第12話


     *


 目を覚ましたとき、私はしばらく呆然としていた。夢で起こったことはちゃんと覚えていた。けれどそれがただの夢だったのか、それとも獏の存在は本当のことだったのか、判別はつかなかった。


 疑問の答えは数日後に出た。私は数日経って、酷かった物忘れがなくなっていることに気づいた。昨日や一昨日の記憶が思い出せないということがもうなくなっていた。そしてなにより数日後、私は夢の中でまた彼女と会った。


「む……。気づきおったか」


 ねねは相変わらず宙にふよふよと浮いていた。その顔を見たらなんだか私は気が抜けて、思わず笑いだしてしまった。


「なんじゃ。人の顔を見て笑いおって。失礼なやつじゃのう」

「あ、ごめんね。そういうつもりはなくて……」


 ねねは以前と変わらず私の夢の中で暮らしていた。考えてみれば最初からそう言っていた。私の夢を食べるために彼女は獏退治に協力したのだ。


 宙に漂うねねの横顔を眺め、私は考える。彼女のことはまだよくわからない。悪い性格の持ち主ではないと思うけど、私は獏という生き物についてまだまだ知らないことのほうが多い。だから正直、ねねが自分の夢の中にいることに多少の不安はある。でもそれ以上に、彼女のことを思うと奇妙なまでの懐かしさと安心感があった。その理由について考えてみたが、結局なにも出てこない。そのうち私は悩むのをやめた。ただなんとなく、彼女とはこれから、もっとずっと、仲良くなれそうな予感がした。




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