第7話 大きな掌の鬼 その3

 白鳥使い、P、背中叩鬼の3人は、例の連続昏睡事件について話をするため行きつけの居酒屋で落ち合った。


白「さぁ!!」

P「さぁさぁ!!!」

白「さぁさぁさぁ!!!!」

P「さぁさぁさぁさぁ!!!!!」

鬼「うるせぇお前ら!!!!!! 話す、話すから待て!!」


 しつこく迫る2人を制止し、背中叩鬼は話し始めた。




鬼「結論から言えば、一連の事件の黒幕は人間じゃねぇ。儂と同じ鬼族―妖怪だ。奴の名は酒盛鬼さかもりおに。夜道を歩く人間に背後から近寄り、アルコール度数の高い酒を強要し、終いには無理やり酒を口に流し込む頭のおかしい奴だ。事件のことを耳にして、まさかとは思ったが... 


儂ら鬼の肝臓は人間のものより丈夫に出来てるからな、奴は加減も知らず酒に弱い人間捕まえて一緒に飲んでいるだけだ。そう思っていた。だがあの野郎は! 泥酔して眠りこけた人間たちから金品を奪って行ったらしいじゃねぇか!」


 酒が入っているとは到底思えないような口調で話す背中叩鬼。彼の気迫に満ちた慟哭を余所に、2人は彼への申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。興味本位で、というか冷やかしで尋ねたのに、想像していたよりも事態が深刻であることを思い知らされたのだから無理もない。


鬼「もし奴が追い剥ぎをしたのが本当なら、奴は鬼族の恥だ。奴が人間に仇なすのなら、同族として見過ごすことは出来ん。今日は木曜日、奴が酒盛りをする日だ! 儂は今日、奴を懲らしめに行く!」




―――――

鬼「で、儂の話は終わりだが、お前らはこれで満足か?」

 あまりの気まずさに、2人はとうに食べ終えた焼き鳥の串をしゃぶることしかできなかったが、背中叩鬼の呼びかけでようやく我に返った。

鬼「それじゃあ儂は行くぞ」

勘定を支払い颯爽と居酒屋を去ろうとする彼の肩を掴み、Pは言った。

P「あいや待たれよ! 鬼捜し、ワタクシもお供いたしますゾ^^ ですよね! 白鳥使い殿!」

白「...え? あ、おうよ。」

突然話を振られて少々面食らったが、白鳥使いは快く了承した。いつもは面倒臭がって絶対断るのに、珍しいこともあるものだ。

白「捜す人間が多いほうが捜しものも直ぐに見つかる(お前ら人外だけど)。それに、本物の鬼をお目にかかれることなんて滅多に無いからな! 楽しみだ!」

鬼「儂も本物の鬼だぞ」



白「...という訳で、助っ人呼ぶわ」

白鳥使いは居酒屋の外へ出て、電話をかけた。



―――――

鳩「もしもし、どうしたんですか? こんな時間に」

白「突然なんだけど、お前今暇?」

鳩「げっ、何すかその質問... ひ、暇ですけど...」

白「ちょうどよかった! 実はかくかくしかじかで...

  ...じゃ、そういうことで、よろしく~」

鳩「はぁ?! そんないきなり―――――」



白「お待た~、話終わったぞ」

鬼「お前、相変わらずひでぇな。最後まで話聞いてやれよ...」




鬼(事件現場はいずれも人通りの少ない路地裏。ある程度は絞られるが、捜し当てるのはこの町の広さを考えると儂1人では厳しいか。儂としたことが、冷静さが欠けておった...)

鳩(本当にイライラする...! 頼み事するのに開口一番「お前暇?」は卑怯だろ...! ... まぁ、追い剥ぎは見過ごせないから協力はするけど、決してあの人の為ではない! 決して!)

P(この間、ワタクシ見てしまいました... 駅近辺に多くの酔っ払いが屯していたのを! よって悪い鬼はそこにいる^^! 間違いない^^!)

白(鬼、どんな感じだろう... やっぱ顔は怖いのかな? ...というかいい匂いがするがこれは...)



 4人で捜索すること40分、当たりを引いたのは鳩使いであった。街灯がまばらに設置された並木道で、件の鬼と他4匹の鬼が酒を飲みながら談笑していた。

鳩「...居た!」

 鳩使いは鬼たちに気づかれない程度に離れたところから3人に連絡を入れた。待つこと数分、近辺を捜していた背中叩鬼がまず到着し、次に見当違いの場所を自信満々に捜していたPが空を飛んでやってきた。


更に数分後、

白「おぉ、おふえへわひ~」

白鳥使いが何かを頬張りながら走ってきた。

鬼「これで全員揃ったな。ってお前、何食ってんだ?」

白「もごもご、もごもご」

鳩「あぁ! 何か飛んできた! 汚い!」

鬼「何言ってるか分からんから飲み込んでから喋れ!」

白「... 惣菜パンだよ。捜してる途中で腹減っちゃって、いい匂いしたからつい。

あ、悪い。お前らの分買い忘れた。」



「何だぁお前ら?」

 4人の背後から突然声がした。振り返ると、少し太った鬼1匹が立っていた。どうやら話し声で気づかれたらしい。残りの鬼たちも近づいてくる。その中には、切れ長の目と耳まで裂けた口をもつ、一際異彩を放つ細身の鬼がいた。こいつが酒盛鬼だ。


酒「今日の飲み相手はこいつらか? んん?」

奴は背中叩鬼の方を見るや否や不気味な笑みを浮かべた。それによってただでさえ恐ろしい形相は、より恐ろしいものへと変貌する。

酒「誰かと思えば、随分と懐かしい奴がいるじゃあねぇか。驚いたぜぇ。それで、お前ら揃いも揃って俺達の会合を覗き見するたぁ、一体どういう領分だ?」

鬼「お前、まだそんな事やってたのか。その上追い剝ぎとは救えない。何故こんなことをする?」

酒「つまんねぇ事聞くなぁ、決まってんだろぉ。酒を飲む金が欲しいからだよ。邪魔すんならお前をここで再起不能にするぜぇ!!」


 全く予測できないタイミングで酒盛鬼は距離を詰めて襲いかかる。酒瓶を背中叩鬼の側頭部めがけて振り下ろすが、彼はすんでのところで躱す。

鬼「いきなり殴りかかって来やがって、相変わらず短気な奴だ。人間に害を与えるというのなら儂がここでお前を潰す!!」

酒「何抜かしてやがる?! 人間と馴れ合うしか脳のない腑抜けが!!」


―――――

白「ちょっと待て!!!」

白鳥使いは突然声を張り上げた。


酒「何だぁ?」

白「おいヒョロガリ、確かにこいつは顔は怖いし、口うるさいし、口は臭いし、お前みたいな飲んだくれとは相容れないだろうよ。だがな、こいつは俺が最近知り合った奴の中で一番真面目な奴だ。仕事終わりに誰もいなくなった事務所の掃除だってしてんだぞ! だからこいつは腑抜けじゃない!!」

鬼「な! お前見てたのか?!」

酒「うるせぇなぁ、外野はすっこんでろや! 変なモン被りやがって!!」

白「何だと?! 俺の悪口だけは許さんぞ!!」



 鳩使い、Pの2人も続く。

鳩「白鳥使いさん、なんだかんだよく見てるじゃないですか」

P「良いこと言いますなぁ^^ ワタクシも本気を出しますゾ^^」

2人は背中叩鬼に加勢した。

酒「おいおい、俺達に気をとられてる場合か?」

酒盛鬼はそう言って、彼らの後ろを指さした。

3人が振り向くと...



 白鳥使いが倒れ伏していた。 



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