第14話

 でも確かに、睡眠不足が辛くなってもきていた。このまま毎日夢の中でねねと話し、寝た気がしない日々を送るのは厳しいかもしれない。二日に一回とか、三日に一回とか、ねねと会う頻度は下げていったほうが良いのだろうか。


「そうするんじゃ。というか、会いになど来ないで良い。わしと話さなくたって、わしにもお主にも不都合などない」

「不都合はあるよ。ねねと会えなかったら、私が寂しいもん」

「そんなの、気の迷いじゃ。夢の中でわしなんかと話すより、現実でもっと友人を作れ。そうすれば寂しい思いなどしないですむ」

「現実に友達がいることと、ねねと話せない寂しさは全然別の話でしょ?」

「夢の中の友人など不健全だと言っているんじゃ」

「不健全って、自分で言うんだ……」


 なんかねねって、口うるさいお母さんみたいだなと時々思う。


 私はため息を吐いて、テーブルに顔をくっつけると言った。


「現実でもねねと話せれば良いのに」


 そうすれば問題は全部解決するのだ。ねねといつでも話せるようになって、寝不足だって解決する。


 私の呟きを聞くと、ねねは少し困ったような顔を浮かべて答えた。


「それは、だめじゃ。できん」

「まあ、そうだよね」


 獏は夢の中に住む存在なのだ。現実にはいない。


「それより、もう大人しくしていろ。これ以上授業をサボってはいかん」

「サボってはないって。体調不良なんだから仕方ないんだよ」

「寝不足が原因のじゃろう? だったらなおさら大人しくするんじゃ。夢の中でまで無理に頭を働かせるな」

「はあい」


 私は大人しく従うことにした。私自身、起きたときに頭が痛いとか、体がだるいとか、そういう思いをするのが嫌だったというのもある。


 そのうちに目覚めの時刻がきた。気がつけばねねはいなくなっていて、私は保健室の真っ白いベッドの上で横になっていた。しばらくうとうとと夢現の状態を楽しむ。目覚めているのに、まだ夢の中にいるような、微睡みの時間。


 チャイムの音がした。授業が終わったらしい。次はお昼だ。昼食は食べておきたい。私は教室に戻ることにする。


 ベッドから体を起こす寸前、ふと思い出した。私が「現実でもねねと話せれば良いのに」と言ったとき、ねねは初め「だめ」と言った。無理でも不可能でもなく、だめだと。その後、できないとも言ったが、そのできないは、手段がないことを指すのか、それともその意思がないことを指しているのか。もし意思の問題なのだとしたら、ねねが、獏が現実に存在することは、もしかして可能なんだろうか。


 でもそれをねねに尋ねたとしても、答えが返ってくるとは思えなかった。だって、教えられることなら最初から教えているはずだ。わざわざ「だめ」と言ったのは、彼女なりの理由があったからだろう。


 まあいつか、機会があったら訊いてみよう。ねねが現実にもいて話せるのなら、それは嬉しいことだ。でも今は、夢の中で会って話せるだけでも、それなりに満足できている。

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