を知れるのは新鮮だった。だからこそ、私は私らしくゲームとは違う結華として生きていくわ」
「そうか」
「えぇ。世界の修正力とか、そういう物騒な力はないみたいだし?」
「だな。もしあったとしたら俺は完全に排除対象だよ」
この世界が独自に進むことを許さないのであれば、俺はとっくに消されていると思う……まああの悪夢がもしかしたら修正力って線も考えられるけど、それはもう消え去ったものなので心配の必要もない。
「ちなみに壮馬も転生者って言ってたけど、何かやらかした?」
「お、聞いてくれるか」
「……何よ。いきなり怖くなったんだけど」
俺は彼女に壮馬の武勇伝を全て話した。
すると彼女は気持ち悪いと表情を歪め、まるで自分の腕で身を守るように体を抱いていた。
「主人公になれたのもあるし、可愛い子や綺麗な子がたくさん居るから調子に乗るのも分かるけど、こうして生きている以上現実なのに何を考えているのかしら」
「それな。しかも……あぁいや、何でもない」
あいつが血染のことを化け物などと言ったこと、それも伝えようかと思ったがここまで血染のことを好きだと言ってくれているので、もしも伝えてしまったら何をするか分からないか。
「どうして黙ったの? 教えてよ」
「……えっと、だから何でもないって」
取り敢えず黙っておくことは成功した。
「それにしても本当にこんな別の世界があるなんて思わなかったわ。ねえ大河、こうなった以上は楽しまないと損よね私たち」
「そうだな」
「うんうん♪ さあてと、大河を通じてまずは血染と仲良くなること。後は他のヒロインとも仲良くなりたいわねぇ」
「あはは……」
何だかんだ、本当に悪い子じゃなくて良かったってところだな。
それからも俺は結華の話に付き合ったのだが、そこでまさかの出来事が起こる。
「……え?」
「どうしたの?」
俺と結華しか居なかったはずの屋上、その地面から首から上だけを出して真白が俺を見つめていた。
突然のホラーバリバリの光景に俺は小さく漏れた声以上に驚いている。
そうなると当然隣に居る結華もどうしたのかと俺の視線の先を辿るのだが、血染が意図しない限りはその姿も見えないので、結局俺が何もないところを見て驚いているだけの人間になっている。
(……おいおい、それは怖すぎるだろ真白!)
首だけ地面から生えた状態を続けながら、彼女は少しずつ俺に近づいてくる。
別に結華と一緒に居ることに対して怒ったりしているわけでもなく、デフォルトとも言える無表情のまま近づいてくるのでそれもまた怖かった。
「ねえ、本当にどうしたの?」
「えっと……その……あれだ」
これってどうすれば良いんだろうか。
結華は血染のことも分かっているはずで、真白という名前が付いていることは知らずともその存在は知っている……別に言っても問題はないか?
「お兄様、何してるの?」
地面から這い出てきた真白は俺の正面に立って見つめてくる。
「……あ~、まあ良いか」
「ちょっと、何一人で納得してるのよ」
「今ここにもう一人の血染が居る」
「……わっつ?」
「もう一人の血染が居る。ちなみに真白って名前を付けたからそう認識してくれ」
「……え? えっ!?」
必死に結華は真白を探すが全くその目で見ることは出来ない。
普段ボーっとしている真白だが血染同様に勘は鋭く、その場の状況を飲み込むのも結構早かったりする。
それに結華に関しては血染を通して真白も見ているので、今がどんな状況なのか察してくれたようだ。
「ちょっと待ってそこに居るの!? 血染と瓜二つのあの子が!? あの憂いを帯びた表情で血染を抱きしめ、血染を救ってほしいと願ったあの子がそこに!?」
「救ってほしいと願った……? まあそうだな。目の前に居るぜ?」
「どうして……どうして私は見えないの!? というか、そもそもなんで大河は見えるのよ!!」
「色々あったんだよ」
悔しそうにする結華を見て真白は何かを思い付いたのか、ブンブンと振られている彼女の手を取った。
「……え?」
「これで良いかな?」
「だな。血染が傍に居れば見れるけど、今はそれで十分だ」
「分かった」
透明ではあるもののその手の感触は感じられるはずだ。
そもそもこうやって実際に実体がないとあの不幸な少年のズボンをずらすこともできない。
「これ……女の子の手。小さくてすべすべで……感触から伝わる美少女の気配! しかも禍々しさもどこか感じるわ……あぁこれがあの黒い血染なのねえええええ!!」
「……真白、俺は間違ったかもしれん」
「そう? おもしれえ女」
「真白さん!?」
あぁ……真白が俺の漫画を読んだ影響で変な台詞を覚えちまってるぜ。
その後、姿の見えない真白の手をにぎにぎと気持ち悪い顔で触る結華を俺は見つめ続けるという何とも言えない時間だった。
「どうした?」
「なんか疲れた顔してね?」
教室に戻ったら真治と幸喜に心配されるくらいに俺は疲れた顔をしていたようだ。
しっかし……まさか結華があんな強烈な転生者になっているとは思わず本当に疲れてしまったけど、それでも楽しかったのは確かだ。
一応彼女のことは真白を通して血染に伝わるとは思うけど、俺からも話しておくとするか。
それから眠たい時間をどうにか頑張り、放課後になって血染と合流した。
「お疲れ兄さん……って凄く眠たそうだね?」
「あぁ……昼休みに色々あって、それからの眠たい時間だったからな」
「そうなんだ。それで、後ろの人たちはどうするの?」
「……うん?」
後ろを振り向くと、そこに居たのはなんと美空と結華だった。
「……………」
「ま、別に良いと思うけどねぇ」
何故だろう、俺にはどうしてか二人の揃った姿が最凶コンビの結成にしか見えないのは気のせいか?
しかしどうやら二人とも俺たちの後を追いかけたというわけではなく、どうもこの場で偶然にも合流してしまった形のようだ。
「どうも六道さんに血染さん。奇遇ですわね」
「奇遇ね大河! それに血染ちゃん! あああああああっ!!」
「やめろってただでさえ目立つんだから!!」
「あははっ! おもしれえ女!」
だから血染も影響されてるんだなこれがあああああっ!!
まさかこんな形で胃がキリキリすることになるとは思わず、俺は別の意味でため息を吐くのだった。
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