心を繋ぐ最高のアイテム
「……?」
ついに迎えた血染の誕生日の日だが、その日は当然平日ということもあって学校の日だ。
昼食を終えた昼休み、トイレの帰りに俺は階段の踊り場で話をする二人の男女を見つけて足を止めた。
「壮馬と茜か?」
そこに居たのは主人公の壮馬と先輩ヒロインの北川茜だった。
こうしてあの二人が話をしている瞬間を目撃したのは初めてだけど、血染にボロクソに言われたとはいえ壮馬は特に諦めたとかはなさそうだ。
「……遠目で見たことはあったけど、なるほどやっぱり凄いヒロインオーラだ」
北川茜、俺たちの一つ上になる先輩だ。
赤いウルフカットで目付きは鋭く、男装したらどんな女性でさえも見惚れさせてしまいそうな中性的にな美貌を備えている。
中性的といっても別に男性に見えるというわけでもなく、女性として完成された美がそこにはあった。
「茜のストーリーはかなりドラマがあるんだよなぁ」
血染を除くヤンデレヒロインたちの中でも茜のストーリーは中々凝っていた。
まず彼女はモデルの仕事も熟しているのだが、主人公のことがあまりにも大切になり過ぎて仕事よりも優先するようになる。
その中で主人公との付き合い方とモデルとしての自分、その二つの板挟みになりながら主人公と共に成長していくというストーリーで……確かに彼女もヤンデレではあるのだが他のヒロインとは一風変わったストーリーだった。
「最近では美空にも全くちょっかいを出していないようだし、意外と今までの自分を振り返って謙虚になったのかも――」
なんてことを思ったが、どうもそうではなかったようだ。
「なあ茜、今度の休日にデートに行こうぜ?」
「何故私が君とデートに行かないといけないんだ? そもそも、前から言っているが君は少し馴れ馴れしすぎる。それで女の子が快く頷くと思っているのか?」
……あ~うん、何も変わっていないようだ。
いい加減にゲームとは何もかもが違うとまではならなくても、自分の行動一つで好かれもするし嫌われもするということを理解してほしいものだ。
美空はともかく茜に関しては現状は特に絡みがないため、俺はそのままスルーすることにした。
「お、帰ってきたな」
「おかえり大河」
「おかえりなさい六道さん」
「……なんで進藤が居るんだ?」
教室に戻った時、真治と幸喜が俺の机の近くで待っているならまだしも今日は進藤が一緒に居たのだ。
今までこの三人が一緒に居たことはなかったはず、唖然とした俺を三人が笑った。
「ま、そうなるよな」
「安心しろ大河。俺たちもなんでこうなったのか分からんし、進藤の勢いが……なんつうか不気味に――」
「何か言いましたか?」
「何でもないです!!」
……本当にどうしたのよ。
気になる俺に詳細を聞かせてくれたのは美空本人だった。
「この機会にと思いまして、お二人から六道さんのことを聞いていたのです。六道さんのご友人として、妹さんと接する六道さんがどんな風に見えているのかを」
「ふ~ん?」
「……勢いヤバかったけどな」
「あぁ。話さないと殺される勢いだった」
美空がギロリと幸喜に視線を向け、その視線を受けた幸喜はビクッと体を震わせて視線を逸らした。
「……その、そんなに気になるの?」
「もちろんですわ!!」
ぷるんとデカい胸を揺らして彼女は距離を詰めてきた。
ギュッと両手で握り拳を作った美空は物凄い勢いで喋り出す。
「流石にちょっと気持ち悪いとは思いましたが! それでも聞きたいものは聞きたかったのです! 以前に一度お話をする機会があった血染さん! あのような可愛らしい方とどのように六道さんが過ごしているのか……あぁ、兄妹というのは尊くてどれだけ考えてもてぇてぇが溢れてきますわ!」
「お、おう……」
断言しよう、完全に美空の趣味が変化してしまった。
というかてぇてぇなんて言葉が知ってるんだなこの子は……俺は真治と幸喜の二人と顔を見合わせ、なんとなく彼らの苦労を知った気がした。
(……でもちょっと怖いなこの子。いくら血染に次ぐ好みのキャラクターとはいえ俺たち二人のストーカーとかはごめんだぞ)
ま、なんとなくそうなる心配はないかなと思ってはいるのだが。
そんな風に学校での時間が終われば待ちに待った血染と真白の誕生日を祝う瞬間がやってくる。
夕飯を済ませた後、去年と同じように二人の前にケーキを出して俺は買ってきたクラッカーを鳴らした。
「血染! 真白! 誕生日おめでとう!」
「ありがとう兄さん!」
「お兄様……ありがと……っ!」
喜ぶ血染、嬉し泣きをする真白だった。
俺と血染は泣き出してしまった真白を慰めようとしたが、大丈夫だと言って彼女はしばらくした後に泣き止んだ。
