先っちょだけ、似た者同士の二人

 以前に、俺の朝の目覚めは幸せだと言ったことがあった。

 血染と真白の二人と一緒に眠りに就き、朝になると真白が居なくなることはあるが血染は変わらずに傍に居る。

 目を開ければ彼女の可愛らしい寝顔と、95という凄まじい大きさのバストが俺を出迎えてくれるのだ……しかし、今日は一味違っていた。


(……何がどうしてこうなったんだ!?)


 俺の困惑の理由は何か、それは右手に伝わる圧倒的な柔らかさだった。

 今の俺の状態を具体的に説明すると、こちらに背中を向けている血染を俺が抱きしめているような体勢なのだが……何故か俺は彼女の体の前に手を回してその豊満な胸を掴んでいるらしい。


(柔らかいな……それに中央の少し固いのも……ってやめろやめろ!)


 俺はすぐに手を退かそうと思ったのだが、俺の腕は血染の脇の下辺りを通るようになっているので……腕を抜くには彼女の腕を持ち上げる必要があった。


「……っ……兄さん?」

「っ!?」


 ドクンと心臓が大きく跳ねた。

 相も変わらず俺の手は彼女の胸に触れており、その柔らかさだけでなく人の身が持つ温かさもこれでもかと伝わってくる。

 誤解がないように言うならば俺は決して彼女の胸を揉もうとこうしたわけではないんだ……目を開けたらこうなっていたんだと血染は信じてくれるよな?


「……もう少し……ねよ」

「……ふぅ」


 奇跡的に血染は何も気付かずに二度寝する方向らしい。

 再び規則正しい寝息と共に胸が上下し始めたので、俺は小さく息を吐きつつどうにかして腕を抜こうと試みる。


(さっきよりびくともしない!?)


 さっきよりも挟み込む腕の力が強い気がする……これは無理やりに腕を抜くのは少し難しそうだ。


「……やわらけぇ」


 血染のおっぱい、めっちゃ柔らかいでござる。

 彼女と触れ合う中で事故で触れることはあったが、こうして直に肌から触れることは今までなかった。

 ブラもしていないので頂点のソレの感触も感じられて……ってマズい、俺も寝起きってことでアレがスタンディングオベーションしてやがる。


「……よし。血染?」

「……………」


 反応なし、ならば俺はこの事故を良いモノとして受け止めることにする。


「……ちょっとだけ、先っちょだけ良いよな? 俺たち恋人同士だし……ちょっと揉むくらいは良かったりするよな?」


 もし彼女が目を覚ましたら甘んじて罰は受け入れる……でも何だろうな、仮にこんなことをしていたのがバレたところで血染は別に怒らないっていうか、笑顔でもっとしても良いんだよとか言いそうな気がするのは都合の良い考えかな。

 今こうして触れているだけでも柔らかさは感じているのだが、俺は意を決して少しだけ力を強くした。


「……………」


 まるで魂が抜けそうになるほどの柔らかさから感じる気持ち良さだった。

 俺は一瞬で天を突き抜けるような満足感を抱き、僅かに腕が持ち上がった隙を逃さずに俺はどうにか血染から離れた。


「……ふぅ、ちょっと気分を落ち着けよう」


 俺はベッドから出てリビングに向かい、コップにジュースを注いで喉に通す。

 ひんやりとした感覚に火照った体も冷めていき、血染の体に対して感じていた興奮は綺麗に消えてなくならなかった。


「全然ダメやんけ!!」


 自分自身に対して盛大なツッコミをした時だった。

 廊下から足音が聞こえ、少ししてパジャマのボタンをしっかりと留めた血染がリビングにやってきた。


「おはよう兄さん」

「おう……おはよう」


 ……よし、そこまで心臓は鼓動していない。

 血染の顔は普通に見ることが出来るので、そこだけは助かったか……でも、こうして彼女の顔を見ているとさっきのことを思い出して視線がスッと下を向いてしまうのを感じて俺は頭を振った。


