機械とハナ
朝隈平助
第1話
ハナの肺は鋼鉄と繋がっている。それは、規則通りにハナに酸素を送り、彼女の命とその体を病室に15年留めていた。
ハナの毎日は、折り紙で病室をわずかに彩り、窓の外の変化が少ない景色を眺めるばかりだ。ゴミ箱の中身は、紫外線に当てられて色褪せた折り紙の造花が詰められている。周囲の空きベッドを見て寂しそうにすることも、いつものことだ。
「ハナちゃん、少しだけこの子と話していてね」
少しだけハナの日常を変化させたことは、馴染みの看護師が、少年を連れてきたことだった。少年はハナと同じくらいの年齢に見える。左膝に血のにじんだ包帯を巻き、目が痛むほどの消毒液の香りをまとっていた。サッカーボールを片手に人当たりの良さそうな笑みを浮かべる少年は、ハナに元気に話かける。
「ねえ、こんな部屋にいてつまらなくないの?あ、僕は旗野っていうんだ」
「あたしは、ハナ。こんな何も無い部屋、一日も経たずに飽きるよ。つまらないに決まってる」
「ふうん。やっぱりそうだよね。僕は三十分だっていられないけど」
ほとんど色の無い病室のあちらこちらを、旗野は興味がなさそうに見回す。しばらく視線をさまよわせた後、窓辺で視線を止めた。ハナが毎日欠かさず作っている折り紙の造花だ。
「花、好きなの」
「好きだよ。……本物は、あまり見たことないけど」
自重気味に、力無くハナは笑った。ハナのその悲痛をにじませた表情から、旗野はこの初対面の少女に、何かしてやりたいと思った。花を見られない可哀想な少女に、本物の、生きた花を見せてあげたいと。
ぱっと湧いて出た旗野の優しさは、検査の準備が終わったらしい看護師の声で、その日は表に出ることは無かった。
「また明日ね、ハナ」
そう言い残して検査に戻った旗野の消毒液のか香りに顔を顰めて、ハナは扉が閉まっていくのを最後まで見つめていた。
機械とハナ 朝隈平助 @heisuke_a
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