「……その、去年よりも色々と分かるようになったから。それで、私も血染と同じように祝ってもらったことが嬉しかった」
「そうか」
「これから毎年これなんだから慣れないとね?」
血染の言った通り、俺はこれからもずっと毎年同じことを続けるつもりだ。
まあこんな風に思いっきり子供の特権を活かすようにバカ騒ぎすることはなくなるだろうが、それでもこうやって妹たちを祝える瞬間は大事にしたい。
「ケーキを食べる前にちょっと良いか二人とも」
「え?」
「??」
俺は二人の傍に近づき、大きく両手を広げて抱きしめた。
少し前なら二人とも突然こんなことをすれば僅かにでも驚いた様子を見せたはずなのに、血染も真白も特に驚くことなく俺の抱擁を受け入れお返しと言わんばかりに腕を回してきた。
「本当に大好きだぞ。血染、真白……俺の元に来てくれてありがとな。兄貴としても男としても、俺を成長させてくれたのは君たちの存在だった。だからありがとう、そしてこれからも末永くよろしくな?」
そう伝えると真白がまた泣き出したのだが、血染までが涙ぐんでしまった。
慌てるよりも二人が望むことは何なのか、それを考えた時に俺がしたことは彼女たちを胸に抱くことだった。
「兄さんは……兄さんはどれだけあたしたちを嬉しい気持ちにさせるの!?」
「思ったことを言っただけなんだけど……断じて泣かせるつもりはなかったぞ!」
「それは分かってるよ……分かってるけど一々くれる言葉があたしたちの心にクリティカルヒットしてダイレクトアタックしてるの!!」
「つまり嬉しいってことで良いのか?」
「そうだよ!!」
これ……俺が用意したもう一つのプレゼントを渡して大丈夫か?
流石に重すぎるかなと思ったけど、別にそこまで高価なものではなくあくまでアクセサリーとしての意味合いが強いと思って買ったものがある。
(……一旦、ケーキを食べてからにするか)
ようやく二人が落ち着いたところで三人揃ってケーキを食べた。
ケーキを食べ終える頃には血染はともかく、真白もいつも通りの様子に戻ったので一安心だ。
「兄さんが買ってきてくれるケーキは本当に美味しいね」
「うん。どれだけあっても食べられる」
「真白はちょっと食べ過ぎじゃないか?」
「私、太ったりしないから大丈夫。血染とは違う」
「あ?」
「あれ、言っちゃダメだった? ちょっと体重増えたはず」
「胸が大きくなったの! 決してお腹が出たわけじゃないからね!?」
え? まだ成長しているというのか!?
思わず眼球が取れるんじゃないかってくらいに目を見開いた気はするが、その気持ち悪い顔は二人に見られてないようで良かった。
流れで血染の身体的変化を知ることになったわけだが……取り敢えずこの辺りで良いか。
「二人とも、実はもう一つプレゼントがあるんだよ」
まだあるの、そう驚いた様子の二人に俺は苦笑する。
ずっとどうしようかと迷い続けていたもので、結局買って二人に渡したいと思い揃えた物だ。
予めリビングに置いておいた袋の中から俺はそれを取り出し、特に勿体ぶることなく二人の前に出した。
「……え!?」
「……それって」
瞬時に理解した血染と、自分の記憶の知識とすり合わせている真白……二人が正反対の様子を見せる中、俺は二人に差し出す。
「これ、買っておいたペアリングなんだ。結婚指輪みたいな大げさなものじゃないけど、形に残るし身に付けられるものでこれが良いかなと思って用意したんだ」
「……兄さん……っ!」
「あ……そういうこと……え……え?」
俺が二人にプレゼントしたいと思ったのはペアリングだ。
口にもしたが結婚指輪なんて大げさなモノじゃない、でも似たような意味を持っているのも確かである。
二人は俺の顔をペアリングを交互に眺め……そして泣いた。
俺は二人をどうにか慰めようと頑張ったのだが中々泣き止んでくれず、あまりにも嬉しくて涙が止まらないのだと俺を更に嬉しい気持ちにさせてくれた。
「兄さん……大好き……本当に大好き、愛してるよ」
「お兄様……好き……好き……愛してる」
二人の心からの言葉に、俺もまた泣いた。
ちなみに、その日の夜は寝るまでが本当に大変だった……プレゼントを渡してから彼女たちは全く俺から離れようとせずに、いつもよりも更に強くその豊満な体を押し付けられていたからだ。
「……ふぅ」
深夜、トイレから出てきた俺は小さく息を吐いた。
「なんとか耐えたぞ馬鹿野郎が」
【あとがき】
次回から二章!
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