「真白は?」

「まだ少し寝てるのかな。たぶんあとちょっとしたら起きるよ」

「そっか」

「うん。あ、それで兄さん♪」

「どうした?」


 それはもうとびっきりの笑顔を浮かべて血染が傍に来た。


「あたしのおっぱいの感触、どうだったの?」

「……うん?」


 今、彼女はなんと言ったのだろうか。


「あたし起きてたんだよぉ? えへへ、先っちょだけって言ってたよね?」

「……………」


 誰か俺を殺してくれ、割と本気でそう思った。

 実を言うとあの寝言の段階で起きたのではないかと一瞬考えはしたんだけど、どうやらその時の直感に従うべきだったんだ俺は。


「兄さん? 謝ろうとか思わないでね。あたし、兄さんがあんな風に体を触ってくれること大好きだもん」

「……マジで?」

「うん。だって恋人だよ? 兄さんのこと、あたしがどれだけ大好きなのか分かってるよね? そんな兄さんから体に触られることを嫌がるわけないじゃん。怒るわけないじゃん……むしろ、もっとしてほしいって思うよ?」

「っ……」


 目の前の女の子は血染なのは間違いないのだが、彼女の纏う雰囲気は明らかに中学生にはあり得ないほどの妖艶さがあった。

 ジッと彼女の瞳を見つめていると吸い込まれそうなほどに、血染の雰囲気に俺は圧倒されてしまう。


「だから兄さん……せめて、あたしが高校生になったら……その」


 しかし、すぐに血染はモジモジしながら下を向いてしまった。

 俺はそんな血染の様子だけで彼女が何を言いたいかを理解し、俺自身も凄まじいほどの恥ずかしさに見舞われたが、恋人の彼女にここまで言わせて俺が何も言わないってのはダメだろうぜ。


「血染は本当に魅力的な女の子で……マジでドキドキしっぱなしだ。妹とか家族とかそれは確かに大切な関係性だけど、それ以上に血染があまりに魅力的過ぎて一人の女としてバッチリ見ちまうことが増えた」

「……兄さん」

「……血染が高校生になったらそうだな……それが良いことなのか悪いことなのか分からないけどエッチの予約をさせてもらって良いか?」


 ……?

 ……っ!!


(エッチの予約って何ですかああああああああああっ!?)


 何を口走っているんだと後悔したものの、血染が浮かべたのはあまりにも綺麗すぎる微笑みだった。


「うん♪ たくさんしようね!」

「……………」


 それはそれで……結論、血染はエッチである。

 その後、真白も起きたので俺たちはいつものように朝食を済ませ、お互いに別れて学校に向かった。


「……分かってたことだけど、本当に魅力的な女の子になったなぁ」


 元々魅力的だったのが日を追うごとに際限なくレベルアップしていくようで、血染がこの先大人になったらどれだけの魅力溢れる女性になるのか……そんな彼女の隣に俺が並んでいて良いのかと思わなくもない。


「こういうことを考えたら血染にも真白にも怒られるな」


 誰かを好きになることに理由はなく、ましてやあんなにも求めてくれる女の子と自分が釣り合わないんじゃないかって不安になること自体が間違っている。

 俺は彼女が好きで、彼女も俺を好きで居てくれる……それだけが全てなのだから。


「もちろん真白もだよな。ったく、本当に幸せな兄貴だよ俺は」


 二人の妹が居てくれるからこそ今があり、そんな彼女たちと一緒に過ごしていくことがこれからの俺の未来であり、守るべき日常だ。


「二人の誕生日に何を今年は買おうかな……う~む」


 去年はケーキだけだったし、こうしてせっかく彼女と特別な関係になった以上は何か贈り物をしたいと俺は考えた。

 血染だけでなく真白にも何か贈り物を……うん、これはとても悩みそうだ。

 結局その日は彼女たちにどんなプレゼントが良いのかをずっと考えていたせいでボーっとした様子が目立ってしまい、真治と幸喜を含め美空にも心配されてしまった。


「……お?」


 そして早くも時間は流れて放課後になり、俺は一人で街中をブラブラとしていた。

 そんな折に見つけたのが指輪だった。


「……いやいや、流石に気が早すぎるって」


 指輪といっても高級な宝石が使われたものではなく、高校生くらいの女の子がアクセサリーとして付けても違和感ないようなものだが……そこそこに値段は張るのでもしかしたら良い素材を使っているのかもしれない。


「……むぅ……あ~……ふむ」


 早いとは思いつつも、俺はしばらく指輪を眺め続けるのだった。

 そして、血染の中学生最後の誕生日がやってきた。

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