顔は似ていなくてもその心が似すぎてて怖い

 それは夕飯の時、俺はそれとなく質問してみた。


「それにしてもよく血染は間桐のことに気付いたな?」

「う~ん、本当に何となくだよ? 兄さんと同じ気配っていうか……まあ今更じゃないあたしがそういうことに鋭いのって」

「まあ確かにな」


 ただでさえ普通ではあり得ない力を持っているのだから気にするだけ無駄か。

 毎日の楽しみと言っても過言ではない美味しい料理を食べながら血染とそのことについて話していると、真白がボソッと呟いた。


「私も気付いてた。血染だけじゃない」

「ふふっ、そうだね」


 どうやら真白も気付いていたようで、俺が血染だけと思っていたことに僅かに嫉妬をしていたようだ。

 俺は苦笑しながら真白の頭を撫でると、すぐに彼女は嬉しそうに笑ってくれた。


「見た感じ、あの人も特に変なことをしてはこなさそうだけど……何かあったら教えてね? 兄さんを守るから」

「そこは俺が守りたいって言いたいところだが……」

「それでもだよ♪ この生活、絶対に壊させはしないから」

「うん。私も頑張る」


 本当に頼りになる妹たちだ。

 しかし、俺も結華に関しては特に邪悪というか、こちらに敵意のある視線は感じなかったので大丈夫だとは思っている。

 俺と同じ転生者であるとするならば、あんな風に驚いていたのもある程度は想像が付くからな。


「ご馳走様、今日も美味しかったよ」

「どういたしまして♪」


 それから食器洗いを手伝った後、放課後にスイーツショップによって買ったケーキを取り出した。


「ケーキだ!」

「っ!!」


 いや、君たちも一緒に選んだでしょうに。

 ケーキ一つで今日一の満面の笑顔を見せる妹二人に癒されつつ、あまりにも美味しそうにケーキを見つめるので俺の分も真白に差し出すと彼女は戸惑うことなく食べ始めた。


「こら真白……全くもう」

「良いんだよ。むしろ、今日はちょっと腹が膨れてるからな」

「そう?」

「血染が欲しかったか?」

「ううん、そこまでじゃないよ。でもせっかく兄さんも買ったのにって思ってさ」

「妹たちの可愛い顔を見れるなら安いもんさ」

「……そうやって兄さんはすぐにあたしたちを甘やかすんだから」


 普段から君たちに俺の方が甘やかせてもらっているようなものだよ。

 真白の食べるケーキが二つになったので、当然血染の方が先に食べ終わり俺と一緒に真白を眺めることになる。

 一口一口を大切にしながら食べる真白の様子は可愛らしく、俺と血染はそれはもうずっとニコニコしていた。


「すぅ……すぅ」


 ケーキを食べ終えてすぐに真白は眠ってしまい、そんな彼女を俺は抱えて寝室へと連れて行った。


「重い?」

「全然、というか重さがない」

「ですよねぇ」


 ほとんど重さのない真白なのであくまで抱く格好だけだ。

 既に歯磨きも終えて後はもう就寝するだけなのだが、まだ時刻は十時ということもあってまだ寝るには少し早い。


「あ……ふふ」

「……おぉ」


 血染が何かに気付き声を上げると、それは真白がゆっくりと血染の影に沈んでいく姿だった。

 まるで奈落の底に沈んでいくようなホラー現象そのものだが、俺としてはもう見慣れた光景だ。


「兄さんはどうする? もう寝る?」

「う~ん……まあ取り敢えずベッドに横になるかなぁ」


 そうすれば自然と眠くなるだろう。

 ベッドの上に横になると、血染も俺に続くように抱き着く形で横になった。


「兄さん……兄さん兄さん♪」


 俺のことを呼びながら全身を擦り付けるように彼女は身を寄せてくる。

 まるで俺のことを自分のモノだと言っているかのように、彼女は俺の体に自分の全てをマーキングしてくる。


(……そういや、あれからしてないな)


