妖怪:背中叩鬼

第5話 大きな掌の鬼 その1

 水仁との仲が深まった翌日、始業前―――――

白「おっはよ~う。今日は早起きしたぞぉ~~~ぅ。」

 挨拶して早々、白鳥使いは大あくびをした。怠惰な彼にとって、遅刻をしなかったことは褒められることだろう。しかしながら、彼に浴びせられたのは称賛の言葉ではなく怒号であった。


鬼「オイィィィッ!!! テメー、どの面下げて来やがった?!

  毎日のように遅刻をする、仕事中に大あくび、挙句の果てに儂らに仕事押し付けて急に退勤!!! 仕事舐めとんのか!!!」

鳩「そうですよ!!! いい加減我慢の限界です!!!

  昔のよしみでなければ殴りとばしてしまいそうですっ...」

 興奮する2人とは対照的に、白鳥使いは瓢々とした態度で返す。

白「うるせぇなぁ~。今日は遅刻してねぇし、出ちまうもんはしょうがねぇじゃ~~~ん。それに、昨日はマジで急用だったんだよ。色々スマンかった!」


水「白鳥使い殿の言うとおりだ。昨日は拙者の用事に同伴してもらった。」

 珍しく白鳥使いの擁護をする水仁。

水「まあ、昨日の事は昨日の事。普段の勤務態度の悪さとは別問題であるがな」

 そんな事はなかった。



 さて、鳩使いと一緒に白鳥使いへ説教する鬼(本物)がいる。

 彼の名は背中叩鬼せなかたたき。齢400過ぎの妖怪である。緑色の肌と暗闇で出くわしたならば失神してしまいそうなほどに恐ろしい顔、名前の通り背中を引っ叩くのに適した大きな手をもつ。かつて夜道で人の背を思い切り叩く妖怪だったが、今は人間たちとともにあくせく働いている。手が大きすぎるため、デスクワークが困難であることが彼の悩みである!!!

 背中叩鬼は事務所の人間(?)の中で最も直情的で、かつ真面目な性格をしている。そのため怠け者の白鳥使いとは反りが合わず、いがみ合うこともしばしばだ。






「白鳥使い殿ぉ^^ お昼ご一緒してヨロシ?」

 正午、昼休憩を知らせるチャイムが鳴った直後に、ブリーフ一丁の魔人が白鳥使いに声をかけた。

白「おお! P、だったか? アンタとはあまり喋ったこと無かったなぁ。

  まあ、いいぞ。」

P「どもどもぉ^^ では、お隣失礼しますゾ^^ ところでですね...」

 隣に座ったPは、ほくそ笑んで白鳥使いに耳打ちした。

 白鳥使いもにやけ面で返す。

白「...面白ぇ! その話乗った!!

  てかお前、昼飯それで足りんのか?」

P「ええ、ソーセージ3本で十分^^ これこそ紳士の嗜みです^^」

白「?」


 一方...

「よう! 頑張ってるな!」

鬼「ああ!? ...何だ球磨くまか」

朝から白鳥使いに振り回されて虫の居所が悪い背中叩鬼に、1人のおっさんが声をかけた。

球「白鳥使い、だったか? 俺もあいつは苦手だ。ところで、今日飲み行くか。いつもの業務に加えて、問題児白鳥使いのフォロー、飲まなきゃやってられないだろ。」

鬼「...そうだな。いつものが終わったら、居酒屋へ向かう。」

背中叩鬼は少し考えて承諾した。この後、彼はまんまと嵌められることとなる。






鬼「よし、これで終わりだ!」

午後6時過ぎ、日課を終えた背中叩鬼は事務所を出ようとしたが、1つのデスクに目が留まった。そのデスクの上には書類が山のように積み上げられており、崩れ落ちた紙は床にも散らばっている。

鬼「何だこりゃ?! 机の上も下も派手に散らかってやがる!

  この机は...白鳥使いのか... 全くしょうがねぇ...」

背中叩鬼は呆れた口調で、独り愚痴をこぼした。


鬼「すまん球磨、少々遅れちまった...

  ...って、はぁ??!! 何でテメーらがここに居る?!」

 空の少し暗い時間帯、背中叩鬼は行きつけの居酒屋に遅れて到着した。そこには彼を待っていた球磨の他に、見知った顔が2人、何故か立っていた。

P「何で、と...」

白「言われてもなぁ~www」

 状況が全く掴めていない背中叩鬼は困惑して、球磨に視線を送った。

球「すまんな。お前達がいつもいがみ合ってるから、今日くらい腹割って話でもしてもらおうと思って。思う存分飲めよ!!」

P「では我々はお暇させて頂きますゾ^^」

鬼「あっ! おい待て!! 嵌めやがったなお前らぁ!!!」

そう、3人はグルだったのだ。


白「さあ、これで2人きりだ。普段のことは忘れて、酔い潰れるまで話そうぜ」

他に客のいない夜の居酒屋で、相性最悪の2人の飲み会が始まる。

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