 思えば血染とのエッチはあの初夜以降からしていない。

 あの時で心が満足してしまったというのはあるんだが……しかし、ベッドの上でこんなにも無防備に体を押し付けられるとムラムラしてくるのは必然だ。


「兄さんの体大きいね本当に。はぁ……好き♪」


 胸を押し付けたかと思えば、足も絡ませるようにとにかく彼女は体の隙間を無くそうとしてくる。

 そして更に顔を俺の首に埋めるようにして、ちろちろと舌を出して舐めてきた。

 流石にここまでされてそれじゃあ寝ようかとなるわけがなく、俺はこの流れで言って良いのか迷いつつも体勢を変えた。


「きゃっ♪」

「……………」


 血染を下にするように俺が覆い被さった。

 悲鳴にしてはあまりにも嬉しそうな声を上げた血染は、頬を赤くしながらもその瞳に期待を乗せて俺を見つめている。


「血染、良いか?」

「良いよ。むしろ、こうなるように仕向けたもん♪」


 やっぱりそういう意図があってのアピールだったんだな今までのは。

 ここまで来たらやめないでよと、そんな意思を感じさせるように血染は俺の首の後ろに腕を回し、足も腰に巻き付くようにしてキスをせがむ。


「ぅん……ちゅっ」


 まずはキスを楽しみながら気分を高め、優しく彼女の胸に手を沈みこませながら同時に興奮も煽る。

 こうして実際に行為に及ぶのは二度目だけど、何となくこの辺りの駆け引きというか気分の盛り上げ方は分かっていた。


「兄さん、あたし凄い幸せだよ。いつも幸せなのに、こうして兄さんがあたしを求めてくれることが本当に幸せ」

「それは俺もだよ。あんな風にアピールをされたら嬉しくないわけがない」

「えへへ♪ あたしってエッチな女の子?」

「最高にエッチだと思う。でも大好きだ」

「っ……♪♪」


 それから俺は血染と共に蜜のような甘い時間を過ごすのだった。


▼▽


 結華が転校してきたことで、ついにヒロインが全てこの学校に集まった。

 美空はともかく、他の三人は僅かに面識があるだけで親しいわけでもないので、特に俺の周りが騒がしいということもない。

 まあ日を追うごとに血染が人気度合いが鮮明になっていくので、その意味では騒がしいのかもしれないが。


「ちょいトイレ行ってくるわ」

「あいよ」

「いってら~」


 昼休み、トイレに向かってスッキリした後にその出会いは待っていた。

 廊下を歩く俺の前から一人の女性が歩いてくる。


「……結華か」


 転校してから瞬く間に人気となったミステリアス女子で、血染と彼女に付いての話をしたが結局今まで絡みはなかった。

 そんな彼女が今、偶然にも周りに全く人が居ない状況で近づいている。


「……あ」


 あちらも俺に気付き足を止めた。

 すると彼女はチラチラと周りを見渡した後、俺に近づいて声を掛けてきた。


「初めまして、少し良いかしら? たぶんあなた、転生者でしょう?」


 どうやら血染の予想は大当たりらしい。

 俺は彼女の問いかけに頷き、そのまま彼女に付いて行ったが、向かった先はあまり誰も訪れない屋上だった。


「さてと、ようやく答え合わせが出来そうでホッとしたわ」

「俺もだぜ。あの時、俺を見て驚いたってことはそういうことだって思ってた」

「そりゃ驚くでしょ。だってあなた、なんで生きてんのって思ったもの」


 俺や壮馬と同じ転生者だからか、簡単に話が繋がっていく。


「しかも最凶の罠ヒロインと言われた血染と仲が良いのはあなたが生存ムーブというより、原作では実現できなかった可能性を掴んだってことだからね」

「……そうだな。ったく、こうして話すのは初めてなのに会話がスムーズで助かるというか怖いというか」

「ちなみに壮馬も転生者?」

「……あぁ、まだ話してないのか?」

「話してないわ。一瞬すれ違ったけれど、その時に見てきた視線がキモかったから」


 これはこれは……話をする前から壮馬の印象は最悪らしい。

 綺麗な金髪をクリクリと弄りながら、彼女は俺を見てこう問いかけた。


「ここに転入して日が浅いから分からないのよ。あなたは血染とどういう関係なの? もしかしなくても付き合ってる?」

「あぁ。付き合ってる――俺は血染のことが大好きだからな」


 正気なのかと、そう言われることを予想したが彼女の反応は違った。

 俺の返事を聞いた瞬間、結華は目をキラキラとさせて俺の傍に駆け寄り両手を握ってきた。


「分かる! 分かるわよ! 私も血染のことは大好きだったの! ヤンデレがメインとはいえこういうゲームを女がするのってどうなのって感じだけど、それでも地雷のように踏んだら死んでしまうあの子が私は大好きだったわ!」

「お、おう……」

「しかももう一人の血染も凄く綺麗なのよね! いやぁ誰だって思うわよあんな子を泣かせたくないって、幸せな結末があるなら導きたいって思うわマジで!!」

「……………」

「でも……きっと生半可な道ではなかったのでしょう? たぶんだけど、あの子は原作と同じ力を持っているんじゃないの?」

「持ってる……な」

「更に凄いことじゃない! 未来と過去を知っている転生者だからこそ出来ることなのかもしれないけど……くぅ!! 詳しく聞かせて!! 血染のこと、どうか私にも教えてちょうだい! そして願わくばお友達になりたい!!」


 この子、美空を彷彿とさせる子だ……。

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